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「菊の手ってあったかい」
フェリシアーノは菊に頭を撫でてもらっていた。急な強請りで断りきれなかった菊は苦笑しつつもしゃがんだフェリシアーノの綺麗な茶髪の頭を撫でだした。
冬の風も吹いてくる頃冷たくて仕方ない手に温かいと言ってくるフェリシアーノのことが不思議でならなかった。人間的な温かみがある訳でもなく冷えて指先が赤くなってさえいるのに、なんならこちらが手袋をしたい限りである。
「冷たいですよ」
フェリシアーノはううんと答え菊の手を取り自分の頬に近づけ菊の手をすりすりとし始めた。フェリシアーノが頬を擦り付けると菊はその頬の温かさに少しだけ指が痛む。
冷えた手に急な温かさはピリピリとしてしまう、皮膚の細胞が傷付いた証拠だ。これほどまでフェリシアーノの頬が温かいなんて思ってもいなかった。否、菊の手が冷たいだけだろうか。
息を吐けば水蒸気が水滴になって白くなる。冬になったなぁと思いながら菊は未だ手を貸している。そろそろ部屋に入らなければフェリシアーノの手もすぐ冷たくなってしまうだろう。薄着という訳では無いが何故家を目の前にして外、縁側にいるのか分からない。
「きぃく」
手を離したかと思えば急に立ち上がり菊に対して口付けを落とした。菊の手には未だにピリピリとした余韻が残っている。
「急に接吻とは何事ですか!?」
口元が温かく、口付けをしたという事実が分かりやすく菊は恥ずかしさでいっぱいになった。
「あったかーい」
「フェリシアーノくんのバカ!!」
ゆらゆらと縁側から部屋に入り出すフェリシアーノにあまり怒らない菊が耳まで真っ赤にさせてフェリシアーノに怒ると部屋に移ったフェリシアーノは笑いながら両腕を菊の方に伸ばした。菊は言葉にされずとも来いと言われているのが分かりため息をついてからフェリシアーノの胸に飛び込んだ。
「慣れない菊がハグしてきた」
驚いて、またはからかうようにしてそういうフェリシアーノの胸に菊は顔を埋めて拗ねたように言う。
「フェリシアーノくんのせいです」
「そうだね〜、俺のせいだもんね〜」
ふざけたようにそういうので菊はまたもやポコポコと怒る。
「……あたたかい」
抱きしめられたままの菊はフェリシアーノの胸の中で眠ってしまいそうなほどの心地良さに目を開けたり閉じたりしていた。子供みたいな体温にじんわりと菊の体も温まっていく。
「菊〜、寝ちゃダメだよ?」
「分かってますよ」
そのまま何分か抱き合ったままで、開いた襖から冷たい風が入ってくることさえ気にせずにしていた。するとフェリシアーノは流石にと菊の方に手を置いて自身の体から引き離そうとする。
「フェリシアーノくん?」
一度顔を上げこてんと首を傾げてフェリシアーノを見上げる菊。
「このままだと風邪ひくよぉ」
「ん……ですがもう少しこのままで」
そういうと菊はすぐにまたフェリシアーノの胸に顔を埋める。なかなか甘えない菊のそんな言葉にフェリシアーノは思考を停止して菊をまた抱き締め返した。冷たい菊がもうフェリシアーノの体温が移って背中がポカポカとしている。
まあフェリシアーノもヨーロッパ人、平熱は三十七度以上、日本人では微熱なのにそれが平熱とはどいうことだろうか。
そしてまたそれから数分経つとフェリシアーノは菊の顬に口付けを落とす。
「ひゃっ」
驚きのあまり菊は勢いよく顔を上げてフェリシアーノを睨む。
「菊がいつまで経ってもフスマ閉めないから〜」
そんなフェリシアーノはによによとしている。仕方ないと菊はフェリシアーノから離れ襖を閉めるとそのまま奥の襖に行こうとする。フェリシアーノはそんな菊を見つめて何をするのかと思い菊の袖を引っ張る。
「炬燵のある部屋に移動しようかと、廊下に出る際に伝えようと思ったのですけどね」
「そっか〜、コタツ、俺たちが同盟組んだ場所だね」
そんな言葉を聞いて菊は手を口元にやりクスッと笑った。その笑顔に弾かれたようにフェリシアーノは口元が緩む。
「蜜柑も頂いたんです、出しますからフェリシアーノくんは先に入って待っていてくださいね」
「うん」
するとフェリシアーノは袖を離して菊を解放する。菊が先に出てからフェリシアーノが出ないかと襖を半開きにしたままチラチラとしていたが、後々ゆっくり行こうとフェリシアーノがしたため菊は来ないことを確認して襖を閉じ廊下を歩いていった。木が軋む音にどこか懐かしさを覚える。
「ん〜〜!」
フェリシアーノは腕を上にし伸びをして、畳に手をつかせながら立ち上がる。客間から奥座敷に向かって歩く、菊は恐らく茶の間の隣にある納戸から蜜柑を取ってきている所だろう。
がららと襖を開けて先客のポチくんに挨拶する。
「久しぶりポチクン」
と言いながら炬燵に入るとポチくんは元気よくきゅわんと鳴く。そのままふわふわの毛をもふもふして時間を潰す。
すると歩いてくる音がする。菊だ。
「菊〜!」
「ああっ、コートは脱いでくださいよ、いや私が持たなかったのが悪いですね、お客さんなのに」
立てと言われフェリシアーノは渋々炬燵から出て菊にコートを渡す。笑いながらまたコートを別の場所に移してくると言いながら出ていってしまった。フェリシアーノは菊が置いていった蜜柑を一つ取り皮を向き一房口に入れてポチくんに話しかける。
「お前のご主人は忙しいね〜」
全く本当に! というかのように鳴いて返事をする犬のポチくん。フェリシアーノはそんな反応に笑いながらまた一房と蜜柑を口にする。そしてまた菊が戻ってくるとポチくんは喜んで菊の方に近づいた。
それを嬉しそうに見つめて菊はポチくんを撫でる。
「どっこらしょ」
と言いながら炬燵に入る菊、入ってきた足が冷たくフェリシアーノは肩を跳ねさせた。
「あったかい……」
「ね」
菊はするすると蜜柑に手を伸ばし皮を剥いていく。だるんとさせた背中がフェリシアーノとお揃いだ。
「菊」
「なんですか?」
「ん」
そうやっていいながらフェリシアーノは一房蜜柑を菊の口元まで伸ばす。案の定菊は今食べてますけどと言った顔をするがフェリシアーノはにこにこで怠そうだった背筋を伸ばして菊の口元にどんどん近づける。
「はい」
「仕方ないですね」
そう言いながら菊はフェリシアーノに渡されるがまま手で受け取るわけでもなく口にした。
「あ、果汁が」
菊がそういうとフェリシアーノの指についた果汁を舐めたためフェリシアーノは一度固まってから我に返って急いで手を引っこめた。菊はたまに素かは分からないがこういうことをする為フェリシアーノの心臓は持たない。
菊は温かさからなのか自分が何をしたかに恐らく自覚をもてておらずぽかんとしているのでフェリシアーノは舐められた指を自分で舐める所を見せつけた。
それを見せられた菊は徐々に顔を赤くしたためやっとのことで理解したのだろう。
「あ……あ」
「仕返し」
「フェリシアーノくんのバカ!!」
「先にやったの菊だし!!」
なんて言い合いを暫く続けたあと笑いあって蜜柑を食べました。
終