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3 - 九宮神社(2)

2025年08月29日

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ヒグラシの鳴き声が山に響く。

帰り道は、少し夕日がかっていて。昼間はあんなに暑苦しいようにも感じた空気が、少し和らいだ気がする。


足元の小さい枝が踏まれ、音を鳴らし。

小さく、早く呼吸をしながらも山ほど長い階段を登り終えた。

両サイドにある狛犬のような石像が迎れてくれている気がして、なんだか少しほっとし

先程通った鳥居のある、階段の下を振り返ってみると、夕日がすぐ側の田んぼに反射して、少し眩しかった。


人も年々少なくなっている西宮町。

九宮神社は、そんな町の人々にとっての活気が現れる場所だった。

いつもは何処にいるのだろうと思うほどの人数が、この神社に集まっては。

盆踊りを楽しんだり、屋台を出して。綿あめやラムネのあまっこい匂いがふわりと鼻をさし、後方からはたこ焼きを焼いているお兄さんの宣伝声が聞こえてきたりした。


神社裏では、皆がダンボールを持ち寄っては傾斜を滑っていて。近隣に住んでいる人が素朴なブランコを設置してくれては取り合いになって。

じゃんけんぽんして勝った人が堂々と漕いだり、工夫して2人乗りなんかもしてた。


私たちの世界は、山だとか虫だとかの自然と共存していて、美しい。

でもこの美しさが、自然によって失われるのかと考えれば、これは摂理なのかという思考に加えて、思い出が消え去るような気がしてセンチメンタルになる。


(…手だけ合わせて、もう帰ろう。)


日は沈んできた。そういえば、露出魔が近隣に現れたと学校でも知らせがあった。自転車も下に放置している事だし、と早足で本坪鈴の元へ駆け寄っては、古くなっている縄をキシキシと鳴らしてみては。


柏手の音が鳴り響き、目を閉じる。背中は夕日に照らされて少し生暖かいけれど。もう少しだけ神様に縋っていたような気がした。



(思い出が、風化しませんように。 )

なんて、謎な願いを心に持ちつつ吐き出してみて。帰ろうともう一度柏手を鳴らしては背を向ける。

ー「まって。」

しゃらん、と鈴の音と一緒に。美しい音色のような声がした。

咄嗟に本坪鈴の方を振り返ってみれば、そこには白玉のように綺麗な肌と、真っ黒い髪を纏った同年代ほどの少女が立っていた。



「…っ、は…?」


何処から現れたのか。そもそも、”此方”の人間なのか。下手すれば、”あの世”から来たのではないかと、脳裏に馬鹿な考えが浮かぶほどには綺麗で、今にも消え入りそうな外見していた。


だれ、と聞く間もなく、あちらが声を発す。


「あなた、私が見えるのね」


にぃ、と夕日に照らされた笑みを見せた彼女は、頬が橙色に染まっていた。


「…」


彼女は、何者なのか。




「誰、でしょう」



白いワンピースがひらひらと風を舞い、くるりと此方を覗き込む彼女は。少し半透明で、背後の本堂がちらりと映っていた。

“それ”はまるで水のような希薄さで。触れれば溶けてしまうのではないかと思う程で。



「妖精…?」


は、と自分でも鼻で笑いたかった。頓珍漢なことを言っているとは自分が1番分かっている。


だけど。


そう思ってしまうほどに、宙を舞えてしまいそうな美しさだったから。


「綺麗…だね、あなた。」


思わず、そう呟いた。何を言ってるんだろう。これじゃあ、口説いてるみたいな。


「…そう?」


彼女はぽかん、とした後、少し得意げに頬を赤らめて言葉を続けた。


「私は…うーん、、」


長く長考した後。


「この神社を守ってる、守神だよ。」


それは。その言葉は

あまりにも、現実離れしていて。右から左に流される。


「は…?」


ようやく絞り出しと言葉は、蚊の鳴くような声。普段なら…変人だなぁ、で終わる言葉が


何故か、妙に説得力があって。


「本当に…?」


そう、聞き返した。


「うん」


彼女はこくりと頷いて。すい、と私の頬に手を運ぶ。でもその手は、透けていて。私に触れることは無かった



これがきっと、何よりもの証明で


この目に写っているものが、事実なのだと受け入れた途端に。酸素が肺に回った気がした


強い風が吹き付け、思わず目をつぶってしまっては。次の時に、彼女はもう居なかった。







「おはよ〜」

「今日は遅刻しなかったんね」

「真奈うっさーい」


なんて軽口を叩きつつも席に鞄を置く。普段は遅刻ギリギリに席に着くか、遅刻するかだから。随分と珍しいのでは。


昨日は、何故か早く眠りに着けた。考えることがグルグルと頭に回るのは嫌だから、家の近所をウォーキングしたのだ。

お陰で早くに目が覚めたし、昨日の事が頭をチラつくから二度寝する気分にならなかった。

昨日の守神さんに感謝かな。なんて。


そういえばさ、と美羽が口を開く


「夏海、昨日九宮神社のとこ居た?」

「へ?なんでそれを」

「いやぁ、近所の人が見かけたって。

崖崩れあるかもだから次からは気をつけてねって」

「あー…それが…」


守神を見かけたのだと、伝えようとしたけれど。私の頭が遂にいかれたと思われかねないので辞めた。


「なんか、夏祭りもやらない感じだからさ」


ちょっと寂しくなっちゃって〜。



…その時、丁度先生が教室に入ってきては

座らないと遅刻にする、と脅してきたので皆慌てて席へついた。


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