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kgty
監禁もの・短い
短編集・一話で書きました、監禁話の前日譚
プロフィールに一度目を通してから読んで下さい
「ただいま帰りました」
憧れていたはずのこの言葉は僕にとってはもう恐怖の一部になっている。あの人が帰ってきてしまった。
ガチャリとドアの開く音
部屋の明かりが隙間から漏れる
床が軋む音が大きくなる
一瞬、目が眩む
見つかった
「かくれんぼ、すぐ終わってしまいましたね」
「刀也さん」
貼り付けたような笑顔でこちらを見下ろすこの男は加賀美ハヤト。
僕を誘拐し、監禁している男。
僕が好意を寄せていた男。
彼の名は剣持刀也。
私が愛する男。
誘拐し、監禁している。
きっと睨みつけこちらを見上げるが、こちらが一寸動くだけでそれは怯えの表情になる。
私の一挙手一投足に怯えてしまって、愛い。
ひょいと持ち上げ、所謂抱っこの体制。
「今日はビーフシチューを食べましょうね」
背中をとんとんとまるで赤子でもあやすかの様にされて連れていかれたのはリビングで、僕と彼が両想いとなる場所でもあった。
│
「……剣持さんは薄々分かっているのかもしれませんが、」
「私、剣持さんの事が好きです」
「これは、恋愛感情としてです」
夕日に照らされた彼の顔は、今でも忘れられない程に魅力的で、あの時の幸福感は、言葉に表せないほどだった。
│
「はい、あー」
『 ……ん』
ビーフシチューを乗せたスプーンが口に運ばれる。
「食べ終わったら一緒にお風呂に入りましょうね」
また一口と運ばれ、僕は大人しくそれを口に入れて噛み、嚥下するだけ。食べ終わり、頭を撫でられた後、皿を下げにキッチンへ向かった。
そして、彼が着替えを持ってくるまでも、僕は何もしない。ただそこにいるだけ。
こんな生活で生きる僕は、
まるで人形だ。
「はい、ばんざーい」
スウェットを脱がされ下着を脱がされ浴室へ入る。
「お湯加減大丈夫ですか?」
「この入浴剤、お肌に良いそうです」
あぐらをかいて浴槽に浸かる彼の間に置かれ、彼の話を聞く。返事等しないが、それでも彼はにこにこと笑う。彼の事を掴めない。
「髪を乾かしてくるので、少々お待ち下さい」
そう言って彼は僕をベッドに置き、寝室を出ていった。
変だ、僕が一人になる時はいつも足枷をつけるのに。…これは、チャンスなのかもしれない。
ちょうど、ドライヤーの音が聞こえ始め、僕は移動を開始した。あっちからはドライヤーの音で僕の足音など聞こえないはずだ。
広すぎると感じていたこの家の間取りは案外単純だった。
玄関ドアが見えた。あと少し、大丈夫、
「刀也さん」
反射で後ろを見る、やはり彼がいた。
「御手洗なら右ですよ」
笑顔でこちらを見つめるが瞳の奥は笑っていない。
「それとも、」
「御手洗をお探しではないのなら、」
「私は貴方に少し乱暴をしてしまうかもしれません」
不敵な笑みを浮かべる彼は異常者だ。彼の乱暴とは、性行為か、暴力か、どちらかだろう。
『 加賀美さんは』
『 僕を何だと思っているのですか』
「?」
「愛する人」
「この言葉以外に何があるのでしょうか」
『 違うでしょう』
『 …今の僕は、』
『 貴方の人形だ』
ひんやりと、空気が明らかに変わったことが分かる。
「………どういう意味ですか」
聞いた事のない低い声で思わず下を向いてしまう。このぼそりと出てしまった言葉は間違っていたのかもしれない。
「刀也さんは」
「私がどれだけ貴方を愛しているか」
「分からないでしょう」
「私はただ貴方を愛したいだけなんだ」
淡々と言葉を並べる彼に、僕はしばらく言葉を失った。呆気にとられている僕へ彼が動き出した事ではっとした。
『 僕を本当に愛しているのなら』
『 貴方の愛し方は間違っている』
ここを出て、あの日常へ戻りたい。僕はその一心で玄関へと駆け出した。
────開かない。
「こんな時の為に補助錠をつけておいて良かった。」
「人は追い詰められると正しい判断が出来なくなるそうですね。」
「先程の刀也さんの判断が正しいのかは、ご自分でもう分かっていると思いますが……」
「私からは言わないでおきましょう」
「嗚呼それと、」
「貴方は、私の愛し方を間違っていると言いましたね。」
「ならば、」
「────────────」
「ずぅっと一緒にいましょうね」
「刀也さん」
拝啓、お父さんお母さん
突然に姿を消してしまってごめんなさい。
ですが、心配しないで下さい。
僕は今、とても幸せです。
さようなら、お体に気をつけて。
おわり
終盤の「──────。」の部分は読んでくれた皆様で好きな言葉を当てはめて下さい。