「█████。」
俺を呼ぶ声が聞こえてきた。もしかして、同士が帰ってきたのか? そんな俺の期待を消すかのように、彼は姿を現し、名乗った。
「アメリカ合衆国だ。」
その瞬間、俺の頭の中にいろいろなの考えがよぎる。だが、ソビエトを仲介とするアメリカとの戦争停止を伝えてあるはず、ソビエトもすでに同意している。少なくとも、それだけは大丈夫だろう。
自分を落ち着けようとしたが、彼は突然何かを取り出し、俺に見せつけるように目の前に差し出した。
「█████への俺からのプレゼントさ。」
その瞬間、目の前が真っ白になった。
ーーソビエト目線ーー
「アメリカ合衆国。応答せよ。」
俺は受話器の前で、資料をめくりながら声を発した。すると、なんとも不快な声が返ってきた。
「なんだい、ソビエトォ。君のせいで、せっかくのコーヒーブレイクが最悪になってしまったよ。」
「あ!そうかい!君は国内が最悪だったからね!そりゃあ最悪を共有する共産主義サマといったところかな!」
舌打ちが漏れるが、あいつのペースに乗る前に、俺は本題を切り出した。
「█████が降伏しようとしている。俺は仲介役に任命されたんだ。」
受話器から驚きの声が聞こえた後、沈黙が広がる。彼はその沈黙を守り、冷たく言った。
「えー降伏しようとしてるんだー。了解了解。じゃあ、降伏する前に力の差を知らしめてやるよ。おまえにもな。」
無機質な声。何かが引っかかる。俺は言葉を発しようとしたが、彼は大きな笑い声を上げて、俺の言葉を遮るように一方的に電話を切った。
もしかして……。俺は急いで█████の元へ向かった。
ーー???目線ーー
目を覚ますと、俺は暗く冷たい四角い部屋にいた。固い寝具から降りようとしたが、足に重い鎖がついていて動けない。手の届かないところには格子の窓があり、そこから漏れる光から、今が夜であることがわかる。
手は自由に動くので、指先で手遊びをしていると、鉄の扉を叩く音がして、彼が入ってきた。
「よぉよぉ。█████サン~。」
俺は彼に睨みをきかせたが、彼は興奮した顔で俺を見つめていた。
「自分から噛みついてきたくせに、今はこのザマか。なんてかわいそうなんだろう!」
そう言って、彼は俺を殴り始める。俺は声を漏らさないように耐えたが、内心ではその痛みに耐えきれない。
ああ、同士。俺はどうすればいいのですか。
同士、俺は知っていました。アメリカが捕虜に優しく接し、情報を巧妙に抜き取っていることを。
同士、俺は知っていました。上官が低階級の兵士たちに暴力をふるうことを。
ああ、同士……なぜ、いなくなってしまったのですか。なぜ……どうして……助けてください。
痛いです。痛いです。苦しいです。俺、頑張りました。祖国のために、必死で。
その思いが頭を駆け巡るうち、涙がこぼれた。
再びアメリカが拳を振り上げたとき、鉄の扉から鈍い音が響き、誰かが入ってきた。俺はその瞬間、意識を失った。
「アメリカ合衆国。止まれ。」
扉を壊すために使った槌をポケットにしまい、今度は鎌を取り出す。アメリカを見据えて、冷たく言った。
「あんなにこいつを殴っていたが、もう無条件降伏させているんだろう? なぜ、そんなことをしていた?」
アメリカは一瞬、俺を睨みつけた。
「嗚呼、ソビエト。こいつは危険人物だから閉じ込めておこうと――」
「ただお前のストレス発散の奴隷にさせたいだけだろ。」
図星だったのか、アメリカは舌打ちをした。サングラスに帽子。感情は読み取れないが、俺はこいつの気持ちを確信した。
恐ろしいまでに彼は俺の心を見透かし、静かに言った。
「1991年に、また来いよ。」
その言葉を残し、アメリカは█████の眠るベッドから立ち上がり、俺の方に向かってきた。
「ああ、怖がらなくていい。今は何もしないから。俺は忙しいんだ。新たな██を作るためにな。」
俺は引っかかる思いを胸に、彼が去るのを見送るしかなかった。彼は俺に鍵を渡し、部屋を後にした。
俺は█████のもとに行くと、彼は目を覚ました。顔を見た瞬間、警戒するように俺を睨んだが、俺はあいつみたいな鬼畜ではない。
足を拘束していた鎖を外し、彼を解放する。その様子に、彼は驚いた表情を浮かべた。
「……。」
沈黙に、俺は答えるように言った。
「俺はあいつのような非人道的なことはしない。ほら、自由だ。今のうちに外に出ろ。あいつが来る前に。」
彼は数秒間、考え込むように黙っていたが、やがて俺を見つめて言った。
「感謝する。ソビエト。――夜明けの前に、俺は消える。」
ソビエトからもらった急いで服を着替え、帽子を深くかぶる█████。そして、部屋から出て行った。その姿を見送った後、俺は部屋に█████を攫ったように見せる偽の証拠を残し、去る準備をした。
ポケットに手を突っ込むと、指先に何かが触れた。取り出すと、小さな紙切れとキャラメル二つ。
その紙には、こう書かれていた。
「ソビエトへ。██には俺が行方不明になったことにしてくれ。██海軍の一人がソビエトにいるという情報を得た。その者に、このことを伝えてくれ。きゃらめるは代価だと思って受け取ってくれ。」
この文章を見て、鼻で笑ってからキャラメルをひとつ口に入れる。ほんのりとした甘さが口の中に広がる。
我が国にいるという海軍の居場所を目指し、歩きながら空を見上げると、太陽が昇ってきていた。
太陽は昇り、沈む。終わりなどないように見えるが――彼の太陽は、沈んだ。
彼の太陽はもう二度と昇ることはないだろう。
「さようなら、大日本帝国よ。」
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