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プロ活を終えた僕達は全員無傷で帰還した。次の日から通常授業だったが、合宿終わりのあの嫌な筋肉痛もなく、むしろ行く前より調子が良かった。
それもこれも。あれも全部。六条院様のおかげ。僕と一二三は彼の前で膝をつき、ゆっくりと手を合わせた。
「は? なにそれ」
戸惑う神様。ありがたや~。
…………………………。
…………………。
……………。
放課後、一二三に誘われた。
「天馬、天馬。この後さ、合コン行こうぜ。どうせ暇だろ? 帰ってもエロいゲームやるだけなんだから」
「ご、合コン?」
「あぁ。いつものイケメン君が来なくてさ、仕方ないからお前来いよ。ただのメンバー合わせだけどな。たまにヘラヘラ笑ってれば良いから」
「………………あなた、そんなんじゃ友達なくしますよ? そんな不快極まる誘いで行く奴いるか? この地球上に」
「拒否るなよ。西高の女子との合コンだぞ。あいつらお嬢様の癖に尻軽だからすぐヤれるってさ。今回は、当たりなんだよ」
「おーい、おい! おい!! おいって!!! お前、よく好きな人の弟の前でそんなこと言えるな。二度とっ! 二度とだ。姉ちゃんに近づくなよ? 同じ空気を吸うな。腹立つから」
「そんなに怒るなよ~。本当に好きなのは夕月さんだけだよ、マジでさ。他の女は、ただの遊びだよ~」
「触るなっ! クズが!!」
「天馬ぁ~~。一緒に合コン行こうよ~~。ヘラヘラするの得意だろ?」
「死にさらせっ!!」
僕に後ろから抱きつくクズをやっとのことで引き剥がし、足早に教室を後にした。
正面玄関で靴を履き替えていると、甲高い女子二人の声がした。内緒話が、丸聞こえ。
「ねぇねぇ、さっき生徒会長がさ、副会長に告白されてたよ」
「えぇ~! 副会長? 五十嵐君が?え~……ショック。私、狙ってたのに」
「あんたじゃ絶対に無理だよ」
「はぁ? 無理じゃねぇし」
くつ紐を結ぶ手が止まった。
「……………」
「でもさぁ、お似合いのカップルだよね~。美男美女って感じでさ。はぁ~……いいなぁ。私も早く付き合いたい」
「ってことはさ、残すは六条院様だけかぁ。でも彼、ハードル激高なんだよね~。競争率、副会長の比じゃないし。この前さ、他校の女子まで見に来てたよ」
「うん。あれは、ムリ。私達じゃ絶対に。それは、分かる」
二人の笑い声が、響き渡る。
「……………………」
望が誰かと付き合うなんて想像したこともなかった。それを今、想像し………目眩がするような感情の乱れ、不調を感じていた。
帰り道。明らかにいつもより何倍も足が重かった。
「…………………」
方向転換し、急遽小腹がすいたため、望の弁当屋に行くことにした。電信柱の影から様子を伺う。
店先では、ダメージジーンズに堕天使のシャツを着た望のお母さんが、お客の相手をしている。相変わらず、ヤンチャ美しい人だ。
「まだか……」
望はいない。
少し待とう。望がいたら、割引いてくれるだろうし。
「……………」
ま、まだ?
「…………………」
まだなのか??
ずいぶん遅いな。
夕方を過ぎ、辺りが暗くなった頃、ようやく望が帰ってきた。
「っ!?」
笑いながら、副会長と一緒に帰ってきた。
「……………」
二人の姿を見て、吐きそうだった。
こんな惨めな思いをするくらいなら、一二三と一緒に合コンに行けば良かった。
長身の副会長に手を振り、別れた望は早速、店の手伝いを始めている。
そのエプロン姿を見て、僕は何も買わず遠回りをして、家に帰った。
その日から、僕は望を避けるようになった。朝もなるべく望に会わないように遠回りをして登校したり、学校で会っても軽い挨拶くらいで、あとは一二三とずっーーとつるんでいた。
一週間が過ぎた頃。その日も足早に学校を去ろうとした僕の左手を誰かに掴まれた。
「なんで避けるの?」
望は、明らかに怒っている。
「避けてないって」
これ以上話すのも嫌だったし、僕は望の手を振り払うとすぐに学校を出た。急に天気が悪くなり雨が降りだしたが、なぜか傘をさす気にならなかった。
家の屋根が見え始めると、後ろから誰かが走って来る音が聞こえた。姿を見なくてもそれが誰だか分かった。
「天馬っ!」
「……………」
「どうして私から逃げるの?」
「………これ以上、構わないでくれ。望は僕といない方が良いよ。変な噂が立つから。二人の仲を邪魔したくないし……」
「え、どういうこと?」
「だからさ! 僕に構うなって!!」
なんでこんなにイライラするんだ?
副会長と望が笑っている姿が、ずっと頭から離れない。
「………どうして」
泣いている。雨の中。傘もささず。
気付いたら僕は、振り向いていた。
「どうして……そんなこと…言うの?」
絞り出すような声。
望は、涙を流しながら僕を真っ直ぐ見つめていた。
その泣き顔を見て、やっと分かった。
僕は、望が好きなんだと。好きだから、望が誰かと一緒になるのが許せなかった。
「あっ……望……あの…」
望はそれ以上何も言わず、僕の横を足早に通り過ぎると、雨の中消えてしまった。