テラーノベル
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「はい、終わり! 今日も任務完了!」
パン、と軽快な音がリビングに響く。俺の胸元からするっとすり抜けたハルは、両手を合わせて拝むようなポーズをしながら、すでに視線をテレビの画面へと戻していた。
……いやいや、ちょっと待て。何が任務完了だ。
俺はソファの上に残された自分の両腕を見つめ、それから数秒遅れて、ぽつんと取り残された唇に触れた。さっきまで俺の正面にあったはずの、柔らかくて、少しだけ高めの体温。それが今や、触れるか触れないかくらいの秒速ハグと、ちゅっと音が鳴る暇すらないほどのバードキスだけで、綺麗さっぱり精算されている。
時計の秒針を見れば、俺たちが「スキンシップ」と呼ぶべき行為に費やした時間は、おそらく5秒にも満たない。
「なぁ、ハル」
「ん? なにアロハくん。あ、そのリモコン取って」
「リモコンはいくらでも取るけどさ……。お前、最近ちょっとせっかちすぎない?」
「せっかち? 俺が? そんなことないよ、ほら、ちゃんと毎日ハグもキスもしてるじゃん。ノルマ達成!」
ハルは悪びれもせず、むしろ「完璧な恋人の義務を果たしました」と言わんばかりのドヤ顔でリモコンを受け取る。画面に映るバラエティ番組を見てケラケラと笑っているその横顔は、いつも通り可愛くて、生意気で、俺の大好きなハルそのものだ。
だけど、俺の胸の中には、ここ最近ずっと小さな引っかかりがくすぶっていた。
付き合い始めてからそれなりの時間が経つ。お互いの仕事の忙しさの合間を縫って、こうしてハルの家で過ごす時間は、俺にとって何よりも特別で、心待ちにしているものだ。ハルだって、2人で並んでハルの家に帰るときは嬉しそうにしてくれるし、嫌嫌付き合っているわけじゃないことは分かっている。
分かっている、んだけど。
触れ合う時のハルは、いつも異様なほどに「急いで」いるのだ。
手を繋げば、数分もしないうちに「汗かいちゃった」と解かれ、ハグをすれば、俺が背中に手を回して力を込める前に「よし、オッケー」と離れていく。キスなんて最たるもので、唇が重なったと思った次の瞬間には、ハルはもう3メートルくらい後ろに下がっているんじゃないかと思うほどのスピード感で距離を取る。
まるで、制限時間のあるゲームでもクリアしようとしているみたいに。
「ハルさぁ」
「んー?」
「俺、もっとゆっくりハルとイチャイチャしたいんだけど」
ストレートに言ってみる。俺の性格上、遠回しに探るよりはぶつかった方が早いと思ったからだ。真っ直ぐ担当だし。
すると、ハルの視線がピキッと固まった。テレビの画面を見つめたまま、リモコンを握る手に少しだけ力が入る。
「……何言ってるの、アロハくん。イチャイチャしてるじゃん、毎日」
「だから、その時間が短すぎるって言ってんの。俺、ハル不足で干からびそうなんだけど」
「大袈裟だなあ。ほら、もうすぐ番組終わるから、そしたらお風呂入って寝よ?」
そう言ってハルは立ち上がろうとする。その動きすらも、どこか俺から逃げるように慌ただしい。
泳ぐような視線、心なしか少し赤くなっている耳の先端。
……やっぱり、何かある。
俺は立ち上がろうとしたハルの手首を、今度は逃がさないようにしっかりと掴んだ。
「わっ、ちょっと、アロハくん!?」
「座って。ハル」
少しだけトーンを落とした声で言うと、ハルはびくりと肩を揺らした。いつもは俺のわがままを「はいはい」とあしらうハルだけど、俺が本気で真面目なトーンになったときは、ちゃんとこっちを向いてくれる。
観念したようにソファへ引き戻されたハルは、膝の上に両手を置いて、きゅっと唇を結んだ。その顔は、テレビの光に照らされて、さっきよりも明らかに赤みを増しているように見えた。
「な、なに……改まって」
「改まるよ。だって、明らかに俺のこと避けてるじゃん」
「避けてない! 避けてたら、家になんて来ないし、……キスだって、しない」
最後の単語を言うとき、ハルの声がぐっと小さくなる。
その姿を見て、胸がキュンとするのと同時に、やっぱりどうしても納得がいかない自分がいた。
「じゃあ、なんでいつも『はい、終わり』って強引に済ませちゃうわけ? 俺はもっと、お前に触れていたいし、ハルのこともっと感じたいのに」
一歩踏み込んで、ハルの顔を覗き込む。
ハルは一瞬、俺の目を見て、それから弾かれたように視線を斜め下に落とした。長い睫毛が細かく震えている。
「それは……」
「それは?」
促すと、ハルは何かを言いかけて、結局口を閉じてしまった。
怒っているわけじゃない。拒絶されているわけでもない。傷つけたいわけでもない。ただ、ハルの中に、俺には決して見せたくない「何か」があることだけは、その頑なな態度から痛いほど伝わってきた。
沈黙がリビングを支配する。テレビから流れる笑い声だけが、俺たちの間の奇妙な緊張感を浮き彫りにしていた。
ハルは頑なに口を閉ざしたままだ。膝の上で握りしめられた拳が、微かに震えている。その様子を見ていると、責めるような口調で問い詰めた自分が少し悪かったような気がしてくるけれど、ここで引いたらまた「はい、終わり」の毎日に戻ってしまう。
俺は掴んでいた手首を緩め、そのまま手のひらを滑らせて、ハルの指先を絡めるように握り直した。
「ハル。俺、怒ってるわけじゃないんだよ」
「……分かってる」
「ただ、気掛かりなんだ。俺の触り方が嫌だとか、本当はしたくないのに無理してるとかなら、ちゃんと言ってほしい」
俺の言葉に、ハルは勢いよく顔を上げた。その瞳には、焦燥と、それから言いようのない感情が渦巻いている。
「違う! 無理なんてしてないし、嫌なわけないじゃん!」
「じゃあ、なんで──」
言いながら、俺はハルの顔に近づいた。
いつもの一瞬のキスじゃない、ちゃんと熱を持った、深いキスをしようとして。
「ちょっ……!?」
ハルが息を呑む音が聞こえた。次の瞬間、ハルの右手が素早く伸びてきて、俺の唇を遮るようにピタッと押し当てられた。
「……!」
俺の唇が、ハルの掌の柔らかい感触にぶつかる。ハルは顔を真っ赤にして、必死な形相で俺を押し留めていた。両目をぎゅっと見開いて、俺の視線を真っ向から拒絶するように睨みつけてくる。だけど、その瞳は潤んでいて、ちっとも怖くない。
「もう終わりって言ったんだけど……っ!」
掌の向こうから、ハルの少し震えた声が聞こえる。
終わりって言ったから何だよ。俺はまだ始めてもいないのに。
不満が限界に達した俺は、ハルの掌を退けようとはしなかった。むしろ、その掌の中に自分の口元を預けたまま、もごもごと唇を動かして言葉を紡ぐ。
「なんで」
ハルの手のひらに、俺の唇の動きがダイレクトに伝わるはずだ。ハルが「ひゃっ」と小さく身を震わせたのが分かった。掌にかかる圧力が一瞬弱まる。
「なんで、そんなに頑なに拒むわけ?」
掌の中でさらに喋ると、ハルは耳まで真っ赤にして、手を引こうとした。だけど今度は俺がその手首を掴んで固定する。ハルの掌越しに、俺の熱が伝っていくのが分かる。
「少しくらい先の段階に進んでもいいと思うんだけど。俺たち、付き合ってるんだし」
俺の直球すぎる言葉に、ハルは完全にフリーズした。
「先の段階」という言葉の意味を理解していないはずがない。俺たちはキスやハグ以上のことを、まだ本格的にはしていない。それはハルがいつもこうして逃げてしまうからだし、俺もハルのペースを大事にしたいと思っていたからだ。だけど、いくらなんでもブレーキを踏まれ続けると、男として、恋人として、いろいろと限界がある。
ハルは掴まれた手を必死に引こうとしながら、顔をこれ以上ないほど背けた。
「そ……れは、まだ心の準備が出来ていないから!」
「心の準備って、付き合ってからどれくらい経つと思ってるんだよ」
俺は少し不服そうに眉を顰めて、ハルの横顔を見つめた。
ハルは俺の視線から逃げるように、完全にそっぽを向いてしまう。白い首筋が、ほんのりとピンク色に染まっているのがよく見えた。
心の準備、か。
確かにハルは繊細なところがあるし、恥ずかしがり屋なのも知っている。だけど、今のハルの反応は、単に「恥ずかしい」とか「心の準備ができていない」というレベルを超えている気がした。
何かを必死に隠そうとしている。
俺に知られたら困るような、決定的な何かを。
ハルは俺の手を振り払おうとするのをやめ、諦めたように肩を落とした。だけど、視線だけは絶対に俺と合わせようとしない。
「……アロハくんには、分かんないよ」
「何が?」
「……何でもない。とにかく、今日はもう終わり。おやすみ」
そう言って、ハルは今度こそ頑なに殻に閉じこもろうとした。ノーを貫くハルの横顔は、どこか悲しげで、だけど絶対に譲らないという強い意志を感じさせた。
俺は小さく息を吐いた。
「ふーん……」
わざとらしく不貞腐れた様子で溜息を吐きながら、ハルから少し距離を置く。
ハルは、俺が諦めたと思ったのか、ホッとしたように小さく肩の力を抜いた。だけど同時に、流石に拒み過ぎたかな、と胸を痛めるような、申し訳なさそうな表情が一瞬だけその顔に浮かぶ。
ハルがそういう優しい奴だってことは、俺が一番よく知っている。
だからこそ、これ以上逃がすわけにはいかないんだ。
ホッとしたのも束の間、ハルが次に息を吸い込むより早く、俺は動いた。
「え──」
ハルの短い驚きの声が上がる前に、俺はハルの横に詰め寄り、その細い腰にするっと腕を回した。ソファの背もたれと俺の体で、ハルの逃げ道を完全に塞ぐ。
「ちょっ……?! 触るなって……アロハくん!」
ハルが慌てて俺の胸を両手で押し返してくる。だけど、本気で力を込めていないのは丸分かりだ。俺はハルの腰を引き寄せ、自分の体に密着させた。ハルの体温が、服越しにダイレクトに伝ってくる。
「うーん……やっぱり嫌がっているようには見えないけどな」
「嫌がってる! 離して!」
「毎回早く終わらせようとするから気になってたんだけどさ」
俺はハルの抵抗を無視して、腰に回した手のひらを、少しだけ上に滑らせた。トップスの裾から、ほんの少しだけ覗く生の肌。そこに、俺の指先が直接触れる。
「何か言えない理由があったりして──」
「ぁっ……?!」
その瞬間、ハルの口から、今まで聞いたこともないような高くて甘い声が漏れた。
ハルの体が、電流が走ったみたいに大きく跳ねる。
「……あ」
ハルはパッと両手で自分の口元を押さえ、目を限界まで見開いて固まった。顔が、ゆでダコみたいに真っ赤になっていく。耳の後ろから首筋にかけて、一瞬で朱が差したように染まっていくのが分かった。
俺は、ハルのその反応に、不思議そうに目を丸くした。
今、ほんの少し、腰のあたりを指先でなぞっただけだ。服の上からじゃなく、直接肌に触れたとはいえ、強く力を込めたわけでも、変な場所を触ったわけでもない。
なのに、ハルはまるで、体中を責め立てられたかのような過剰な反応を示した。
「ハル……?」
固まっているハルを見つめる。
ハルは口を押さえたまま、涙目で俺を睨みつけていた。だけど、その体はまだ微かに震えていて、俺の指先が触れている腰の皮膚が、小さく波打つようにぴくぴくと震えているのが手のひらを通じて伝わってきた。
まさか。
俺の頭の中で、すべてのパズルがカチリと音を立てて嵌まった。
ハルがいつもスキンシップを急いで終わらせようとしていた理由。
キスを短く済ませ、ハグからすぐに身を引き、俺の手をすぐに離そうとしていた理由。
それは、俺のことが嫌いだからでも、心の準備ができていないからでもなかった。
「……ハル、お前」
「ち、違う! 今のは、ただビックリしただけで……っ」
必死に言い訳をしようとするハルの声は、明らかに震えている。
俺の表情は、不思議そうに目を丸くしていた状態から、段々と、状況を理解するにつれて嬉しそうな顔つきへと変わっていった。口元が自然と緩んでしまうのを止められない。
「お前、もしかして……めちゃくちゃ敏感なわけ?」
「ちがっ……! 違うって言ってるじゃん、俺は!」
ハルは必死に否定するけれど、その声は上擦っていて説得力はゼロだ。
そうか、そういうことだったんだ。
恥ずかしすぎて、俺に知られたくなかったんだ。
キスをされる度に、ハグをされる度に、いちいち身体が反応してしまうくらい敏感だなんて。少し触れられただけで、変な声が出そうになったり、体に熱が溜まってしまうこと。それが恥ずかしくて、だから俺にバレないように、「はい、終わり」ってせっかちに済ませていたんだ。
「なんだよ……なんだよそれ!」
俺は胸の奥から湧き上がる愛おしさに耐えきれず、ハルをさらに強く抱きしめた。
「……可愛い」
満足げに微笑みながら、ハルの耳元で囁く。
ハルはもう、言い訳する気力も残っていなかったらしい。俺の腕の中で、完全に諦めたようにくったりと項垂れた。
「……アロハくんのバカ」
小さく呟いたハルは、真っ赤になった顔を俺の胸元にぎゅっと押し付け、見えないように隠してしまった。その耳が、捕まったウサギみたいに赤く染まったまま、小さく震えていた。
「……いつから?」
俺の胸に額を押し当てたまま、すっかり固まってしまったハルの頭を撫でながら問いかける。サラサラとした髪の隙間から覗く耳は、さっきよりもさらに赤みを増していて、今にもはち切れそうだ。
「……ん」
「ん? 聞こえない」
「……最初からだよ、バカ」
消え入りそうな声で呟かれた言葉に、俺の心臓がドクンと大きく跳ねた。
最初から。つまり、俺たちが付き合い始めて、初めて手を繋いだときも、初めて軽いキスを交わしたときも、ハルはずっとこの過剰なまでの敏感さと戦っていたということだ。
「最初からって……じゃあ、俺がハルに触るたびに、ずっとドキドキしてたってこと?」
「ドキドキなんて可愛いもんじゃないっ……! アロハくんが触るトコ、全部、なんか……変に熱くなって、変な感じがして……」
ハルは俺の胸元に顔を埋めたまま、もごもごと、だけど必死に白状し始めた。
俺の服をギュッと掴むハルの指先に、じわりと力がこもる。
「……恥ずかしいじゃん、そんなの。男のくせに、ちょっとハグされただけで、キスされただけで、いちいち身体が反応して……声が出そうになるとか。絶対言えるわけない。アロハくんに変に思われたくなかったし、引かれたくなかったんだよ……!」
一気にまくし立てたハルは、最後に「うぅ」と小さく唸って、さらに俺の体へと深く潜り込もうとする。
引くわけがない。変に思うわけがない。
むしろ、逆だ。
俺の胸の中に広がったのは、言葉では言い表せないほどの独占欲と、歪なまでの高揚感だった。俺が触れるだけで、この意地っ張りで生意気な年下の恋人は、そんなにも狂わされそうになっていたというのか。それを隠すために、必死で「はい、終わり!」なんて冷たいフリをしていたなんて。
「ハル、顔見せて」
「やだ……絶対見せない」
「見せて。お願い」
優しく声をかけながら、ハルの背中に回した腕に少しだけ力を込め、俺の胸から引き剥がそうとする。ハルは「んんーっ!」と抵抗して踏ん張ったけれど、男同士の力比べだ。体格差もあって、少しずつ、だけど確実にハルの身体が俺の方へと向けられていく。
「……あ」
ようやく露わになったハルの顔は、涙目で、潤んだ瞳が細かく揺れていた。鼻の頭までほんのりと赤く染まり、きゅっと結ばれた唇が、微かに 震えている。
「引かない……?」
上目遣いで、怯えるように俺を見つめるハル。その健気で、どうしようもなく煽るような表情に、俺の中の何かが完全に弾け飛んだ。
「引くわけないじゃん。むしろ、嬉しすぎて頭おかしくなりそう」
「え……?」
「隠そうとした罰。……もう、終わりって言わせないからね」
言い終えるより早く、俺はハルの唇を塞いだ。
「ん……っ?!」
ハルが驚いたように目を丸くする。けれど、今回はすぐに逃がすつもりなんて毛頭ない。
ハルの後頭部にそっと手を回し、指先を髪の毛の中に滑り込ませて、固定する。いつもなら「ちゅ」と一瞬で離れてしまうハルの唇に、じっくりと、自分の唇の熱をなすりつけるようにして重ね合わせた。
「ん、んぅ……」
ハルの口から、鼻にかかったような甘い吐息が漏れる。
それと同時に、ハルの身体がまたビクッと大きく跳ねた。掴んでいたハルの肩が、目に見えてガタガタと震え始める。本当に、触れられているだけの状態なのに、ハルにとっては強烈な刺激になっているのが手に取るように分かった。
唇を少しだけ離し、ハルの濡れた瞳を見つめる。
「ハル、息して」
「は、あ……っ、アロ、はくん……もう、むり……」
「無理じゃない。まだ始まったばかりだよ」
いたずらっぽく微笑んでみせると、ハルは本当に泣きそうな顔をして俺を見つめた。
今度は、ハルの下唇を軽く噛むようにして、ゆっくりと舌を滑り込ませる。
「ひゃ、ぁ……!?」
ハルが完全に息を呑んだ。
口内に俺の舌が侵入した瞬間、ハルの身体から完全に力が抜けた。ソファにずるずると崩れ落ちそうになる身体を、俺の左腕がしっかりと支える。ハルは俺の肩に必死にすがりつき、指先を俺の服に食い込ませていた。
「ん、ふ……ぁ、は、んう……」
深いキスを繰り返すたびに、ハルの口から、可愛らしい声が零れ落ちる。それを全部俺の口で拾い集めるように、何度も何度も角度を変えて唇を貪った。
ハルの頭の中は、きっともう真っ白になっているはずだ。あんなに頑なに拒んでいたのが嘘みたいに、今のハルは俺のされるがままになっている。
しばらくして、ハルが本当に息が苦しくなってきたのを見計らって、ゆっくりと唇を離した。
銀色の細い糸が、俺たちの間に一瞬だけ架かって、ぷつりと切れる。
「はぁ、はぁ、っ……く、くるし……」
ハルは口元を手で覆うことも忘れ、大きく肩を上下させて呼吸を繰り返していた。その唇は、さっきまでの薄ピンク色から、熟した果実みたいに赤く、妖艶に腫れ上がっている。
「どう? 『はい、終わり』にできる?」
「……できる、わけ、ないじゃん……っ。アロハくんの、いじわる……」
掠れた声で、だけど精一杯の睨みを利かせてくるハル。その姿が、愛おしくて、愛おしくて、もうどうしようもない。
「いじわるさせてるのは、ハルでしょ。こんなに可愛い反応するの、今までずっと隠してたんだから」
俺はハルの濡れた目元を指先で優しく拭い、それから、ゆっくりとその指先をハルの首筋へと滑らせた。
首筋をすっと指先でなぞると、ハルは「ひぅっ」と短い悲鳴を上げて首を竦めた。
「そこ、もダメ……っ、ぁ、アロハくん、待って……!」
「待たない。ハル、身体の力抜いて」
俺はハルの首元に顔を埋め、白い肌に直接唇を押し当てた。脈がドクドクと速く、強く打っているのが、俺の唇に直接伝わってくる。ハルがどれだけ緊張し、どれだけ興奮しているかが、言葉以上に伝わってきて愛おしさが爆発しそうになる。
「ぁ、ん……あっ、そこ、変な、感じ、する……っ!」
ハルが俺の髪を引っ張るようにして抵抗しようとするけれど、その手にはもうほとんど力が残っていない。むしろ、俺を拒絶しているというよりは、あまりの快感に耐えかねて、何かにすがりつきたいだけのようだった。
柔らかい皮膚を、少しだけ強めに吸い上げる。
「んあぁっ……!?」
ハルが大きく身体を頻れさせた。その拍子に、ハルの目から一粒の涙がハラリと零れ落ちる。
首筋に、ハッキリとした赤い痕が浮かび上がるのを確認して、俺は満足げに顔を上げた。これで、明日からのハルは、嫌でも俺の存在を意識せざるを得なくなる。
「アロハくん、ほんとに、これ以上は、俺……どうにかなっちゃう……」
ハルは涙を浮かべた目で、本気で訴えかけてきた。
その瞳の奥にあるのは、恐怖ではなく、自分でも制御できない身体への戸惑いと、俺に対する全面的な信頼だ。
心の準備ができていない、とハルは言った。
だけど、こんなにも身体が俺を求めて、俺の刺激に溺れてくれているのに、これ以上の準備がどこに必要なんだろう。
「どうにかなっちゃえばいいよ。俺が、ちゃんと全部受け止めてあげるから」
俺はハルの両手を優しく取り、自分の首に回させた。ハルは一瞬ビクッとしたけれど、拒むことはせず、諦めたように俺の首に腕を絡める。
「……本当に、優しくしてね?」
「うん。約束する」
ハルがようやく、自分の「敏感すぎる身体」を俺に委ねる覚悟を決めてくれた。その事実だけで、俺の胸はちぎれそうなくらいの幸福感で満たされる。
「ハル、大好きだよ」
「……知ってる。俺も、アロハくんのこと……大好き」
赤くなった顔を少しだけ背けながら、だけど今度はしっかりと、ハルは俺の目を見てそう言ってくれた。
コメント
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えっ……ちょっと待って待って待って待って!!!😭💕💕 なにこれなにこれ!?!ハルくんが敏感すぎてスキンシップを“はい、終わり!”って済ませてたの…!?切なすぎて胸が苦しくなった…!でもアロハくんが優しくてずるいよ!「引くわけないじゃん。むしろ、嬉しすぎて頭おかしくなりそう」とか反則級の破壊力…!✨ あと「ぁっ?!」って声出ちゃったとことか、掌で遮られて喋るアロハくんとか、もうどのシーンも映像浮かぶ!ぷに歯茎さんの描写ほんとエモすぎます…次の展開が待ち遠しいです🌸
#超特急
常四区えんら 低浮上
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