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「いってらっしゃ~い」
相変わらず気だるげで、ふにゃふにゃした瞳さんに見送られて家を出る。
ちなみに一人ではなく“四人で”だ。
なぜかというと、あれ以上部屋にいられると危ないと思ったから。
まさか女の子が部屋に来て、身の危険を感じる日が来るとは思ってなかったけど。
「結局えっちな本は見つからなかったわね……」
「でも男の子はみんな持ってるんだよね?」
「ってことはやっぱり電子派ってことか~」
残念そうに言う三人。
この件に関して、俺は何も言わない方がいいだろう。
それが一番安全だ。
「まったく、良介は恥ずかしがり屋ね。別に私たちは言いふらしたり、引いたりしないのに。むしろ知りたいのよ。良介がどんな性的嗜好をしてるのか」
「あんまり女の子が性的嗜好とか言わないだろ」
「女の子だって男の子と同じよ。人並みにえっちなこと考えるわ」
「そ、そうか」
まさかここまで包み隠さず返されるとは思っておらず困惑する。
恥ずかしいとは思わないんだろうか。
そんなことを考えていると、一ノ瀬が俺の腕に抱き着いてきた。
胸がむにゅっと押し付けられる。
「い、一ノ瀬?」
俺が言うと、悪魔的な笑みを浮かべながら一ノ瀬が言う。
「それとも……知りたい? 私がどういうのが好きなのか」
「えっ⁉」
魅惑的な誘うような笑みで俺を見つめる一ノ瀬。
何度も感じたことのある“危険な香り”。
「私はいいのよ? 良介が望むなら、いつだって……」
一ノ瀬が俺の胸を細くて白い指でさする。
「ちょっと、何して……」
「ダメだよ!!!」
俺が抵抗する前に、花野井が俺の腕を引っ張る。
そして自分の方に手繰り寄せると、そのまま胸で俺の体をぽわんと受け止めた。
「良介くんを誘惑しないでくれる⁉ 私だから! 私!!!」
「わ、私?」
「大丈夫? 変な感じだったよね。でももう大丈夫だから、ね?」
「う、うん」
俺が頷くと、花野井が嬉しそうに微笑む。
それでも俺の腕はがっちりホールドしたままで、むしろぎゅーっとさらに締め付けてきた。
「ちょっと乳牛。良介から離れなさい。良介は“私”のものだから」
「何言ってるの? 良介くんは“私”のものだからっ!!!」
「二人とも……」
お願いだから俺を間にして争わないでくれ……。
困惑していると、花野井が上目づかいで俺に訊ねる。
「良介くんは私がいいよね? むしろ私じゃないと嫌だよね? ね、ね?」
「えっと……」
「惑わされないで。良介は私だけ見てればいいの。というか私だけを見て? じゃないと……ふふっ、嫌だから♡」
すると今度は一ノ瀬も、同じように上目遣いで首を傾げる。
道のど真ん中で、俺は一体何を迫られているのだろうか。
「九条くん~」
「うおっ」
一ノ瀬でも花野井でもなく、葉月が俺の手を引く。
そして強引に二人から引きはがすと、むぎゅっと俺に抱き着いてきた。
「葉月⁉」
「こうやって抱きしめるとね、幸せな気持ちになるんだよ~。九条くんもそう思わない~?」
「唐突すぎるっていうか……」
「大丈夫だよ~。私は九条くんが一番幸せだと思うことだけするからさ~。だから、私だけ見てた方がいいと思うな~?♡」
葉月が目にハートを浮かばせて俺を見つめてくる。
すると一ノ瀬と花野井が、負けじと俺に抱き着いてきた。
「良介、私だけ見て?♡」
「ダメだよ、私しかいないんだから♡」
「私だけに幸せちょうだ~い♡」
身動きが取れなくなる。
通りすがる人からは視線をめちゃくちゃ集めていて、人だかりすらできていた。
「なんかとんでもないくらい可愛い子たちに抱き着かれてない?」
「やばっ! めっちゃイケメン!」
「なにあの幸せすぎる空間は……」
「いいなぁ! 羨ましいなぁ!」
「これがハーレムってやつか……」
……こんな感じになるなら、俺の部屋にいた方がマシだったかもしれない。
何とか拘束から逃れ。
公園の前を通りかかると、ふと一人で泣いている少女の姿が目に入った。
一ノ瀬たちも気が付いたようで、お互いに目配せをして公園に入る。
しゃがんで目線を合わせ、できる限り優しい表情で声をかけた。
「君、一人? どうしたの?」
「うぇーーーん! お姉ちゃんが、お姉ちゃんがぁ!」
「お姉ちゃんとはぐれちゃったのか。どこではぐれたの?」
「ひっく、ひっく……わかんない」
「そっか」
見る限り“お姉ちゃん”らしき人はいない。
こうなったら、さすがに見捨てるわけにはいかないよな。
「じゃあ一緒にお姉ちゃん待とうか。公園に来るかもしれないしね」
俺が言うと、少女が泣くのをやめて俺を見る。
「……いいの?」
「いいよ」
頷くと、ぱちりと瞬きをする少女。
少しして、顔をパーッと明るくさせると俺の胸に飛び込んできた。
「わ~い! ありがとう“カッコいい”お兄ちゃん!!!」
「あはは……」
少女を受け止め、抱きかかえる。
どうやらこの一瞬で懐かれたみたいだ。
「少女すらも射止めちゃうのね……」
「恐ろしい人だね……!」
「やっぱり九条くんは罪深いな~」
「罪深いって……」
「えへへ、あそぼー!」
「うん、わかった」
それから少女も交え、五人で公園で遊ぶ。
ちょうどやることを決めかねていたのでよかった。
あとはその“お姉ちゃん”が来ればいいんだが……。
「萌子!!!」
公園の外から声が聞こえてくる。
「あ、“お姉ちゃん”だ!」
少女が声に反応し、その方に向かって走り始めた。
よかった。やっと保護者が来てくれて……。
「え? 九条?」
「……瀬那?」