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15
まだ陽が出ておらず、夏でも肌寒く感じる時間帯に爆豪はベランダに出る。
「はよ、ぐるぐる」
《カァア》
手すりにいるぐるぐるに挨拶すると翼を広げてピシッと敬礼された。器用だなと思いながら細い足に紙を巻きつける。解けないように結び目を確認し、ぐるぐるの頭を撫でた。
「頼むぞ」
《カァア!》
飛び去ったぐるぐるを見送って中へ戻る。そのまま寝巻きからスポーツウェアに着替える爆豪に、物音で目を覚ましたトビが眠たげに鳴く。
《ギィ?》
「まだ寝てていかぞ。ロードワークに行ってくる」
《ギィ……》
返答に安心したのかトビは二度寝を決め込む。爆豪は日課である走り込みをしに部屋を後にした。
「昨日話したと思うが、ヒーロー科1年A組は仮免取得を当面の目標にする」
「「「はい!」」」
「ヒーロー免許ってのは、人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然取得の為の試験はとても厳しい。仮免といえど、その合格率は例年5割を切る」
「仮免でそんなキツイのかよ」
「そこで今日から君らには一人最低でも二つ……」
教室の扉が開き、入ってきたのはミッドナイトとセメントス、エクトプラズムの3人。
「必殺技を作ってもらう!!」
「必殺技!!!」
「「「学校っぽくてそれでいて、ヒーローっぽいのキタァア!!!」」」
「必殺!コレスナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」
「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」
「技は己を象徴する!今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」
「詳しい話は実演を交え、合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γへ集合だ」
面倒くさい時間きたわ。騒ぐモブどもに対してやる気がマイナスになった。
「体育館γ、通称トレーニングの台所ランド。略してTDL!!!」
戦闘服に着替えてコンクリートでできただだっ広い体育館γに集合。ここで必殺技を作るらしい。仮免で色んな適性を見られると説明される。特に戦闘力を見ると。
「つまり、これから後期始業まで…残り十日余りの夏休みは個性を伸ばしつつ必殺を編み出す圧縮訓練となる!」
セメントスがコンクートの山を作り、それぞれのステージにエクトプラズムの分身が配置される。
「尚、個性の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も並行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備はいいか?」
「「「はい!!」」」
「ワクワクしてきたぁ!!」
さて、俺はやるべきことはフラストレーション溜まったものを吐き出す。
各々練習台に向かうA組に目もくれず、爆豪はセメントスに声をかけた。
「なぁ、この敷地の半分くらい使用してぇんだが区切れっか?」
「できなくはないですが何を?」
「ストレス溜まってっから思いっきり発散したい。ここにいる奴ら邪魔だから分厚い壁で区切ってくれ」
「分かりました」
端によればモブどもとの間に分厚い壁が迫り上がる。持ってきた武器を一面に床に置いた
「一体何スルツモリダ」
「あぁ、あんたいたんか。いや、分身か。どうせ消えちまうんだから俺の邪魔すんなよ」
アラームをセットして武器の近くに置く。これで心置きなくストレス発散できる。
「おいトビ。出番だ」
《ギィ》
「久々の鍛錬だ。この武器範囲に入んじゃねぇぞ」
《ギィ!》
頭の上にいるトビに呼びかけて、お互い2mぐらい距離を置く。瞼を閉じて脳裏に浮かぶのは水面。息を吸って長く吐く。感情を殺せ。いらないものを削ぎ落とせ。今から相手すんのはオビトと同じ強い相手。瞼をゆっくり持ち上げてトビを見つめる。
「殺す気でこい!」
開始合図と共に地面からバキバキと木が生えてきた。
ピピピッと10分置きに鳴るアラームを止めに、迫り来る枝をバックステップで躱して武器エリアまで戻る。アラームを止めて、刀から団扇の武器に持ち替えてまた駆け出す。
《ギィィィィイイ!!》
刃のように鋭い枝と太い幹を躱し、爆破で破壊。団扇で風を起こして細かい枝を吹き飛ばす。枝をつたって駆け抜けば迫る枝を体で回転しながら進む。鍛錬を怠ったせいかいつもより体が重い。体の使い方もぎこちなく、いらない力を入れてしまう。なのに何故か、前より視野が広くはっきり見える。枝の動きがゆっくり見えるのは思考がクリアになって集中してるせいか。
10分おきに鳴るアラームに違う武器を変え、体を酷使して前の感覚を取り戻す。けっして足を止めるな。視野を広く見渡せ。思考をぶん回せ。血が流れようが胃液を吐こうが骨が折れようが構わない。それぐらいしねぇと戦った気がしない。オビトとの組み手は容赦ないものだった。雄英の授業は生ぬるくて物足りない。そんなんだから敵に攫われた。俺が弱かったせいで。腑抜け切った心を正すべく今日は感覚を取り戻す。色んな武器を扱うこと。個性との組み合わせ。それぞれうまく扱えるように体で覚えさせる。
《ギィィイイ!!!》
威圧感と命の危険、ヒリヒリさせる懐かしい空気に口角が上がった。
激しい衝撃音がコンクリートの壁の向こうから絶え間なく聞こえる。激しいことでもしているのか何度もコンクリートに罅が入り、その度にセメントスの個性で修復される。
「爆豪やべぇな。壁の向こうで何やってんだろ」
「フラストレーション溜まってたんだろなぁ」
「怖すぎる」
「爆豪が味方でよかった。敵だったら容赦ないし」
「それは身に染みてる」
先生のアドバイスを受けながら自分の必殺技を編み出すが、壁の向こう側の衝撃音が気になって仕方ない。手を抜いたものはすぐに分身であるエクトプラズムが説教する。
「結構分厚くしているのに罅が入るとは。子どもながら恐れ入りますね」
「セメントス。もう時間なんでコンクリート降ろしてください」
「解いていいのか悩みますが」
「そこは俺が個性で消すんで」
「分かりました」
「シカシイイノカ?アイツヲ監視シナクテ」
「1番窮屈な思いしてんのはあいつなんで見逃してやって下さい。寮や外にも一人の時間作ってあげられないので」
「アァ。ソレナラバ仕方ナイナ」
教師陣でも問題児として有名な爆豪。天才肌で高すぎる戦闘能力。ヒーロー嫌いの人間不信で協調性皆無。敵連合に攫われたのもその性質のせいだとふんでいる。誰よりもNo. 1ヒーローに拘っているのに誰よりも敵に近い思考を持つ、二面性を抱えた生徒。そんな危険性を持っていても教師として導いてやらなければと教師一同共通の認識だった。
隔てたコンクリートの壁が沈んでいく。隙間から天井に着いていた木の枝がみるみると縮んでいくのが見えた。
「おい、あれって」
「爆豪を囲んでた木か?」
「爆豪くんって轟くんと同じ二つ持ちの個性だっけ?」
「相澤くん」
「……考えたくないですね」
教師陣が警戒する中コンクリートの壁が消える。罅が入った壁、穴が開くほど枝が突き刺さってる床。所々血痕が散らばっていた。
「もう終わりか。早ぇな」
怪我なんてなんともないように歩いてくるがポタ、ポタ、と血が床に落ちる。
「ぎゃあああ!?めっちゃ大怪我!!」
「爆豪少年STOP!まずは怪我!怪我の治療しよう!!安静にするべきだ!!」
「あ”?オールマイト?療養すんのはあんたの方だろ」
「そうだけどそうじゃない!!え、これ歩かしていいの?きゅ、救急車ー!!リカバリーガールいたっけ!?」
「落ち着いて下さいオールマイトさん。爆豪、自分が怪我してる自覚あるか?」
「見た目大げさなだけだ」
「じゃあ詳しく言ってみろ」
「額と頬に皮膚切れて血が出た。あとは擦り傷。受け身結構したせいか背中いてぇけど慣れてる。左手で色んな武器扱ってたから、途中から熱帯び始めたが問題ねぇ」
「うし、今から保健室だ。行くぞ」
「は?これぐらい自分でやる。保健室に行くまでもねぇわ」
そう言って荷物からガーゼやら包帯を取り出して治療する爆豪に相澤はため息吐いた。
コンコンコン
「入るぞ校長」
「やぁ爆豪くん。特訓は順調かい?」
「ぼちぼち」
「君に負担がかかってしまうのは申し訳ないと思っている。しかしこれも爆豪君のためなのさ。ヒーローの卵である君にはここで卒業させるためにも我々は」
「長話はいい。今日はこれだけ用があって来ただけだ」
放課後の時間帯に重厚な扉を開いて校長室に入った爆豪。長話が好きな校長に付き合うことなく外出届を差し出す。
「外出届だね。うん、相澤くんのサインも入ってる。でもこの日付、仮免の次の日だけどいいのかい?」
「その日がいい。その日じゃないとダメだ」
そう言って四つ折りされたプリントを校長に渡す。
「俺が苦戦した謎解きだ。あんた人間より頭いいんだろ?中々面白かったからあんたにも解いてほしくてな」
「僕に謎解きかい?面白いこと言うね。世の中の謎は紅茶を淹れるぐらい簡単なのさ!」
「へぇ、ビール暗号とか?」
「解いてみたいけど場所がアメリカだからね。僕には雄英があるから気軽に海外には行けないのさ」
「当てたら莫大な金銀財宝が手に入るもんな。あんたは好きな暗号はあんのか?俺は上杉暗号とシーザー暗号が好きだ。オードソックスで単純だが脳が働く」
「僕にはどれも同じレベルに見えてしまうからね。強いていうならRSAが好きかな」
「頭の構造どうかしてるぞ。まぁそれに比べたら簡単だが、その謎解きは10分が目安だ。誰にも手を借りずに解いてくれよ。つまんなかったら加熱ゴミにでも出しといてくれ」
じゃあな、と出ていった爆豪に根津は貰った紙を広げた。
「……………ふむ、ほんと爆豪くんは末恐ろしいね」
解き終わった紙をゴミ箱に入れる。すると10分後に爆豪から渡された紙だけが燃えて灰になった。
4日目。いつものように壁で区切られた少し広い場所で鍛錬する。違うのは人がいること。
「もっとコンクリ分厚くしろ!!」
「私にそんなこと言えるの君ぐらいですよ」
厚みが増したコンクリートを素手で破壊する。個性はもちろんのこと、身体能力の強化もしなければ個性頼りのダセェ奴になってしまう。オビトが女で拳一つ地面を割った奴がいると聞いたことがある。身体能力が強いと個性使わなくても畏怖してしまう。オビトがそうだったように。俺もそうでありたい。力を込めて一点集中。1発しかできない怪力技を何回も出せれるように。
ガンッ!!
「っ〜〜クソ、3回までか」
「個性を使わず素手で破壊するなら十分では?」
罅しか入らなくなった壁に舌打ちする。オールマイトが脳無をふっとばしたぐらいの怪力がほしい。
「次、爆破で試させろ。撃ち殺したる」
「はいはい」
床から次々とコンクリートが盛り上がる。両手で爆破させて空中へ踊り出す。目標は一発一発に高めの威力を溜めて連続爆破ができるようにすること。無意識にできるようになるまで意識しろ。
BOOM!BOOM!BOOM!BOOM!
「発動するまで遅ぇ!!早よしろ!!」
「これでも早いんです、よ!!」
爆破とコンクリートじゃただのサンドバッグぐらいしかならない。コンクリートが崩れたら終わりなんだから早よしろ。コンクリートが迫り上がるまでの発動が遅いし、もっと強度と造形高めろや。
「徹甲弾A・P・ショット」
爆発の範囲を狭めて一点に集中して起爆させる。分厚いコンクリート塊を簡単に貫通した。一点だけなら広範囲にせず狙いやすい。
「徹甲弾 機関銃A・P・ショット・オートカノン」
BBBOM!!と狙い撃ちは出来ないがランダムに打ちこまれる。広範囲でできるが避けられたら終わりだなこれ。
「こちとらあったまってきてんだ。自分の身は自分で守れよプロヒーロー!!」
BOM!BOM!BOM!
両手を左右逆方向に向けて爆発を連続発生させる。その反動で錐揉み回転しながらセメントスに向かって突撃し、勢いを乗せたまま相手に特大火力の爆発を叩き込む。
「榴弾砲着弾ハウザーインパクト」
BOOOOM!!
体育祭で使用した時より比じゃないほど特大火力で叩き込まれ、壁や床に衝撃波を受ける。隔てた壁が崩れるほどに。
「ッチ、まだまだだな。おいセメントス、壁が壊れた。修復」
「げふっ、君、私を便利屋だと思ってません?」
「やりすぎだぞバクゴー!」
「えっぐ」
「爆豪!?」
「はははは!さすが野蛮な男だね彼は!派手な登場をしなきゃ気が済まないみたいだ!」
「あ?」
聞き覚えのない声に振り向けばB組よ奴らがゾロゾロといた。
「なんでモブが増えてんだ」
「かっちゃん!え、えっと午後からB組が使うみたいで」
「かっちゃん言うなクソナード。もうそんな時間か?」
「いや、まだ10分弱はある」
「なんだ早とちりか。時間の管理もできねぇんかアホども」
「かっちゃん!」
「言葉に気をつけたまえ!!」
「お前のそういうとこ体育祭前から気に入らねぇなオォイ!」
「セメントス、壁」
「無視かテメェ!!」
モブどもの声を無視して特訓に戻る。
俺は何が何でも仮免を取らなきゃいけなねぇんだよ。黙ってろモブども。
16
ヒーロー仮免許取得日当日。学校からバスに揺られて試験会場である国立多古場競技場に到着した。入試の倍以上いるんじゃないかと疑うほどの人、人、人の数。やれるべきのことはやってきた。仮免受かれば少しは報われる。神野事件で関わったヒーローやオールマイト、雄英の先生、オビトに顔向けができる。できる……はずなんだ。そうじゃねぇと俺が雄英にいる意味がなくなる。迷惑かけた分、元凶である俺が信頼を得られねぇといけない。今日はそんな迷惑かけた奴らに向けて俺はヒーローの資格にたり得る人物だと分かってもらうための大事な日。ネガティブなことは考えんな。受かる自信だけ身につけろ。俺なら大丈夫。絶対に大丈夫だ。
思考中の俺にトントン、と肩を軽く叩かれる。思考のから意識を浮上して目線を後ろに向けるとクソ髪が困った顔をしていた。音楽つけたノイズキャンセラーを外す。
「なんだ?説明か?」
「ほらな。聞いてねぇだろ?」
「………」
「自分のペースねかっちゃん。もうちょっと周り見ようぜ?」
「爆豪らしいけどな」
「殺すぞモブども」
いつの間にか知らねえ制服を来たモブが増えていた。なんだこいつら。
「ゲフン、改めまして爆豪くん。君に会えて嬉しいよ。君は神野事件を中心で経験し、特別に強い心を持っている。今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
そう言って差し出された手を、爆豪は汚い目で見て素通りした。
「台詞と面が合ってねぇぞ三下。下手な小芝居はやめた方がいいぜ向いてねぇから」
「こらおめー失礼だろ!すみません無礼で…」
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」
気色悪い、気持ち悪い。あのクズを潰したい。手足折ってヒーローになりたいなんて思わないように心身ともにへし折りたい。この中でまともなヒーローになる奴は何人いる。クズな奴は何人いる。あぁ、さっさと潰してぇな。
「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」
「「「はい!!」」」
赤い目が一瞬薄暗く染まった。
大きなモニターがあるだだっ広い会場に、ヒーロー志望の他校達でギュウギュウに密集していた。
「えー…ではアレ、仮免のやつをやります。あー…僕ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠よろしく。仕事が忙しくてろくに寝れない…!人手が足りてない…!眠たい!そんな信条の下ご説明させていただきます」
辞めればいいのにそんな職場。初めて人に同情してしまう。
「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に勝ち抜けの演習を行なってもらいます」
「ザックリだな」
「まじか」
「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ヒーロー殺しことステインの登場以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」
ステインのヒーローとは見返りを求めてはならない、自己犠牲の果てに得る称号でなければならないという思想。自己犠牲は納得してないしやり方も好きじゃないが共感はする。
「まぁ…一個人としては…動機がどうであれ、命がけで人助けしている人間に何も求めるなは…現代社会に於いて無慈悲な話だと思う訳ですが…とにかく…対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助・敵退治に切磋琢磨してきた結果事件発生から解決に至るまでの時間は今ヒくくらい迅速になってます。君たちは仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる。そのスピードについていけない者、ハッキリ言って厳しい。よって試されるはスピード!条件達成者先着100名を通過とします」
てことは1440人落とせばいいってことだな。こんな早くに潰せるなんて思ってなかったわ。試験内容は専用のターゲットを3箇所体につけ、2人を専用のボールをターゲット3箇所当てたら勝ち。逆に3箇所当てられた物は失格になる。
「えー…じゃ、展開後ターゲットとボール配るんで全員に行き渡ってから1分後にスタートします」
室内だと思われていた会場は言葉の通り見事に展開される。屋上や壁が広がったと思えば山やビル街、工場地帯など大掛かりな試験会場になった。
「各々苦手な地形、好きな地形あると思います。自分を活かして頑張ってください。一応地形公開をアレするっていう配慮です…まァムダです。こんなもののせいで睡眠が…」
よく人が集まる場所がいいな。狙われやすい所に行くか。配布されたものをさっさと身につけて移動する。なんか声かけられたような気がしたが無視だ。どうせ大したことねぇ。
「上鳴、何でついてきたんだ?」
「君たちが走っていっちゃうからさぁ!寂しくてついてきちゃったの!!」
「うっせぇな」
「えぇ、何その言い方」
「やめろって爆豪。ここは3人で協力しようぜ」
「ッチ」
クソ髪とアホ面が何故かついてくる。ほんとなんでだ。1人なら潰せるのに、こいつらがいるもんだからやり辛い。殲滅はとりあえず頭の隅に置いとく。
「俺についてきたんだから。俺のやり方に文句言うなよ」
「おう!元からそのつもりだ!」
「え、キツいのやだ」
「じゃあどっか行けアホ面」
「嘘ですどこにも行きません!」
「一度しか言わねぇからよく聞け。まず…」
物事において情報がものをいう。情報があるのとないとじゃ動きが違う。他校の情報がない俺らにとっちゃ不利な状況。逆に向こうは体育祭で映像見とるから俺らの個性や弱点、スタイルが分かってる。雄英といった有名どころでヒーロー志望にとっちゃヘイトが集まりやすい。だから狙うのは雄英である俺ら。ならそこを逆手に取ればいい。
「潰して勝つ」
「おう!」
「俺はやれば出来る子!」
開始前のカウントダウンが始まる。
「いいか。俺がぶっ潰してる間めぇらが危ない時は自分で対処しろ。出来なかったら俺が助ける」
「んで、爆豪が危なかったら俺らが助ける!」
「そうならない様に信じるけど!」
「はっ、寝言は寝て死ね」
地形の中心地。だだっ広いこの地形がお互い見えやすくて個性を思う存分放てる位置。切島達に指示したのは簡単なこと。俺がモブどもを行動不能にさせてる間に好きなタイミングでボールを当てればいい。よっぽど下手な投球でもしなきゃ確実に狙えれる。殲滅できて協力もやれれば合格できない訳がない。
『 START!! 』
ウジムシのように湧いて出たモブどもに向かって手榴弾を5つ投げる。カチン、と地面についた途端眩い光が襲う。いつもなら爆破だが中身の成分は俺の汗。当然調整はできる。突然の閃光に目を覆うモブどもを行動不能にするべく、地面に向かって拳を振り下ろした。
「死ねモブども」
襲いかかる地鳴りと地割れ。悲鳴と絶叫の嵐にイライラした気持ちが一気に清々しい気持ちになった。
『通過者は控室へ移動して下さい』
「分かってたけどほんと容赦ないね。いや、合格できたのは爆豪のおかげだけどもその分ヘイト集まってそ」
「文句あんなら初っ端からついてこなきゃよかったろうが。俺よかクソナードがいいならそっち行け」
「文句ありませんけど!!時々寂しいこと言うなよこっちも寂しくなるだろ!!」
「何寒いこと言ってんだ死ね」
「まぁまぁ。合格したんだし結果オーライ!!」
一次試験が終了し、脱落した参加者が撤収する間に僅かながら設けられた休憩時間。A組はギリギリで全員合格していた。
「爆豪飯食うか?」
「いらね。てめぇが食え」
賑やかな休憩時間にアナウンスが流れ、モニターを見る。すると大掛かりな建物が次々と爆破されて廃墟へと変貌した。
『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』
「「パイスライダー…?」」
「バイスタンダー。現場に居合わせた人のことだよ。授業でやったでしょ」
「一般市民を指す意味でも使われたりしますが…」
『一次選考を通過した皆さんは仮免許を取得していると仮定し、どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』
モニターには崩壊した建物に一般人が多数映る。アナウンスが一般人である彼らは要救助者のプロと説明された。
『HUCの皆さんは傷病者に扮してフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救助を行なってもらいます。尚、今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格とします。10分後に始めますので、トイレなど済ましといてくださいねー…』
詳細を知らされない救護活動。ポイントの採点基準の内訳もされず眉を顰める。救護活動なんて苦手分類に入り、それ以上に気に食わないのは画面の向こう側の光景があの事件に似ていること。
「吐き気するな」
「え、体調悪いのか?爆豪でも体調悪くなんだな」
「悪くねぇし俺を何だと思ってやがるクソ髪」
「魔王」
「ほんと殺してやろうか」
「あ、士傑こっち来てんぞ」
「爆豪くんよ」
「あ?」
士傑の制帽を被った毛むくじゃらの野郎が近づいてきた。中身どうなってんだろ。
「肉倉…糸目の男が君のとこに来なかった?」
「…………いたか?」
「いただろ!あの何言ってんのか分かんねー奴いたじゃん!」
「あぁ…いたなそんな奴」
「やはり…!色々無礼を働いたと思う。気を悪くしたろう。あれは自分の価値基準を押し付ける節があってね。何かと有名な君を見て暴走してしたしまった。雄英とはいい関係を築き上げていきたい。すまなかったね。それでは」
いい関係?いい関係築けるかよ。クズが多いヒーロー以下オマエらに信用も信頼もねぇわクソが。
休憩時間終了時と同時に鳴り響く非常ベル。アナウンスが状況を説明される。
『敵による大規模破壊が発生!規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!』
待機室がまた展開される。
『到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を執り行う。一人でも多くの命を救い出すこと!!!それでは、START!』
二次試験が開始され100名が一斉に走りだした。チームで動くぞ!と飯田が言った途端すぐに爆豪が輪を抜け出す。その後ろを切島と上鳴がついていく。
「なんでついてくんだクソモブども!」
「「なんとなく!!」」
あいつらがついてくんのはまだマシだ。とりあえずおいとけ。考えろ。情報を整理しろ。負傷者多数ってことは人数を把握してない。道路の破損で救急車などは通れない。救助活動はここにいる100人が指揮を取る。災害で必要なのは情報班、消火班、避難誘導班、救出救護班がいるのが基本。だが信頼の字もない他校が咄嗟に協力できんのか?時間はかかるができなくはない。だがどうやって情報伝達する?特化した個性がないモブどもに。何がいる、何がある、何がほしい。俺にできることはなんだ。周りに人がいないことを確認して後ろにいる2人に声をかける。
「おい、俺がすること他の奴らには黙っとけ」
「なんで?」
「知られると後々やり辛いんだよ」
「なんかよく分かんねーけど分かった!バクゴーは意味ねぇことしねぇもんな!」
「ダチがそう言うことはいくら俺でも黙ってるぜ」
「一生閉じてろ」
指を輪っかにして口元に当てる。指笛すれば絶対に来る白い烏。
「お!ぐるぐる久しぶりだな!」
《カァア》
「きっしょ!かっちゃんてば兎だけじゃなく烏も変わった動物にしか好かれないの?」
《クゥア?》
「忙しいとこ悪いが仕事だ。俺らみたいなハイカラな衣装じゃなくて怪我人の一般人探してくれ。人数は不明。多くのモブどもを見つけて合図だけ知らせてほしい。あと敵がいたら警戒だ。できるな?」
《カァア!!》
「一体何するんだ爆豪?」
「見てれば分かる」
飛び去ったぐるぐるが一鳴きすると、バサバサと羽音が大きくなっていく。黒い烏の大群が空を覆い会場を旋回する。またぐるぐるが鳴くと大群が散らばる。
《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》
空を飛び、廃墟の隙間を掻い潜り、瓦礫に降り立って何かを知らせるように鳴き声を上げる。グループに別れた烏達に切島と上鳴は目が白黒になる。
「行くぞ」
「えぇ!?おい待てって!説明!説明しろって」
「そうだぜ爆豪!俺も知りてぇ!」
「いいか。あの烏どもはモブを見つける為に探し出す指示を受けてる。鳥なら隙間も入れるからな。で、鳴き声上げてんのは救助者を見つけた合図だ」
烏に驚くだろうがしきりに鳴き続ければ変だって他のモブどもが近づく。んで救助者がいるって初めて分かる。それが繰り返されると救助あたるモブどもは烏が鳴く所に救助者がいるって認識する。鈍くなけりゃその反復動作だ。探す無駄な時間が省けれる。それと警戒するべきことは他にある。
「すげぇじゃん!なら俺らはその合図してる場所に行って救助者を助けるってことだな」
「それはてめぇらがやれ。いいか、何でここがこんな廃墟にしたと思ってる」
「それは救護活動するためって」
「テロか」
「あぁ。放送聞いたろ。敵による大規模破壊だって。その敵が捕まったとかヒーローと交戦中って聞いたかよ」
「あ、言われてみれば確かに」
「じゃあ」
「その敵が来る可能性があるってことだ。いいか、100名全員が救出ならアホがすること。指揮が俺達だけのこの場所に2割が救護班があればまだマシ。なら残りの8割は救出だけだとなると、その敵が来た時どうなる」
「咄嗟には動けない。統括する指揮がいねぇから」
「勉強の成果だな切島。正解だ」
「じゃあ敵を警戒するためにパトロールするって?」
「そんなん烏が知らせてくれる。俺が変化ないか警戒しとく代わりに上鳴と切島は救助活動してろ」
「分かった」
「どうか敵来ませんように」
空に飛ぶ白い烏に目を向ける。変化は今の所なし。他の烏は着々にモブどもを発見して知らせてる。100人中何人が救出してるか分かんねぇが誰が気づくか。
「腕を怪我したの!」
「助けてくれ!痛い!」
「あ?」
モブが2人。2人とも腕を抑えてる。出血なし。意識はっきりしてる。声も発せられる。なにより歩けてる。軽症のトリアージ緑。
「うるせぇ!!自分で助かれや!!」
「「「はああァ!!?」」」
「自己流貫きすぎだろ!」
「すげぇ大怪我してるかもしんねえだろ!!」
「いや…我々の設定は救助優先度の低い軽症者…」
「まさか…!それを瞬時に見抜き、我々に自分で動けと…!」
「うっそぉ、都合の良い解釈してくれてるぞ…」
「安全な場所まで案内しようぜ」
「おう!」
「でもあの言い方はないな。減点」
「さっさと歩けやモブども!」
救助活動を行なっていると突然一部の壁から爆発した。
「何々!?爆発したんだけど!!」
「まさか敵!!?」
『敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を行って下さい』
アナウンスで敵が来たと知らされる。予想もしない出来事だが、爆豪だけは予防線を張っていた。
《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》《カァア》
烏の大群が爆発した場所へ向かう。ここから敵が出撃した場所は距離が離れてる。近場のモブどもが対処するだろうが、敵が散らばる前に烏で足止めぐらいならできんだろ。
「うぇぇぇぇえん!ごわいよ”ぉぉぉ!!」
「うっせぇなクソジジイ!!静かにしてろ!!」
「ちょっバクゴー!子どもにそんなキツイこと言うなって!!」
「中身ジジイなんだからどうでもいいだろうが!歳食ってる老害が戻りもしねぇガキになって見てるこっちが恥ずかしいわ!」
「言い方!!」
「お前減点!!」
「ほら!」
「ッチ!」
「てか本当に敵来ちゃったんだけど、どうすんの爆豪」
「うるせぇぞアホ面。ここからじゃ距離がある。こちとらお荷物抱えてんだ意味ねぇよ」
「救助者ね」
「うぇぇぇぇえん!」
「あー大丈夫だよー。俺らが守ってやるから大丈夫だよー」
「びえぇぇぇん!!」
泣き喚くいい歳したモブをアホ面が宥めてる。演技なのは分かるがやっぱキショい。
二次試験開始からどれぐらい時間経ったか分かんねぇ。だが合図する烏の数が少ないってことはそれぐらいモブどもが発見されていることになる。終了時間は伝えられてねぇ。どのタイミングで終わりなのか検討もつかない。敵を倒すか、クソ市民を全て探しだすか。思考を巡らせてる俺に何かが足に触れた。
「あ?」
「おどぉざん”どごぉ!助げでよヒーロー!」
「爆豪に触れるとか命知らずか!?」
「死ぬぞお前!」
「俺に触んじゃっ……!」
ドン、と重いナニかがのしかかる。手が震え始め、息が浅くなり始める。なんだ、これ。なんでこんな焦燥に駆られんだ。
「爆豪?おい、どうしたんだよ」
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
考えんな、何も聞くな。
「爆豪どうしちゃったんだよ!」
「おめーなにしたんだよ」
「ふん、こういう災害や事件があった場合無意識に個性を使う市民は少なからずいる。俺の個性は感情操作。自分や他人に30分だけ感情を操作する。彼には不安の感情を操作した。個性に呑まれてもヒーローなら乗り越えろ」
「はあ!?そんなメチャクチャな!!」
「うぇぇぇぇえん!ごわいよ”ぉぉぉ!!」
「「切り替え早っ!!」」
神野事件・オールマイトの正体・敵連合・雄英非難・重軽傷・行方不明・個性・誹謗中傷・元凶・夢・黒い影・雨・赤
「とりあえず坊主を届けるのが先だな」
「そうだな。俺じゃもしもの時に攻撃できないし、切島は子どもの方頼むわ」
「おう!」
【お前が終わらせた】
雑音を聞くな
「爆豪いくぞー?全然反応してくんないんだけど」
「腕掴めばいいんじゃね?」
「それ俺が爆破されるやつじゃん」
【お前があの事件を招いた】
戯言を聞くな
「いけるいける!上鳴ならいけるって!」
「でた根拠もないポジティブ精神。まぁここにいても意味ないし」
【お前がオールマイトを終わらせた】
有象無象の言葉を聞くな
「爆豪いくぞー。お願いだから爆破しないで」
【お前が悪夢を招いた】
根も歯もない言葉を聞くな
「あれ、案外素直に歩いてくれる」
「ほらな!言った通りだろ!」
「やべ、警戒心強い野良猫が擦り寄ってきたみたい」
【お前が死なせた】
聞くな
【お前が敵に誘拐されなければ】
聞くな
【お前が】【お前を】【お前は】【お前で】【お前に】【お前と】【お前では】【お前だから】【お前には】【お前では】【お前さえ】【お前なんか】
【お前がいなければ平和の象徴もヒーローもあの人もいなくなることはなかった】
きくな
悲シイ?
ドウシテ悲シイノ?
ダメ ダメ
泣カセチャダメ
コノ子ヲ泣カセチャダメ
『勝己を頼むぞ』
大切ナ人柱力ノ大事ナ子
『トビ』
泣カナイデ
オビトノ代ワリニボクガ守ッテアゲル
《ギィィィィイイイイ!!》
神野事件を思い出すような咆哮が会場内に響く。地面からバキバキと生えた太い幹が爆豪を覆う。
「爆豪!!」
「バクゴー!!」
「!?は、また…なんで、ま、っまて、…ト、びっ…!」
視線が高くなり、足が地面から離れた。もがいても爆破させても止まらない。視界が狭まる。待って、待ってくれ。何で急に、俺の声聞けって。なぁ、なんでやめてくれねぇんだ。
《ギィィイイイ!!!》
手の平を抑えられ手足も動かせなくなる。木がバキバキと爆豪を繭のように包んだと思えば、鋭い枝先が切島達に襲いかかった。
やめろ、やめてくれ、やめてくれよ。あいつらは関係ねぇだろ。頼むからやめろって!
「と、っ……と、ビ!」
名前を呼べばいつも聞いてくれんのに。なんで聞いてくれねぇんだよ。お前がなんでここにいるのか、何でついてきたか、何考えてんのか分かんねぇよ。バキバキと木の軋む音が耳元で聞こえる。もう視界は閉じられて何も見えない。攻撃する音と何かが崩れる音が聞こえた。何やってんだよ俺は。大事な時にいらないことをして。何もできない無力の自分があまりにも惨めだ。
「と…び………!」
まだモブどもの救助が終わってねぇんだ。敵が襲撃してんのに俺が二次被害を起こしてどうする。切島と上鳴に怪我させて、モブを殺して、このまま被害が拡大したら。どうする。俺に、できることは。どうしたら。
「バクゴー!!」
暗闇の空間に聞き慣れた声が届く。
「救助者は俺が避難させる!周りのことは考えんな!!俺達に任せろ!!」
「俺がキャパでアホになんの知ってるっしょ!!俺が木を押さえてる間に早めにそいつ止めてくれよ!!爆豪の声しか反応しないんだからさ!!」
「っ……!」
あいつらもヒーローだ。信じる…信じて……いや、信じろ。あいつらは馬鹿でも俺を信じてくれただろうが。
「と、び…!」
止まれ、止まれ、止まれ、止まってくれ。
「とび!」
後ろめたいこと考えるな。焦るな。今はトビの暴走を止めろ。外のことは切島達がやってくれる。
「トビ!」
トビとぐるぐるはオビトがつけた名前。でも本当は別の名前があるんだと夢の中で教えてくれた。その名前で呼ばれると嫌いだと、だから絶対に呼んでくれるなと教えてくれたその名は。
「ダタラ!!」
轟かす咆哮がピタリとやんだ。
『えー只今をもちまして、配置された全てのHUCが危険区域より救助されました』
「お、終わった」
「俺らじゃん」
『まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全工程終了となります!!集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ…他の方々は着替えてしばし待機をお願いします』
「………悪かったな」
「なんだよ爆豪らしくねぇ気にすんな!!」
「結果オーライ!皆無事だからいいじゃん!!そいつもめっちゃ反省してるし許してやんなよ」
《ギィ、ギィ…ギィィ……》
「……もう俺の邪魔すんなよトビ」
《ギィイ!》
「切島、上鳴……助かった」
「「お互い様だろ!」」
『えー皆さん長いことおつかれ様でした。これより発表を行いますが…その前に一言。採点方式についてです。我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。つまり…危機的状況でどれだけ間違いのない行動をとれたかを審査しています。とりあえず合格者の方は五十音順で名前が乗っています。今の言葉を踏まえた上でご確認ください…』
モニターに映される合格者一覧。
「っしェーい!!」
「あった…けど」
「……………」
その中に俺の名前はなかった。だろうなと8割の納得感と2割のもしかしてという期待。落ちた。落ちてしまった。仮免に受からなかった。A組の中で落ちたのは俺と半分野郎だけ。
『えー全員ご確認いただけたでしょうか?続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますので、しっかり目を通してください。ボーダーラインは50点。減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたかなど下記にズラッと並んでます』
配られたプリントには50点を下回っていた。言動が荒いことやトビの危険性、感情の抑制。自分でも理解してることをご丁寧に書かれていた。来年の仮免まで肩身狭い生活が続くことになる嫌な未来を想像する。しかし不合格者に三ヶ月の特別講習と個別テストで結果を出せば仮免許を発行すると告げられた。
『そういうわけで全員を最後まで見ました。結果、けっして見込みがないわけではなくむしろ至らぬ点を修正すれば合格者以上の実力者になる者ばかりです。学業との並行でかなり忙しくなるとは思います。次回4月の試験で再挑戦しても構いませんが…』
「当然」
「お願いします!!」
「やったなバクゴー!」
「よかったじゃん!これで受かって一緒にヒーロー活動しようぜ!」
「うるせぇ」
仮免試験は不合格の結果で幕を閉じた。
共有スペースで賑わう奴らを素通りして、モサイ髪に声をかける。
「おい」
声をかけただけでビビるそいつに内心舌打ちした。
「後で表出ろ。てめェの個性の話だ」
憎たらしくて忌々しくて反吐が出るほど嫌いな存在。今まで石ころのような存在だと思っていた奴が俺の知らないとこで俺の先を行く。あぁ、ほんとに嫌だ。こんな惨めな思いをするのは。ずっとこの気持ちを抱えるのも。だから一度リセットしよう。いつまでも縋るようなあの目で、恐怖の中に期待を込めたあの声を俺の中から消すために。
14
初めは同じだった。同じヒーローに憧れた。同じ夢を見ていた。個性が出るまで俺とあいつは同じだった。
「オールマイトからもらったんだろ。その個性」
同じオールマイトに憧れたのにお互い理由は違った。俺は必ず勝つ姿に、あいつは笑って救ける姿に憧れを抱いた。
「オールマイトと会って、てめェが変わって、オールマイトは力を失った…」
俺の憧れは消えた。あの日、俺が勝ったことで消えた。
あいつの憧れは憧れの人から目をかけられた。あの日、平和の象徴が終わっても消えなかった。
「てめェも俺も…オールマイトに憧れた。なァ、そうなんだよ。ずっと石コロだと思ってた奴がさァ、知らん間に憧れた人間に認められて…だからよ。戦えや。ここで、今」
血反吐吐いてまで強さを手に入れる努力した俺と、強さを身につけて努力し始めたお前。
「てめェの何がオールマイトにそこまでさせたのか確かめさせろ」
平和の象徴がなんでお前を選んだか分かんねぇよ。
寝静まる夜更けにグラウンド・βで打撃音が響く。爆豪は個性を使わず体術メインで繰り広げていた。
「待ってって!本当に戦わなきゃいけないの!?」
「…………」
爆豪の猛攻は止まらない。襲いかかる拳と蹴りにタタラを踏みながら防御して躱す。
「待ってってば…!」
『待ってよかっちゃん!』
今と昔の声が二重に重なって聞こえた。
遠い、思い出したくもない遠い過去。いつも後ろにいやがった。なよなよしくて泣き虫な砂利が、いつも背中に張りついていた。なんも個性がなかったくせに、なんも力がなかったくせに、なんもできなかったくせに。
「逃げんな!!!戦え!!!」
個性をもらったくせに、力を得たくせに、支えられているくせに。弱腰で弱音ばかり吐いて見ていて苛々すんだよ。
振り下ろす左腕を掴まれたが左足で顎を蹴り上げる。ふらついたその体に掴みかかろうとするとバク転で躱され、手を蹴り上げられた。手が急に上向きになったせいでたたらを踏んで後ろに転ぶ。
「だ…大丈…」
『大丈夫?』
嫌な映像がぶれる。差し出された手を振り払ってすぐに立ち上がる。
「俺を心配すんじゃねぇ!!戦えよ!!何なんだよ!何で!!」
感情なんて出すもんじゃない。考えなしなんて1番危険な行為だって分かってる。けど今の俺じゃあ、ずっと溜まり続けた憂いを止める術がない。どれだけあの人の物に縋っても、嫌なことが続いて憂いが膨れ上がるばかり。
「何で!!ずっと下だと思ってた奴が俺の先に行ってんだ!!クソザコのてめェが力をつけて…!オールマイトに認められて…強くなってんのに!」
俺だって力をつけていたのに。あの人に鍛錬つけてくれたのに。弟子だと認めてくれたのに。
「何で俺はっ」
消えたあの人を思い出す。腹を空けたあいつを思い出す。ガリガリになって勝利したあの姿を思い出す。下げなくていい頭を下げた人を思い出す。そうしたのは、そうなったのは、そうさせたのは。
「俺は………オールマイトを終わらせちまってんだ」
全部、俺のせいだ。
「俺が強くて敵に攫われなんかしなけりゃ、あんな事にはなってなかった!オールマイトが秘密にしようとしてた…誰にも言えなかった!考えねえようにしてても…フとした瞬間湧いてきやがる!どうすりゃいいか、わかんねんだよ!!」
あの木漏れ日の場所で、心休まる場所さえ行けたなら。こんな思いをしなくて済んだかもしれねぇのに。
身を屈めて走り出す。街灯しかないグラウンドにクソナードの体が発光する。風を切るような足が目の前に迫って避ける。ワンテンポ避けるのが遅かったのか頬に痛みを感じた。
「……丁度いい…シュートスタイルが君に通用するかどうか……………やるなら…全力だ!」
爆豪と緑谷は幼馴染と呼ばれる関係なのに、今まで一度もぶつかって話し合ったことがない。
「サンドバッグになるつもりはないぞ。かっちゃん!」
「…………」
見ないように、視線を合わせないようにしてきた赤い、赤い瞳が緑谷に標準を合わせた。
強化系個性で接近戦タイプの人間に同じフィールドに立つ必要はない。それでも爆豪は接近戦に挑んだ。
考える隙を与えず、攻撃にうつす時間を与えない。長い付き合いだからこそ相手の癖や思考は読める。動きを予測して行動を決める癖は変わらない。俺が個性を使わないことに困惑してるだろ。そりゃそうだ。俺が雄英で今までやってきた戦闘スタイルは派手な爆破の立ち回り。だが俺の得意分野は相手を罠に嵌めることと、忍具ありの仕留める戦闘スタイル。俺の情報は授業と体育祭、期末テストだけ。だが相手は生粋のヒーローオタクの個性大好きな情報収集化。俺の動きを理解される前に距離を詰め続けろ。
「ふっ!」
「…………」
発光している体に一発入り吹っ飛ばされる。ガードレールにぶつかる緑谷を追撃。迫りくる手に緑谷はすぐさまガードレールを掴んで後転。空振りはしたものの赤い瞳が緑谷の姿を捉え続ける。まだガードレールを掴んでいた手を引っ掴んで吹っ飛ばすが、追撃した勢いのまま爆豪の体はガードレールにぶつかり、緑谷は地面へと跳ねた。
「って!」
「がはっ!……当たり前だけど…強くなってる…………」
「何笑ってんだあ!?サンドバッグにゃならねんじゃねえのかよ!」
「ぐっ…!ならない!」
「どうせまた何か企んでんな!」
ここで初めて個性を使用する。手のひらから閃光弾の光を発生させた。攻撃の手を緩めず、抑えきれない本音が溢れ出す。
「そういうのが気色悪かったんだ!何考えてるかわからねえ!ずっと逃げ腰のくせに正義感を掲げて、薄っぺらい言葉を並べて、夢ばかり見て何もしなかったくせに!何もねえ野郎だったくせに!俯瞰したような目で!!見てきやがって!」
鬱憤を晴らすように両手を地面に向かって爆破させる。距離を取ってる二人の間に煙が立ち込めた。
「まるで全部見下ろしてるような、本気で俺を追い抜いて行くつもりのその態度が。夢ばかり見る態度が目障りなんだよ!!!俺の憧れは俺が居てほしい先に消えた!オールマイトもあいつもあの人も消えちまった!なんでお前の憧れは消えないんだ!この差は何なんだよ!!!」
爆豪の切羽詰まったような表情で本音を告げる姿に、緑谷は唖然としていた。
「……………そんな風に思ってたのか…そりゃ普通は…馬鹿にされ続けたら関わりたくなくなると思うよ……でも、前にも言ってたように何もなかったからこそ…嫌なところと同じくらい、君の凄さが鮮烈だっんだよ」
「…………」
「僕と君との差があるのは当然なんだ。僕にはないものを沢山持ってた君はオールマイトより身近な凄い人だったんだ!!」
『オビト!』
幼い過去の自分が見上げた紫装束の背中を鮮明に脳裏に描く。俺がないものを沢山持ってた。強くてカッコいい身近な凄い人。
「だからずっと…」
緑谷が広げた足に光の光線が走る。踏み込んだ途端さっきまでより数段早いスピードで蹴りが迫る。
避ける?躱す?爆破で防ぐ?いや、間に合わね…ガード…
「君を追いかけていたんだ!」
後退りするほどの重い蹴りにガードしていた腕が痺れだす。
「それに僕はクソナードって名前じゃないぞ。僕は頑張れって意味のデクだ!」
ざわり、と嫌な気持ちが湧き上がった。
緑谷の蹴りをきっかけにどんどんヒートアップする喧嘩。攻撃の激しさが増すほどお互いの姿しか見えていない。応戦の中に罅をいれたのは蹴り技だった緑谷が拳を握ったこと。
「使えないとは言ってない!」
空中で拳を受け流そうとしたがモロに顔面に入る。脳に直接ダメージが入ったかのように揺さぶられ、視界が一瞬ぶれた。
『次は君だ』
『お前は俺の…自慢の弟子だ』
オールマイトに託されたのは何もないお前だった。クソガキだった俺を弟子としてオビトが認めてくれた。オールマイトを超えるって宣言したのに、敗けるなんてあっちゃいけねえんだよ。
「敗けるかああああ”あ”あ”あ”あ”!!!」
頬に打ち込まれた腕を掴み、爆破の推進力で空中から地面に叩きつける。仰向けに倒れている手と足を封じ顔を抑え、これで終わりだと静かに告げた。
「俺の勝ちだ」
お互いボロボロで血が滲み、荒い息が上がる。勝っときながら悔しそうに表情を歪めた。
「オールマイトの力…そんな力ァ持っても自分のモンにしても………俺に敗けてんじゃねえか。なァ、何で敗けとんだ」
「ゲホッ…ハァ…!」
「そこまでにしよう二人共。悪いが…聞かせてもらったよ」
「オール…」
「マイト…」
二人の喧嘩に制したのは喧嘩の発展になったオールマイト。神妙な顔つきで近づいてくるオールマイトに爆豪は緑谷から退く。
「気付いてやれなくてごめん」
「……………今….更…」
平和の象徴がどれだけ影響及ぼすかこの人は知らない。始まりと終わりを体現したこの人に、気づいてからじゃ遅いってことを自覚していない。
「………何でクソナードなんだ。ヘドロん時からなんだろ…?何でこいつだった」
「非力で…誰よりヒーローだった。君は強い男だと思った。すでに土俵に立つ君じゃなく、彼を土俵に立たせるべきだと判断した」
その言葉に怒りが湧く。強い?強い男だと?あぁそうだよ俺は強いさ。そこらのモブどもより強いだろうよ。でも俺の目指すべき強さはまだまだなんだよ。
「俺だって弱ェよ…あんたを超えるために強くなろうって、あの人みたいに強え奴になろうって思ってきたのに!弱ェから…!!あんたをそんな姿に!!」
「これは君のせいじゃない。どのみち限界は近かった…こうなる事は決まっていたよ。君は強い。ただね、その強さに私がかまけていた…抱え込ませてしまった。すまない、君も少年なのに」
細い手が頭に乗って薄い胸に寄せられる。細い、ガリガリの体。逞しい肉体はもうない。限界なヒーロー活動に終止符を打ったのは俺なんだ。ぎり、と歯を食いしばって乗せられた手を振り払う。
「長いことヒーローをやってきて思うんだよ。爆豪少年のように勝利に拘るのも、緑谷少年のように困ってる人間を救けたいと思うのも、どっちが欠けていてもヒーローとして自分の正義を貫くことは出来ないと。緑谷少年が爆豪少年の力に憧れたように、爆豪少年が緑谷少年の心を畏れたように…気持ちをさらけ出した今ならもう…わかってるんじゃないかな」
オールマイトが言い聞かせるように静かに諭す。平和の象徴として、No. 1ヒーローとして先導していたプロからの言葉。
「互いに認め合い真っ当に高め合うことができれば救けて勝つ、勝って救ける、最高のヒーローになれるんだ」
「…………………そんなん…聞きてえワケじゃねンだよ」
急に馬鹿馬鹿しくなってその場に腰を下ろす。ひどい顔をしてるだろうから見られたくなくて腕で隠す。この人もクソナードも馬鹿だ。何が認め合うだ。何が最高のヒーローだ。言葉には気をつけろよカスが。
「おまえ、一番強え人にレール敷いてもらって…敗けてんなよ」
「………………強くなるよ。君に勝てるよう」
「ハァ…こいつとあんたの関係知ってんのは?」
「リカバリーガールと校長…生徒では君だけだ」
「バレたくねェんだろオールマイト。あんたが隠そうとしてたからどいつにも言わねえよ。クソナードみてえに簡単にバラしたりはしねえ。ここだけの秘密だ」
夜更けに吹いた風は熱こもった体を冷ますのにちょうど良かった。
「秘密は……本来私が頭を下げてお願いすること。どこまでも気を遣わせてしまって…すまない」
「遣ってねぇよ。言いふらすリスクとデメリットがデケェだけだ」
「こうなった以上は爆豪少年にも納得いく説明が要る。それが筋だ」
オールマイトは真実を話した。巨悪に立ち向かう為代々受け継がれてきた力だということ。その力でNo. 1ヒーロー平和の象徴になったこと。傷を負い、限界を迎えていたこと。そして後継を選んだこと。
「暴れりゃ力の所在やらで混乱するって…ことか。っとに………俺じゃなけりゃ気づかねえぞ。てめぇら口が軽すぎる。USJの時、オールマイトに時間がって言ったこと。個性把握テストでオールマイトが隠れて見ていたことやクソナードを呼び止める回数が多いこと。てめぇらほんとに隠す気あんのか」
「う、ご、ごめん」
「うっ、き、気をつけるよ」
「ッチ」
「私が力尽きたのは私の選択だ。さっきも言ったが君の責任じゃないよ」
「…………結局……俺のやる事は変わんねえや………」
オールマイトを超えるヒーローになる。その目標は変わらない。俺は俺なりの強さでNo. 1になればいい。くよくよすんな。切り替えろ。
「ただ今までとは違え。おい、お前が俺や周りを見て吸収して強くなったように、俺も全部俺のモンにして上へ行く。選ばれたお前よりもな」
「じゃっ…じゃあ僕はその上を行く。行かなきゃいけないんだ…!」
「………だからそのてめェを超えていくっつってんだろが」
「いや、だからその上を行かないといけないって話で…それと僕の名前ちゃんと呼んでよ。高校に入ってからクソナードしか呼ばなくなったし、苗字呼びは2回だけなんて寂しいじゃん、蔑称でも構わないから前みたいにデクって」
「あ”あ”!!?キメェ!!」
初の大喧嘩はこれで終わった。クソナードは相変わらずキメェしオールマイトは姿が変わっても変わらない。ぶつかった事で溜まりに溜まった憂いが少しだけ晴れた気がした。
「ヒーロー仮免許の試験終えたその晩にケンカとは元気があって大変よろしい」
怪我の治療後キツく縛られる捕縛布。青筋浮かべる担任に大人しくする。だがキツく縛ってるが引っ張り返してやろうか。今の俺ならいけるぞ。
「相澤くん待って、捕縛待って。原因は私にあるんだよ」
「はい?原因?なんです」
コソコソと耳打ちするオールマイト。話終わった途端担任の顔が難しくなる。
「……………んん、だからルールを犯しても仕方ない…で済ますことは出来ません。然るべき処罰は下します。先に手ェ出したのは?」
「俺」
「僕もけっこう…ガンガンと…」
「爆豪のは四日間!緑谷は三日間の寮内謹慎!その間の寮内共有スペース清掃!朝と晩!!+反省文の提出!!怪我については痛みが増したり引かないようなら保健室へ行け!ただし余程の事でなければ婆さんの個性は頼るな。勝手な傷は勝手に治せ!」
納得いく処分に苦い顔になる。ただえさえ苦労してんのに更に疲れさせた。処分の方法に文句は言わないが気がかりなことは一つだけある。
ため息吐いて解散と告げる担任に待ったをかけた。
「なァ、明日のこともダメなんか」
「あ?確か明日外出日だったな。当然却下だ」
「…………そうか」
やっぱダメか。やっと行けると思ってたんだが言葉にされるとショックが大きい。
「何か用事でもあったのかい?」
「墓参り」
「え」
「師匠の墓参り。ずっと行けなくて、仮免に受かったら行けると思ってたけど落ちたし。喧嘩も起こしたから謹慎なら仕方ねぇわ。解けたらまた外出届だす」
「え、ちょ、ちょっと相澤くん!」
慌ててオールマイトがまた担任に耳打ちし出す。そっちには気を取られないのに隣でガン見するクソナードが嫌で嫌で仕方ない。
「かっちゃんお師匠いたの」
「話しかけんな早よ寮に戻れ」
「どんな人?かっちゃんの強さを考えればヒーローだよね。道場とかかっちゃんの天才肌じゃすぐに呑み込むだろうし動き的にエッジショット、いや、職場体験で行ったベストジーニストかな。いや、墓参りって言ってたし僕が知らない凄い人なんじゃ」
「うるせぇ!喋んなクソが!」
スパーン!とモサイ頭を叩く。こういうキメェこと理解できねぇ。喋り続けるクソナードを無視して寮に戻ろうとすると担任に声をかけられた。
「あー、明日俺が付き添う。大事な墓参りだしな。少ししか時間与えられねぇがいいか?」
「…………あぁ。大丈夫だ」
急にどうしたと首を傾げるがオビトの所に行けるなら理由なんてどうでもいい。嫌いな奴と並んで寮へと戻った。
18
「「「ええええ!!??」」」
「ケンカして」
「謹慎〜〜〜〜〜〜!?」
寮内謹慎受けて翌日、罰として共有スペースを掃除していると制服に着替えたモブどもが驚きの声をあげる。掃除機のかける音と騒ぐ声で朝からうるさい。
「馬鹿じゃん!!」
「ナンセンス!」
「馬鹿かよ」
「骨頂」
さっさと学校行けやモブども。
「それで仲直りしたの?」
「仲直り…って言うものでも……うーん…言語化が難しい…」
「よく謹慎で済んだものだ…!!ではこれからの始業式は君ら欠席だな!」
「爆豪、仮免の補習どうすんだ」
「うるせぇ…てめーには関係ねぇだろ!」
「じゃー掃除よろしくなー」
笑いを含みながら寮から出ていくあいつらに怒りしか湧いてこない。いきなり小テストでも出て一桁の点数になればいいのに。
共有スペースに掃除機のかける音だけが響く。昨日の今日で態度が変わるわけでも、何かが変わるわけでもない。モヤモヤが消えたぐらいでクソナードのことは嫌いだ。大っ嫌いだ。黙々と掃除しているとクソナードに声をかけられる。
「シュートスタイルさ…どうだった…かな…」
「…………」
シュートスタイル……蹴り技のやつか。昨日の戦闘スタイルを思い出す。体が作られても慣れていないことが丸わかり。技術が稚拙で個性頼りなんだなって分かる戦闘。あぁでも蹴りばっかだからと認識させられてあのパンチはムカついたわ。
「……予備動作がでけぇ」
「……!」
「速度アップもギリ反応出来た。乱打戦にゃ向いてねぇ」
「……………そっか」
「パンチと合わせんのは腹立った」
「……………そっか…」
そのあと特に話すことなく黙々と掃除してお互い部屋に戻った。
夕方の時間帯に担任に呼び出されて寮を出る。まだ夏の季節だからか外は明るい。
「道案内は任せた。行くぞ」
「っす」
裏門で車を回していたらしい先生に挨拶してから助手席に乗り込む。まだ冷房つけたばかりなのか車内はまだ蒸し暑い。
「目的地は?」
「○○山」
カーナビをポチポチしていた先生の指が止まった。信じられないとでもいうように爆豪に目線を向ける。
「……俺の記憶が確かなら立ち入り禁止だったはずだが」
「その区域にはいかねぇよ。墓があんのはその近くってだけだ」
「その言葉信じるぞ」
深いことを聞かずに目的地を設定して車が走り出す。お互い話す方でもないから特に話すこともなく窓の外を眺めた。ヒーローに送迎してもらうのはきっと、人生で今が1番だなとくだらないことを考える。最初にヒーローの車に乗ったのはジーパン野郎の車だった。インターンの最終日に一人で帰れると言っているのにわざわざ駅まで車で送ってくれたお節介野郎。流石No.4だからか、中身がアレのせいなのか高そうな車で車内も快適だった。次に木の個性のヒーロー、そして先生の車。次の補習は空いてる先生が送迎するらしい。自慢じゃねぇが多分プロヒーローを足に使ってるのは俺が1番多い。誰もが羨むことだろうが、俺の場合は羨ましい立場じゃない。あと2度と経験したくないのはパトカー。あんなの乗るもんじゃない。連行された気分になる。
「墓参りなら花屋を寄るがどうする。近場の方で買うか?」
「……あぁ、いや…手ぶらで平気だ」
気まずげに話す先生の言葉に今更ながら常識を思い出す。普通なら花とか線香とか掃除道具等持っているのがマナー。寮に墓参りの道具なんてねぇし、何より俺が要人警護だから自由に外へ出れやしない。しかも今の俺は手ぶらだから気を遣ってくれたんだろう。でも先生には悪いけどその必要はない。
「しっかりした所じゃねーから花も何もいらねぇよ」
「……そうか」
俺があの人に対する線引きにどうしていいか戸惑ってる。親があんたらに対して何したかは知らねぇけど、聞きたいだろうに聞かずにいてくれるのはいつも助かってる。でも誰にも話すつもりはない。俺とあの人の約束だから。
「次、そこ右」
「分かった」
道案内以外は車内は静かで、山に到着したのはもうすぐ陽が暮れる頃だった。車を有料駐車場に停めて通い慣れた山へ入る。微風が草木を揺らし、土の混じった匂いを運ぶ。整備されていない山道を一歩一歩と歩くたび心が躍り出す。まだ目的地まで距離があるのにやっと来れたんだと実感する。雑木林に入る前に立ち止まり、後ろに振り返る。
「先生、ここから真っ直ぐ走ってくれ。早くて20分ぐらいで着く」
「走る必要あるのか」
「まぁ走れば分かる。できるだけ真っ直ぐ走れば問題ない。無理だったら引き返して車の中で待ってくれてもいいぜ」
伝えたいことを終えて走り出す。すると風を切るように手裏剣が投擲された。避けるとそれを皮切りに丸太の振り子が襲いかかる。剣山に敷かれた落とし穴、起爆札を仕込んだ地雷やクナイの雨。飛んで躱して避けて防ぎながら走り抜ける。罠を避けるだけでただ真っ直ぐに進めば問題ないが、逸れたらドミノ倒しのように過酷な罠が襲う。しばらく坂道で罠だらけだけど、まぁ先生なら抜けられるだろ。背後のことを気にせずスピードを上げた。
『真っ直ぐ投げればいい』
『ふんっ!』
『下手くそ』
『練習!これから上手くなんだよ!』
『クナイなら的確に狙えんのになんで手裏剣だと上手くいかねぇんだ。ほら、もう一回』
手裏剣を投げて傷をつけた幹を通る。狙った場所に投げたはずなのに上手く投擲できず、とても悔しかった思い出がある。一回したら大抵なんでもこなせるのに何故か手裏剣だけはダメだった。何回も何回も練習して今はちゃんと投擲できるが未だ苦手意識がある。
《カァカァ》
『しー。オビトには内緒なんだから静かにしろよ』
《クゥア?》
『これか?もうすぐオビトの誕生日だから花冠作ってる。あの人食べ物嫌だろうし、俺のお金じゃ大したもん買えねぇ。それに知ってるかぐるぐる。花冠って縁起がいいものなんだぜ』
《…?》
『一つは勝利と栄光のシンボル。もう一つは継ぎ目のない円を描いていることから永遠の幸せなんだって。オビトは強いし、ずっと幸せでいてほしいんだ。いい誕生日プレゼントだと思わね?』
《カァア!》
『へへ、だろ?でも花が咲いてるとこあんま見たことねぇから、ぐるぐるも一緒に探してくんねーか?』
《カァア!カァア!》
わずかにしか咲いていない花道を通る。初めてオビトの誕生日に作った花冠。今思えば成人男性にあげるもんじゃない。でもあの頃は何も思いつかなくて、初めて作った花冠は花が少なかったせいで歪で不恰好だった。なのにオビトは被ってくれた。貰えるなんて思ってなかったと言うオビトに、来年も再来年も毎年俺が誕生日祝ってやると告げると目を細めて「期待しないでおく」と言われた。でもどこか嬉しそうにしていたから、絶対に祝ってやると決意したんだ。
『すげぇ!どうやったらそんなすいすい登れんの?教えてくれよオビト!』
『難しいと思うが、怖くはないのか?』
『怖くねぇよ!へっちゃらだ!』
『俺は手助けせんぞ。自分が降りれるとこまでしか許さんからな』
木登りした大きな木を通る。高所恐怖症じゃなかったからできるとこまで登った。そばにはオビトが見守ってくれて、降りれなくなった時は首根っこ引っ掴まれて無理やり下ろされた。ガキの頃はその行為が1番死ぬかと思ったな。オビトみたいに垂直で登ることはできない。でもあの頃よりスムーズに登れるようになった。
『オビト、どこ行くんだ?』
『開けた場所へ』
『なんで?』
『お前の実力を見るために』
『!修行つけてくれんの!?やった!じゃあオビトは俺の師匠だ!!』
『師匠じゃねぇよ。ただ見てやるだけだ』
『いいんだよ。俺が勝手に師匠だって思っとくから!』
『おめでたい奴め』
舗装も道もない道を走り抜き、木々を抜けた先にポッカリと開けた場所。
「やっとこれた」
爆豪を歓迎するように微風が草木を揺らす。的当てに使われた丸太を通り、ポケットから鈴を取り出した。
「半月ぶりオビト。遅くなっちまった」
ちりん、と切り株に置いてその場に腰を下ろす。学校が休みの日は必ず来ていたが、色々と重なって来れずにいた。だからこの日をずっと待ち侘びた。
ここ最近立て込んでてさ、まぁ俺の弱さが原因なんだけど。ほんとはもっと話したいことがいっぱいあんだ。でも、時間あんまなくて……」
寮内謹慎に要人警護者、寮の門限。この山に来るのに1時間もかかった。それにもうすぐ担任の教師が来てしまう。あたえられた時間は少ない。
「ごめん、今日だけ……今だけは………」
縋るように切り株に手を伸ばす。背を丸め、額を鈴に当たらないよう切り株に擦り付ける。ぽたり、ぽたりと雨が降ったように濡れ始めた。
「こんなおれを、ゆるして……っ」
泣きじゃくる子どものように声を荒げて泣いた。ごめん、ごめんと誰かに向けて謝る。その言葉にどれほどの想いがこもっているのだろう。縋る相手はいない。応えてくれる言葉はない。宥めてくれる温もりもない。それでも自分を曝け出せるのは、師と過ごした思い出のこの地にしかない。たとえその行為が、どれほど虚しいものだったとしても。
初めて声を上げて泣く子どもに、木の影で隠れてる教師とひらりと舞う木の葉が静かに見守った。
陽が沈んだ山道を下りる。罠だらけの行きとは違い、帰りは何事もなく下ることができた。目尻を赤くさせ、鼻を啜りながら歩く爆豪に相澤は気遣った言葉が出てこない。声を上げて泣いた姿を見て初めて爆豪が子どものままなんだと思い知らされた。歳のわりに大人びている彼は客観的に捉えられる思考と観察眼、No. 1になるという強い意志と心があった。だから生徒の中で何があっても大丈夫だろうと認識していた。なのにどうだ。彼は泣いた。泣きじゃくる子どものように。オールマイトの言う少年だった。ごめんと誰かに対して、何かに対して謝り続けていた。大人として、教師として、ヒーローとして見てやれなかった不甲斐なさを悔いた。爆豪を守ると言っていたのにこれじゃ嫌われても仕方ない。かける言葉が見つからない相澤に、裾を弱い力で引かれたことで思考から抜け出した。
「爆豪…?」
人嫌いで触れるのが嫌いな爆豪が裾を掴んだ。目を見張るのに十分な行為だった。
「……あの人は触れられるのが嫌いだった。自分以外の他人は敵だと、手元におくのは駒で動いてくれる信用と切り捨てれる信頼のおける人だけだと教えてくれた」
「………それはだいぶ捻くれてんな」
「そんな人でも尊敬したんだ。強くてカッコいい、俺の憧れ。ガキの頃からずっと気をつけて接してた。嫌いなことも、ヤなことも把握してた。でも、これだけは…これだけは許してくれたんだよ、先生…………」
声を震わせながら裾を少しだけ強く引かれる。その行為に爆豪と師匠の関係が見えた気がした。
「不器用だな。お前も、その人も……」
気を許してるんだと思ってもいいだろうか。案外可愛いことしてくる自分の生徒に、頬が緩むのを自覚する。
「帰りどこか寄るか」
「真っ直ぐ帰るんじゃねぇのかよ」
「せっかく遠出したんだ。少しぐらい門限に遅れてもいいだろ」
「合理的主義者の言葉じゃねぇな」
人目がつくまで裾を引かれながら山を下りた。
19
寮内謹慎が解かれて授業の復帰と仮免補習が始まった。何も苦痛はなかったが気がかりなことはインターン組であるクソ髪と蛙女、丸顔にクソナードの様子がおかしいことぐらい。守秘義務でも敷かれてんのかあのペラペラ話すクソ髪さえインターンの内容は話さない。まぁ仮免に落ちてる俺には関係ない話だ。普通に授業を受けて代わり映えのない日々にあるニュースが報道された。死穢八齋會の家宅捜査。ヒーローや警察官の半数が負傷し、家屋も倒壊しているが一般人が数人軽傷しているだけで甚大な被害は少なかったとのこと。その中にインターン組の奴らが映っていた。
「…………」
人伝にインターン組の何人かは大怪我を負って入院していると聞いた。俺はまだ、ヒーロー活動できる立場に居ない。
《クァア?》
「……俺もヒーロー活動早くやりてぇな」
《カァ!カァ!》
「突くな。いてぇよぐるぐる」
《カァア!!》
「分かってる。俺はオビトの弟子だ。誰よりも強いヒーローだもんな」
《クァア!!》
胸を張るぐるぐるに嘴を撫でる。他所は他所だと言いてぇんだろ?ぐるぐるは楽観的なくせに、こういう卑屈なのは嫌いだもんな。
「うし、最後の通達よろしく。これを校長の元へ届けろ。1人の時に狙えよ」
《カァ!》
ぐるぐるの細い足に特殊な紙をしっかりと結んでベランダから放つ。校長に情報を渡すのはこれで最後。普通なら情報は自分で持っとくもんだ。手札を増やして自分が有利に事が運べるから。だが俺には雄英に大きな借りがある。
「間違えてくれんなよ」
雄英の中で信頼できるのは相澤先生。信用できるのは雄英のトップでありハイスペックの個性を持つ根津校長だけ。俺の持つ情報で最善の方法を導き出してくれ。
大きな事件が報道されて2日後の夜にインターン組が寮に戻ってきた。モブどもは騒ぎ、アホ面にムカつくことを言われたが知らん。明日に備えてその日は早くに寝た。翌朝、仮免講習のために制服に着替える。
《ギィ》
「ん、はよトビ。留守番頼むな」
《ギィィ…》
林間合宿から一緒にいたいのかずっと引っ付いてくるトビ。仮免試験で勝手についてきて暴走。そのことに説教をして以来、勝手について来んなと念押しして部屋と寮に帰れない日以外はついてこないようにしている。だが時々こうして駄々をこねて腕に尻尾を絡ませる。いつにも増して甘えたなトビに慣れた手つきで尻尾を解いて撫でた。
「行ってくる」
《ギィ》
ゆらりと揺れる尻尾に荷物を担ぐ。机に置かれたノイズキャンセラーに手を伸ばそうとしてピタリと動きを止めた。
「…………」
初めてオビトが考えてくれた大事な物。雑音を聞かないようにと親父が買ってくれたノイズキャンセラー。ガキの頃に半年だけ付けて閉まっていたが高校でまた付け出して半年、今俺に必要なものかと考える。これに縋ったままでいいのか。仮免に落ちて、あいつらは先に行っている状態でこれに縋るほど弱くなったのか。違う。俺は、強いヒーローになるんだろうが。伸ばした手をズボンのポケットに突っ込んで部屋を出た。
「爆豪行くぞ」
「うっせえな。行くわ」
「仮免講習の時間だ」
「後ろ歩けや」
晴れ渡った青空の下、半分野郎と寮を出る。前に歩くクソナードの次にイラつく男に舌打ちした。
「相澤先生…昨日の今日で申し訳ねェな…」
「てめェと世間話する気はねェ」
気に食わない奴と会話する気ない。会話の内容みえねぇし急に話題を切り替える。無駄なことが多い半分野郎に合わせんのも馬鹿らしいってことを今までの補習で体験した。だから半分野郎とは会話したくない。
「おま………!」
「遅せーーーよバッボーーイズ!!」
「プレゼント・マイクと…オールマイト」
バスの前に引率の担任じゃなく、オールマイトとプレゼント・マイクがいた。
「今日の引率は私たちが行くよ」
「イレイザーは昨日の事件絡みで学校をあける事が多くなりそうなんだと」
「どういうことですか」
「救出した子の個性に関して彼の力が要るそうだ。んで!!俺はイレイザーに警護頼まれてやったわケ!」
「連合の動きも考慮しての措置だ」
厄日か今日。イラつく存在その2と煩い教師に頼りない元No. 1ヒーロー。雨でもないのに頭が痛くなりそうだ。
「さァ、行こう。昨日は簡単な座学のみだったが、今日の講習は大変な内容だと聞いている」
「早く仮免取ってホップステップヒァウィゴーー!!」
「遅刻厳禁。さァ、バスにお乗り」
触れようとしてくるプレゼント・マイクの手を振り払ってバスに乗り込んだ。バス内は特にこれと言った会話もなく市内体育館に到着する。
「じゃァ上で見てるぞ!」
「ケッパレよー!ヒィア!」
教師と別れて会場に向かう。音楽流していた物がないから落ち着かず、暇すぎて監視カメラがある場所をチェックしていると無駄にデケェ声が廊下に響く。
「おーーい雄英ーー!!」
ブンブン手を振って近づいてくる嫌いなタイプの男と、隣に見慣れない士傑の制服を着た女。
「あー何なに?ちょーいい男じゃん。ヤバ驚嘆〜〜〜〜。イケメンと講習とかマジ恐悦ー」
「ケミィさん!」
「夜嵐なにー?超知り合いー?マジ連絡先ー」
「あ、ハイ」
「ケミィさん交流術さすがっス!!勉強になりマス!!」
「おいハゲ、この女この前までいなかったろ」
「ああ!いなかったし俺はハゲてないんだ!!」
「ケミィ!!下作である!!士傑生たるもの、斯様な者など捨て置け!!」
「肉、てめェ一次で落ちたろ」
「観覧の許可を頂いたのだ!!見学!!」
「帰れ肉」
「肉倉精児である!!」
「エンテヴァーの息子?何それイケメンの上にサラブレッドってマジ仰天〜」
「ケミィさん押し強いっス!」
「ケミィ!!」
こんな所にいつまでも居てたまるか。騒がしい奴らを置いて会場に向かった。
「えー、本日はここ総合体育センターをお借りしての講習です。最近逆に寝るのが恐くなってきました。目良です。今日もよろしく」
この人相変わらずだなと思うと同時に、あんな社畜にならないようにしようと何度目かの決意をする。講習メンバーに新たに1人増えると紹介しようとした時、野太い声が会場内に響き渡る。
「焦凍ォオオオ!!!お前はこんなところで躓くような人間じゃない!格の違いを見せつけるのだァア!!」
会場全体の視線がエンデヴァーに集中する。隣にオールマイトがいたせいでどよめきが増した。てか何でいんだ。まさか半分野郎の応援?どういうことだと半分野郎を見るが背を背けていた。体育祭でも思っていたがエンデヴァーが半分野郎に対する熱意っていうか、なんていうか……気持ち悪い。俺の親父があんなのじゃなくてマジでよかった。親父はオビトの次にイイ男だから当たり前か。
「えー皆さん落ちついて下さい。続き良いです?今日から講習を参加する…」
「士傑高校2年でーす。ケミィって呼んでくださーい」
「えー彼女も二次まで残り、皆さん同様補講の資格を有しておりましたがその数日前から記憶の混濁が見られ、原因究明の為参加を見送っておりました」
「特例受け直しオケオケとか超懐でまじ足向寝ゲンキン。よろぴー」
改めて聞くと会話がなりたたないな。絶対馬鹿だろ。
「さて…それじゃあお願いしますギャングオルカ」
扉からギャングオルカがペットボトルを片手に登場。空気が一瞬で張りつめられた。
「今日も懲りずに揃ったか。あの温い試験にすら振るい落とされた落伍者共め。これまでの講習で分かったことがある。貴様らはヒーローどころか底辺生物以下!!ダボハゼの糞だとな!!」
「「「サーイエッサー!!」」」
「声が小さい!」
「「「サーイエッサー!!!」」」
「特に貴様だ!!ヒーローになる気はあるのか!!?」
「まず糞じゃァねェんだよ」
「指導ー!!」
そう言いうと服を掴まれて宙に投げ飛ばされた。投げ飛ばされた体をくるりと回って着地する。同様に半分野郎とハゲも投げ飛ばされ、あいつらは受け身も着地もせず地面に落ちた。ヒーローランキング10位、鯱ヒーローギャングオルカ。仮免試験の二次試験で敵役として参加したことにより、仮免補習の特別講師で参加している。
「貴様ら三名が充分な戦闘力を持つ事はわかった。だがそれだけだ。要救助者への不遜な振る舞い、周囲の状況を無視しての意地の張り合いなどの愚行…!今日は貴様らに特別な試練を与える!貴様らに欠けているモノ、それ即ち心!!差し伸べた手を誰もが掴んでくれるだろうか!?否!!」
その言葉を聞いて何故か吐き気がした。ザザ、と脳裏にノイズが走る。
「時に牙を剥かれようとも命そこにある限り救わねばならぬ!!救う、救われる。その真髄に在るのは心の合致、通わせ合い!!さァ超克せよ!!死闘を経て彼らと心を通わせてみせよ!!それが貴様らへの試練だ!!」
目の前の扉が開かれる。ギャングオルカの言葉に戦闘体制に入る爆豪達だったが扉から出てきたのは無邪気な子ども達。
「「「わあぁぁ!!」」」
「ひーろー!!」
「生!ナマヒーロー!!」
「ダッセー!ばくだん!!ダッセー!!」
引率であろう人の静止を無視して好き放題に走り回る。暴力も含まれてんのか体に弱い力で殴られた。なんもダメージ入ってねぇしどうってことねぇが鬱陶しい。どうしてやろうかとガキどもを見下ろしたのがダメだった。
「キャハハハ!」
「どうだ!俺の方が強ぇんだぞ!」
触れられるのはジーニストのところで克服した筈なのに小さな手を見てヒュッと息が細くなる。ドクン、ドクンと嫌に心臓が鳴りだして手足の先が冷え始める。甲高い声がギャングオルカの声をかき消して聞こえない。いや、むしろガキどもの声しか耳に入らなかった。
『大丈夫?』
嫌な記憶。忘れ去りたい過去。差し出された手を思い出す。嫌な記憶が消えてザザ、と聞き覚えのない音が再生された。
『いっぱい人を殺した』
『私達が悪い人から守ってあげる』
『早く早く』
『おいで、おいで』
なんだ、これ。うるさい。聞きたくない。
知らない声が二重に聞こえ始めて耳を押さえる。
『あそぼ、一緒に遊ぼ』
『早く、私達と一緒に』
『仲間に』
『起きろ爆豪』
うるさい。消えろ。
触るな。俺に、触るな。
濁った赤い、赤い瞳がそばにいた子どもを捉えた。
「 失せろ 」
低い声と共にどこからかクナイを取り出してくるりと回す。鋭利を子どもに向けて刺し殺そうとする爆豪にパキパキと氷が動きを封じた。
「何してんだ爆豪!!」
「…………?」
白い息が上がる。冷やされた気温と体温に濁った瞳が正気を取り戻す。爆豪の突然の奇行にそばにいた子ども達はすぐに離れた。轟が近寄って爆豪の様子を伺う。氷で動きを封じられて冷えているはずなのに大量の汗。なのに顔色は血の気が引いたように青白い。
「爆豪、お前…」
「…うるせぇ、何も言うな」
「どっか悪いのか。さっき自分が何したか覚えてるか?」
「いや、覚えてねぇ……」
微かに震える体、何故クナイを手にしているんだと首を傾げる。てかなんで俺凍らせられてんだ。混乱する頭で考えた結果、頭を冷やせと結論する。
「半分野郎、氷溶かせ」
「何もしないな」
「何もしねぇよ。ちぃとだけ頭冷やしてくるだけだ」
「冷やすならこのままでも」
「殺すぞ。さっさと溶かせ」
「分かった」
氷が消えてギャングオルカに少し頭を冷やしてくると告げて端による。壁に寄りかかって座り込み、はぁと息を吐いて冷えた手を温めるように握った。昔っから記憶が抜け落ちることがよくあった。何をしていたのか、何があったのか覚えてない。今までそういうもんだと気にしてなかったが、あの半分野郎が俺を氷漬けにするぐらい側から見てて危ない状態だったんだろ。どうにかしねぇとなと考えていると横にプレゼント・マイクがしゃがんで並んできた。
「よぉバッボーイ。お悩み相談なら俺が聞いてやるぜ?」
「……なんでいんだ」
「BGMに実況ない催しにMC魂が疼いちまってな?俺が来たってワケ。で?何悩んでるのか先生に聞かせてちょーだいヨ」
「はっ、弱みを握ろうってか。生憎その手にはのらねぇ。残念だったな」
「ホワイ!!なんでそう捻くれた考えしかできねぇの!?全くの検討違いだぜ!俺は雄英のティーチャー!教え子のお悩みを聞くのは当然。ま、イレイザーにくれぐれも爆豪を頼むと念押しされたって理由もあるがな!」
「先生が?」
「さぁさぁお便りプリーズ!これでもラジオをしてる身!お悩み相談はプロ中のプロだぜ?さっさとゲロって補講に挑みな!お前もこのままじゃ嫌だろ?」
「……………」
はしゃぎ回るガキどもとオモチャにされてる半分野郎共。ああ、そうだな。こんな所にいつまでも燻ってちゃいけねぇ。弱みなんて晒す気なかったのに腹に溜まるモノを吐き出したくて、担任に頼まれたというプレゼント・マイクについ吐き出してしまった。
「手が、嫌なんだ…」
「ハンドォ?触れられるの嫌いだからか?」
「いや、なんだろ……俺にもよく分かんねぇ。いつからか覚えてねぇが昔っからダメだった。ガキの頃から触れようとしてくる手に気持ち悪ぃって思っちまう。汚ねぇとか思わねぇけど嫌悪感抱くんだ」
ザザ、とまたノイズが走ろうとして頭を振る。俺の言葉にプレゼント・マイクは指を顎に当てた。
「つまり爆豪にとってのトラウマってことか」
「トラウマ……?」
「ヒーロー活動してると何人か見んのよ。何かをきっかけに精神的な衝撃を受けて長い間囚われてしまう人達をさ。治療にも克服すんのも難しい心の傷だ」
トラウマ?俺が心の傷を負ってるっていうんか。なんだよそれ。じゃあどうにもできねぇじゃねぇか。
「……だっせ。俺がこんなのに囚われてるとか」
「何言ってんだ。これっぽっちもダサくねぇぜボーイ。怖いってことは嫌なモノを遠ざけたい。されないようにしたい。同じ痛みを分かち合える。知ったら周りがサポートできる。超オトクってことヨ!」
ほら、と手のひらを差し出された。小さい手と違う大きな手に少しだけ息が細くなる。
「俺の手は怖いか?」
「怖くなんか、ねぇ…」
「強がっちゃってまぁ!でもあいにく俺の手は?MCのためにマイクを握る手だし?お前らに勉強を教えるために教科書とチョークを持つための手で?救け出す為の手なんだわ。武器を握らない無害のハンドなんだぜウェーイ!!」
差し出してきた手が親指たててドヤ顔をするプレゼント・マイクにバカみてぇと小さく笑う。そんな爆豪にプレゼント・マイクはニカっと笑って立ち上がった。
「ま!トラウマはちょっとやそっとじゃ治らねぇ。無自覚だったのが自覚できただけでも花丸満点ヨ。ゆっくりトラウマに付き合うか、向き合うのがしんどかったら信じられる人に協力してもらう方がいいぜ?これ、俺の個人的な感想だから鵜呑みにする必要なんかナッシーング!アァユゥオーケー?」
「あぁ」
「オーケーオーケー!じゃ、俺はMCしてくっからなレットーセー!!」
公安席を乗っ取ってMCをし始めたいつもと変わらないプレゼント・マイク。普段騒がしいのに教師らしい一面を知ってしまった。弱みを握られたはずなのに、あの教師は言いふらさないんだろうなと漠然にそう思った。
「うじうじすんのは俺らしくねぇ。さっさと合格してヒーロー活動だろ」
腰を上げて輪の中に入る。モヤモヤも体が震えることもなかった。
「大丈夫か爆豪」
「てめェに心配されっとサブイボが立つ。気にかけんな死ね」
「それは無理だ。お前なにかと問題あるし」
「てめェのほうが問題あんだよクソが」
「つーか心の掌握って課題がユルフワで何をどうしたらオケオケか不明ー」
ガキどもの輪の中に入るとどこかのガキに悲鳴上げられるが知らん。ちょっかいかけようとするガキどもをハエを払うように捌いて歩く。ガキどもの心を掌握しろと無理難題な課題を押し付けられた上に半分野郎達と協力しろとのお達しだ。こいつらと協力なんざ無理だろ。心の掌握なんて弱みに漬け込んで信用させて利用した方が手っ取り早いわ。実践したことねぇがな。
『さァチームダボハゼ。どうしていいかわからないといった面持ちだ!!』
「良いんですけど一応講習なんで程々に」
『オケオケ!!ハウエバ、何をどーしたらいいのさ。何を所望よ先生!!』
『はい…』
「……………」
引率の先生曰く、低学年に受けるカウセリングを受けたがサポート不十分だったせいで大人に心を閉ざされ今の状態に至ると。俺らと関わって真っ直ぐな気持ちを思い出してほしいと泣きながら訴えた。
「野暮な事は言いっこなしだな。人が困ってる」
「つまり皆と仲良くなればいいんスね!!よーし!!」
「子守りなんぞとっとと終わらせて向こうの講習に参加だ」
『ああっと早速野暮だ爆豪!!雄英の火薬庫はどういうアプローチに出る!?』
子守りなんてガラじゃない。保育士の真似事なんざやってられっか。
「作戦はあんのか?」
「あ?俺ァこういうの向いてねぇ。俺のやり方でやっていいなら、すぐにでも反抗できねぇように心折らせて逆らえねぇようにする」
「具体的には?」
「敵わねぇと分からせる」
「それじゃぁ仲良くできないっスよ!!」
『さァ独自の見解を述べた爆豪だがダメそうだ!!』
「そういう前時代的暴力的発想…お里が知れますよね」
『お里を知られたァ!!』
実行してねぇのに否定されたんだが?やらねぇって言ってんだろが話聞けや。てかなんだあの七三。ジーパン野郎みてぇで腹立つ。爆破してぇ。
「ヤンキーは流行ってないよ」
「誰がクソダサヤンキーだ殺すぞ!」
「まずお互いを知る事が親友への近道っスよー!!」
意気揚々とハゲが仲良くなろう作戦は失敗し、半分野郎は自分の紹介をし始めて失敗。半分野郎は俺と違って虐待まがいの暴力は嫌だと知ってるから自己紹介したんだろうが、あのクソガキどもには逆効果だろ。
「ワリィ」
「ナイスファイトっス轟!!」
「はぁ、しょうがねぇなったく」
「ねー。3人ともさっきからフツーにやってる感じだけど、個性でしっかり私たち見せた方がテットリバヤクない?」
「俺もそれを言おうとしてたんだ!」
「ウッソ、マジキグー」
「まだ溝は深え。つーか俺たちを困らせて楽しんでる節がある。攻めるには溝を埋めるんじゃなく飛び込むしかねぇ。実技デモンストレーションだ」
「なるほど!了解っス!!」
「いいか。個性を見せつけるにあたってすげェとかカッケェとか思わせねえといけねェ。かと言って見下してる相手にただ負かされちゃあクソみてェな気分になるだけだ」
「あの子らあのままじゃ試験の時の俺みたいに、迷惑をかける奴になっちまうっス!同じ轍は踏みたくないっス!」
「…………うん。あの子らの視野を広げてやることくらいは、俺たちも出来るハズだ」
オビトみたいに強くてカッコいいと思ったあの頃、見下していた相手に自己嫌悪抱いたあの日に俺は変わった。きっかけなんて小さくていい。ただ自分が思っているより世界は広いんだと思い知らせればいい。あぁだこうだと話をしていると痺れを切らしたガキ共が一斉に個性を見せびらかす。そこらの奴らより俺らが強ぇと自信満ち溢れた顔をする井の中の蛙ども。
「ハッ!好都合だ…来い砂利共。相手してやる」
互い睨む形で最初に切り込んだのは黒い球。グアっと球体が鋭い牙を剥き出して突進する。軌道が見え見えの突進に顔を横に逸らせば保護用マスクが喰われた。
「どうだァ俺の暴食魂ビンジンボール!!避けられなかっただろ。早くて強くて見えなかっただろォー!!?」
「襲う塵芥アサルトダスト」
「バイラルコスモス!」
「電磁弾!!」
「王の破城槌キングスラム!!」
「飛輪フラフープ!!」
「舌戦車タンタンク!!」
一斉に放ってきた個性を爆破で防ぐ。正直こんな幼稚な攻撃どうってことねぇが手加減が難しい。今すぐにでも骨を折って地面に埋め込ませたいが我慢だ。てかこいつら個性法あるにも関わらず攻撃してきやがった。やっぱクソガキだわ。
「人様に躊躇なく攻撃するたァ…だいぶキてんな」
「ヒーロー志望なら何しても構わねぇっと思ってそうだ」
「俺はもう講習とか抜きに、この子らと仲良くなりたい!!」
自分達の一斉射撃にびくともしなかった爆豪達に子ども達は驚く。次に攻撃仕掛けたのはケミィを目の敵にしていた女の子。ケミィに向かって目からビームを放つ。ビームの衝撃でケミィがいた場所に煙が立ち込め、晴れて姿を表したのはケミィではなくバックに薔薇を背負った轟。
「オイオイ、君の可愛い顔が見てぇんだ。シワが寄ってちゃ台無しだぜ」
「はぁい!!!」
「ごめーんマボロシー」
「………」
「でも言われてみたいよねぇ。ウチの学校、今時異性交遊禁止だし。マジ渇望」
爽やかな轟はケミィの個性である幻惑。普段の轟を知ってる爆豪は偽轟に思わず吹き出した。
「っっ俺は良いと思うぜマボロキ君よォ」
「?そんなに面白え事言ってたか?てか爆豪って笑えんだな」
「やめろっ。こっち見んなっっ」
やべ、こんなに笑うつもりなかったのに腹痛ぇ。半分野郎の顔を見ないように顔を背ける。
「君たちは確かに凄いっス!!でもね!!ぶん回すだけじゃまだまだっス!!」
風の個性でガキどもが浮く。幻惑の個性で天井にオーロラが造り出させれ、ガキどもが放った個性を骨組みにして氷が造形される。オーロラの元で作り出された巨大な氷の滑り台。風でガキどもをてっぺんに運んでジェットコースターみてぇに曲がりグネって滑っていく。楽しむガキどもを横目にずっも壁に寄りかかっている七三のガキに足を向ける。
「おい。てめェも交ざれ」
「何をするんです!!放してくれません!?程度が低いんです!!」
腕を掴んで輪の中へ向かおうすると駄々をこねる砂利。
「てめェが先導者だろ。いつまでも見下したままじゃ自分の弱さに気づけねぇぞ」
「…………」
「そんなままじゃ、すげぇ人を見つけたら自分の今までがちっぽけなもんだと思うようになる。自分の過去が急に恥になるんだ。てめェはそうならねえようにしろ。先輩からのアドバイスだ。覚えとけ」
七三を連れてハゲと半分野郎を呼ぶ。ハゲに七三を風に運ぶように、半分野郎に氷で冷えるから焚き火になれと指示した。
風で運ばれていく七三を見る。あいつは昔の俺に少し似ている。自分が周りより何でもできて凄いんだと周りを見下していた。オビトに出会わなかったら俺は鼻が高いクソガキのままだったかもしれねぇ。だから自分に似ているあの七三に、ガラにでもなくお節介を焼いてしまった。
「なぁ」
「あ?」
氷の滑り台を片づけしてる最中にハーフカラーのガキと鳥類顔のガキ、七三が近寄ってきた。なんだと思っていると急に頭を下げる。
「さっき殴ってごめん!」
「叩いたりしてごめんなさい!」
「僕からもひどいことを言ってしまい、申し訳ないです」
「………」
反省しているガキどもに鼻を鳴らしてしゃがむ。おい、とハーフカラーのガキに呼びかける。
「てめェ、俺が怖くねえんか」
「何が?」
「刃物向けられたんだぞ。近寄りたくねぇって思うだろ」
「ビックリしただけだ!人に嫌なことした俺が悪かったし」
「ふーん?」
肝が据わってるガキだなと感心する。まぁクソガキがここまで素直になるとは思わなかったが凄い成長だ。
「おい、少し近寄れ」
「「「?」」」
「よく見とけ。素直に反省したてめェらに特別だ」
幅を狭めた手のひらを下に向けて爆破をためる。小さな爆破の塊からパチパチと火花を散らす。
「わぁ!線香花火だ!!」
「きれぇ!」
「凄い」
「俺にはオールマイトより何倍も強くてカッコいい尊敬する人がいる。その人の誕生日に見せる予定だったが機会失ってな。しかも持続できねぇお遊戯なもんだから実践に役に立たねぇ。見せんのはてめェらが初めてだ。これは俺からの詫びだ」
花火なんて性質違うから線香花火もどきは10秒も持たずに消えた。地味なモンなのにガキどもは気に入ってくれたらしい。他の奴らには内緒な、と言うと分かった!と返事して去っていく。だが七三だけは残った。
「あの!僕も…僕もあなたみたいになれますか!」
あぁ、こいつは本当に昔の俺に似ている。俺の何に惹かれたのか知らないが真剣な表情をするガキに下手なことは言えない。だから俺なりに大事なことを伝える。
「バァカ。俺そっくりになる必要なんてねぇよ」
「わっ」
しゃがんだまま額にデコピンしてからガキの手を取る。
「お前、夢はあるか?」
「夢?」
「将来何になりたいか決まってんのかって言ってんだ」
「それは…ありますけど」
「なら自分の信念を曲げずなりたいもんになれ。お前が将来何になろうが必ず応援する」
この小さな手はチャンスを掴む手だ。
「憧れを消せとは言わねぇ。だって憧れちまったもんは仕方ねぇ。でもそっくりそのままになる必要はない。自分なりに憧れに近づければいい」
この手は可能性を秘めた手だ。
何も恐れることはない。
「自分に足りないもんを全部吸収して夢を実現しろ。絶対になれよ。俺はちゃんと見てるからな」
言い終えるとガキは何故か頬を赤く染めた。