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【sk】
まだ桜の咲いていた頃、照に想いを告げられた。
真っ直ぐに、ずっと好きだったと。
驚きで何も言えない俺を見て、返事はいらないからって困ったように笑う。
頭を撫でようと伸ばされた手は俺の髪に触れることなく離れていき、照の胸元でぎゅっと握られていた。
いろんなものを無理矢理押さえ込んでいるようなその姿が、俺には苦しいって叫んでいるように見えて、そんなにも重い気持ちを抱え込ませてしまった罪悪感で更に言葉を見失う。
しばらく沈黙が続いた後、誕生日まで…と照が呟く。
「俺の誕生日まで好きでいさせて、気持ち悪かったらすぐやめるから…」
ちょっとでいいから頑張りたいんだ、と。
最後の方は照ごと消えていってしまうんじゃないかと思う程か細い声だった。
抱き締めてあげたい、素直にそう思った。
でも今俺がそうすることは照にとってとても残酷なことのように思えて、行き場のない手を握りしめてただ頷く。
「その日が終わったらちゃんと諦めるから。そしたら佐久間も今日のこと忘れていいから、これからもメンバーでいること許してほしい」
困らせてごめんねって悲しそうに笑う照に俺の方が悲しくなる。
許すとか許さないとか、何も悪いことなんてしてないのになんでそんなに申し訳なさそうに縮こまってるの。
「気持ち悪いなんて思ってない。気持ちに応えられるかはまだ…分かんないけど、ちゃんと考えるし、どんな関係になっても照のこと嫌いになんてならないから」
慰めなんかじゃなく、本当の言葉。
「ありがと」
泣きそうな声だったけど、やっと作りものじゃない照の笑顔を見れたのが嬉しかったのをよく覚えてる。
あれから約1ヶ月、ちょっとでいいから頑張りたいと言っていた照はちょっとどころか心配になるほど頑張っていた。
車で送迎してくれたり、時間が合えば一緒に出かけたり、寝る前の電話も日課になっていた。
今まで聞いたことのない甘い声で名前を呼ばれて、俺の話す言葉は1つも聞き逃さないように耳を傾けてくれた。
くしゃっと笑う表情からは目に見えるほど愛が溢れていて、比喩なんかじゃなく、俺は全身で照の愛を浴びていた。
好きでいられる時間に期限がついて、今しかできないことを全力でやろうとしてる。
俺にはその姿が後悔しないように、やり残したことがないようにって、慎重に自分の恋を清算しようとしているように見えた。
無理をさせてるんじゃないかと心配になって一度だけ聞いてみたことがある。
「頑張るって言ってたけど、こうやって一緒にいられるの普通に楽しんじゃってるわ、ごめんね?」
照はそう言って恥ずかしそうに笑っていた。
嘘ではない笑顔に安心しつつ、口癖になってしまった照のごめんねに胸が痛む。
楽しませてもらってるのも辛い思いをさせているのも俺なのに、全部自分が悪いみたいに抱え込んでしまう。
照が嬉しいと俺も嬉しくなって、時折見せる切ない表情を見ると胸の奥がきゅっとなる。
悲しい思いをさせたくない、ずっと笑っていてほしい、できればその隣には自分がいたい。
このあったかくて優しい愛に浸かっていいのは自分だけがいい。
そう思うようになるまでに時間はかからなかった。
多分、俺は照を好きになる。
そんな確信はあったけど、惜しみなく愛情を注いでくれる照に対してこんな中途半端な気持ちで応えることは到底できなくて、ただ満たされるだけの日々に甘えていた。
お互いの空いてる時間は一緒にいることが当たり前になって、最初の約束も忘れてずっとこんな日が続くような気がしてた。
そうして迎えた照の誕生日。
今日は久しぶりに9人揃っての仕事だったからそのままみんなでお祝いして、誕生日に全員集合できて嬉しいねなんて言って楽しい時間を過ごした。
照も嬉しそうにしていて、やっぱりSnowMan最高だなって俺も幸せな気持ちになる。
解散の時間になって、この後どうするか聞こうと歩み寄ろうとした時、それを拒むかのように照が口を開いた。
「みんな今日はありがと、寄り道しないで帰って明日に響かないようにちゃんと寝ること!」
リーダーらしく締めの言葉を綴って、全員がはーいと緩く返事をしてそれぞれ帰路についた。
いつもみたいに今日も照と過ごすものだと勝手に思い込んでいた俺は、そこから動けなくてじっと照を見つめる。
「佐久間も、ほんとありがとね。暗いから気を付けて帰ってね」
いつもの切ない表情で、そう告げられた。
もうあの助手席には乗れないんだって突きつけられたようで一瞬頭が真っ白になる。
俺が中途半端な気持ちのまま現状に甘えている間、照はちゃんと気持ちの整理をしてたんだね。
多分、照は最初から俺の答えなんて期待していなかった。
たくさん藻掻いて苦しんで、グループとしての均衡を保てなくなるのが怖くて、そんな辛い気持ちを捨てたくて告白したんだよね?
諦めるためだけの1ヶ月。
メンバーとしてわだかまりを残さないように照が設定した精一杯の期間。
辛い気持ちを押し殺してたくさん笑ってくれた。
同じくらいごめんねって言わせた。
俺がその努力を台無しにしちゃうのは絶対に駄目だって、上手く回らない頭でもそれだけは分かる。
「…うん!照も気を付けて帰ってね!」
無理矢理笑って、元気よく手を振ってから照に背を向ける。
ちゃんと笑えてたかな?
照はいつもこんな思いしてたの?
振り返りたい気持ちを堪えて、背中から動揺を悟られないように平静を装って歩き出す。
ああ、今日照と帰ると思ってたから車置いてきてたんだった。
そんな些細なことが信じられないぐらい悲しくて、泣きたいのに俺が泣くのは違うだろって心がブレーキをかける。
たった1ヶ月。
ただ一緒にいただけなのに、こんなに照でいっぱいになってたなんて。
楽しそうに笑う照、拗ねて唇を尖らせる照、悲しそうに視線を落とす照、どんな瞬間も声や仕草まで鮮明に思い出せる。
たくさんの人が行き交う夜の町で、自分だけがひとりぼっちな気がして視界が滲む。
たくさんのネオンでキラキラした世界。
これからの世界に思い出の中の照はいないんだと胸に刻むように、滑稽なほどカラフルな景色を目に焼き付けた。