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「お前、それ嘘だろ」
「……………え、」
理解が追いつかなかった。作り笑いは昔から身につけてきた物だし、誰にもバレたことは無かったから。
どうしましょう、何か言い訳を考えなければ、
私は国なのですから、弱い部分なんて見せたらいけません。下に見られてしまいます。
というか何でバレたのでしょう、私の顔は今そんな酷いんでしょうか、
布団の中で朝を迎えたのは数えられるぐらいしか無かった。家に居ても仕事に追われて結局徹夜し、そのまま着替えとトイレだけを済まし出勤する。目を開けた日は会社の天井と蒸しタオル。そんな日が朝ばかりが続いていた。
最近まともに鏡を見ていなかったから、自分がどういう顔をしていたか分からない。もしかしたら、他の皆さんにも心配させていたかもしれない。そんな不安が頭を過る。
「あの、えと……そんなこと、」
言い訳を考えながら否定する。その姿は醜くて仕方が無かった。いろいろな感情が混ざり合い、こらえていた涙が一気に溢れ出てくる。羞恥心、不安、醜くさ。考えるだけで嫌になりそうだった。
そんな私を彼はそっと抱きしめた。
「くま酷ぇぞ、お前最近寝てないだろ。片付けは俺がやっといてやるから、お前は早く寝ろ。」
「駄目、です……仕、事っ、が……」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ。お前が壊れたら元も子もねぇ。世界会議は誰が来んだよ」
「……そんなの、誰でも良いじゃないですか、」
正論を吐かれて感情でしか物を言えなくなった。彼の優しさが私の心を苦しめた。優しさを素直に受け止められない自分が嫌いだ。もうどうでもいい。そんな感情を抱え、私は目を瞑った。
雀のさえずりが聴こえる。温かい。目を開けた場所は、蒸しタオルの上でもなく、会社の天井でもなく、PCの画面でもなく、私の部屋の天井だった。
「! 今、何、!?」
時計の針は10時を指していた。遅刻どころでは無い。連絡もしてない上に仕事も片付いていない。それに携帯も見当たらない。絶望以外の感情が出てこなかった。
「あ、起きたか。良く寝てたな」
「ア、アーサーさ、私の携帯、仕事…行かなきゃ、」
「仕事場には俺から連絡しといた。父親になりきったんだが、バレてないといいな(笑)」
「…そう、ですか。ありがとうございます、」
「いいって。泊めてもらってる身だし、少しぐらいはな」
「……すいません。」
「なぁ、菊」
「? …はい」
「その……実は俺、お金余ってたからスコーン作ったんだ。朝飯のつもりで、」
「! これ、アーサーさんが作ったんですか!?」
「ま、まぁ」
いつもの炭のように黒い物体が出されるかと思っていたら、目の前には少し冷めているであろう、スコーンが出された。
「すごいです、練習したんですね。」
「べ、別にお前の為じゃないんだからな!?これは俺の朝飯の残りっていうか……」
「だと思いました」
「あ、いや、!……10分の1ぐらいは…お前のため、かも……」
照れくさそうな彼が微笑ましかった。なにより、私のためにスコーンを作ってくれたことが嬉しかった。強がっているが、きっと沢山練習したんだろう。
口の中には、バターの風味が広がった。
「………うん……とても美味しいです。ありがとうございます。」
スコーンは冷えているはずなのに、私の心は温まった。
「最近日本遊べてないんだろ?だから今日は俺と一緒に遊ぼうと思ってな!」
「……すいませんが、まだ仕事が終わってないんです、3日間も休ませて貰って、仕事が終わってないなんていったらシャレにならないので……」
「あ、…あぁ…そうか、忙しいもんな!すまねぇ、」
「……少しだけなら、いいですが…」
「!」
彼の笑顔が眩しかった。久しぶりに見た純粋な笑顔に心を打たれた。
そんな笑顔を向けられたら、少しとはいかなさそうですね。
「でも、その代わりに室内でいいですか?会社にバレたら面倒なので…」
「あぁ、もちろんだ。ありがとう」
「じゃあゲームでもするか?日本好きだろ」
「良いですね。負けても拗ねないでくださいよ」
「拗ねねーよ、どっかの自称ヒーローじゃねぇんだし(笑)」
そして私達は格ゲーのメニュー画面を開き、ゲームを楽しんだ。
2時間ぐらい遊んだころだろうか。
「……」
徐々にアーサーさんの眉間にシワが増えていった。そんなとこも愛らしいと思いながら、どっかの自称ヒーローと同じですね。なんて言ったらもっと機嫌が悪くなりそうだったから胸の奥にしまっておいた。
……ですが、今はアーサーさんの機嫌を直すのが最優先ですね。ついつい大人気ないことをしてしまいました。
「ゲームも沢山したので、映画なんてどうですか?お酒もおつまみもあるので。」
「! そ、そうだな!お前が良いなら見てやってもいいぞ」
喜んでの。隠しきれないですね。