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周りを吹く熱い風。
遠くまでひろがる晴天。
ごつごつとした岩場を、俺たちは進んでいた。
「大丈夫か?」
後ろを見ると、大きな段差を乗り越えたらしき三人が応えた。ふと、その更に奥の景色を見る。今まで登ってきた足場はもう見えないまでの高さになっていた。
「…ワープスター、もっといいところに降ろしてほしかったなぁ…」
「火口に直接突っ込むよりは良いだろ」
「そうだよカービィ!足腰を鍛えてムキムキになるチャンスだよ!」
「ムキムキのバンワド…なんか嫌だ…」
プロテインがどうだの言っている彼のキラキラ輝く顔にこちらは苦笑いを浮かべつつ、また上へと歩を進める。
「…やっぱ、だんだん暑くなってきたな」
「こっちは高度ある分、デンジャラスディナーよりかはマシですけどね」
ハルカンドラの大半を占める火山地帯は、ここと同じように屋外であるにも関わらず、異様に蒸し暑かった。それと比べれば、時折下から吹く涼しい風があるこちらは確かにマシだ。
「…んでリリル、火山内部に向かうので間違いないんだな?」
「ああ。こんな暑い星で、もしあいつが行くとしたら、そこしかないだろうからな」
「誰がいるのかとか、やっぱ分かるものなの?」
「ん、ウチ自身も、あの星――ホロビタスターの磁気に引っ張られていったから。イズもそんな感じだって言ってたし…まあ簡単に言えば、無意識に行き先を選んでたってことかな」
「じゃあ、ここに落ちたひとは、暑いのが好きなんですかね?」
「…多分な」
それ以来、リリルは何故かそっぽを向いたままだった。しかしさっきの話が本当なら、カエデは、何に惹かれてポップスターに落ちてきたのだろう。
(夢の泉…まさか、また“あいつ”が…?)
確信はない。それでも、最近身の回りで起こったことを照らし合わせれば、自然と辻妻が合ってくる。自身が見た悪夢と、そこで聞いた声。そして、カービィの感じたもの。
(だとしても、それがカエデとの繋がりになるわけではなさそうだ)
ただもしかすると、泉側がカエデの“夢”を感じとったのかもしれない。もちろん、『見る』ほうではなく、心に抱くもののほうだ。“楽園”へ行きたい。その強い意思が、夢が、カエデをポップスターに引き寄せたのだろうか。
「…今度は噴火しないといいね?」
「やめろ…言うな…」
突然すぎる話題を振られる。あの時は焦りが勝っていたが、今になって思い返してみれば恐怖が沸いてくる。この発言が本当にならなければいいのだが…
「なあ…“今度は”って、まるで前にもそんなことがあったみたいに言うんだな」
「そうだよ。前はいろいろと大変だったかな」
「じゃあ、その時のお話聞きたいです!」
リリルが振った話にバンダナが食いついた。いつものグダる流れを振り払うためにも、その話題に乗ってみる。
「リボンも言ってたとおり、昔に俺らはここに来たことがある。…クリスタルを集めるためにな」
「最初はもっと下の方…ジャングルとか、洞窟とかを探検してたんだけど、その後でここにも来たんだ!…で、その途中で近くの火山が噴火して、マグマの壁に追いかけられる羽目になったんだよね」
「サラッと危機切り抜けてきてる辺りはやっぱアンタらなんだなって思ったわ」
まあその後にも火山弾から逃げたりしたけど、とは言わなかった。今度こそ現実になる気がしたから。
「…でもなんやかんや言って、一番驚いたのは急に溶岩が動いて襲ってきたことかなぁ」
「…は?どうなってんのこの星…」
「いちいち気にしてたらキリがないですよ。頑張って慣れましょう」
バンダナもかなり肝が据わってきたようだ。ついこの前までは何にでもビビってばかりいたのに、今は率先して先に進むようにまでなったほどだ。
「バンダナ…成長したな…」
「何目線?」
「親」
ちょっと茶化しはしたが、バンダナの成長は早い。最近ではいつか自分が追い抜かれてしまうのではないかとも本気で思ったりする。
(負けてらんねーな…!)
「…お、見えてきたな」
「ここって…火山洞窟?」
「ああ。この中から下ってくぞ」
「そっか。火口から飛び降りるよりかは確かに安全そうだな」
陽が遮られる洞窟の中に入ると、下の方からこみ上げてきた熱気が俺たちを包む。さっきまでよりも高くなった温度に、なぜ数時間前の自分は薄手のガウンを着てこなかったのか、と後悔した。
「っちぃ……」
「あつーい……」
「暑いですね…」
「だな…」
火山の中では、前のときみたいに、いつも通りの日常に近い空気が流れていた。ところどころで現地の奴らの妨害を受けたりもあったが、それも三度目の旅でもはやすんなりと受け入れられるようになってしまっていたが、別にそれで何かが変わる訳もなく。ただ平和な旅を、もう少しだけ楽しんでいたいと願った。
「…まだ潜るのか?」
「ああ。この先なら多分、もっと暑くなるはずだから…それに、来たことあるんなら、分かるだろ?」
「……そうかもね。心なしか、前来たときよりかは暑い気がする。暑すぎてよく分かんないけど」
暑さと疲労で時間感覚がなくなってきてからも、ぼくたちは火山の中を歩き続けていた。前に一度通ったことのある道だからか、カービィと大王様の足取りには疲労こそあれど迷いは見えない。その後ろについて行くリリルさんは時折、何かを考えるようにして立ち止まり、また先頭の二人について行く。ぼくはまだ、そんな三人に必死についていくだけ。
(もっと、強くならなきゃ)
片手に持った槍を握る力が、少し強くなった気がした。ミシミシと木製の柄が小さな悲鳴をあげはじめたのに気づけたから、何とか槍が使いものにならなくなる事態だけは避けられたけど。
「……どうした、バンワド」
「あ、いや……何でもないです」
大王様には感づかれてしまったらしい。
(……ぼくも、いつかは――)
――そんな淡い決意を持ってぼんやりと上げた視界の端に、何かが舞った、気がした。わざわざ足を止めてくださった大王様を待つため、あるいは同じような心配を向けてくれているのか、二人もこちらを見ていて、誰も気づいていない。
なら、自分はどうするべきか?
「――カービィ、っ」
ピンクの柔らかい手を掴んで、反対で大王様のガウンを引く。それを使って巻き込むように、リリルさんの体を傾かせる。
(…なんだ、分かってるじゃないか)
考えるよりも先に、動く。うだうだと迷って助けられないより、ずっといい。
「どうしたの、バンワ――」
「ほのお、がっ」
自分の着地(受け身?)について何も考えていなかったから、かなりひどい体勢になりながらも答える。指差した先には、岩に残った火がゆらめいていた。
「……見つけた」
「あっ、おい!」
大王様の制止も聞かず、紫と黄の瞳に残り火を映したまま、リリルさんは奥へと進んでいく。見つけた、という言葉の意味を知りたくて、慌ててぼくたちも後に続いた。
「…っ、誰、だ」
「……ウチだよ、フェガ」
警戒心の露わになった少年の声と、熱気を裂くような鋭いリリルさんの声が、火山洞窟内で交錯した。