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カラッとした暑さで額から汗が流れる。
夏の太陽の下、プールの授業を受けている私は今日も見学している葉月さんを見ていた。
葉月さんは普段あまり感情を出さない大人しいクラスメイト。伏せ目で地面を見つめている目は、長いまつ毛がよく目立つ。
プールの授業は嫌いなのに、こんなに暑いならと早く入りたいと思ってしまう。
「では、ビート板を使って練習しましょう」
友達のまいちゃんとペアを組んで適当に並ぶと、前の人から順にビート板を使って練習を始めた。
「ねえ、まいちゃん」
「んー?」
汗を流し、冷たいプールに目を輝かせていたまいちゃんは水泳が大好きな女の子だ。
「葉月さんっていつも見学してるよね?なんでかなあ?」
「あー、葉月って私と同じ水泳部なんだけど、部活のときも見学してるんだよね」
先生からビート板を受け取ったまいちゃんは、呆れたような顔をして言った。
「へえ、そうなんだ」と言いながらプールに入ると想像以上にひんやり気持ちよくて、そのまま眠ってしまいたくなる。
「部活終わっても最後まで残っててさ、部室の鍵閉めてくれるから助かるんだけどね」
「そう、なんだ」
泳ぎながら会話をしていると水が口の中に入りそうになって、会話はそこで終わりにした。
「ちゃんとシャワー浴びろよー」
授業の終わり、地獄のシャワーと呼ばれているシャワーを浴びると、急に寒くなってきて早足で更衣室に向かった。
ちらっと見た見学テントには葉月はもう居なかった。
『みこと!今日の作文のテーマ何だっけ?』
部活終わり、学校から帰っている途中、まいちゃんからラインが来た。
『まって、作文のプリント忘れてきた』
学校の近くでラインしてくれたことに感謝して、急いでプリントを取りに行く。
『私も忘れたっぽい、私の分もよろしく!』
まいちゃんからのラインを見て『仕方ないなあ』とラインしてから、『その代わりアイス奢ってね』と言ってやった。
ミニ扇風機を持ちながら走っていると、学校のプールが目に入った。
「葉月さんだ」
部活は最後まで残っているというのは本当のことだったらしく、葉月さんは立ってプールを眺めていた。
話しかけてみようかと思った瞬間、制服のままの葉月さんはプールに足を滑らした。
「あぶなっ…」
危ない、そう言おうとして声が出なかった。
プールに入った葉月さんは焦る様子もなく、泳いだ。葉月さんの足先から何かが出てくる。
すぐにそれが魚の尾びれだと気づいた。
ウロコが葉月さんの足を包む。
髪をかきあげ、微笑む葉月さんは学校にいるときの無表情の大人しい葉月さんとは違い、すごく綺麗だった。
「綺麗…」
太陽で照らされた虹色のウロコはキラキラ光って宝石みたいだった。
人魚。それは私が好きな絵本で、高校生になった今もずっと憧れているものだ。
手が痛み、フェンスを鷲掴みしていることに気づいた。
あまりの出来事に夢中になっていた。
葉月さんに見つかるかもしれないと思い、人魚になった葉月さんをちらっと見ながら正門へ走った。