テラーノベル
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真夏の太陽がジリジリと焼かれながら、僕らに喜びの声をあげる民達。
苦しさも悲しさも、『笑顔』という仮面で蓋をして、万歳と声をあげている。
散りゆく花は、数を知らず。
また今日も数十名の命の花が散る。
僕もまた花となり、散る。
国民のために…我が大日本帝国のために…。
そんな嘘の仮面をつけながら。
いざ散ろう!
泣き声と使命感に燃える声が混じり、かすかに聞こえる隊長の声。
そんな隊長の声が愛しのあの子のようで、僕の心がざわめく。
初めて出会った時から、僕の心を照らしてくれたあの子は、目に涙を溜めながら、不安そうに顔をあげる。
その顔が僕の翼をもぎ取る。
自信という翼も、使命という翼もあの子の前ではすぐに取れる玩具に過ぎない。
“日本”
愛おしい日本の名前を、聞こえることのない空から呼びかける。
それでも、聞こえていなくても、日本は僕を見つめている。
空兄さん…空兄さん、と。
本当に愛おしい。
出来ることなら、ずっと側にいたい。
だか、僕は行かねばならない。
この国を…日本を守るために。
この身を散らそう。
静かな空に消えるまで…
僕は日本を愛し続けているよ。
『いってきます』
日本国を離れ、米国へと僕らは飛ぶ。
何とも言えない喪失感に、体が震えているのも無理はない。
共に飛び立った仲間の中にも、死にたくない、と涙を流す者がいる。
必死に妻への愛を言葉にする者がいる。
覚悟を決めていても、手が震える者がいる。
国への忠誠心に誇りを持ち、急かそうとする者がいる。
それぞれが想いを抱え、花となる。
僕は…何を思うだろう。
寂しさ?
喜び?
誇り?
…わからない。
僕の中には日本に生きてほしい、という願いしかないのだから。
日本が生きているのなら、僕がどうなっても構わない。
僕は幼き日から、日本のためにこうなることを望んでいたんだ。
あの日から…
日本と出会ったのは、僕が14歳の頃だった。
長男である陸が、寂しそうだったからと、一人の国を連れ帰ってきた。
日の丸を顔に持ち、どこか僕らに似ている。
不思議な子。
その好奇心を含んだ瞳の奥に、何とも言えない寂しさを感じた時、僕は日本を守りたいと強く思った。
それから僕の生活は日本が中心となった。
勉強も、お手伝いも…。
何もかも日本のために、と頑張った。
日本が笑ってくれるから。
日本が好きだと言ってくれるから。
僕は身を日本に捧げることができた。
これからもきっと、続くと思っていた。
あの日までは…。
たった1枚の紙で僕の幸せは壊れた。
いや、元から存在などしなかったはずだったものだ。
わかりきっていたことを、忘れようしていた。
なのに…。
現実とは残酷で、愚かだ。
赤紙は、幸せを崩す鋭い刃のように、僕の目の前に現れた。
恨んだ。
もちろん恨んだ。
どうにかなることでもないことは、分かりきっていても、僕は恨むことしか知らない。
陸も、海も似たような招集状が届いた。
これが当たり前なのだ。
日本男子の当たり前なのだ。
訓練に参加するようになって、僕は日本に会う前の気持ちが蘇っていた。
生きることを諦め、死ぬことに恐怖すら感じない。
血も涙もない。
そう言われることが多かった。
それでも、これが使命なのだから仕方がない。
帰りたいと願う者達を見たとき、僕もいつかそう思う日が来るのだろうか、とどこか他人事のように感じていた。
訓練で仲良くなった兵も、帰りたいと小さく呟いていた。
それでも彼のどこか吹っ切れた目は、あの頃の僕に似ていた。
彼は夜風に当たると言って、暗闇のなかに入っていく。
その背中は、大きいはずなのに頼りないように見えた。
小さくても、すべてを受け止める陸の背中とは随分違う。
僕は、どうだろうか。
……
「はぁ…少し風にあたろう」
僕は考えることをやめた。
暗闇の中で光る月は、まるでこの世界が平和であるかのように辺りを照らす。
その光を人々が恐ろしく感じているのも知らずに。
平和という言葉だけが独り歩きしているだけであるのに。
ただ、小さな目印として、光り輝いている。
まるで、日本のように。
いや…逆だ。
日本は太陽のような存在だ。
全ての生命に輝きをもたらし、笑顔を与える。
月のように、暗闇のなかにぽつんとある存在ではない。
多くの人に囲まれて、その温かい笑顔で活力を与える日本は、まさに太陽のようだ。
日本、と呟く。
名を呼べば、日本がどうしたの?と答えてくれる気がした。
そんなことはないと、わかっている。
僕の声に答えるのは、冷たい夜の風。
僕の声の行く先は、暗い暗い闇の中。
それでも、愛おしくて堪らない日本の名を僕は呼ぶ。
日本に会うまで…。
「空軍様!!」
隊長の声で僕は現実に戻される。
仲間の泣き声も、喜びの声も、先ほどよりも一層強く感じる。
僕らはもうすぐ散る。
そのことを強く感じさせられた。
下には米国の戦艦が、川に流れる笹舟のように太平洋を流れている。
戦艦に乗っている米軍達は余裕の表情で笑いあう。
その表情に怒りを覚えることも、僕はしなかった。
淡々と責務を全うする。
血も涙もない…はずなのに。
こんなにも手が震えるのはどうしてだろうか。
恐怖か、武者震いか…。
僕は飛行機の中から空を見つめる。
青く澄んだ空が一面に広がり続けている。
その中に日本を探し出そうとする。
自分でも無意識のうちに。
そうか。
ようやくわかった。
僕は血も涙もないわけではない。
強いわけでも、誇りを持っているわけではない。
ただ、寂しかったのだ。
日本と離れることが、あまりに寂しいだけだったのだ。
そのことがわかると、自然と口から小さな笑いが溢れる。
「今更…だよッ」
視界が滲む。
涙が溢れているのがわかる。
それでも、僕はその涙を拭き取る。
僕は大日本帝国なのだから。
僕は血も涙もない空軍なのだから。
遂に覚悟を決め、機体を大きく傾ける。
命のカウントダウンが始まる。
手の震えは一層強くなるばかり。
それでも僕は、突き進む。
愛しい君を…日本を守るために。
「愛しているよ…日本」
僕は消えゆく意識の中で愛しい君にそう告げた。
あぁ…。
生まれ変わったら、また君と出会いたいなぁ。
澄んだ青空に願いながら、僕は花となった。
日本「!」
日本「陸兄さん!お花が降ってきました!」
陸「……ほんとッだな」
日本「うわぁ✨️綺麗です!」
日本「まるで空兄さんのようです」
完
コメント
1件
読み終えました…。戦時中の空の上で、ただ「日本」を想いながら散っていく主人公の心情が、静かで、それでいてすごく重くて苦しくなりました。特に「寂しかっただけ」って気づくところ、涙が出ました。最後の花が降るシーンと「空兄さんのようです」という言葉が、あまりにも切なくて…。美しくて哀しい、大好きな作品です。🤍🥀