テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ノエルとフィーネには、扉の外で待機してもらう。
俺は一人、部屋の中央へ向かった。
目の前には宝箱。
背後には、つっかえ役の宝箱を挟んだ半開きの扉。
その向こうには、ノエルとフィーネ。
準備はした。
巨像のすねも壊した。
退路も確保した。
あとは――答え合わせだ。
「じゃあ、いくぞー」
「オッケー!」
「……はい……!」
二人の返事を背に、俺は周囲を警戒しながら宝箱へ近づく。
石像は動かない。
まだ、ただの石だ。
俺は右手に《破甲のメイス》を持ったまま、左手で宝箱に軽く触れた。
その瞬間だった。
バタンッ!
まず、背後の扉が勢いよく閉まろうとした。
だが――閉まりきらない。
つっかえに置いた宝箱が、左右の門をきっちり受け止めていた。
「シンゴさんー! 扉オッケーよ! 閉まりきらないわ!」
背後からノエルの声が飛ぶ。
俺は前を見たまま、軽く右手のメイスを持ち上げた。
返事の代わりだ。
目は、前の石像から一瞬も外さない。
次の瞬間。
五体の石像の目が、一斉に赤く光った。
ぞわり、とした。
あの空洞めいた目に赤い光が灯っただけで、石の塊が生き物に見えてくる。
しかも――笑った。
五体そろって、口角が不気味に吊り上がる。
激しく、邪悪に、にやりと。
「うわ、趣味悪っ」
思わず本音が漏れた、その直後。
ズゴゴゴゴゴ……!
巨像たちの体勢が崩れた。
足元を失ったまま前のめりになる。
ドゴン!
ズドン!
一体、また一体と、凄まじい音を立てて床へ倒れ込む。
五体すべてが、すねから下を失った状態で転倒した。
コメント欄が一気に爆発した。
『うおおおおおお!!』
『足破壊めっちゃ効いてる!!』
『正解きたあああ!』
『事前準備が刺さりすぎだろ!』
『ゲーム脳つええええ』
『これ気持ちよすぎる!!』
「いまだ!」
俺は一番近くで頭を床につけた巨像へ走った。
その背後で、ノエルの声が響く。
「《多層聖界・プリズムウォール》!」
床、壁、天井に光の紋様が走る。
退路が確保できたのを確認したノエルとフィーネが部屋へ入り、支援の位置についた。
これで三人の陣形が完成する。
「うぉぉぉ!」
俺は叫びながら、巨像の頭へメイスを振り下ろした。
ゴイン!
ゴイン!
ゴイン!
自分の身長ほどもある頭部に、三発叩き込む。
石が欠ける。
ひびが走る。
だが、そこで巨像が動いた。
両手を床につき、上体を起こそうとする。
来る。
その瞬間。
「……スネア!」
フィーネの呪文が飛ぶ。
地面から伸びた土の力が、起き上がろうとした巨像の右腕へ絡みついた。
支えを失った巨像の体勢が崩れる。
ドゴンッ!!
頭が再び床へ叩きつけられた。
「ナイス! フィーネ!」
俺はその隙を逃さない。
ゴイン!
ゴイン!
ピシィッ!
頭部に大きな亀裂が走る。
「もらった!」
ゴイン!
バゴォンッ!!
石の頭が砕け散った。
その瞬間、巨像全体が光の粒になって弾け、消滅する。
『一体目撃破あああ!!』
『うますぎる!』
『フィーネのスネア神』
『頭割った!!』
『連携えぐい!!』
まだ四体いる。
次だ。
二体目は少し離れた位置で、四つん這いのまま腕を払ってきた。
横薙ぎに巨大な石腕が来る。
「っ!」
俺は大きくステップを踏んでかわす。
石腕が通り過ぎた瞬間、もう一本の支え腕が前へ出る。
「……スネア!」
そこをフィーネが絡め取る。
巨像の体勢が傾く。
「よし!」
俺は前へ出て、床についていた手首へメイスを叩き込んだ。
ゴイン!
さらにもう一発。
ゴイン!
支えの手が砕ける。
頭が沈む。
そこへ頭部へ回り込んで――
ゴイン!
ゴイン!
ゴイン!
数発で頭を割る。
光の粒になって消滅。
三体目、四体目も同じだ。
石像の攻撃は単純だった。
四つん這いで体を支えながら、腕を払うように振るってくる。
一発の威力は高いが、モーションが大きい。
かわす。
支え腕を《スネア》で止める。
支点を失わせる。
手を砕く。
頭を床につける。
頭部を破壊する。
攻略手順が見えれば、あとは実行するだけだ。
「右、来る!」
「……はい……!」
「そこ!」
ゴイン!
ゴイン!
「今だ、フィーネ!」
「……スネア!」
ドゴンッ!
「よし!」
巨像が一体ずつ、確実に光になって消えていく。
だが、さすがに連続で動き続けると息が上がる。
腕も重い。
足も鈍る。
そのとき、背中にやわらかな光が落ちた。
「疲労回復・キュアエグゾーション!」
ノエルの疲労回復魔法だ。
身体が、ふっと軽くなる。
「サンキュー! ノエル!」
「天才天使におまかせよ!」
助かる。
そのまま五体目へ突っ込む。
最後の一体は、一番執念深かった。
片腕を壊しても、残った腕だけで強引に這ってこようとする。
赤い目がぎらついて、床を削りながら迫ってくる。
「しぶといな!」
払ってきた腕をかわし、横へ回る。
「……スネア!」
残った支え腕が土に絡め取られる。
巨像がついに前のめりに崩れた。
今だ。
俺は頭部の正面へ立ち、《破甲のメイス》を振りかぶる。
ゴイン!
ゴイン!
ゴイン!
ひび。
もう一発。
ゴイン!!
バゴォンッ!!
頭が砕け、最後の巨像も光の粒になって消えた。
◆
全部の石像がなくなったあと、部屋に静寂が広がった。
さっきまで響いていた打撃音も、石の崩れる轟音も、もうない。
残っているのは、俺の荒い呼吸だけだ。
「……はぁ、はぁ……っ」
コメント欄は逆に、静かどころか大騒ぎだった。
『うおおおおおおおお!!!』
『全破壊きたあああ!!』
『勝ったあああああ!!』
『連携完璧すぎる』
『シンゴノエルフィーネ強すぎ』
『攻略美しすぎるだろ』
『これ神回だわ』
『準備で勝つの気持ちよすぎる』
「お疲れー!」
ノエルが明るい声を上げながら近づいてくる。
「……お疲れ様です……!」
フィーネもその後ろから、小走りで寄ってきた。
「ノエルもフィーネもお疲れ! いい連携だった!」
そう言うと、ノエルがにっと笑う。
「でしょ? 私の結界も回復も完璧だったわ!」
フィーネも、少し照れながら、でも嬉しそうに頷いた。
「……はい……すごく、うまくいきました……」
ノエルは得意げ。
フィーネはほっとした顔。
俺も、自然と笑っていた。
三人で同じ部屋に立って、同じ戦いを越えて、同じ達成感を味わっている。
それだけで、なんかいい。
部屋の中央には、まだ宝箱が残っていた。
静かな巨像部屋の真ん中で、それだけが何事もなかったみたいに鎮座している。
答え合わせは、まだ終わっていない。