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第三話
夜が更け、私と兄は仕事を終えて車に乗り込んだ。車内は静寂に包まれ、外の街の明かりだけが私たちを照らしていた。
煌は黙ってハンドルを握り、どこか遠くを見つめているようだった。その横顔を見つめていると、子供の頃から変わらず私を守り続けてきた兄の姿が思い浮かんでくる。
「まのん、疲れただろう。少し寝てもいいぞ」
兄の静かな声が車内に響く。その優しさに甘えて、私は一瞬目を閉じようとした。でもすぐに思い直し、顔を上げた。
「大丈夫。…兄さんも、少しは休んで」
私がそう言うと、煌は軽く笑みを浮かべた。その笑顔がどこか寂しげに見えて、胸が少し痛む。
「お前に気を遣われるとはな。強くなったな、まのん」
その言葉に、私は無意識に拳を握りしめた。兄に認められるのは嬉しいはずなのに、心の奥では何かが引っかかっている。私は「強く」なって、兄の隣に立つことを許されている。それなのに、心の中で本当に彼と並び立っていると感じられない自分がいるのだ。
「兄さん、私…もっと強くならないといけないのかな?」
私がぽつりと問いかけると、煌は一瞬驚いたような顔をした。しかし、すぐにその表情を消し、穏やかに答えた。
「お前は、もう十分に強いさ。お前は、俺が誇りに思う妹だ」
その言葉はあまりにも優しすぎて、かえって苦しかった。私が兄に愛されることは、何よりも大切なはずなのに…本当の私を隠し続けることへの罪悪感が、少しずつ心を蝕んでいくのを感じていた。
車は静かに夜の街を進み、私はただ黙って、兄の横顔を見つめ続けていた。