テラーノベル
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「さあ、BBQを始めまーす」
白戸がトング片手に次々とお肉を焼いてゆく。たちまち周囲に食欲をそそるいい匂いが立ち込めた。
「ママ。マシュマロ焼いていい?」
「颯太、早いって」
お兄ちゃんの峻が颯太に突っ込みを入れるそんなやり取りを見てみんなで笑った。
(久しぶりに楽しい時間だな)
夏帆も成瀬もバーべキューを楽しんでいたそこへ白戸が成瀬に耳打ちをしに来た。成瀬は頷くと席をそっと立った。夏帆の気を向かせるために詩織が夏帆に話かける。
「夏帆さん、お誕生日だったんでしょう?」
「いくつになったの?」
夏帆の隣のイスに座っていた峻が質問した。
「二十六になりました」
「二十代!若くていいなー」
詩織が目を丸くしてうらやましがる。
「ママも若いよ。十八歳くらいに見えるもん」
峻が間髪入れずに詩織を褒めた。
「峻、気持ちはありがとう。ママ、本気で嬉しい」
男の子はママが好きなのだ。夏帆は自分のクラスの園児たちを思い出し微笑んだ。
「夏帆さん」
背後から成瀬に呼ばれた。夏帆が振り向くと、そこには丸いケーキを両手に持った成瀬が立っていた。
「お誕生日おめでとう」
成瀬の掛け声と同時に詩織と子供たちがクラッカーを鳴らす。
「あっすごい……」
夏帆はこのサプライズに驚き、思わず椅子から立ち上がってしまった。
「成瀬がさ、夏帆さんのバースディの約束を守れなかったって船で泣いてたんだよ。それなら一緒にお祝いをしようってなったんだ」
白戸さんがそう笑って教えてくれた。成瀬は少し恥ずかしそうにする。
「泣いてはいないですよ。でもみなさんでお祝いしてもらえるなら、夏帆さんも喜ぶと思って」
「ものすごく嬉しいですっ。みなさん、ありがとうございます!」
まさかのサプライズケーキに夏帆は嬉しくてたまらない。
「ケーキ食べたい!」
「みんなで食べよう」
そういって詩織がカットしてお皿に分けてくれた。そのケーキを成瀬の隣で夏帆は一緒に食べた。
「成瀬さん。こんな素敵なお祝いをありがとう。本当に楽しくて嬉しくて、いい思い出になった」
「よかった」
「白戸さんたちは、とても温かくて理想的な家族ですね」
夏帆は穏やかな笑顔でしみじみと言った。それを聞いた成瀬も嬉しかった。
「ええ、本当に」
成瀬も夏帆の楽しそうな姿を見れて、今日ここに来てよかったと安心するのだった。
※
それは後片付けのときだった。成瀬と白戸は火の後始末、夏帆と詩織そして子供たちは炊事場で洗い物をしていた。夏帆になついた子供たちは、その周りをうろうろしていた。
「ママとパパは、いってきますのチューするんだよ。ラブラブなんだ」
颯太が夏帆を見上げてそう言った。
「そうなんだ。仲がいいんだね」
夏帆も笑って返す。すると今度は峻も、
「絶対に毎日するんだよ。夏帆ちゃんも成瀬さんとするの?」
「……いや」
こういうことは上手く返すことができない夏帆はつい口ごもってしまう。すかさず詩織が入って来た。
「こら、余計なことは聞かなくていいの。ほら、あっちでフリスビーやっておいでよ」
「フリスビーしたい。行ってくる!」
子供たちが嵐のように去っていった。
「ごめんね。子供らが変なこと聞いて」
「いえいえ。それにしても白戸さんたちは仲がいいんですね」
「はははっ。でもうちだけじゃないのよ。知り合いのパイロット夫婦は、みんな朝のスキンシップを忘れないの」
「いいな。そういうの憧れます」
夏帆は何気なく、そうつぶやいた。
「ジンクスがあるんだよね」
皿を洗いながら詩織も思い出したようにつぶやいた。
「なんのジンクスですか?」
夏帆は話の流れで訊ねてしまった。詩織は少し困った顔を作った。
「喧嘩した日に旦那の乗っていたヘリが事故に――って話を聞いたことがあって。だから後悔しないように、喧嘩をした朝もスキンシップは欠かさないことにしているの」
「―――事故」
夏帆の手が止まってしまった。
「あっ、そんなに深刻にならないでね。そのために日々訓練しているんだしね」
「……はい」
しかし、すでに夏帆の意識はそこにはなかった。
毎日、スキンシップをする理由
それはある日突然、会えなくなるかもしれないという裏返し
(……私は勘違いをしていたかもしれない)
半年間会えないとかなんてことないんだ。
死んでしまうのに比べたら。
夏帆の頭から血の気が引いてゆく。代わりに恐怖が夏帆を支配しはじめる。
母の時と同じ感覚―――
本当の試練はここかもしれない。夏帆の頭の芯から冷えていくのがわかった。
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夏目莉央
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