第一王子たちの反乱から1週間後、俺たちは未だ王都に滞在していた。というのも、俺とルナはこの度の事件解決の功労者ということで王城にて手厚くもてなされているのだ。
俺たち的には王都の宿屋で十分良かったのだが、おそらくそこはアイリスの意見なのだろうがぜひとも王城で特別待遇でもてなしたいと国王直々に言われてしまったのだ。
流石に国王の頼みを断るわけにはいかない。
もちろん王城での生活というのは快適そのもので何不自由なく過ごしている。だがルナにとっては少し場違いな場所に感じてしまうらしく、あまり落ち着かないと最初の数日はずっとソワソワとしていた。
まあ1週間経った今では流石に少し慣れてきているみたいだ。
その間、王国では先の反乱で被った被害の確認とその復旧作業が着々と進められており、特にその大部分が破壊されてしまった王城は急ピッチで再建が進められていた。
俺たちは辛うじて残った城の1階部分にある客間で過ごしているのだが、やはり何もしないのは落ち着かないので無理やりにでも俺とルナも王城の復旧を手伝っていた。
また今回の事件の全貌を明らかにするために国王の勅命で第一王子と魔道士団長、およびそこと繋がりのある人物たちに対する捜査が始まった。すでに計画のトップが拘束されていることもあり、国王の迅速な対応によって彼らがこれまでに行ってきた罪が次々と掘り起こされていった。
その中には俺…いや、僕のお父さまに関する件も含まれており、その詳細を僕はアイリスから聞くこととなった。
「先輩、落ち着いて聞いてくださいね」
「…」
「…実はですね、国が行った調査によって先輩の父君、グラフィスト子爵の事件の真相が明らかになりました。当時あの事件は子爵が王国に対して反旗を翻すために他国から多くの奴隷を購入し、戦いの準備をしていたということで王国法に基づいて処刑…ということになりましたよね」
「…そう、だね」
「しかし実際は兄上の派閥の貴族たちがグラフィスト子爵の弱みを握り、他国から実験に使用するための奴隷を購入させていたそうです。おそらくそれらは禁魔獣関連の実験に使用するためだと思われます。そしてその奴隷購入の件が明るみになった際に、その貴族たちは自分たちに追及が及ぶのを恐れて全てはグラフィスト子爵が一人で反乱を起こすために奴隷を大量購入していたということにさせたそうなのです」
「…そう」
「……もうすでに父君を言われもない罪で断罪してしまっているのでもう謝罪も意味を成しませんが、王族として謝らせてください。先輩、本当に申し訳ありませんでした」
「……」
僕はアイリスの謝罪にすぐに何も言うことは出来なかった。お父さまが処刑されてしまったことの真実が分かったことに対するショックもそうだが、何よりも今まであの件はお父さまが悪かったのだと疑うことがなかった自分が情けなく感じていた。
どうしてお父さまを信じることができなかったのか。今までずっと僕とお母さまがこんな状況にならなければいけないんだとお父さまを心のどこかで責めてしまっていた自分が本当に醜く感じていた。
「せ、先輩…」
「……ごめん、ちょっと色々考えてしまった。当たり前だがその件に関してアイリスが謝る必要はないよ。アイリスがいなければ今頃、僕も母上もあの時に一緒に処刑されてこの世にはいないからね。憎むべきはその汚い貴族たちでアイリスを、ましてや国王様を恨むようなことはないよ」
「……先輩、ありがとうございます。必ず私が王族を代表してその汚れた貴族たちを今回の件を皮切りにこの国から一掃することを約束します。罪滅ぼしというわけではありませんが、第一王女としてもアイリスという一個人としても先輩のために全力を尽くさせていただきます」
「本当に、ありがとう。アイリス、僕は君と出会えたこと本当に幸運だと思うよ」
僕は優しくそのように彼女に語り掛ける。たった数秒の間ではあったが彼女のお陰もあって気持ちの整理はついた。
そうしてそれからアイリスは有言実行するようにハイスピードで王国の貴族たちの調査を行っていった。そうして事件後1か月も経たないうちに第一王子たちに対する処罰が決定した。
主犯である第一王子と魔道士団長はもちろん処刑。そして彼らに協力した貴族たちはその罪の程度によって最低でも領地の没収や罰金、または貴族位の剥奪、最悪の場合で処刑が言い渡されていた。
これほどのことをしでかしたとはいえ、国王陛下は自分の息子を処刑しなければいけない。その判断がどれほど辛く苦しかったことか。
アイリスも自分の兄を処刑しなければいけないとなると少なからず思うところがあり、辛いのではないだろうかと思って声をかけたこともあったが彼女は全く辛そうなそぶりはなかった。
虚勢なのかとも思ったが話していくとどうやらそうでもなさそうだ。
「そうですね…確かにあれでも私の兄であることには変わりありませんが、正直なところ処刑されて当然、いや処刑されるべきだと思っています。あの人は今の王国には害にしかなりませんし、それにあの人は私の大切なものを傷つけすぎました。なので悲しくなる理由がないです」
「そ、そうか。アイリスが大丈夫ならそれでいいけど…」
「ええ、もちろんです!心配してくださってありがとうございます!!それにあの人をちゃんとした身内として悲しめるほど良い思い出なんてありませんし全然大丈夫ですよ」
…なんだか、そうだな、うん、アイリスは強いな。
そうして全て滞りなく進み、罪人たちへの処刑が執行され正式に今回の騒動に関しては幕を閉じることとなった。
そうして全てが片付いたこともあり、俺とルナはオリブの街へと帰ることとなった。しかしそのことをアイリスに伝えると非常に驚いた様子だった。
「せ、先輩…もしかしてまだ『オルタナ』として活動を続けられるおつもりなのですか?」
「えっ、もちろんそうだけど…」
「せ、先輩…今回の一件で兄上の件も片付いたのですからもう正体を隠して活動する理由はないですよね。でしたら先輩の母君を連れて王都で暮らしてはどうですか?その方が先輩も…特に母君にとって良いのでは?」
「…そ、そのことなんだが、どうやら今のスローライフがとても気に入ったみたいで貴族として暮らしていた時よりもすごく生き生きしているんだよ。だから一応聞いてはみるけど今のままがいいっていうだろうな…」
「えっ、そ、そうなんですか…」
「ああ、だからお母さまが今のままの生活を望むなら俺はあまり家を空けるわけにはいかないからな。オルタナとして活動していく方が都合がいいんだ」
「…分かりました。残念ですが今回は諦めます。でも絶対定期的に会いに来てくださいね!もちろんその時はルナ様もいっしょに!!」
「えっ?!私もですか?!」
「もちろんです!もう私たち『お友だち』でしょ?」
アイリスは驚くルナの手を握って真剣なまなざしで彼女の目を見つめる。そんなアイリスを直視できず恥ずかしそうに赤らめて少し顔を伏せる。
「わ、わたし何かが王女殿下とお、お友だちになってもいいのでしょうか?」
「もちろんじゃないですか!ですがルナ様が嫌なら無理強いはしないですが…」
「い、嫌なんかじゃないです!王女殿下と私だと身分が違いすぎるので…」
「身分なんて関係ありません。結局は互いの気持ち次第だと思いますよ。ルナ様、私とお友達になっていただけませんか?」
「…!!わ、私で良ければ…お願いします!!」
ルナは恥ずかしそうに、だが確実に嬉しそうにアイリスの目を見つめた。これで俺たちは定期的に王都に遊びに来ることが決定した。
であれば移住するわけではないが、何度も来るのであれば王都に拠点となる家でも買っておくのも悪くないかもしれないな。そこに転移用の座標を設定して専用の魔道具でも設置しておけばすぐに行き来することができるだろう。
そんなことを考えながら俺たちは王都を出発した。
なんだか今までで一番濃い旅だったような気がする。
「オルタナさん、今回はなんだかとても濃厚な旅でしたね」
「奇遇だな、ちょうど俺もそう思っていたところだ。帰ったらしばらくはゆっくり休むとするか」
「ふふっ、そうですね!」
俺たちはにこやかに笑いあいながらオリブの街へと向かって魔道車を走らせる。これからもこんな感じで俺たちの旅は続いていくのだろうな。
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