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「カイル!!!」
王宮の謁見室を出た途端、廊下の向こうから勢いよく名前を呼ばれた。
聞き覚えのある、張りのある女性の声——俺の母の姉、つまり伯母にあたるセリア様だ。
振り返る間もなく、華やかなドレスを纏ったセリア様がこちらへ向かってくる。
年を重ねてもなお気品に満ちた姿は、王宮のどんな貴婦人よりも堂々としている。
そして——その瞳は鋭く光っていた。
「……っ!」
俺は反射的に一歩後ずさる。だが、遅かった。
「まあまあまあ!!やっと顔を見せたわね、この子ったら!!!」
次の瞬間、セリア様の腕が俺の両肩をがっしりと掴み、そのまま強く抱きしめられた。
上品な香りと共に、ぎゅうっと体を包み込まれる。
「ちょっ、伯母上、苦し……!」
「まあ!!こんなに痩せちゃって!!!食べてるの!?ちゃんと寝てるの!?体調は!?それに、今は義母上!でしょう!」
矢継ぎ早の質問攻めに、俺はタジタジになりながらもなんとか答えようとする。
「いや、まあ、色々あって……」
「色々!?色々じゃわからないわよ!!」
セリア様の声が響き渡る。
後ろで控えていた騎士たちが、苦笑しながらそっと目をそらす。
「まったく……レイラの子なのだから、もう少し自分の身体を大事にしなさい!!」
「……すみません……」
「反省するのはいいけれど、ちゃんと補給しなきゃダメよ!?今日は私の館に泊まりなさい。おいしいものをたくさん用意するわ!」
「あの……え、いやレイラ母上も用意すると……」
「もちろんレイラも一緒よ!!」
俺の意見は完全に無視された。
レイは隣で沈黙していたが、なんとなく「やっぱりか……」という顔をしている。
セリア様の「溺愛する妹の子を溺愛する」気質は有名で、避暑地で過ごしていた頃の俺は、まさにその愛情を一身に受けていた。
レイと初めて会ったのも、確かあの夏だった。
「……懐かしいな」
俺がそう呟くと、レイがちらりとこちらを見た。
「何がだ?」
「夏になると母上に連れられて、伯母上の館に行ってたんだ。あの頃、レイともよく顔を合わせてたよな……」
「……ああ」
レイは静かに頷いた。
「お前、いつも俺の後ろをついて回ってたな」
「えっ、そんなことあったっけ!?」
「あった。……今でも、少しは俺の後ろに隠れていればいいのに」
「は?」
レイの言葉に、一瞬何のことかと思ったが——すぐに意味を理解した。
俺が無茶をすることに対する、遠回しな苦言だ。
「……それは、まあ……」
言葉を濁すと、レイはため息をつきながら、そっと俺の腰に手を添えた。
「もう少し、頼ってもいいんだぞ」
その囁きが、やけに心に響く。
「カイル!?」
セリアが怪訝そうに俺を覗き込む。
「どうしたの!?……顔色が悪いわよ!!」
「え、あ、いや……」
しまった、少しセリア様を放置してしまい、余計な心配をかけたらしい。
「本当に……!!レイ!!あなた、ちゃんとカイルを世話しているの!?妻の体調管理もできないの!?」
突然、矛先がレイに向かう。
「……しています」
「どこが!!見なさい、この顔!!疲れ切っているじゃないの!!」
「伯母上……!!」
「義母上!」
「あ、え、は、義母上……!」
慌てて止めようとするが、セリア様の怒りの矛先は止まらない。
「あなた、こんなに細い子を酷使して!!!妻なのよ!?もっと大事にしなさい!!」
「……酷使はしていません」
レイは冷静に反論するが、セリア様は一切引かない。
「どうだか!カイル!!あなたもちゃんと自己主張しなさい!!この子ったら昔から優しいのはいいけれど、我慢しすぎるところがあるんだから!!」
「ええと、その……」
なんだろう、妙に落ち着かない。
母上のときもそうだったが、どうもこの家系の女性は人の本質を見抜くのが得意らしい。
レイも微妙に押され気味になっているのが、なんだか新鮮だった。
「とにかく!!今日は絶対に泊まるのよ!!いいわね!?」
——こうして、俺たちは半ば強制的にセリア様の館へ向かうことになった。父上たちはどうなるんだろうか……。