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私は呆然と立ち尽くしていた。はしたなく口をあんぐりと大きく開き、目の前に佇む建物を驚愕の眼差しで凝視している。
その理由は単純明快。相撲部に入部したお祝いにと木場先生に連れて来られた焼肉店が、超が軽く三つくらいはつくであろう高級焼き肉店であったからだ。
本日、私達は学校が終わった後、昨日の約束を果たそう、と木場先生に言われてここに連れて来られたのだ。
私の隣りには静川さんがいて、彼女も私同様、驚愕のあまり口を大きく開きながら超超超高級焼き肉店を凝視していた。
「ふわあぁぁ……あたし、てっきり激安食べ放題の方の焼肉だと思っていたし」
『ここは最高級の国産牛しか取り扱っていない超高級な焼肉店じゃない!? しかも利用するのはセレブとか芸能人ばかりだって噂の』
「さあ、遠慮せずに入りたまえ」
そう言って木場先生は悠然と焼肉店に入って行く。
彼女の後に沼野先輩が続いて店内に入って行くが、私と静川さんは尻込みしてしまい、中々一歩が踏み出せずにいた。
「ねえ、双葉っち!? ほ、本当に入っていいものなのかだし!?」
『たかだか入部の歓迎会にしては大袈裟じゃないかしら? 後で会費を請求されても、私のお小遣いじゃ……』
「奢りだと言うんじゃから問題なしじゃ! さぁ、今日は食いまくるぞ!」
そう言って、雷電丸はルンルンとスキップしながら店内に入って行く。
「うん、そだね、双葉っち! 実はあたし、家族のお土産にタッパーを持参してるし!」
静川さんは雷電丸の後を追いかけるように店内に足を踏み入れた。
中に入ると、執事のような衣装の男性店員さんが私達を出迎え、深々と頭を下げて一礼してくる。
「お待ちしておりました、お客様。こちらにどうぞ」
執事風のイケメン店員さんに連れられて、私達は席に案内される。
既に先に入っていた木場先生と沼野先輩は既に着席していて、遅れるように私達も席に着く。
高級な内装のモダンな店内には静かなクラシックのBGMが流れている。
見回すと店内には他のお客の姿は見えなかった。
「さぁ、約束通り、今日は私の奢りだ。遠慮なく食べたまえよ」
『こんな高級なお店で部活の歓迎会だなんて、大丈夫なのかしら?』
すると、木場先生は右人差し指をこめかみに当てながら、心の声で私に話しかけて来た。
『後で料金を請求はしないから、安心して堪能したまえよ』
木場先生の声が直接頭の中に響いて来る。
『やっぱり、木場先生は心の声で会話が出来るんですね!?』
『念話という。いつでも誰にも聞かれずに会話が出来るから、何か相談事があったらいつでも私の心に語り掛けてきたまえ』
『木場先生は何者なんですか?』
私は素朴な疑問を木場先生に投げかけた。本当に何者なのかしら?
『その辺も含めて、詳しい話は後だ。今は宴を楽しもうじゃないか』
すると、木場先生はテーブルの上に置かれていたハンドベルをチリンチリンと鳴らす。
それと同時に、執事風の店員達が待ち構えていたかのように現れて、私達の目の前に霜降り肉が乗せられた皿を置いていった。その他にも様々な部位の高級肉が乗せられた皿が運ばれてきて、たちまちテーブルの上は埋め尽くされた
そして、最後に私達の前にワイングラスがそれぞれお置かれる。見ると中には赤い色の液体が入って来てほのかにブドウの香りが漂って来る。
まさかワインじゃないわよね? と私はチラッと木場先生に視線を送る。
視線に気付いた木場先生はワイングラスを手に取りながら、パチリとウインクを送ってきた。
今の合図、中身はワインじゃないから安心して飲みたまえという意味よね?
「まずは高天双葉、静川のぞみ両名の相撲部入部を祝して乾杯しようじゃないか」そう言って、木場先生は立ち上がるとワイングラスを掲げる。
沼野先輩もそれに倣ってグラスを持って立ち上がった。
それに続き、雷電丸と静川さんも二人に倣う様にワイングラスを持って立ち上がる。
皆が立ち上がるのを確認すると、木場先生の合図とともに私達はお互いのワイングラスを優しく接触させた。店内に、カチャン! という乾いた音が鳴り響く。
「それじゃ、乾杯! 二人とも、ようこそ我が相撲部へ!」
そう言って、木場先生は一気にワイングラスをあおった。
木場先生に続くように沼野先輩も一気にワイングラスをあおり中のものを一気に飲み干す。
きっとブドウジュースよね?
そして、後に続き、私と静川さんもワイングラスを一気にあおった瞬間だった。
口の中に強烈なアルコールを感じ、私は思わずむせそうになった。しかし、今の身体の支配権は雷電丸が握っている。彼は不満げな表情を浮かべるも、中身を一気に飲み干した。
一方の静川さんは不味そうに顔を歪めると、こっそりと口に含んだワインをグラスの中に吐き戻していた。
「ちょ、これ、赤ワインだし!?」
やっぱりか。木場先生ったら何て物を飲ませてくれたの⁉ 一応、私達は未成年なんですけれども!?
「ほう、変わった酒じゃのう。じゃが、渋過ぎてワシの口には合わんのう」
「高天君はワインは苦手かね?」木場先生は興味深げに雷電丸にそう訊ねた。
「ワシは濁酒か日本酒の方がいいのう」
「なら、地酒の大吟醸などはどうかね?」
「一升瓶で頼もうか」
雷電丸がほくそ笑むと、木場先生は近くに居たイケメン店員さんに日本酒をオーダーする。
「先生、私はクリームソーダをお願いします!」
「何でも頼みたまえよ、静川君」
『ちょっと、雷電丸!? 私たちは未成年なのよ!? それに飲酒しているのを他のお客さんに見られたら、最悪、通報されちゃうわ!?』
「大丈夫だ。今日は貸し切りにしてもらっているからね。多少は羽目を外しても問題はないよ?」
木場先生は今度は念話ではなく、直接口頭で答えを返してくる。
私は《《貸し切り》》という言葉を耳にして一気に血の気が失せるような思いになった。
『貸し切り……貸し切りですって⁉ あ、あわわわわ……そ、それって、この歓迎会にいくらかかっているっていうの⁉』
「貸し切り? 木場先生ってば、お金持ちさんなの?」静川さんは感心したような面持ちで木場先生を見つめた。その瞳がキラキラと輝いている。
「自分の店なんだ。この位のことは造作もないよ」
その瞬間、私と静川さんは目を点にして顔を強張らせた。
『木場先生、今、何とおっしゃいましたか?』
「だから、ここは私が経営する店だと言っている。まぁ、経営はほとんど他人任せだがね。こういう時は人目を気にする必要がなくて重宝するよ」
「ならば、遠慮する必要はないの。じゃんじゃん食べるとするかの!」
そう言って雷電丸は次々と霜降り肉を網に乗せて焼き始めた。雷電丸は薄切りの霜降り肉をほんの少しあぶると、次々と焼いた肉を口の中に放り込んでいく。
私は皿に乗せられた高級肉を見ながら、脳裏に金額を思い浮かべながら嘆息した。
『ああ……一皿五千円くらいの超高級なお肉が、秒で次々と消え去って行くわ……』
私は頭の中で桁違いの金額を思い浮かべながら木場先生を見た。
『本当に何者なんだろ、木場先生って? やっぱり只者じゃないわね』