コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昼前。ガーデンパーティーは、日差しの強い中、厚手の大きな布を日除け代わりにして始まった。ユウは幼い姿のまま、薄いピンク色のワンピースを着て、ツインテールをぴょんぴょんさせながらムツキにべったりとくっついている。
「珍しいな。いつもなら自由に動いているのに」
ムツキが何の気なしにそう訊ねると、ユウは少し返事に困ったような顔をしながらも口を開く。
「ん-。たまには私だって、ムツキのパートナーらしいところ見せないとね。ナジュみんとリゥぱんに譲り過ぎちゃっていたから」
ユウは上目遣いでムツキを見つめ、恥ずかしがる子どものようにもじもじしていた。
「なるほど。それじゃ今日はとことん付き合おう。お姫様抱っこするぞ」
ユウの返事を聞く前に、ムツキは既に彼女をお姫様抱っこしていた。急にどういうことだろう、と彼女は思うも、抱っこされた瞬間にその疑問も何もかも全てがドキドキで吹き飛んだ。
「あ、ありがとう。それじゃ、私があーんをしてあげるから食べたいものを教えて」
「お、ありがとう。じゃあ、あの美味しそうな肉料理がいいな」
ユウは嬉しそうな顔を隠さない。ムツキは遠慮をしないようにして、肉料理の方に歩いていく。2人が肉料理の皿に辿り着くと、彼女は一度降りて取り皿に料理を盛る。肉だけでなく、野菜などもバランスよく取り、器用にまとめた後に一口大にして切っている。
「お野菜と一緒に……っと。はい、あーんして」
「あーん」
ムツキが再びお姫様抱っこしようとするが、ユウはこぼすといけないと思い首を横に振ったので彼がしゃがみ込んで食べた。
「美味しい?」
「美味しいな。この野菜のちょっとした苦みもいい感じのアクセントかもしれない」
ムツキがしゃがみ込んで同じ目線で会話をしている。彼が嬉しそうにご飯を食べている。彼が笑顔を向けてくれている。それだけでユウは嬉しかった。
「昔はお野菜苦手だったのにね。すっかり大人になっちゃって」
「お母さんみたいだな」
「そういう面もあるよね」
「ありがとな」
ムツキはユウの頭を撫でる。嬉しさのあまり、彼女の顔が崩れに崩れている。ナジュミネとリゥパが2人に近付いていく。
「ユウはいいな。旦那様にお姫様抱っこをしてもらえて、あーんをして、頭も撫でてもらえるなんて」
ナジュミネはカクテルグラスに入ったジュースをくいっと飲み干しながら、独り言とも話しかけるとも区別のつきにくいほどの声量で呟いた。
「ムッちゃん、次は私ね?」
そう言いながら、リゥパはしゃがみ込んでムツキの背中にそっと寄りかかる。
「む。ズルいぞ。旦那様、妾もお願いしたい」
「ははは、順番な。だけど、今はユウが優先なんだ。また後でな」
「これが優越感ね」
ユウが少し嬉しそうに2人にそう告げるので、ムツキはぺちっと彼女のおでこを軽く叩く。
「こら、2人を煽るならやめるぞ?」
「ごめんなさい。やめないで……」
ユウは取り皿をテーブルに置いて、すぐさまムツキに抱き着いた。彼は彼女の頭を軽く撫でながら、再度お姫様抱っこをして立ち上がる。
「まったく、仕方ないな。ところで、ナジュ。酒は飲んでないよな?」
ナジュミネはお酒が入ると、加速度的にお酒を飲み始め、素直になり過ぎていると思うほどに感情や行動が現れる。一種の暴走状態だ。そのため、ムツキは2人きりになる時だけ、彼女にお酒を許可している。
「もちろんだ。ケットにも言って、ジュースだけ出してもらうようにしている。間違えないように筒状の植物管も差してもらっている。この管越しに飲むことも可能らしい」
「完璧じゃないか。まるでファミレスの対応みたいだけど」
「……ファミレス?」
ムツキはふと前の世界のことを思い出して、何の気なしにその単語が出てきた。ナジュミネは聞き慣れない単語に首を傾げる。
「いや、なんでもない。ナジュはちゃんとできてすごいな」
「ムッちゃん、むぎゅー」
ナジュミネが照れながら口を開こうとした瞬間に待ちきれなくなったリゥパがムツキの背中に抱き着き始めた。
「むむ。リゥパ! 先ほどから抜け駆けばかりズルいぞ!」
「先手必勝よ」
リゥパはムツキの背中の方からひょいと顔だけ出して、ナジュミネに勝ち誇ったかのような表情を見せつけている。
「むむむ。妾も抱き着きたい! 空いているところはどこだ!」
ムツキの前はユウがお姫様抱っこ、後ろはリゥパが抱き着いている。もう場所はなかった。
「私も対抗して、むぎゅー」
ユウがお姫様抱っこされながら、両手を彼の首に引っ掛けるように絡める。
「みんな甘えん坊だな。ナジュはちゃんと後で抱きしめるから待ってくれ」
「……うむ! 承知した」
ナジュミネはこくりと頷いてそう返す。
「ご主人! クマとゴリラに挨拶をしてほしいニャ。ご主人からも労いの言葉があるといいニャ。って、何をしてるニャ? こんニャ暑いのに……」
「ん? 俺の周りは快適だぞ?」
「魔力をガンガン使っているニャ……でも、ご主人の底なし魔力ニャら微々たるものみたいだニャ……」
ケットは膨大な魔力の使い方に少し呆れていたが、魔力を循環させるという意味では理にかなっていると思い直し、それ以上何も言うことはなかった。
「さて、と。ユウ。一緒に挨拶してくれるか?」
「しょうがないなー。でも、お姫様抱っこじゃ格好がつかないから、手を取ってもらえるかな?」
「もちろん」
ムツキはユウを下ろした後に、手をそっと前へと出す。彼女はそれに応じて手を差し出す。その後、2人は並んでケットの案内に従って、パーティー会場を歩き回った。