ニキしろ SS 体調不良
目が覚めたらもう12時半だった。ニキにおはようを伝えるために起き上がろうとするけれど、酷く身体が重たい。その瞬間、ズキっと頭に痛みが走る。嫌な予感がして、外を覗くためにカーテン開けると外は大雨だった。俺は低気圧に弱い。頭痛と倦怠感はこの雨のせいだと思い、とりあえず薬を飲むために無理やり体を起こした。
「あ、おはようボビー。よく寝たね」
「ん、おはよ。ニキ、頭痛薬…ない?」
「頭痛薬?あぁ、今日雨だもんね。頭痛いよね、ちょっとまってて、白湯と薬もってくる」
ニキは急ぎ足で台所で白湯を作り、薬を持ってきてくれた。水じゃなくて白湯を用意してくれるあたり、俺の事をよくわかってくれるいい恋人だなと、そう感じる。
「ごめ、ありがとう」
「大丈夫?今日は一段と顔色悪いね」
「んー、大雨やからなぁ。薬飲んで寝てれば良くなると思うわ。ありがとうな」
「まぁ撮影は夜だし、それまでゆっくりしよ」
今日の女研ラジオの撮影は夜のため、昼間から夕方は特に何も無かった。ニキの言う通り今日はやけに頭が痛くて倦怠感がすごい。最近アパレルの撮影や動画の編集で忙しかったから疲れが溜まっていたのだろうか。目を開けているのもしんどい。
「……ニキ、俺寝てていい?」
「いいよ、部屋で寝る?それともソファで寝とく?」
「部屋、戻る」
「わかった、何かあったらすぐ呼んでね」
「おぅ」
部屋に戻って、そのままベッドに流れ込む。
リビングから持ってきたペットボトルの水と頭痛薬だけそばにおいて、そのまま横になった。
雨の音はいっそう激しくなる。夏直前の蒸し暑さが続いていたくせに肌寒くて、体が震える。足先も手先も冷えるし、なんだか寒気がする。また嫌な予感がして、そのまま目を閉じて眠った。
30分ほど眠っただろうか。とてつもない気持ち悪さで目を覚ました。身体が浮くような不快感があり、暑いのか寒いのか分からない。頭の痛みも抜けず、ズキズキと刺されて殴られるように中心が痛む。その痛みに押されて気持ち悪い。
「……っ、や、ばぃ」
急いで起き上がってトイレに向かう。しかし、立ち上がって急いで部屋のドアを開けた動作で、立ちくらみなのか目眩がして視界が揺れた。胃の奥から、上がってくるものに抗えない。
「ッ、ヴぇ」
「……ッぉぇ、」
「お゛ぇっ…っう、はぁ……っは」
「ふ…っう、ゔぉぇ…え゛ぇっッ」
「ボビー!」
「はぁっ……ぁっ……はっ……ぅっお゛ぇェッ…ッ」
「まずいな…大丈夫、出しちゃっていいよ」
「に、き……来んな…っゔぅ…ゴホッ……ッ、グゥっ…ガハッ…はぁっ…」
「苦しいね、もう出ない?」
「う……っぉえ、え゛ェッ あ゛っおェッ」
「しんどいね……大丈夫だよ」
ニキは声をかけながら背中をさすってくれる。俺は2回大きく吐いた。咄嗟に両手で受け止めてしまって、胃の気持ち悪さと手の感覚の気持ち悪さ、感じたことの無いほどの頭痛で2度目を吐いた辺りでしゃがみこんでしまった。
「はっ……はぁ……ッ、はあっ…ぁっ…」
「全部出したかな……ボビー立てる?このままお風呂行っちゃおうか」
「……じ、ぶんで、行く」
「そんなんじゃ無理だろ、ほら、まだ気持ち悪いでしょ。おいで」
「……う…」
ニキに肩を支えられながら風呂場に移動する。ぐちゃぐちゃに汚れた部屋着を脱いで、洗面台においてシャワーを浴びる。身体に熱があるのかないのか分からないが、少し心地よい。口をゆすいで、体を洗って、早めに終わらせて風呂場を出る。1度座ったらもう立てない気がして、そのままの勢いでさっき洗面台に置いた汚れた服を自分で洗って洗濯機に入れた。
廊下に戻ると、俺が2度も吐いたものはもう綺麗に片付けられていた。
「ニキ、ごめん、まじで……」
「ボビーきて、熱図ろう。さっき少し熱かったから」
「……うん」
体温計を見ると37.8度。微熱程度だった。
「微熱やなぁ…」
「気圧と熱でしんどいわけだよ、今日はラジオお休みしてていいから寝てな?」
「そうするわ……それと、片付けさせちゃってごめんな」
「いいよいいよ全然。気にしないで寝てて」
「ありがと…」
俺は部屋に戻ってまだベッドに流れ込む。
一応念の為、と風呂桶を貰っておいた。
気持ち悪さが抜けないし頭痛も消えない。
また吐くのは嫌だなと思いつつ、先程2回も吐いて少し楽になったため、少しだけ水を飲んで眠った。
目が覚めた。さっきより体の不快感は無いし、頭痛も楽になった。時間を見ると18時過ぎ。もうそろそろ夕飯の時間だったが、食欲はない。ラジオ撮影は21時からのため、ニキもまだ編集かなにかしていると思う。ずっと1人で寝ていたのかと思うと少し心細い気がする。
立ち上がってリビングに行く。少しフラフラするが、吐きそうになるほどではなかった。
「ボビー、起きて大丈夫?」
「うん、さっきよりは楽やわ」
「ご飯、食べられる?」
「食欲はないんやけど……胃に何も無いのも気持ち悪くてな」
「そうだよねー、お粥作ろっか。待っててね」
「ん…ありがとう」
料理が得意では無いニキが、以外にもちゃんとお粥を作ってくれて持ってきてくれる。白だしの卵がゆ。
「食べられる分だけでいいからね。ご飯食べたら薬も飲んじゃっていいから」
「せやな……ほんまありがとう。いただきます」
とても優しい味がする。食べやすくて、量もそんなに多くないから食べ切れる。
時間をかけてゆっくりとそれを完食した。
「ありがと、食べきれたわ。美味しかった」
「良かった良かった、調子戻ってきたかな。雨はもうやんでるよ」
「ほんま?…………ほんまやなぁ、良かった」
「じゃあ洗い物終わらせちゃうからさ、ボビーは薬飲んで寝てよ?」
「……まって」
食器を持って立ち上がろうとするニキの裾を引っ張って止めてしまう。
「もうちょっと、横にいてや」
「……いいけど」
「俺、何時間も1人で寝てたん?」
「んーん、何度か様子見に行ったよ」
「ほんま?」
「だって放っておけないでしょ。当たり前」
「そっか……ありがと」
「どうしたの。甘えただね」
ニキに寄り添う形になって、寄りかかってしまう。別に体がしんどいとかそういうのじゃないが、少し人肌が恋しくなった。
「寂しくて…」
「そっかぁ、ボビーも寂しくなるんだぁ」
「うるさい…」
「大丈夫だよー裕太、1人にしないから」
そう言ってニキは頭を撫でてくれた。手の感覚が心地よくて表情が緩んでしまう。
「……ニキ」
「なぁに?」
「ちょっとでええんやけど…」
「ん?」
「ぎゅって……して」
「しかたないなぁ。裕太」
ニキは優しく俺を抱きしめてくれた。暖かくて心地よくて、ニキの匂いがして、ひとり寂しく眠っていた孤独感を消してくれた。心無しか体も頭も楽になっていた気がした。
「裕太、熱測ろっか」
「うん」
熱を測ったら36.9度。ストレスの熱だったのかなんだったのか、すっかり下がっていた。
「もう気持ち悪くはない?」
「あれだけ吐いてもうたからな……大丈夫」
「そっか。心配だったよ」
「ほんまごめんな、疲れてたんかも」
「そのうち二人でおうちでゆっくりする日作ろうね、僕見たい映画あるんよね」
「ええやん、見ようや」
家でのデートの予定を話しながら、俺はニキに膝枕してもらったままソファで眠ってしまった。
ニキは気づいた時は撮影していたけど、終わったらすぐ戻ってきてくれて、頭を撫でてくれた。その日は俺ら2人で一緒の布団で眠った。
コメント
1件