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広くふかふかのベッドで寝たユキは、それはもうぐっすりと眠り快眠をしたため、スッキリとした目覚めで目を覚ました。 侍女が着替えさせに来る前に今後のことを考えなければならないので、ユキは大きく伸びをしてごろんと大の字になり頭の中を整理した。
今の時点で分かっていることは、自分が王族の生まれのシラユキ姫であること。
そして、ここはパラレルワールドのような世界で、家族構成も地球のものと全く同じであること。
なぜか言語は日本語が通じるし、文字も日本語なのでそこは本当に助かっている。チートも何もないユキはある意味ラッキーであるといえた。
不思議な世界と思っていたが、ここは物語の『白雪姫』とほぼ同じの世界だと結論を出したのだ。
ユキの名前は白井ユキだし、ここの世界のユキはシラユキという娘で、意地悪な義母に見えないところで虐げられて生活をしているのは昨日の一日だけでもよく分かった。シラユキは苦労していたのだろうとユキは同情する。
ユキの義母である美玲は冷たい人ではあったが、意地悪などされたことはなかった。父の遺産を食い潰すようなこともしなかったし、必要なものは買い与えてくれたので、美玲なりに愛してくれていたのだと今になって気づいた。
「美玲さんに悪いことしたなあ……」
ユキはまだ十五歳になったばかりの子どもで、実母の愛に飢えていたことは事実だ。
それでも、美玲なりに愛そうとしてくれていたことに気づけず母と呼べなかったことに後悔が残る。
そこでユキはこの世界のシラユキがどこへいったのかと思い至ると、激しい頭痛がユキを襲う。
『あなたを巻き込んでごめんなさいね、ユキさん』
頭の中に鈴が転がるような美しい声が響く。
あなたはだれ?
『私はシラユキです。時間がないので率直に申し上げます。私は、義母の陰謀によって殺害されました。先日強く頭を打ちつけたでしょう? あれは義母が魔法を使って呪いをかけたからなのです。このまま死ぬのは悔しくて、最期に私も魔法を使いました。それがあなたを呼び寄せたことになるのです』
突拍子もないことを頭の中に響く声が淡々と説明されて、ユキは自分がおかしくなったのかと混乱した。
『いきなり話してしまい申し訳ありません。私はあなたと似た魂の性質を持っています。ですからこのようにコンタクトを取れるのです。いいですか、ユキさん。あの女狐は私だけではなく父まで殺めようとしています。私がそのことに気づいたせいで先に殺されてしまいました。お願いです、どうか父を助けてください。そして、どうかあなたは無事に生き延びて……!』
悲痛な叫びとともにシラユキなる者の声は掻き消えて聞こえなくなった。
今の話が本当なのであれば、ユキ(シラユキ)が生き延びたことを快く思わない王妃にまた殺されるかもしれない。
父も殺めようとしているだなんて許せない。
そして、ユキは誓った。シラユキに成り代わって、父を救い王妃を出し抜くと──。
そうと決まればユキがやることはただ一つ。やはり勉強あるのみだ。中学三年生だったユキはちょうど受験生で毎日勉強漬けの日々を送っていたので、そこは以前と変わらないのだと頭を切り替えた。
しかし、今のユキはただのユキではなくプリンセスシラユキなのだ。勉強だけではなく、プリンセスとして学ぶべきことも山ほどあるのだと家庭教師から言われたのも記憶に新しい。
これから死ぬ気で頑張らないといけない。父のために、そして、自分が生き延びるために。
それからほどなくして侍女が朝の挨拶とともに現れた。ユキは心を入れ替えてシラユキとして生きていくのだと決意を新たにする。
朝の支度を終え、昨日と同じくだだっ広い空間で食事を摂るが、今朝のことがありなかなか食事に集中できない。
テーブルマナーがなってないユキはこの時間が苦痛だった。王妃から嫌味を飛ばされるからである。
父である王は記憶障害の娘を気遣ってマナー講師をつけてくれることになったのが救いだ。こうなったら何が何でも完璧なプリンセスになってやろうじゃないか。
闘志に燃えるユキは父と義母を真似してどうにか食事を終わらせた。
家庭教師から課された課題を終わらせることができなかったユキは、プリンセスにあるまじきこととお叱りを受けたが、課題ができなかったのは記憶障害のせいであることを強く主張すると、家庭教師は大人しくなった。
それに味を占めたユキは困ったらこの手を使って乗り切ることにした。
記憶の一部が抜け落ちているということもあり、勉強は復習という形で昔シラユキが習ったというところから始まった。
この国は自然豊かなニーホン国というらしく、隣国との関係も良好でここ百年近く戦争などは起きていないそうだ。
なんだか日本と似ている名前の国だと思ったが、パラレルワールドだとしたらそういうこともあるかとあまり深く考えるのはやめた。
農業も発達しており資源も豊富で自国で全て賄えるため、国民も割りかし豊かな生活を送っているのだそうだ。
珍しく四季というものが存在しており、四季折々の景観が楽しめるのも特徴らしい。
日本と大して変わらないと思えば気が楽になってきた。
しかし、ここは地球と違い魔法というものが存在する。その魔法を使えるのはごく僅からしく、子供の頃に発現しなければ生涯魔法を使えることはないのだそうだ。
シラユキは十歳の時魔法が発現し、願えば欲しいものが手に入るという大変稀少な魔法が使えたと家庭教師は教えてくれたが、それは絶対叶うというわけでもないらしい。
例えば一輪の花が欲しいと願えば小鳥が嘴に携えて持ってきてくれるといった、そういうささやかなものだという。
「さて、シラユキ姫様、本日は魔法の復習をしましょうか。記憶障害がいつまでも残っては困りますし、それでいいですね?」
「ええ、それでいいわ」
シラユキとして生きると決めたユキは、丁寧な口調に変えた。ボロが出たら困るし、何よりシラユキの願いとユキ自身の願いが同じものであるから、何としてでも叶えなければならないという目的のために頑張るのだ。
魔法の練習はシラユキ自身の身体が覚えているのか、案外うまくいったことがユキには嬉しかった。
家庭教師が例え話で言っていた一輪の花が欲しいと願えば、青い小鳥がピンクの花を摘んで持ってきてくれたのだ。
魔法も特に呪文などはなく、言葉にすればいいので簡単にできるのがいい。日本人の感覚からすれば、シラユキの魔法は言霊を操れる能力者のように感じた。
「魔法は滞りなく使えるようで安心いたしました。あとは勉学とダンス、マナーですね。共に頑張りましょう」
「そうね、私も頑張るわ」
夜も更けようやく一人の時間を確保できたユキは、なぜシラユキと父が命を狙われるのか考えた。
物語の白雪姫は、その美しい容姿から義母である王妃に妬まれ毒殺されたと記憶している。
物語に王がいなかった理由は分からないが、権力を欲するわがままな王妃が全てを乗っ取ったと考えるのが正しいように思う。
世界で一番美しくないと気が済まない王妃は、身も心も美しいシラユキの存在が許せなかったのだろう。
王妃から心臓を奪うよう命令された狩人に、お情けで命を救ってもらい、七人の小人の住む家に居候するのだ。
そして、老婆に扮した王妃に毒入りりんごを食べさせられて一度は死ぬが、王子様のキスで奇跡的に蘇るという、全部がファンタジーの物語だったはずだ。
ユキは元々可愛らしい容姿をしていたが、プリンセス加工が入りリップのいらない赤い唇に艶やかな長い黒髪が似合う、大変美しい娘へと変貌していた。
鏡を見た時はあまりの美少女っぷりに感動したが、これが理由で殺されるだなんてまっぴらごめんだ。
ユキ自身はまだ十五歳だし、素敵な恋だってしたい。相手が王子様じゃなくてもいいから、ユキを愛してくれる人がいい。
そんなことを考えているといつの間にか眠くなり、広すぎるベッドでくたりと眠り込んだユキは「明日も生きていられますように」と願い、そのまま眠りに落ちた。