テラーノベル
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⚠注意喚起⚠
nmmn,rurb要素
こちらは完全二次創作のためご本人様には一切関係ございません
年齢・関係性・二人称など全て捏造
ほぼhsrb視点で約1.1万字
アイドルhsrb✕アイドルkyngのドルパロです
不仲営業をする2人の話。
↓以下伏字なし
「ありがとうございました!」なんて言って頭を下げ、画面外にはける自分たちをぼんやりと見つめる。
そのまま何組かのグループがパフォーマンスを終え、番組が次に替わったのを確認してからテレビの電源を落とした。ついでスマホを手繰り寄せて検索欄に今の番組のハッシュタグを打ち込む。
瞬間、画面に広がるのはファンの熱意のこもった感想の数々だった。中には俺個人に言及するものもあって、内容のほとんどはこのパートが良かったとかここのターンが決まってたとかのお褒めの言葉だ。どれもこれも頑張った甲斐があったなぁ……なんて思いながらスクロールしていればふと1つのツイートが目に留まる。
『露骨すぎて草』なんて文言と共にきり取られた本の数秒の切り抜きには俺と……彼が同じ画角に映っていた。
画面の中、俺__星導は隣に立った彼からこれ見よがしに視線を逸らしている。彼も彼で、俺が口を開いた瞬間にあからさまに真顔になり反対方向を向いた。
画面をスクロールする指が完全に止まる。見なきゃいいのに、その投稿の引用ポストを開いてしまった。案の定そこは憶測の嵐で埋め尽くされていて一気に気分が重くなる。
『またやってるよ星導と小柳』
『同時デビューなのに不仲説濃厚すぎて笑えない
絡みがないならまだしもこれはさぁ……』
世間一般、というかファンの間での俺たちの評価は見事なまでに「犬猿の仲」である。同じ時期に同じ事務所からデビューした2つのグループなだけあって最初は互いの絡みが期待されていたが……今となってはそんな期待を感じることもない。
「はぁ……。」
思わず重たいため息が口をついで出た。スマホを放り出してソファーに溶けるように沈み込んでいれば、頭上から思わず吹き出すような声が響く。
「おーい、……ってやば。お前アイドルと思えないくらい目死んでんぞ?」
聞き慣れた低い声。俺を軽く押しのけてソファーに腰を下ろしたのは、さっきまで俺から露骨に目を逸らしていた男。ライバルグループのリーダー、小柳ロウだった。
ぐりぐりと彼の脇腹辺りに頭を押し付ければあやすように髪を撫でられる。ゔぅ……なんてうめき声を漏らせば、俺のスマホを拾い上げてさっきまで見てた動画を勝手に閉じられた。
「またエゴサしたの?」
「……ファンの子の感想が見たかっただけです。」
こんなの見るつもりじゃなかった、と続けても小柳くんは呆れたような目で俺を見つめる。
「まぁでもこれも俺らの演技が上手いってことの証明になるし、俳優の仕事が来るのもそう遠くないかもな?」
なんて言って笑う小柳くんだけど、その時の俺の気持ちを少しは考えてみてほしい。あの瞬間どれだけ俺の肝が冷えたか、こいつは分かってないのだろう。
「……俺が喋り出した瞬間の小柳くんの冷めた顔。あんなの見たら誰だって俺のこと嫌いなんだって思うでしょ。」
「仕事だろ。お前だって俺と目が合いそうになった時、体ごと別の方向くじゃん。」
お小言は華麗に聞き流された。何も気にしてなさそうな彼は、呑気に俺の腰を引き寄せて自分の膝の間に閉じ込める。世間が不仲だの犬猿の仲だのと騒ぎ立てている俺たちの真実は、それとは真逆のところにあった。
俺たちは付き合っている。
それも、デビュー前からずっと。
「不仲マーケティングだっけ?ほんっとお偉いさんの考えることってろくでもないですよね。」
そう、これが俺たちの売り出し方だった。同時期にデビューした期待の2グループ。そのリーダーである二人のひりついた空気がそれぞれのファンの購買意欲や応援の熱を煽るというのだ。
「でもそれが実際成功してるからな。俺んとこもお前のとこも、セットでどんどん仕事が増えてきてる。」
小柳くんの言葉にぐっと押し黙った。確かに俺のファンが熱心にCDを買ってくれてるのは少なからず小柳くんのとこと競ってるからだ……なんて噂は聞いたことがある。
そんなことしてまで売れたい訳じゃないけどね、俺は。と言っても同じグループのウェンやリト、カゲツのことも大切だからその言葉は飲み込むことにした。小柳くんも俺も、アイドルを目指してた1人として自ら今の状況をぶち壊すようなことはできないのだ。
「ねえ、小柳くん。」
それでもどうしようもなく不安になって、膝の間に閉じ込められたまま彼のシャツの裾をぎゅっと握りしめた。画面の中で冷たく突き放し合う俺たちが偽物なのは分かってるけど、でもそれが何年何十年と続いたら?いつかそれが本物になってしまったら?そんな漠然とした不安が心にじわりと滲む。
「……キスして。」
上目遣いで強請れば、小柳くんは一瞬だけ意外そうに目を見開いた。けれどすぐに目を細めて頭を撫でられる。
「寂しくなっちゃった?」
低い声が耳元をかすめ、大きな手が俺の顎をそっと持ち上げた。不仲を演じる時のあの視線とは違う、独占欲の混じった甘い眼差し。顔が近づきお互いの吐息が混ざり合って、あともう少しで触れるという距離。
目を閉じたら消えてしまうんじゃないか、なんて思ってじっと小柳くんを見つめる。焦れったくて俺から顔を近づけようとした時だった。静寂を切り裂くような電子音が響いて小柳くんが顔をしかめる。
舌打ちしながら彼が手に取ったスマホの画面には”マネージャー”と書かれていた。小柳くんは苛立ちを滲ませながらそれを耳に当てる。
「はい。……え、今から? 明日の打ち合わせ、朝じゃなかったんですか。」
電話越しに聞こえるマネージャーの早口な声。「急遽スケジュールが」「今から迎えに」という単語が断片的に俺にも届く。小柳くんは俺の頭をぽんぽんと叩きながら、納得がいかないといった様子で「わかりました、すぐ下に行きます。」と電話を切った。
「悪い、迎え来るって。……今日は久しぶりに可愛がってやろうと思ってたのに。」
冗談ぽく笑いながら立ち上がろうとする彼を引き止めるようにもう一度その腕を掴んだ。小柳くんは困ったように笑うと俺の額に、そして名残惜しそうに唇へ、短くキスを落とす。
「小柳くん……次いつ会えますか?」
「んー…すまん分からんわ。後で分かり次第連絡するから。」
彼が去った後のリビングはひどく静かだった。一人残された俺は、じんわりと熱の残る唇を手持ち無沙汰な指先でなぞる。
仕事だから、戦略だから……そう割り切って不仲を完璧に演じきる彼。そのプロ意識は尊敬しているけれど時々どうしようもなく怖くなる。
小柳くんは、本当に俺のこと好きなんだよね?
あの冷淡な表情があまりにも似合いすぎて、本当はあっちが本心でこっちが演技なんじゃないか、なんて柄にもなく疑ってしまう。そんな不安を飲み込むように、俺はもう一度冷え切ったスマホを手に取った。
結局あれからいくら待っても連絡が来ることはなかった。分かってる、忙しいもんね、なんて自分を慰めてなんとか平静を保つ。それから数日経った今日は生放送の歌番組で小柳くんのとこと共演する予定だった。レンズの前で俺たちはまた、不仲な2人を演じなければならないのだ。
生放送は順調に進んでいた。俺のグループがパフォーマンスを終えて、次に小柳くんのとこがパフォーマンスに入る、という時に司会者が話題を振るまでは。
「いや〜先程のパフォーマンス素晴らしかったですね。ライバルグループとして、小柳さんどうでしたか?」
その質問に小柳くんの目が一瞬で温度を失うのが分かった。彼は薄く笑い、どこか突き放すような、それでいて退屈そうなトーンで言い放つ。
「……別に、特筆して言うことはないですね。」
今日も演技がお上手なことで、スタジオにはぴりっとした緊張感が走る。筋書き通りの営業だと分かっていてもその言葉のナイフはあまりに鋭利で、胸の奥がずきずきと痛んだ。
放送事故すれすれの雰囲気にフォローを入れたのは、小柳くんと同じグループの伊波くんだった。
「ちょ、ロウ!言い方!……あはは、すみません。こいつストイックすぎて自分にも周りにも厳しいんですよ!!」
少々無理があると言えば無理があるが流石はプロ。司会者さんの小粋なトークによりなんとか場の雰囲気は戻った。
俺も俺で引きつりそうな頬を必死に動かしてなんとか笑顔を作る。視界の端で小柳くんが一度もこちらを見ることなく手元のマイクをいじっているのが見えても、その笑顔を絶やすことはなかった。
分かってる。これは全部演出。そう自分に言い聞かせても一度芽生えた不安は毒のように全身を回る。本当は俺にもう興味なんてなくて、さっきのが本心なんじゃない?何度打ち消そうとしてもそんな考えが頭に浮かんできてしまう。
その毒はしばらく経っても消えることがなくて、むしろどんどん身体を蝕んでいくみたいに広がっていった。
別の日にはたまたま同じ所で撮影があった。廊下ですれ違いざまに肩が触れそうになっても彼は会釈すらしない。その徹底した冷淡さが、今の俺には演技ではなく本音の裏返しに見えて仕方がなかった。
落ち込んだ気分をリフレッシュしようと自販機を物色していれば、不意に背後から声をかけられて振り返る。
「星導さん、お疲れ様です。」
「……お疲れ様。どうしたの?」
努めて明るく振る舞ったつもりだったが、後輩は俺の顔を不安そうに覗き込み、迷うように視線を泳がせた。その瞳には、隠しきれない困惑と俺を気遣うような色が浮かんでいる。
「あの、星導さん……これ、お節介だって分かってるんですけど。僕、さっき楽屋の近くで……小柳さんの声を聞いちゃって。」
心臓がどくどくと嫌な音をたてて鳴り始める。予感が当たってしまった。聞きたくない。そう思う自分とは裏腹に、耳は残酷なほど鮮明に彼の言葉を拾おうとした。
話されたのはやっぱり小柳くんが俺に対して辛辣なことを言ってたってこと。この後輩は確か前に俺と小柳くんに憧れていると言っていたから、その先輩がビジネスではなく裏でも仲が悪いことに本当にショックを受けたのだろう。
喉の奥がからからに乾いて、せっかく話しかけてくれた彼にも短く返事をするのが精一杯だった。後輩は「応援してます」と、真っ直ぐな瞳で告げると足早に去っていった。一人取り残された通路で、力なく壁に背を預ける。
演技だ。大丈夫、分かってる。あれは周囲に不仲を信じ込ませるための徹底した根回し。小柳くんはプロだから。俺たちの売り出し方を誰よりも理解して、完璧に遂行しているだけ。ファンである後輩をここまで本気で心配させたんだ。俺は彼を「よくやった」と褒めたたえるべきなのだろう。
……だけど、今の俺にはできそうにない。
「あはは……。完璧すぎんだよ、ほんと。」
自嘲気味にこぼれた声は震えていた。視界がじわりと滲んだがなんとか堪えて、何でもない風を装う。……よかった、ここに彼が居なくて。もし今、あの冷たい目で見られていたら、俺はもうアイドルの顔なんて作れなかっただろう。
最後にあった日から1週間が経って、やっと小柳くんから連絡が来た。まぁその肝心のその内容は、しばらく会えそうにないっていうものだったんだけど。
その後の数日間はさらに地獄だった。テレビを付ければ、同じグループのメンバーと楽しそうに笑い合う小柳くんがいる。雑誌をめくればきらきらと輝く笑顔でこちらに手を伸ばす小柳くんがいる。
分かってる分かってる。メンバーとは仲がよくて、ライバルの俺とは仲が悪い。それが会社に、ファンに、世界に求められている小柳ロウの姿だから。
けれど、俺にだけ向けられるあの氷のような視線と彼らの間に流れる温かな空気の差に、俺の心は摩耗していく一方だった。深夜の静まり返ったリビングで、一人彼のアカウントが開いたライブを眺める。
画面の中には小柳くんと、彼と同じグループの緋八くんと佐伯くん。それからつい最近デビューしたばかりの後輩、北見くんの姿があった。
画面の向こうでは小柳くんが声を上げて笑っている。喉の奥を鳴らすような、あの俺が大好きな低い笑い声。彼は北見くんの肩に腕を回し、撮影中に俺に向けるのと正反対の砕けた明るい口調で話していた。
次々と流れていくコメントの群れ。そのどれもが、彼らの仲の良さを祝福していた。俺との不仲が話題になる時、そこには必ず冷やかしや嘲笑、あるいは腫れ物に触るような緊張感が漂うのに。この画面の中には、誰も傷つかない平和で幸せな世界が広がっている。
……ずるい。
ぽつりと、漏れた本音になにかが崩れるような感覚がした。俺だって、本当はあっち側に行きたい。皆の前で彼に名前を呼ばれたいし、冗談を言い合って笑いたい。あんなふうに隣に並んで、当たり前みたいに彼に触れていたい。
でも、俺たちがカメラの前でそれをしてしまえば、積み上げてきたマーケティングは崩壊する。俺たちの価値は、お互いを拒絶し合うことで高まるように設計されているのだから。
これ以上見ていられなくなって画面を消すと、暗転したスマホの画面にひどく情けない顔をした自分の顔が映った。小柳くんがプロとして完璧であればあるほど、俺は彼から遠ざけられていく。愛されているはずなのに世界で俺だけが彼に拒絶されているみたい。
そんな矛盾に頭を悩ませて、結局今日は一睡もできなかった。鏡の前に立つと自分でも分かるほど顔色が悪い。メイクで隠せる限界を超えている気がしたけれど、今日も仕事はあるから気づかないふりをして家を出た。
楽屋に入ってからも、頭の中は霞がかかったようにぼんやりとしていた。ソファーに座って台本を眺めるふりをして一点を見つめる。そんな俺の異変に、同じグループのメンバーたちが気づかないはずもなかった。
「……星導?」
不意に気配を感じて顔を上げると、カゲツが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。いつもは末っ子ポジションの彼が今は珍しく真剣な顔をしていた。
「あ、カゲツ……おはよう。」
「おはよう、じゃないやろ。さっきから全然話聞いとらんし、顔真っ白やん。」
カゲツは俺の手から力なく滑り落ちそうになっていた台本をそっと取り上げるとそれを机に置いた。ウェンもリトも、少し離れた場所からこちらを気にかけて見守ってくれているのが伝わってくる。
「星導、なんか悩んでることあったらちゃんと言うてな?……僕ら、同じチームやろ。」
カゲツの手が俺の肩をぽんと叩く。その手の温もりが今の俺にはあまりにも眩しくて、そして苦しかった。
「ありがと。大丈夫、ちょっと寝不足なだけだから。」
ほんとうは全然大丈夫じゃない。……でも言えない。この不仲という戦略がグループの成功に繋がっている以上、一時の感情でそれを台無しにすることはできない。彼らの努力を、俺のわがままで無駄にするわけにはいかないのだ。
「……そう。ならええけど。」
カゲツの腑に落ちてなさそうな顔に気づかないふりをして、再び台本を手に取った。今日はまた生放送の歌番組があるから。……小柳くんのとこと顔を合わせる機会があるから。
生放送が始まる直前、鏡で確認した笑顔は間違いなくアイドルの俺だった。だから大丈夫だと身体を動かしスタジオに入るが、やっぱりそれは間違いだったのかもしれない。
いつもはちょっと熱いな、くらいしか感じない照明に目眩がする。司会の人が話す内容が右から左へと理解できないままに抜けていく。唯一聞き取れたのは、次は小柳くんのグループがパフォーマンスを披露するということだけだった。
照明が下りて少しだけ気分がマシになる。でも曲の披露が終わってしまえばまたすぐにまばゆい光が目を突き刺した。次は俺たちのグループがパフォーマンスをする番だ。震える足を抑えてなんとかステージへと向かう。たった数分だけ耐えればいいだけだ。大丈夫、俺ならやれる。
歌い終えた彼と入れ替わりでステージへ向かう俺の視線が一瞬だけ交差した。いつも通りの俺なんて眼中にない冷めた瞳。スタッフとか他のアーティストの目があるからこれは至極真っ当な対応なのだけど、今の俺の弱った心には十分すぎるほど鋭く刺さる。
咄嗟に目をそらして何でもない風を装うがやはり動揺していたようで、ちょっとした段差でつまずいた俺を近くにいたリトが支えてくれた。ステージの上、本来の立ち位置と少しズレた位置にいた俺に、今度はウェンが心配そうに顔を覗き込む。
「るべしょう…?やっぱ顔色悪いよ……ねぇ今からでもさ、」
「大丈夫だから、ほら……もうイントロ始まるよ?」
納得のいってなさそうなウェンとリトを押しのけて立ち位置につく。イントロが流れた瞬間、耳をつんざく轟音に視界がぐらりと歪んだ。
ターンを決めるたびに、火花が散るような耳鳴りが頭を支配する。カメラの赤いランプを見つめて、ファンの歓声を自分を奮い立たせる力に変えて、四肢を無理やり動かす。
最後の決めポーズをしてからすぐ、ステージの照明が消えてイヤモニから音が聞こえなくなったのを確認して短く息を吐く。やり終えた達成感といつもの癖で「ありかとうございました!」、と言おうと開いた口からは何の音も出なかった。
あ、駄目だこれと思った時にはもう手遅れだった。がくんと膝から力が抜けて、手で支える間もなくステージの床に身体が打ち付けられる。ひんやりとした感覚が心地よくも感じでゆっくりと目を閉じた。
意識が完全に途切れる寸前、鼓膜を震わせたのは、愛しい彼の声だった気がする。……けど、多分気のせいだろう。カメラも人の目もあるこの空間で、小柳くんがそんなことするわけないもんね。
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目の前で倒れていく星導の姿がやけにゆっくりと見えた。楽屋にいた時から、いや実際はもっと前から無理をしてるのは分かっていたのに……。やっぱりあの時に休ませれば良かった、なんて手遅れな後悔が胸に押し寄せてくる。
「星導っ!!」
急な出来事に立ち尽くした僕の脳を震わせたのはメンバーの誰でもない……あいつの声だった。
僕らの横を通り抜けて一目散に星導を抱き上げたのはライバルグループのリーダーである小柳ロウ。意味が分からなかった。なんでお前が。いつも、いつもいつも僕らのリーダーを蔑み罵倒するお前がなんで…!
「……おい、しっかりしろ! 星導!!」
カメラが止まった直後の薄暗いステージの上で、彼はなりふり構わず星導の肩を揺さぶっていた。今まであんなに冷たく星導を見ていた男と同一人物だなんて誰が信じられるだろう。
立ち尽くす僕らの周りにもようやくスタッフが駆け寄ってきて、騒然とする現場のなかでも彼は星導を離そうとしなかった。スタッフが「小柳さん、あとはこちらで」と割って入ろうとしても、彼はそれを拒絶する。
「……触んな。俺が運ぶ。」
愛おしいものに触るように星導を抱き上げたその仕草に1つの可能性が浮かんだ。思い返してみれば、彼から目を背ける時に嫌悪とは違う哀しみを浮かべていた星導の姿が何度も記憶にある。
「なぁ……。」
「あ…?」
裾を引き彼と向かい合う。邪魔すんなと言わんばかりに睨みつけるその鋭い圧に怯みそうになるが、メンバーとしてできる最後の頼みを彼にぶつけた。
「これ以上星導のこと傷つけたら許さんから。」
驚いたように見開かれた目はすぐに苦しむように伏せられる。小さく頷いた彼の背中を、僕らはじっと眺めることしかできなかった。
意識が浮上する感覚はひどく緩やかだった。重たい瞼を押し上げると、見慣れた楽屋の天井が目に飛び込んでくる。消毒液の匂いと頬になにかガーゼのようなものが張られている感覚。
ぼんやりとした思考の中で、最後に見たステージの照明の残像を追いかける。メンバーに迷惑をかけた申し訳なさと、生放送中に穴をあけてしまったかもしれない恐怖で痛む心から無理やり身体を起こそうとした。
「お前っ、無理すんなって。まだ起き上がるのつらいだろ?」
なんて声が響くのと同時に握りしめられていた右手にぐっと力がこもる。聞き間違うはずのない、愛おしくてたまらない彼の声。ゆっくりと首を回したそこには、パイプ椅子に浅く腰掛け俺の手を両手で包み込むようにして握っている小柳くんがいた。華やかな衣装のままだけど髪は少し乱れている。
心配して見にきてくれたんだと思うとどうしようもなく嬉しい。けど、すぐにそれ以上の不安が頭を塗りつぶしていった。
「小柳くん?……駄目だよ。こんなとこ見られたら疑われちゃう。」
「……もういいんだよ。」
俺の態度に小柳くんは一瞬言葉を失ったようだった。それから絞り出すような声でそんなことを言った後、安心させるように俺の手をぎゅっと握る。
「お前が倒れた瞬間、俺……頭真っ白になって駆け寄った。」
小柳くんは自嘲気味に口角を上げたが、その瞳には後悔の色なんて微塵もなかった。痛ましいものを見るような、それでいて深い愛着を隠そうともしない、熱を帯びた眼差しが俺を射抜く。
「……え?それじゃあ……。」
「どこまでカメラに映ってたかは分からないけど、少なくともスタッフとかメンバーには今までの演技は全部嘘だってバレただろうな。」
……やってしまった。俺が耐えられなかったから、小柳くんの完璧だった演技をぶち壊してしまったんだ。謝らなくちゃと思い起きあがるよりも先に、小柳くんが俺の身体をぐいと抱き寄せる。
「これで良かったんだよ。今回の件で上も考え直すんじゃねぇの?不仲マーケティングは片方が欠けたら成立しないんだから。」
彼の肩に頭を乗せると服越しに体温が伝わってきた。久しぶりに感じる人の温かさに心が休まるが、すぐに意識は現実への焦燥にかき立てられる。
「っでもファンの皆はそんなの知らないわけで……俺、今度は上手くやるよ…?」
早口にそう言えば小柳くんはびくりと肩を震わせた後、深くため息をついた。そして俺の額にこつんと自身の額を合わせて囁く。
「やめろ今度はこっちが倒れるわ。……今まででさえぎりぎりなんだよ俺も。」
「……小柳くんも?」
掠れた声で問い返すと彼は一度額を離し、俺の肩に顔を埋めたまま吐き出すように「当たり前だろ」と呟いた。
「好きであんな態度取るわけないだろ恋人に。お前に目そらされる度に不安になったし、いないとこでもお前のこと嫌いなふりするとか……どんな拷問だよってずっと思ってた。」
小柳くんの手が俺の背中を壊れ物を扱うようにさすり上げる。その震えが伝わってきて初めて、彼もまた不安に苛まれながら演技を続けていたのだと知った。
なんだ……俺だけじゃなかったんだ。
そう理解した瞬間、今まで溜め込んできたものが一気に結界してしまった。涙はぼたぼたと溢れるけど心はとても暖かい。泣き出した俺に最初はおろおろしていた小柳くんだったが、それが安堵からきたものだと分かると彼は俺の大好きな優しい顔で笑った。
数日後。検査と療養のための数日のオフを終え、俺は自宅のソファで再びスマホを握りしめていた。検索欄に打ち込むのはもちろんこの前の生放送のハッシュタグ。
あの後のSNSは案の定お祭り騒ぎだった。俺が恐れていたネガティブな言葉はやっぱり少なからずあるけれど、それでも思っていたよりはずっと少ない。
むしろ、本当はどちらのグループも好きだけど対立していたから言いづらかったとか。あの雰囲気が実は苦手だったとか。マーケティングにより表で言うのが憚られていたであろうファンの本音が多く目についた。自分ばかりが辛いと思っていたが現実はそうでもないらしい。
しばらく画面をスワイプしていると、もう何個目かも分からない例の部分を切り取った動画が流れてきた。俺はそれを迷うことなくタップする。
歌い終えた後の明らかに目の焦点が合っていない自分に、これじゃカゲツやウェン、リトに怒られても仕方ないと何度目かの反省会をしてから本題のシーンへと動画を飛ばした。
『星導っ!!』
地面に伏せる俺に向けられた、少し裏返ってる小柳くんの声。そのすぐ後にカメラもマイクも切れて無理やりCMに移行されるけど、俺の耳には確かにあの時聞こえた彼の声が残っている。
「……ほんとに、すぐ来てくれたんだね。」
今までの努力も全部かなぐり捨てて、世界の目の前で俺の名前を呼んでくれた。その事実が心をこれ以上ないほどに癒していく。4回目のループ再生に入ったその時だった。
「……いつまでそれ見てんの。」
呆れたような、けれど少しだけ気恥ずかしそうな低い声。不意に視界が塞がれ、手に持っていたスマホをひょいと取り上げられた。顔を上げれば、そこには苦虫を噛み潰したような顔で立っている小柳くんがいる。
「えー!今いいところだったのに。」
「よくねぇよ。自分の恋人がぶっ倒れる映像をリピートされるこっちの身にもなれ。」
小柳くんは俺のスマホをテーブルに放り出すと、隣に腰を下ろした。そのまま大きな掌が俺の頬を包み込み、目を合わせないままぶっきらぼうに呟く。
「……あと実物がいるんだからこっち見ろよ。」
「あはは!ねぇ小柳くん。」
やっとこっちを向いた瞳にはもうあの氷のような冷たさは微塵もなかった。目の前の自分以外見るなという独占欲と、守りきれなかったことへの微かな悔恨。そして溢れんばかりの愛おしさ。至近距離で見つめられるその熱に心臓の鼓動が跳ねる。
「実物ももちろんかっこいいよ。でも俺はどんな小柳くんだって好きだから。……あぁやっぱ嘘。冷たくされるのはもう嫌だからね?」
「俺だってもう冷たくするのは御免だわ。」
はっきりと言い切ってくれた小柳くんに何とも言えないほどの愛おしさを感じで思わず彼の首に腕を回して引き寄せた。小柳くんがどれだけ俺のことを思ってくれてるか、分かってるから大丈夫。これからはもう不自然に目を逸らす必要も漠然と不安になる必要もない。
「小柳くん。」
「……なに。」
「大好きです。……キスして?」
一瞬、彼は言葉に詰まったように呼吸を止めたがすぐに笑って目を細めた。
「今日こそ久しぶりに可愛がってやるから覚悟しろよ?」
前までは不安でたまらなかったけど、今は絶対に居なくならないという確信がある。言葉で返事をする代わりにきゅっと目を閉じた。
もう、俺たちを邪魔するのものは何もないのだから。
スクロールありがとうございました!
アイドルパロって書くのも読むのも最高なのでぜひもっと増えてほしいです…😌
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コメント
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見てみたかったシチュ…‼️探してもあんまなくて嬉しいです‼️🥹🥹🥹💗