コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
アオイが「海辺のアートフェスティバル」で
「灯台ギャラリー」をメイン会場として開いてから、数ヶ月の月日が流れた。
アオイの描いた「未来への手紙」と題された新作は、
静かな感動を呼び、町の人々はもちろん、遠方から訪れた人々にも希望を与えた。
アオイは、東京での挫折から完全に立ち直り、
この町で、人の心を救う画家として、確固たる居場所を築いていた。
フェスティバルの最終日、海猫軒はかつてない賑わいを見せていた。
アオイがカウンターで接客をしていると、ハルさんが一枚の地方新聞を持って駆け寄ってきた。
「アオイちゃん! 見てごらん、これ!」
その新聞は、ナギが引っ越した新しい町の地方紙だった。
ハルさんが指差した記事には、美術展の受賞者リストが載っていた。
そこには、「佐伯ナギ」の名前と、最高賞の文字が輝いていた。
アオオは、新聞を強く握りしめた。
ナギが、孤独に負けず、絵を描き続けた証。
アオイの言葉が、彼を支え続けた証だった。
記事には、ナギの受賞作品の写真も小さく載っていた。
描かれていたのは、新しい町の風景だったが、どこか懐かしい、
海猫軒の裏の岩場から見た海を思わせる、力強い光と影を持った絵だった。
そして、その記事の下には、感動的なエピソードが綴られていた。
「絵は、父と母の絆を取り戻した」
受賞者、佐伯ナギ君の母、里美さんは、
「私は長い間、息子の夢を否定し続けてきました。しかし、今回、息子の絵が、私の夫—ナギの父—が生前に夢見ていた『新しい事業の企画書』を表現していたことに気づいたのです。息子の絵に、夫の夢の光を見たとき、私は初めて、自分の過ちに気づき、夫の死から立ち直ることができました」と語った。
佐伯君は、「この絵は、僕の家族の灯台です」と静かに語った。
アオイの目から、涙が溢れた。
「君は、未来で、自分の絵で家族を救うことになる」
あの時、ナギを励ますために送った、アオイの最後の「未来の証明」が、
時空を超えて現実のものとなっていたのだ。
ナギの絵は、亡き父の夢と、後悔に苦しむ母の心を繋ぎ、
家族の絆を修復する「灯台の光」となった。
ナギの才能は、未来で本当に必要とされていた。
そして、アオイは、その未来の証明を届けることで、ナギだけでなく、佐伯家全体を救ったのだ。
数日後、アオイは、受賞を知ったナギの母、里美から感謝の電話を受けた。
「アオイさん、本当に、ありがとうございました。ナギは今、毎日楽しそうに筆を握っています。そして…『いつか、海猫軒の灯台ギャラリーで、アオイさんの隣に僕の絵を並べたい』と言っています。」
電話を切った後、アオイは海猫軒の窓の外、静かに輝く海を見つめた。
アオイは、ナギの灯台のスケッチの隣に、自分が描いた「未来への手紙」の絵をそっと並べた。
そして、その間に、わずかな空間を開けた。
(ナギ君。この場所は、いつか君の絵が並ぶ、未来の君の居場所として、ずっと開けておくよ。)
アオイは、海猫軒の女将として、この町の「灯台」として、新しい人生を歩み始める。
ナギとの文通は終わった。しかし、二人が交わした
「未来の約束」は、時空を超えて、それぞれの人生の確かな道標となり続けた。
そして、遠い未来。
ある有名美術館のキュレーターが、一人の著名な海洋画家の作品を前に、目を細めていた。
その画家の名は、佐伯ナギ。彼の作品群の隣には、彼が「人生の師」と呼ぶ、
無名の画家が描いた、光溢れる灯台の油絵が、静かに展示されていた。
キュレーターは、その灯台の絵の作者の名前を、そっと読み上げた。
「アオイ。…この絵は、未来への希望、そのものだ。」
時空を超えた文通は、二人の画家の魂を繋ぎ、彼らの未来を、希望の光で照らし続けた。
アオイの「灯台ギャラリー」は、今も、未来を信じる人々を静かに迎え入れている。
(完)