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22時頃、シェアハウスでは夕飯も食べ、お風呂も各々で済ませてのんびりとした時間が流れている。
リビングではたっつんとシヴァがソファーでリラックスしながらテレビを見ている。
『現在空前のサウナブーム!ということで、今日は話題の最新銭湯の方へとやってまいりました!』
「サウナか、ええなあ」
「いいねぇ。やっぱこう求めちゃうよね」
「わかるわあ」
番組への感想を言っていると、先ほどまでゲームしていたうりと自室に居たなおきりが二人でやってくる。
「何見てんの」
「サウナやって」
「おぉ、流行ってますよねえ最近」
「サウナ好き?」
「好きー。だけどたっつんさんは長過ぎるんよ」
「そら、長い方が偉いからな」
「そらそうよ」
「偉いとかあるんですか」
「なおきりさん入らへん人やっけ?」
「あれば入りますけど」
行きたいなあとこぼし合っているとハゲーズとじゃがというグループラインにえとから迎えに来て欲しい連絡が来た。
そこでシヴァが提案する。
「このままさ、車でじゃが迎えに行って、家で降ろしてそのまま行くってのはどうよ」
「えっ、めっちゃええやんか。でも、シヴァさん明日仕事は?」
「消化のため有休でっす」
「えー、行きてえ行きてえ。オレ作業ひと段落ついてるし」
「僕も行きたいなあ」
じゃあ、決まりということでそれぞれ準備をしてから玄関に集合することになった。
買い出しや移動用に8人乗りできるワゴンがある。全員まとめて乗る機会はほぼ無いし、そういう場合はレンタルすればいいだろうとこのサイズを購入した。
シヴァの運転でそれぞれが乗り込み駅へと向かう。
「やべーなんか超楽しい」
「わかるー。この勢いがいいよね」
「遠足とかと似てへんこういうの」
「おれも思ったわ」
ロータリーは混むのでコンビニ脇の路地に停めてえとを待つ。
ほぼ時間通りに来たえとは車で迎えに来たことを驚いている。
「ありがとー。って、みんないるし、車なんて珍しいし。どっかいくの?」
ぽすりと席に座ったえとは被っていたバケットハットを外し、前髪を払う。
「えとさん家で降ろしたらそのままスーパー銭湯行こうと思ってて」
「えっ、いいなあ!」
「えとさんも来る?」
「でも、仲間外しとかやなくもうこのままの勢いで行きたい気分なんやけど」
「ついてこられますかぁ?」
えとは背負っていたリュックの中身を確認して、ニッと笑った。
「このバッグお泊まりセット入ってるからこのまま行ける」
「うおおぉマジか!」
「さすがフッ軽じゃーん」
「というかええんかそれ」
「まあまあまあまあまあ、たっつんいるからいいっしょ」
「そーだよーたつママいるからいいじゃん。さすがに一対一はまずいと思うけどみんなで一緒なら良くない?」
「そぉかぁ」
みんなでたっつんを宥めて、スーパー銭湯に直行することにした。
「てかえとさん、お泊まりセットって何?普段持ち歩く?」
「遅い時間になると帰るのがむしろ危ない時あんじゃん」
「まあ」
「そういうときに家が近くの子に泊めてもらったりとかあるんよね」
「あぁ、なるほど」
「さすがにパンツは借りられないし、わざわざ買うのもなあと思って、下着一式と化粧水とかそこら辺はこのバッグのときは持ち歩くようにしてんの」
夜の道は空いているためあっという間に大きめのスーパー銭湯まで着いてしまった。
「あー、やべえテンションあがるわ」
「サウナがオレを呼んでるわ」
「じゃあえとさんひとり寂しくサウナしてください」
「結局そうなるんよね」
「こっち来てもいいけど」
「誰がいくか」
バイバーイと男湯と女湯の入り口のところで分かれていく。
シヴァとたっつんは実は家でもうお風呂を済ませているので軽く体を洗ってから、一番スタンダードな湯に浸かりながらうりとなおきりを待つ。
「あー」
「あー、いいねっ」
その頃えとはまだロッカールームにおり、くしやお泊まりセットに入れてあるシャンプーやトリートメント、お風呂上がりに塗る化粧水などの準備をしていた。女子は何かと時間が掛かるものだ。
「お待たせしました」
「あー、ういー。やっぱデケェ風呂はいいなあ」
時間帯もあるのか露天風呂の方には人がいるが、大浴場の方は貸切状態である。そうなるともともといたずらっ子ばかりのこのメンバーで、水鉄砲合戦が始まるのは当然のことだった。
偶発的に始まり、たっつんがやっていくなかでルールを作り、試合となっていく。
「いえい!おれらの勝ちい!やったぜシヴァさん!」
「うりシヴァペアはずるいわあ」
「そうですよ!」
「うんうん、湯上がりのコーヒー牛乳で許してやるよ」
「まあ、サウナで逆転するけどな。おれは」
その頃のえとはようやく洗い終わり一番近くにあったスタンダードなお湯に体を沈める。
女湯の方はもっと少なく人が見当たらず貸切なのではと思う。気を使わなくていいとゆったりと浸かった。
一方男子たちはお目当てのサウナの中にいる。じわじわと肌を撫でる熱に汗がじんわりと滲み続ける。
うりとなおきりはもうすでに顔が赤くなりつつあり、まあもういいかなと出るつもりでいるがたっつんとシヴァは微動打にせずに腕を組みどっしりと構えている。
「なおきりさん、外のやついかね?」
「おっ、いいですね」
「汗は」
「ちゃんと流してからいけよ」
言われた二人は圧倒されはい。としか返せなかった。
「やばいね、まじで極めてるじゃんか」
「そーなんすよね。旅行とか行ってもあんな感じで」
「そうなんだ」
たっつんとシヴァに言われたように水風呂が得意で無い二人はシャワーで滲んだ汗を流し露天風呂のために外に出る。
すっかり暑さのひいたこの頃、すっと抜ける秋風が本当に気持ちがいい。
「うぉー、気持ちいい」
「いやあ、いいですねえ」
火照った体を冷ますようにどれに入ろうかと吟味して、二つあった五右衛門風呂にそれぞれ入った。
「見てえ、うりりん。星みえるよ!星!」
「すげえ、贅沢」
サウナの方では、シヴァがやっぱりたっつんには敵わないと悔しそうにしながら水風呂に浸かり始めていた。
そのころのえとはジャグジーのお風呂に浸かり、肩のあたりを重点的に当ててほぐしている。
2回やったあとに、男子たちがサウナに入ると言っていたので自分も入っておくかとサウナへと向かった。
しかし元々そんなに得意な方でも無いので体がポカポカするなあと言ったところでサウナを出て、うりやなおきりたちと同じように体を冷ますついでだと露天風呂の方へシャワーを浴びてから向かった。
男子みんなで露天風呂の一番大きなお風呂に浸かる。
外で気温が低いため、長めに浸かっていてものぼせそうな感じがない。はしゃぎ疲れて少しうとうとし始めていたりもする。
「えとさんものんびりしてんのかね」
「案外もう上がってたりして」
「さすがに早くね?」
「えとさんって湯船浸かる派だっけ普段」
「そんなん知らんよ」
「そっか、知ってたらやばいよな」
だいぶ中身のない会話が始まりはじめてそろそろ出るかとなった。
「コーヒー、牛乳!コーヒー、牛乳!なおきりさぁん、たっつん、コーヒー牛乳忘れんなよ」
「はぁ!?オレはサウナで勝ちましたあ」
「いやいやいや、サウナでのルールは決めてないじゃん。ね」
ええ、うそやろぉ!とたっつんが嘆く声を聞きながらみんな着替えていく。
えとの方は露天風呂に浸かり、のぼせにくいのでうとうとしてしまっている。お風呂で寝がちなのを知っているどぬやヒロ、のあ、るなが寝ちゃダメー!と脳内で起こしている。このまま寝られたならと思いながら事故を起こすわけには行かないと名残惜しくよたよたとお風呂から上がるのだった。
男子たちが風呂場の暖簾から出てきてロビーのようなところや休憩所などを覗くがえとを見つけられなかった。
「やっぱまだえとさんいないね」
「まあ、そっちの方がいいけど」
「確かにな。ひとりで置いておくほうが危ないわ」
「とりあえず、たっつんラインしとけばいいんじゃね?」
「そやな。上がったら一回見るやろ」
シヴァに言われるまま、この場での保護者代表のたっつんがえとに上がったことをラインする。
そして、大きめな施設でいろいろと設備があるようなので探検することにした。
お風呂から上がったえとは体を拭きつつ、ロッカーの中だけでスマホを確認して男子たちが上がったことを知った。了解とどぬくからもらったリアルじゃがいものスタンプで返しておく。えとが返信したとわかりやすいとメンバーからは好評だからだ。
準備しておいた化粧水などで肌を整え、ヘアミルクを付けてからドライヤーをかけていく。だいたい乾いたところでオイルでサラサラに仕上げる。
ロングの髪は湯上がりには少し暑くて持っていたヘアクリップで上げてようやく女風呂の暖簾から出る。
しかし、スマホで男子たちに電話をかけるが繋がらなかった。
からぴちはゲーマーたちの集まりだ。ゲームコーナーを見つけて素通りはできない。
小ぢんまりしているが、クレーンゲーム、音ゲー、シューティングに国民的キャラのドライビングゲーム、プリクラもあった。
ここはみんなでできるドライビングゲームから始めることにする。
「かーっ!やっぱうり強ぇえな」
「最後赤甲羅で差された!」
「シヴァさん惜しかったよねえ」
「なおきりさん何回落ちてた?」
なおきりが覚えてないよーと笑っていると何が?とえとが覗き込んだ。
「おぉ!えとさん!」
「やっほー。みんな全然通話取ってくれないんだもん」
「うそ、連絡してた?」
女湯から出て連絡が取れずに困っていたえとだったが、ほんのり遠くから覚えのある声が聞こえた気がしてそちらの方へと進んでいった。
近づくにつれて、やっぱり聴き馴染みある関西弁やら騒ぎ声たちが聞こえてくる。
「たっつんの声女湯出てすぐでもうっすら聞こえてきたよ」
「うっそ!それはそれは」
「助かったけどねー」
「ひとりで大丈夫だった?」
「うん、誰にも会わなかったよ。この時間帯」
なおきりがえともやるかと聞いてくれたので、4人しか席がなかったのでやりたいと交換してもらった。
あまりプレイしたことのなかったえとはなおきりといい勝負なくらいで、なおきりが後ろからあーだこーだと口出ししていた。
余裕のあるうりがなおきりさんも大して変わらねーだろと笑う。
「あー、おっかしいの」
「なおきりさんめちゃくちゃアドバイスしてんの」
「もー、後ろでうるさかった」
「僕はえとさんに勝ってほしいから言ってたんですよ?」
「途中なんて言ってた?」
「わかんなかった」
なおきりとえとどっちが強いのかとなり、サシでレースをすることになった。
先ほどは割とトンチキな走りをしていたなおきりだったが、1レース自分でやって1レース見ていたなおきりは少し掴んだようですんなりと走っている。
「えっ、待ってなおきりさん速い!」
「えとさん甲羅投げとき!」
「えとさんアイテムブロック取って取って!」
「なおきりさんいけー」
「このまま勝っちゃいますよーん」
最後に赤甲羅が当たったものの距離があったためなおきりが勝ち切った結果になった。
「シヴァさんいえーい!」
「なおきりさんいえーい!」
「ていうか、うりりんとたっつんずっとえとさんの味方じゃなかった?」
「あんまりにも」
「拙かったからどうしてもな」
「でも、楽しかったわ!」
えとのひと言にみんなそうだなと笑った。
「そういえばオレプリクラとか撮ったことないかも」
「あーね、男子だとねー。男子禁制のとことかもあるし」
「ある?オレもないわ」
「じゃっぴとかのあさんと撮ったことない?」
「撮らへん撮らへん」
「そうなん?わたしはよくのあさんるなと撮るけど」
ほら、とクリアのスマホケースに挟んであるプリクラを見せた。よく遊んでいるのあとのツーショットのものや三人で写っているもの複数枚あった。
「うりりんは?」
「ある。なおきりさんもあるっしょ?」
「あるねー」
「くっ、これだからイケメンは」
「そうだよ。これだからイケメンは」
「イケメン関係あんの?わたしどぬちゃんとヒロくんともあるよ」
「ほんまそこ仲良しなー」
「まあ、同世代ですから。謎の絆みたいなのはあるよね」
えとは撮る?とあっさり誘う。シヴァとたっつんは狼狽えるがこんな機会でもなければ撮らなさそうだとやってみるかとなった。
「うおー、中ってこんなんなってんだ」
「明るっ」
「うーん、どうしよかっな」
「メンバーカラー揃ってますね」
「あ、ほんとだ」
「6枚目はピーチでピンクでいいんじゃね?」
慣れているえと、なおきり、うりはさくさくと背景を選んでいく。
「シヴァさん、たっつんさんカメラここですからね。画面見ないでよ」
「あ、そうなん!?こっち!?」
「やべー、言われなきゃ絶対画面見てたわオレ」
「それぞれメンバーカラーあったから、自分のメンカラのときにセンターで順番にって感じでどうかな」
「それいいじゃん」
「ピーチのときは?」
「たつシヴァ?初めて記念で」
「いや、えとさんで」
「そらもうえとさんよ」
「えぇ?まあいいけどさ」
時間が切れて撮影に入る。テンポ良くシャッターが切られていって、狭いなかでドタバタと入れ替わっていく。
「狭い狭い!」
「きいろきいろ!たっつんさん!」
「うりうりうりうりうり」
「なおきり!」
「ゾン!ゾン!」
「じゃがじゃがじゃがじゃが」
「にくにくにくにくにくにく」
「元からセンターなんよ」
今時は落書きしないことにカルチャーショックを受けて、出てきたプリクラを見る。
6人分分割にしてしまったので一枚一枚が小さいが中々に加工強めの顔だが楽しそうにしている。
「はー、面白えな」
「普段こんなプリクラで笑うことなんかないから」
「オレもこんな笑ったん初めてなんやけど」
「もみくちゃだったよね」
「なぁ、もう一回撮らへん?」
「えぇ、たっつんさんハマっちゃいました?」
「いや、オレもう二度と撮らん気がするからもう一回くらいやっとこかなって」
「逆に」
「逆にな」
また5人で撮るのかと思いきや。
「えとさんとそれぞれツーショットで撮りましょうよ」
「はぁ!?意味わかんないんだけど」
「あとスタジオ撮影の時みたいに本気で撮ってよ」
「やだよー」
「なんか買うたるから」
「5、6枚目はソロ写で」
「嘘でしょ!?」
男子たちの謎のノリでえととのツーショットプリクラ撮影会が始まった。
たっつんとは分かりやすくハートとサムズアップで、シヴァとはあえてちゃんとハートを作って、うりとは打ち合わせしたわけでもなく互いにサムズアップだった。なおきりとは二人でそれぞれハートマークを作る。
そして、ソロ写では何か奢らせると決めて本気で顔を作って2枚撮った。
出来上がりを見てたっつんは大笑いだ。
「めちゃくちゃええやないか!」
「推しとチェキ撮るオタク見てぇだな」
「うり、イキっとるな」
「絶対後方彼氏ヅラ系だよ」
「なー、この斜に構えとるとことか」
「いやいや、たっつんさん割としっかり避けられてるタイプのやつやん」
「ネタ枠ですぅ」
「シヴァさんの良心オタ感な」
「わかる。スマートなオタクっぽいわ」
「なんか、このなおきりさんオキニっぽい。オキニ」
「オキニなんか!?」
「あぁ、もうすでにその圧がやっかい感が」
それぞれのショットに感想を述べて、ハマりすぎていてお腹が痛くなるほどに笑う。
「お、えとさんちゃんと本気の顔してるじゃん」
「なんか奢れよー」
「デュフフ、拙者が奢るでござるよえとたん」
「推し変したんっすか」
「二股じゃーん」
親切にプリクラ機にハサミが付いていたのでその場で分けた。えとはすぐにスマホ裏にそれを挟み込む。
「そこに挟んでくれんの?」
「もういっそからぴちコンプリートしようかな」
「いいじゃないですかあ」
「あと誰?」
「じゃっぴとゆあんくんともふくんかな」
「難しいとこやなあ」
「今度みんなでスポッチャとか行ったら撮れるかな」
「ボウリング行こうぜ」
「行きたい!行きたい!」
いつ行けるかなと話をしながら、そろそろ日付も変わりそうなので場所を移動することにした。
漫画コーナーもあるとのことでやってきた。ドリンクバーもある。
「あ、うりがいいって言ってたアニメの原作もあるよ」
「うわぁ、ここで読むか悩むー」
「わかる、悩むよね。私は読んじゃおうかなあ」
「オレは違うの読むわ。ネタバレすんなよ」
「わかった」
えとは3冊ほど取ると壁に寄りかかりながら、うりも読みたいものを選ぶとえとと同じエリアで読み始める。
「なおきりさん何飲んどるの?」
「梅昆布茶」
「ええな。オレも飲みたい」
「オレも飲みたい」
ゆっくりと集中して読み進めるタイプのうりの耳にぱさりと本が落ちる音が聞こえた。
音の方を見れば、完全に壁にもたれかかり寝てしまっているであろうえとの後ろ姿が目に入った。とりあえず、えとが選んでいた本と自分の選んだ本を棚へと返し、ちょっと離れたところでくつろいでいたたっつんたちのところへと向かった。
「ねえ、えとさん寝ちゃったんだけど」
「あぁー、学校後やしなあ」
男子たちはどうすると見合わせる。男だけならばダルいしとそのまま泊まる判断をしてしまうのだが、女子のえともいるので勝手に決められない。
元々何もしないのは前提としても、少ないとはいえ人の目があるのでどうこうすることなどできない。
「おーい、えとさんどうする?ここそのまま泊まれたりもするけど」
「んぇ?泊まれんの?帰るのダルいかも」
ほぼ寝たままの回答では当たったがやはりえともそう思っていたらしい。まあ、ならいいかとこちらにはたっつんもいるしと宿泊にするとこにした。
えとからロッカキーを預かりフロントで手続きしてもらう。
さらにゆっくりしていくことが決まり、みんな寝てもいいようにとリクライニングチェアがある休憩所に移動した。
みんなそれぞれ一枚ずつ毛布を持ってきたが、えとは少し寒そうにモゾモゾしている。
「さむい?」
「ちょっと」
「毛布もう一枚持ってくるか?」
「おねがい。ほしい」
ほぼ寝てる舌ったらずな口調に、ついつい素直に甘やかしてしまう。うりが、持ってきたもう一枚をかけてあげればようやくちょうど良かったのか大人しくスースーとした寝息が聞こえてきた。
「オレらも寝るか」
「そやね」
防犯のために、女子であるえとをうりとシヴァで挟んで、うりの隣になおきり、シヴァの隣にたっつんの並びで眠りについた。
いつもと違う感覚に目を覚ます。ぼんやりとする頭で携帯を見れば7時前くらいで二度寝するか悩むところだ。
昨日結局どうなったんだっけ?と体を軽く起こしてまわりを見れば、えとを挟むように男子たちが寝ている。
もう眠くて泊まることになったのをうっすらと思い出す。まあ、大学生にもなってこう行き当たりばったりに泊まるのは珍しいことでもなくなってきた。友達の家、漫画喫茶、カラオケでオール。メンバーとこういうノリなのが珍しいだけだ。
何時までいるのかわからないのでとりあえず身支度してしまうかと、まわりを起こさないようこっそりと抜け出し2枚あった毛布に優しさを今更受け取った。
髪は濡らさないけれど、顔と体を洗って目を覚ます。ついでに露天につかれば朝のひんやりとした空気が気持ちよかった。
「なんか、いいな。こういうの」
まだ誰もいない露天風呂でそう呟いてゆっくりと体を伸ばした。
さすがに化粧品は持ってきていなかったので日焼け止めだけだ。きっと帰るだけだし、バケハもあるし良しとしようと冷水機で水分補給してから女風呂を後にした。
「おはよう」
「おはよう。えとさんどこいってたん」
「身支度ついでにお風呂。露天風呂良かったよ」
「お、いいな。帰る前にもっかい行ってくるか」
「僕も行きたい」
「じゃあ、行ってくるか。まあ、うりは起きんやろうからえとさん一緒いてくれるか?」
「うん」
結局うりはみんなが帰ってきても寝ていた。
さて帰るかなんて言っていたら、朝のテレビで海鮮丼特集が始まる。
「海鮮丼か、ええなあ」
「いいよねー!こういう市場みたいなところで食べるのがまたさ」
「な!」
シヴァはスマホのナビで時間を調べている。
「そんな遠くないね」
「でも、うりりん海鮮無理じゃなかったっけ」
「あっ、そっかあ」
どっちにしろそろそろ起こさなくてはいけないのでうりを起こす。
「んぁー、はよ」
「おはよう」
「たっつんさんが今度は海鮮丼行きたいって」
「え、オレだけ?」
「海鮮ん?オレ苦手だけどどこ行きたいの?」
「テレビで市場やってて、そんな遠くないからそこ行かない?って」
「市場ぁ?あー、市場ならええよ。麺類とかあるっしょ。ラーメンあったらラーメン食うわ」
「なんやの。昨日からトントントントン話が決まってくわ」
「みんなこのノリが楽しいんだろうねえ」
「わかるー」
「えとさん。すっぴんじゃね?」
「すっぴんじゃ出歩けねー顔ってか」
「いやいや、女子ってそういうの気にするもんなんじゃねーの?」
「さすがにホテルのビュッフェとか百貨店なんかはすっぴんきついけど市場みたいにカジュアルなとこなら。帽子あるし」
「あー、なるほどな」
「のあさんは嫌がるやろうなあ。すっぴんがとかじゃなくきちんと準備して行動したいタイプやから」
「そもそも、こんな成り行きしないと思う」
「そらそうや」
うりはみんなが朝お風呂に入ってきたことを知って速攻で行ってくるから自分も!とお風呂に向かった。
旅行でもないので荷物らしい荷物もなく手持ち無沙汰だ。
「梅昆布茶あったよね。飲みたい」
「いいね、えとさん。行こうぜえ」
「昨日の続きでも読もうかな」
「そうだね」
うりに漫画コーナーにいると連絡して移動することにした。
本当に早めに帰ってきたうりも梅昆布茶を啜って、まだ朝の空気が残るうちに市場へと向かう。
「行くぜえ!」
「いえーい!」
混んでいるかと思われたが思いの外空いておりほぼナビの予想時刻通りのまま市場に着いた。タイミングもよくて市場の来客用駐車場も空いていて昨日から本当にすんなりと事が運ぶ。
「ここまでくるとなんか怖いよな」
「まあ、順調ってことで良くない」
「どこ行きますー?」
「麺類あるとこ」
「マップ見に行くか」
市場といえ、観光目的にもなっているため食べるところがいくつかあるようだ。
写真も張り出してあって適当に目星をつけて良さそうなところと条件に合うところに入ろうとなった。
「平日だけどそこそこ人いるね」
「業者の人とかか?」
「普通お客さんって感じの人もけっこういますけどね」
「なんかテンション上がるなあ」
混みすぎず空き過ぎず、メニューの内容も良さげなお店を見つけそこに入ることにした。
うり以外が海鮮丼に決めて、うりはラーメンにした。
「ほんまにラーメンやん」
「ほんとにラーメンよ」
「こういうとこのラーメンも美味いよな」
「そうなんよね」
「僕も味噌汁も付けたいな」
「私も飲みたいんよねー。でも大っきくない?飲み切れるかな」
「半分こします?」
「え、なおきりさん半分こ大丈夫な人?」
「あんまり回し飲み好きじゃないけど、わかっててなら」
「じゃあ半分こしてもらえたら嬉しいです」
「シヴァさぁん」
「半分こすっかたつやあ」
頼むものがまとまったところで店員さんに注文した。
「うめー!」
「朝から最高なんだけど!」
「来たかいあったな」
「なんか昨日からコスパ良すぎません?」
「もうちょっとした旅行感あるよな」
「ね。温泉入ってー、のんびりして、寝て、市場って楽し過ぎる」
「旅行のときとやることは大して変わらへんしな」
「良い〜」
「ほんとだぜっ」
「ほんとだぜっ」
肉厚な切り身がたっぷりと乗った海鮮丼に大きめのお椀に入ったあおさ汁、うりはラーメンだ。
もぐもぐと頬張れば美味しい魚の脂と旨味を口いっぱいに感じられる。
「えとさんサビ抜きなのお」
「うるせえー」
「吐くレベルやもんな」
「しっかりダメじゃん」
「しっかりダメなんよ」
食べながらえとが後でソフトクリーム食べたいと言い始めてさすがに早くない?と笑った。
一方、シェアハウスでも朝を迎えている。
クリスタル寮では、るなとのあがちょうど同時に部屋を出た。
「るなさん、おはよう」
「のあさんおはよー」
「えとちゃんはまだ寝てるんですかね。昨日も遅かったのかなあ」
「あれ、昨日ぽと帰ってきてたかな」
二人は顔を見合わせて、えとの部屋をノックをしてみるが反応がなく、念の為反応はなかったが中を確認してみれば帰宅したような形跡がみられなかったため、もう一度顔を見合わせると急いで本館へと向かった。
ダイニングではゆあんくんとヒロが朝食を食べている。パンに目玉焼き、ベーコン、サラダ、それはとても美味しそうでとるなとのあは一瞬きをとられるが切り替えてえとのことを見たかと尋ねた。
「えとさん?いや、見てないけどな」
「えとさんおらんの?」
「朝居なくて。寝てるのかなあと一応部屋を確認してみたんですけどいなかったんですよ」
「いつもならえとちゃんどっかしらにメッセージくれるのに」
それは心配だなとなっていると、また集中しすぎて夜更かしでもしたのであろう凶悪な寝起き顔のもふがやってきた。
「おはよ。どしたの?」
それがとのあはえとが連絡もなく帰ってきていないことを伝える。
「あれは?お迎え常連組ならなんか知ってるんじゃないの?」
「あっ、そうかも!」
「みんなぁ、どうしたのぉ」
どぬくも寝起きのぱやぱやした状態のままリビングまでやってきた。迎え組のほとんどがマッスル寮である。ちょうど良かったとどぬくに聞く。
「え、そういえば朝から誰にも会ってないかも」
どこいったのかなあとのんびり言うどぬくは置いておいて、のあはすぐさまえとに動画通話を繋いだ。
「ん!のあさんだ」
えとのスマホに動画通話の着信が入る。のあからの連絡に上機嫌で出ようとするえとにたっつんは光の速さで止めに入る。
「え、なに」
よく見ればたっつんは血の気の引いた顔をしていた。そして、首を横に振っている。どういうことなのかとえとは首をかしげ、シヴァとなおきりも気がついたようで固まっている。
うりだけは気が付かずにラーメンを啜っている。
「あかん。やってもうた」
「やっちまいましたね。これは大分」
「どーすんだよぉ、これ」
「えっ、何が何がわかんない。怖い怖い」
「どーゆーこと?」
あのな、ええかとたっつんが重く切り出す。
「シェアハウス組にえとさんも含めて泊まるって連絡し忘れてた」
えととうりが声を揃えて驚きの声をあげた。確かにやべえよなと動揺するが、えとはすぐさまのあに動画通話を掛け直す。
「えとさん!?」
「いやいや、出ない方が怪しいっしょ。もうこういうときは説明するしかない」
「おぉ、さすがもふくんからの説教率ナンバーワンの元ヤン娘」
「なーおーきーりーさーんー?」
「オレいややー」
「まあ、確かにしゃーないわなあ」
「確かにな」
「なんでみんなそこらへんキモ座っとんのぉ。意味わからへん」
「大丈夫だって。実際何もないわけなんだし。おっ、繋がった。おはよー、のあさん」
えとがひらひらと手を振りながらのあに挨拶をするとパニックになるとに出るお決まりのパ行が炸裂していた。
「めっちゃ怒ってるなあ」
「心配してくれてるんじゃない。これは」
「えとさんをね」
「いや、みんなもじゃない」
「別に取って食いやしないのにな。じゃがだけど」
「確かにな。肉じゃがだけど食わねえよな」
シヴァとうりの発言にますます甲高いパピプペポが飛び出すので、すぐさまたっつんがやめなさい!と叱りつける。
「ごめぇん、みんなで昨日スーパー銭湯で泊まっちゃった。私に関しては完全に寝落ちちゃってたからそこら辺の記憶が曖昧なんだけど。帰るのダルいよねーって話だけは覚えてる」
『スーパー銭湯!?』
『スーパー銭湯行ってたの?みんなで?』
のあさん越しのもふとるなが声を上げる。
「あれは完全に夜テンションやったな」
「流れが完璧過ぎたんよ」
「超楽しかったよね」
「えとさんがそのまま行けるっていうところがさすが過ぎて」
「神が行けと申しておったわ、あれは」
「うん、だからはしゃぎ過ぎて連絡できなくてごめんねみんな。もうこっちサイドたっつん居るからいいよねー!って変に納得しちゃってて」
「そんでもってオレまではしゃいじゃってるもんだから連絡し忘れてもうてほんますんません」
「1025おいー」
「オレだけのせいなんか!?」
「いや、違うでしょ。ここの全員で誰かしら連絡しときゃ良かっただけよ」
とたっつんをフォローして、うりはラーメンを啜った。シヴァもなおきりもあまりシェアハウス組を気にせず海鮮丼を頬張っている。
『何食べてるんですか!』
「海鮮丼だよー」
えとが一生懸命丼を傾けて中身を見せようとしている。こぼれそうになるのをなんとか調整しているが、うりがスマホを取ってやりこうすればええやんと教えていた。えとはうり天才かと返している。
『えとちゃんずるーい』
『ぽとずるい!』
「あははっ、今度三人で来ようねー。まじでうまいよ」
「この値段でこれって大分お得よな」
「まあ、おれラーメンだけど」
「まじでこの場でラーメンだもんねうりりん」
『みんなおはよー。って何してんの?』
ちょっと遠くからじゃぱぱの声がする。ゆあんくんがそれがよぉと出来事を説明した。
『ねーぇ!なんでそんな楽しそうなこと誘ってくれないの!』
「じゃっぴおはよー」
「じゃぱぱおはよう」
『おはよう。じゃなくて!』
「って言われてもなあ。その場のノリだけで行動してたからなあ」
「ほんとその場で決まってたよね」
「なんならテレビの特集だけで行動しとるわオレら」
「サウナしかり、海鮮丼しかりな」
うりとえとが画面に向かってそれぞれ食材を差し出す。
『うわあ、うまそー』
『写真とかないんですか!』
「写真なんて撮ったっけ?プリは撮ったけどね」
じゃぱぱの後ろでのあとるながプリというワードに反応している。
「あ、僕何枚か撮ったので送りますよ!」
「なおきりさん撮ってたの?」
からぴちのグループにぴこんぴこんと何枚かの画像が送られる。えとのスマホは通話に使ってしまっているためうりのスマホを覗き込んだ。
「ねぇ!なおきりさん!?」
「めちゃくちゃ事故っとるやん」
うとうとして半目になっていたり、漫画につっぷしてしまっているえとの写真が何枚かあった。
「えー、かわいくないですか?」
「猫とか動物で癒されるやつじゃん!わたしでやらないでよ」
もちろん、みんなでコーヒー牛乳を飲んだり、漫画を読んでいるところ、アーケードゲームをしているところ、のんびりとしているきちんとした写真もある。
『えぇー、まじでいいじゃんー』
ゆあんくんが心の底から羨ましそうな声を出した。
『オレらも行こうぜえ』
『行きたいよなあ』
「ははっ、これ食べたら帰るからたぶん」
『多分って何!?たぶんって』
「まあ、オレら今日テレビで動いてるから何も特集されてなければ素直に帰るわ」
『テレビ消して帰ってこいよっ!』
「のあさん、るなさんお土産買って帰るね」
『待ってますからねぽとー』
『るなも待ってます!』
「あ、なんかテレビでやってる」
「どれえ」
『テレビ見るなよぉ〜』
「じゃあ、バッテリーやばいからまたねー」
もう20%くらいしかないのでさすがに通話を切る。
「ははっ、羨ましがっとったな」
「なー。まあ、オレがあっちサイドでもそうなるけど」
「こっち側で良かったー」
「とはいえさすがにお土産は買って帰らないとね」
「そうだね。ソフトクリーム食べながら決めよ」
「ただソフトクリーム食べたいだけやん」
「こういうとこのソフトクリームってなんか美味いよな」
「シヴァさんもそっち派?」
海鮮丼を食べ終わり、お土産になりそうな店の方へと歩いていく。スーパー銭湯でのんびりしたとはいえリクライニングチェアで寝たので、お腹いっぱいなのもあって眠気がすごい。
ソフトクリームを売っているところを見つけ結局ひとり一個買って食べながら見て回る。
じゃぱぱには鮭とば、他メンバーには普通に喜ばれそうなお菓子などを買って、車で少しだけ仮眠してからシェアハウスの帰路に着いたのだった。
ちなみに夕飯はお昼のバラエティーがカレー特集だったため、カレーにしたのは他のメンバーには内緒である。