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国。それは偉そうで偉くない立ち位置に居る。
普通の人みたいに、働いて寝て食べて。の繰り返しだし、上司も部下もいる。
私と一般人の違いは、世界会議に行くか行かないかぐらいでしょね。
街の周りに雪が降り積もり始めた時期だった。
「先ぱーい今日もこれ頼めます?今日どうしても外せない用事あって、お願いします!」
「……いいですよ。」
「まじ!?ありがとうございます先輩!」
(……手をつけた痕跡無しですか…、)
そりゃあ、私みたいに断れなくて目立たないタイプは仕事を押し付けられるに決まってますよね。
だけどこんな性格と立ち位置じゃ挽回は無理そうですね。
今日は0時までに帰れるでしょうか。
早く帰ってぽちくんに餌をあげませんと。あとお風呂掃除もまだでしたね。ご飯はコンビニでいいでしょう……。
……そういえば最近忙しくて皆さんと会えていませんね、フェリシアーノ君は今頃ロマーノ君とパスタ食べてるんでしょうか、
ルートさんも兄弟仲良くお食事でしょうか、
アーサーさんはフランシスさんと喧嘩でもしてるんでしょうね。
アルフレッドさんはきっとゲームの練習ですね。前に私にボコボコに……
あれ、前ってどのくらい前でしたっけ……あの日から世界会議に行ったのが…………思い出せませんね、
そんな世間話を1人、頭の中で考えながらPCと向き合った。キーボードの音がしっかり聞こえるぐらい、辺りは静かだった。ぱっと目をそらした時、会社には私1人しかいなかったのだと、その時に気がついた。
「……私、何の為にこんな働いてるんでしょうかね。」
自国のため?
他国のため?
国民のため?
政府のため?
自分のため?
正解なんて見いだせなかった。私の人生はその程度のものなのだろう。その気持ちが答えだった。
荷物をまとめ、近くのコンビニに向かった。幸いアパートからは近いから終電を過ぎても問題は無い。これも、仕事を押し付けられる要因なのだろうか。じゃあ遠くに引っ越して転職してみましょうかね。
なんて甘く考えたが、立ち位置や仕事や会社の人達のことを考えると、そうも上手くいかないものだった。
一瞬。高いビルに目が行く。あそこから飛び降りたら、流石の国でも逝くのだろうか。なんて嫌な考えが頭をちらつく。
でも、よく考えたら、私が死んだところで誰も傷つきませんよね。世界会議なんてまた別の人が出席すればいいんです。私より愛想が良くて仕事ができる人なんてこの国に沢山いますよ。なんで私なんですか?私じゃなきゃ駄目な訳じゃないですよね。じゃあ変わりたいです。もう嫌です。国というプレッシャーに耐えられない。毎日のように、国なんだから。と完璧を求められる日々。別に私は完璧主義者じゃないです。なんなら家でゲームばっかして塩鮭食べてたいですよ。おかしいですよ。国だからって、私だけこんな目に合うの。誰か、なんとか言って下さいよ……。
独り言が止まらなかった。今まで貯めてきた分が溢れたのだろう。国だから弱音なんて吐いたら駄目。目で語りかけられているような気がした。いや、語りかけられてた。誰にもこんな弱音を吐かなかったから、自分の胸にずっとしまってた。何十年も何百年も。でももう限界なんです。これ以上は。
でもそんな簡単に私の体は責任から逃がさなかった。逝けなかった。救われなかった。でも、もう一回だけ。あと一回だけだから
「……」
「いらっしゃいませー」
(無難に首吊にでもしましょうかね、それか部屋で炭火焼きながらそのまま逝くのもいいですね。逝く前にさんまでも焼きましょう。)
(あぁ、でもコンビニにそんな大層な物売ってませんね。しょうがないです、今日は諦めて弁当と飲み物を……)
時刻は夜中。そんな中残っている物なんて限られていて、お弁当は残り1つだった。好きな物では無かったが、腹の足しになる物はそれぐらいしか無かったのだ。
弁当を手に取るとき、誰かと手が触れた。
「あ、すいませ、」
驚いた。私の目の前に立っていたのは、世界会議に毎回顔合わせする、私の好きな人のアーサーさんだったのだ。
「え、あ、菊?どうしたんだよこんな夜中に」
「アーサーさんこそ、なんでここに」
「連休貰ったから、日本に旅行しに来たんだ。夢中になってたらこんな時間になっちまったが、」
「……そうだったんですか、じゃあ弁当は譲ります。私は違うコンビニに行きますので、」
「いや、悪ぃって、」
「あと、お願いがあるんだが…」
「?」
「今日から明後日まで、お前ん家泊めてくんねぇか、?」
彼の右手には沢山の紙袋がぶら下がっていた。
「……お金使っちゃったんですか、」
「……はしゃぎすぎた。」
神様は意地悪だ。人生の最期を迎えようとしている私の前に、かつて同盟を結んだ友というなの好きな人を最後の妨げに使うのだから。
「……良いですよ。」
「ホントか!?」
「ありがとう。お詫びに、今日の夕飯は俺が作ってやるからな!」
「…あ、それは大丈夫です!私が作りますから!」
「え、そうか?」
いや、もしかしたら彼の作った料理で逝けるかも……。いや、流石にそれは彼に失礼ですし迷惑がかかってしまいますね。
「荷物はそこに置いといて下さい。コートはこちらに。私はポチに餌をやってくるので、ゆっくりしててください。」
「あ、あぁ、分かった」
急だったので部屋が散らかったままですね、まさか今日人を家に呼ぶことになるとは、
「余り物ですが、コンビニ弁当よりかは栄養がありますので。嫌いな物とかはありませんか?」
「大丈夫だ。ありがとうな、わざわざ。丁度和食とやらを食べてみたかったんだ」
「それは良かったです。」
私はちゃんと笑えているでしょうか。お客様の前なんですから、虚しい顔なんて見せたら見苦しいですよね。
「そういえばお前、最近大丈夫か?世界会議の時も眠そうだし、会議後もすぐ帰っちまうし」
「……はい、大丈夫ですよ。歳だからか寝付きが悪いだけです。最近は安定しているのでご心配なく。」
嘘なのは当たり前だった。心配させないために無理に笑った。空気を読んだ。国は弱音を吐いてはいけない。日本全体の印象が悪くなってしまうから。一度涙を許してしまえれば、その後に待ち受けているのはきっと、怠惰な生活にすぎなかった。
だから私は笑……
「お前、それ嘘だろ」
「……………え、」