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朝、侍女のエマに起こされシルフィアは起きる。「お嬢様、公爵様がお待ちですよ」
こんな朝早くから何事かと、シルフィアは急いで支度をし、書斎へ向かう。
「お父様、お待たせいたしました」
父のラディールは、怪しい笑みを浮かべる。
「シルフィア、オベールのヴァンキルシュ公爵との婚約が決まった」
オベール帝国―――
それはここ、アルタイル王国の北側に位置する国。魔法の国と呼ばれるアルタイル王国と比べ、オベール帝国は剣術に秀ている国だ。
「しかし…」
「シルフィア、お前は妹のリナリーに嫁がせるのか?」
父はシルフィアの言葉を遮るように言った。
実の母であるソフィアは2年前に他界し、父は間もあけずに愛人を直ぐに連れ込み再婚した。
愛人の連れ子であるリナリーの方が、よっぽど可愛いのだろう。
「今すぐ支度し、ここから出ていけ。ヴァンキルシュ公爵殿も、いつでもいいと言っている」
厄介者払いということだ。シルフィアは自室に戻り荷物をバッグに詰め込む。
「お、お嬢様?どこかに行かれるのですか」
帰ってきて早々支度をするシルフィアを見て、エマは慌てる。
「私の婚約が決まったのよ。オベール帝国のヴァンキルシュ公爵とのね」
そういうと、エマの顔が真っ青になる。
「そ、そんな…ッ!」
理由は明白だった。ヴァンキルシュ公爵は、女嫌いで、ひとたび怒りを買えば女子供迷わず殺すという残忍さであることで知られていた。
確かにこれを聞けば、あの父も自分の溺愛する娘を行かせたくないだろう。
「私は平気よ。それより、エマも私の侍女として連れて行くわ。お父様もその辺のことは触れていないもの。何も問題はないわ」
「は、はい!今すぐ」
そしてシルフィアはアルタイル王国を出て、オベール帝国へと向かった。