テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#短編集
翅
44
水虹ひにゃ@リムらないでほしい
333
【元】空乃 風♋🥀🐇
173,372
えす𝕊
1,929
こんちゃつうんです。書きたい話があるんです‼でも私は大人の世界も分からないしお酒がどんなのかもわからない!そんなのでも良ければ読んでいってくださいな。
白い腕に、走る傷跡。肌の内側の色が、彼女の透き通るような肌にはとても鮮明に見えていた。どうしたの、と僕は聞く。
すると、彼女は言うのだ。
「悪い子猫に引っかかれたのよ。」
僕は言った。
「それはきっととっても可愛い子猫なんだろうね。」
彼女は笑い、僕の腕を軽く小突いた。
「冗談はよしてよ。」
長い、夜であった。
琥珀色の液体が入ったグラスをそっと持ち上げる彼女のほっそりとした指先には桜色。グラスを揺らし、そっと口をつける。一連のしぐさが、何故か妙に色っぽい。
薄暗いバーのテーブルに座り、二人酒を飲んでいる。
彼女の白い喉がこくりと動き、チェリーのようなみずみずしいくちびるから吸い込まれていった液体を嚥下する。
彼女はほぅと息を吐き、僕を見つめた。
「……ねぇ。」
甘い声。吐息まじりのその声は、不思議に優しく僕の耳に落ち着いた。
「君は__私を、どう思ってるの。」
問いかけるとき、頭を少し傾げたことにより彼女の長い髪の毛が、細い肩から滑り落ちていった。
彼女はウィスキーを好んで嗜む。僕にはさっぱり分からないが、どうも深みのある苦さと、芳醇な香りが良いらしい。やや高いアルコールの度数に、彼女の肝臓もそろそろ頭に酔いを回し始めたのだろう。普段の彼女なら絶対にしないであろう問いを投げかけてくるということは。
……どう答えたらいいのだろう。
口を噤む僕を見て、彼女は不満げに言う。
「なんで黙るのさ。答えてくれたっていいじゃない。」
僕は、あいまいに相槌を打ち、逡巡する。
答えるうえで、質問の意図を知りたかった。変に気障なことを言ってご機嫌を損ねてしまっては敵わないので。
「それってどういう質問?」
我ながら安直な問いだとは思うが、あいにく僕のつたない語彙力ではこれくらいしか返すことができなかった。
彼女は戸惑ったようにゆっくり首を傾げ、僕を見る。長い睫毛にあしらわれた大きな瞳。黒目がちなその目に見つめられると、思わず萎縮してしまうほどの迫力である。
「どうって……そのままだけど。私は君にどう思われてるのかなーって。」
答えになっていないと心の中で嘆きつつ、僕は取りあえず今抱いている思いを伝えてみることにする。
「そうだなぁ……綺麗な人、とか?」
そう言った瞬間、彼女の目がほんの少し見開かれ、すぐに元に戻る。
「綺麗な、人?私が?」
ぷっ、と小さく噴き出す。またまた~と腕を軽く小突いてくるあたり、返事には成功したようだ。
「僕はいつも、そう思ってるよ。」
全く以て嘘ではない。心の底からの言葉である。が、彼女にはお世辞のように響いたらしく、リスのようにぷくっと頬を膨らませていた。
「嘘だぁ、ほんとに~?」
ほんとほんと、と笑い僕は目の前のグラスを持ち上げる。しゅわしゅわと立ち上る泡と、ブドウの香り。
シャンパンなんていうお洒落な飲み物を生まれてこのかた飲んだことがなく、先ほど一口飲み込んだときは大いに感心した。ワインを炭酸飲料にする発想があるなんて。
「マスター、彼と同じのを」
マスターを呼んだ彼女の甘い声がもう一杯注文した。
「君が飲んでるのおいしそうだったから飲みたくなってね。」
悪戯っぽく笑んだ彼女が、テーブルの端のメニューに腕を伸ばす。
そこで僕ははっと息をのんだ。
薄い生地のだぼっとしたカーディガンを着ている下の腕がふと晒されたからである。
その白い腕の内側には、鋭利なもので傷付けたかのような傷跡が幾筋か。
ただの怪我にしては不自然な傷跡であった。
僕がその傷を注視していると、気づいたらしい彼女が袖を整えた。
「それ、どうしたの?」
反射的に動くデリカシーの欠片もない自分の口を呪いながら、仕方がないので彼女の整った鼻先を見つめる。目を見つめるのは少々恐ろしかった。
彼女は、ちょっと微笑み、顔を伏せる。
間接照明がその顔に濃い影を作る。気まずい沈黙が落ちた。
詳細な表情は分からないが、彼女が何かを思ってその傷跡を見られたことを気まずく思うのか。その答えはきっと単純だろう。
「もしかして__」
僕が言い終わるより先に、彼女がかぶせるように言う。
「猫に、悪い子猫に、引っかかれたの」
焦りを伴って早口で発されたその言葉は、妙に詩的で美しかった。
もう一度、ゆっくりと言い直す。
「悪い子猫に引っかかれたのよ。」
悪い、子猫。ふっと僕は笑って言った。
「それはきっととっても可愛い子猫なんだろうね。」
言った直後、己の口がしでかした大きな失言に気が付いた。彼女が過去に、どう思って自分の腕に傷がついたのを眺めていたのか知りもしないくせに。
僕は口を噤み、彼女の表情をうかがう。
すると、心からおかしそうな笑みを浮かべ言うのだった。
「冗談はよしてよ。」
腕を小突かれながら、僕は許されたようで助かったと一人胸の中で息を吐く。
……彼女がこうやって笑えるのは、多分過去を達観して見ているからなのだろう。
そこまで考え、自分は何目線なのだと苦笑する。
酒が入ってよく滑る己の口を恨みながらも、そんな軽率な言葉に軽やかに答えてくれる彼女に、本格的に感謝をしなければならなかった。
今日はありがとう、楽しかったよ。
そんな言葉の応酬が続いた会計終わり、店を出た後のわずかな時間。
彼女は先ほどまで飲み交わしていた店の前のバス停でバスを待ち、僕はそれを見送るためにそこにいた。
他愛のない会話をそこはかとなく繰り広げること十分ほど。
ゆっくりとバスが停車し、少し古びたブレーキの音がききっと耳を打った。
「んじゃ、私はこれで。今日はありがとね!」
彼女はそう言い歩き出す。
「ん、こちらこそありがとう、楽しかったよ。」
僕の言葉を聞いた彼女はバスの入り口に入りかけ、何かを思い出したように立ち止まる。そしてすっと振り返り言うのであった。
「あんまり女の子の腕じーっと見ちゃだめだよ」
じゃあね、と手を振りバスに乗り込む。僕が何か言う間もなくバスが発進し、彼女の姿は遠くへ消え去る。
最後の一言でかなりぐさっと来た僕だが、そんな彼女に尊敬の念を覚えた。
だって、それくらいで許してくれるのだから__
見られてしまった。身体的にも、精神的にも不安定で、あまりにも幼かったあの頃の過ちを。
いや、吹っ切れてはいるのだ。ただあまり人様に見せるものではないという認識で生きているだけで。
油断したらしい。気の置けない彼と酒を飲むだけだからと薄手のカーディガンを羽織るだけで腕を隠そうとしたのがいけなかった。
まぁ__咄嗟に言った言葉があんなに洒落ているとは自分でも思わなかった。
「悪い子猫が引っかいた」
我ながら詩的である。しかも的を射ている。
はぁ~、と深めのため息をつきながらバスの背もたれに頭を預けてみる。
とんでもないことをしたなぁ、と己の腕に”自分が”つけた傷を思い浮かべる。
でも、そのおかげで、私はずいぶん成長したらしい。
目を閉じ、んふっと声は出さずに笑う。
自分の口からかすかにアルコールの匂いを感じる。
悪い子猫は大人になって、強く成長しましたとさ。
まるで童話の結末みたい。傷つけた体は強くなっていく。最近は聞くことのなくなったそれは、どこか無理矢理な感じもするが、案外間違ってはいないのかもしれない。
バスに揺られ揺られ、家までの道を帰りゆく。
今日は楽しかったな、なんて余韻に浸りながら。
……あぁそういえば。
彼の、「それはきっととっても可愛い子猫なんだろうね」とか、「綺麗な人だと思ってる」とかいう言葉にちょっとどきっとしたのはまた別のお話。
おわり。
三千文字超えました……頑張ったっどなたか褒めてください((おい
いかがでしたでしょうか。このお話のネタはちょっと前に思い着いたのですが、ようやく書き始めたのが今日でした……これでも頑張ったんですよ。うん。
相変わらず下手ですわ…長く書けない。まぁいいや、では。
コメント
5件
わ、私も一次創作書いてるから憧れだっ…!!!✨️✨️ほんとに天才すぎると思うよ好きです(唐突) その〜っ、台詞も描写も書き方がすきすぎるんだ!!なんかその、雰囲気が!!すき!!!!😖💕(語彙力)
読んでいる間に語彙に 逃げられましたね(?) もう本当にひきこまれてって 世界に入ったような気がしました、 それと雰囲気とかが凄く伝わってきて 言葉にうまく表せないんですけど 凄くささるけど、前を向かせてくれる ような凄く素敵な物語ですね✨️
つうんさんの「悪い子猫」の比喩が本当に綺麗で、胸に刺さりました。白い腕の傷跡に隠した過去を、あえて軽やかに「悪い子猫」と呼ぶ彼女の強さ。それに「可愛い子猫なんだろうね」と受け止める彼の優しさにぐっときました。最後に「大人になって強く成長した」と静かに笑う場面、もうね、泣きそうになりました。素敵な物語をありがとうございます。