テラーノベル
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監禁、ヤンデレ、拘束、注意
目を覚ました瞬間、何かがおかしいと感じた。
意識がゆっくり浮かび上がってくるのに合わせて、その違和感だけが先に、くっきりと輪郭を持つ。見慣れた天井じゃない、という単純な事実が、妙に現実味を帯びて胸の奥に引っかかった。
白い光が視界いっぱいに広がっている。やけに強くて、目の奥を刺すみたいに痛い。思わず顔をしかめて、何度か瞬きをするが、視界はすぐにははっきりせず、ぼやけたまま揺れていた。
頭が重い。寝起きの鈍さとは違う、もっと奥のほうがじんと痺れるような感覚。
体を起こそうとした瞬間、背中に鈍い痛みが走った。
「っ……!」
硬い。冷たい。
床だと理解するまでに、ほんの少し時間がかかる。コンクリートのような感触と、長時間同じ姿勢でいたせいか、全身に残る違和感が、遅れて一気に押し寄せてきた。
肩も腰も、変に固まっている。腕も痺れていて、動かすたびにぎし、と嫌な感触がする。
「……なんで、床……」
記憶を辿ろうとして、そこで途切れる。
昨日のことは覚えている。家にいて、ねっぴーと会って──そこから先が、綺麗に抜け落ちていた。まるで途中から切り取られたみたいに、何もない。
…まさか、誘拐?
そんな言葉が頭に浮かんだ瞬間、自分でそれを否定した。
いや、ありえない。
だって昨日は、ねっぴーとしか会っていないはずだ。外に出た記憶もないし、誰かに連れ出された覚えもない。そもそも、遊んでいたのは家の中だった。
だったら、こんなことになるはずがない。
それに誘拐なんて現実味がなさすぎる。
そんなことを考えている間に、視界がようやく安定して、周囲がはっきり見えるようになった。
この部屋にあるのは、鉄の扉、無機質な壁、天井の電灯、それだけだった。
家具もなければ窓もない。生活の痕跡が一切なく、ただ閉じ込めるためだけに作られたような空間が、不気味なほど静かに広がっている。
「…ぉえっ」
急な吐き気に、慌てて両手で口を押さえる。現実味のない光景に、脳が拒否反応を示した。気持ち悪い。自分の存在だけが、この空間に取り残されているみたいで、急に怖くなる。
ここにいたくない。その一心で体を動かした、そのときだった。
足に、引っかかる感覚。違和感が、遅れて意識に上がる。
「……?」
ほんのわずかな違和感だったはずなのに、それがやけに重く感じられて、体がぴたりと止まった。さっきまで「ここから出なきゃ」としか考えていなかった思考が、そこで不自然に途切れる。
嫌な予感がする。
理由なんて分からないのに、見てはいけないものを見てしまうような、そんな感覚だけが先にあった。
ゆっくりと、視線を落とす。そして、完全に思考が止まった。
足首に、鎖が繋がれている。
黒くくすんだ鉄は、鈍く光っていて、床に打ち付けられた金具に、しっかりと固定されていた。
「なに、これ……」
声が震える。自分のものとは思えないほど頼りなくて、喉の奥でかすれるみたいに途切れた。
足首に触れている鉄は、想像していたよりもずっと冷たくて、その温度がじかに皮膚へと伝わってくる。じわじわと熱を奪われていくような感覚に、ぞわりと背筋が粟立った。
冷や汗が、一気に吹き出す。
こめかみから、首筋へ、背中へと流れていくのが分かるのに、拭うことすらできない。ただじっとしているだけで、体の内側から不安が滲み出てくるみたいだった。
どくん、どくんと、体の内側で暴れ回る心臓を落ち着かせようと胸を撫でる。しかし、そんなことお構いなしに、鼓動は増していく。
「はは、っ」
乾いた笑い声が響いた。あまりにも非現実的な状況に、笑いが込み上げてくる。頭がおかしくなりそうだ。
ありえない。こんなの、現実のはずがない。しゃがみ込んで、鎖に手をかける。金属は冷たく、ざらついていて、やけに感触が生々しい。
両手で掴んで、思い切り引っ張るが、外れない。
「……外れろって」
今度は思い切り床に叩きつける。想像よりも大きく響いた、ガンッ、という鈍い音に、耳がキーンと痛む。
それでも構わず、何度も、何度も。
今度はさっきよりも強く、苛立ちを足枷にぶつける。叩きつけるたびに、振動が腕を通って伝わってくるのに、手は止まらない。
「なんでだよ……!」
焦燥と苛立ちが増していく。
今度は足ごと無理やり引く。勢いよく、何度も、逃げ出そうとするみたいに力任せに引っ張る。
そのたびに、ガッ、という重たい金属音が鳴り響き、部屋の中で何度も反響する。その音がやけに耳に残って離れない。
引くたびに、ぴんと張り詰めた鎖が足首に食い込む。
「っ、い……!」
痛い、と遅れてはっきり理解するくらいには、足首にじんとした熱と鈍い痛みが広がっていくのに、それでも体は止まらなかった。
やめたほうがいいと頭のどこかで分かっているのに、その判断よりも先に焦りが膨らんでいって、外さなきゃいけないという感覚だけが強く残り、気づけばまた同じように力を込めて引いている。
そのたびに、同じ音、同じ衝撃が返ってきて、同じ場所に同じ痛みが重なる。
何度やっても、結果は変わらない。
「……なん、で」
どれだけ力を込めても、この鎖はびくともしない。そこに存在しているのが当たり前、とでも言うように、しっかりと足首にしがみついている。
外れない。
その事実が、じわじわと頭の中に広がっていくのに、まだ諦めきれずに動こうとする。
段々と、足首のあたりがじんわりと熱を帯びていき、触れなくても分かるくらい感覚がそこに集まって、赤くなっているのが想像できた。
「……は……っ」
息が乱れて、うまく吸えない。吸っているはずなのに空気が足りなくて、肺が浅くしか動かず、呼吸のたびに胸の奥がひりつくように苦しかった。
頭がくらくらする。視界の端がわずかに揺れて、焦点が合いきらないまま、不安だけがはっきりと残る。
さっきまであんなに必死に動いていたはずの体が、急に重くなって、支えきれずにその場に崩れ落ちた。
「……っ」
息を整えようとしても、うまくいかない。浅い呼吸を繰り返すだけで、落ち着く気配はなかった。
そのまま、動けずにいるうちに、ようやく、理解してしまう。
逃げられない。
どれだけ足掻いても、この場所から出ることはできない。
その事実が、静かに、でも確実に、胸の奥へ沈んでいった。
「……誰か」
かすれた声が出る。
でも、それじゃ届かないとすぐに分かる。
「誰か!!」
叫ぶ。もう声じゃない、ただの雄叫びみたいに、喉の奥から無理やり引きずり出す。痛い、ずっと痛いのに、止められない。
声が壁に叩きつけられて、跳ね返る。自分の声だけが、何度も何度も返ってくる。外は、何も返してこない。
「助け、て!…たっ、助けて!」
言葉が崩れる。掠れて、千切れて、それでも吐き出す。
空気が足りない。肺が潰れるみたいに苦しい。
吸っても吸っても、全然足りない。それでもやめられない。やめたら終わる。ここで止まったら、もう誰にも届かないまま、全部が閉じてしまう。
本当に、終わる。
だから叫ぶ。無理やり息をこじ開けて、喉を壊してでも。
「っ、げほ……げほっ、げほ……っ!」
どれくらい叫び続けたのか、もうわからない。喉が、咳き込むたびに、内側から爪で抉られるように痛む。
さっきまで確かにあったはずの声は、もうどこにもなくて、ひゅ、と掠れた空気だけが漏れる。喉の奥まで乾ききって、張りついて、動かすたびにひび割れるみたいだ。
「……な、んで」
やっと絞り出した声は、自分でも驚くほど小さくて頼りなく、そのまま床に落ちて消えていくみたいに、どこにも届かずに途切れた。
さっきまであんなに叫んでいたはずなのに、その余韻すら残っていない。自分の声が、この空間からまるごと切り取られてしまったみたいに、何も返ってこない。
耳を澄ませても、聞こえるのは頼りない自分の浅い呼吸だけで、ここに本当に自分しかいないんだと突きつけられる。
胸の奥が詰まる。
息を吸おうとしても、うまく入ってこない。浅く、途切れ途切れに空気を取り込むことしかできなくて、呼吸のたびに不安が膨らんでいく。
怖い。
理由なんて分かっているはずなのに、それを言葉にする前に、ただ感情だけが先に溢れてきて、喉の奥で引っかかる。
ここには、誰もいない。
その事実が、静けさと一緒に、ゆっくりと全身に染み込んでくる。
こんなの、きっと夢だ。
そうであってほしいと願う気持ちのほうが強くて、ほとんど祈るみたいにその考えに縋りつく。
ありえない、こんな状況が現実なわけがない、と自分に言い聞かせるみたいに考えながら、震える手で頬に触れ、そのまま確かめるように叩く。
パシッ、と乾いた音がやけに大きく響いて、遅れてじんとした痛みが広がる。
それだけでは足りない気がして、もう一度、今度はさっきよりも強く叩く。
バシッ、バシッ、と同じ音が続き、そのたびに痛みがはっきりしていくのに、目の前の光景は何一つ揺らがない。白い光も無機質な壁も足首に繋がれた鎖も、すべてが最初に見たまま、そこにあり続けている。
「……な、なんで、だよぉっ」
声がかすれる。
叩けば覚めるはずだと、どこかでまだ信じているのに、叩くたびに現実の感覚だけが強くなっていく。
夢じゃない、そんなことはもう分かり始めている。でも、それを認めた瞬間に全部が終わる気がして、やめればいいのにまた頬を叩いてしまう。
「……ぃやだっ」
小さく、声が漏れた。
でも、この部屋には、それを聞く誰かすらいなかった。
そのとき。
──ガチャ。
音がした瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。
びくりと肩が震えて、反射的に息を止める。さっきまで自分の荒い呼吸しか聞こえていなかった空間に、はっきりと別の音が入り込んできたことで、頭の中が一瞬で真っ白になる。
誰か、いる。
その事実だけが先に浮かんで、遅れていくつもの考えが一気に押し寄せてくる。
ここに自分を閉じ込めたやつかもしれない、という恐怖と、助けが来たのかもしれない、という期待が同時にぶつかり合って、頭の中でぐるぐると渦を巻いていく。
助かるかもしれない。
その考えが頭に浮かんだ瞬間、抑えていたものが緩んで、視界がじわりと滲んだ。怖いはずなのに、それでも期待してしまう。ここから出られるかもしれない、という可能性に縋るしかない。
ゆっくりと、鉄の扉が動く。
重たいはずのそれが、ぎぃ、と低い音を立てながら、あまりにも簡単に開いていくのが、逆に現実感を失わせる。
外から差し込む光が、暗い部屋の中に流れ込んできて、思わず目を細める。
その光の向こうに、人影が浮かび上がった。
「山本?」
聞き慣れた声だった。
何度も呼ばれてきた、間違えようのない声。それを認識した瞬間、さっきまで張り詰めていたものが一気に緩むのが分かった。信じられないくらい自然に、体の力が抜けていく。
「……ぇ……ねっ、ぴー?」
自分でも驚くほどかすれた声で名前を呼ぶと、それだけで現実に繋がった気がして、胸の奥に溜まっていた不安が一気に崩れ落ちた。
ねっぴーだ、間違いない。
「ねっ、ねっぴー!!」
声が裏返る。ほとんど叫ぶみたいに名前を呼びながら、気づけば前に出ていた。
助かった。本気で、そう思った。
さっきまで感じていた恐怖も、息苦しさも、全部どうでもよくなるくらい、その一つの事実に安堵した。鎖を引きずる音も気にせず、夢中で距離を詰めようとする。
でも、ガンッ、と鎖に足を強く引かれる。
勢いのまま前に出ようとした体が、途中で無理やり止められた。ぐらりとバランスが崩れて床に倒れ込む。
それでも、必死に起き上がってねっぴーの顔を見上げる。その途端、さっきまで必死に押し込めていた不安や恐怖が、一気に溢れ出してきた。
「……ねっぴー……」
名前を呼んだだけで、喉が詰まる。
視界が滲む。
何か言おうとしても、言葉にならない。
代わりに、息が震える。
「っ……よかっ……」
声が続かない。
涙が、勝手に零れる。
止めようとしても止まらない。
頬を伝って、ぽたぽたと床に落ちていく。
「ねっ、ぴー……っ」
もう一度呼ぶ。
その名前を口にするだけで、ここに一人じゃないと実感できて、少しだけ呼吸が楽になる気がした。
怖かった。
どうしようもなく、怖かった。
何も分からなくて、誰もいなくて、どこにも逃げられなくて。その全部が、今になって一気に押し寄せてくる。
「……よ、よかったぁ……」
ようやく絞り出した声は、情けないくらい震えていた。
他に言いたいこと、聞きたいことは山ほどあるはずなのに、出てきたのはそれだけだった。
体の力が抜ける。
それでも、目の前にいるねっぴーから目が離せなかった。
そこにいるだけで、全部大丈夫になる気がして。
「…ありが、とうっ、助けに来て、くれて!」
ここから出られる、もう大丈夫だ、さっきまでの恐怖は全部終わる。そんな未来を、疑う余地もなく信じ込んで、それ以外の可能性なんて最初から考えようともしていなかった。
だから。
「……あはっ」
その小さな笑い声を聞いたとき、何を言われたのか一瞬理解できなかった。
「……え?」
間の抜けた声が漏れる。
聞き間違いだと思いたかったのに、その違和感が消える前に。
「あはっ、ははははっ……!」
ねっぴーが、笑った。はっきりと、隠すこともなく、楽しそうに、声を上げて。
ねっぴーはしばらく笑い続けていた。
でも、その笑い方は自分の知っているものとどこか決定的に違っていて、楽しそうなのに温度がなく、ただ音だけが空間に響いているみたいに聞こえた。
さっきまで胸を満たしていた安心が、その笑い声に触れた瞬間、ひび割れるみたいに崩れていくのが分かる。
「……ねっぴー?」
もう一度名前を呼ぶ。
さっきみたいに安心して呼ぶことができなくて、ただ確かめるみたいに、恐る恐る。
笑いが、ふっと止まる。
ねっぴーがこちらを見る。
その視線を受けた瞬間、言葉にできない違和感が胸の奥に引っかかる。見慣れているはずの顔なのに、そこにある感情だけが噛み合っていない。
「助けに来たって……誰が?」
ねっぴーは、まるで軽い冗談でも返すみたいな調子でそう言ったのに、その言葉の意味だけがやけに重く頭の中に落ちてきて、遅れてじわじわと広がっていく。
「……はっ?」
何を言われたのかは分かるはずなのに、それをそのまま理解として受け取ることができなくて、言葉と現実がうまく結びつかないまま、思考だけがその場で止まる。
助けに来たんじゃない?
じゃあ、なんでここにいるんだ?
そんな当たり前の疑問が浮かぶのに、その先に進めない。
頭の中で同じ言葉だけが何度も繰り返されて、考えようとするたびに空回りする。答えに辿り着く前にまた最初に戻されるみたいに、何も整理できないまま不安だけが膨らんでいく。
「…え?…っ、どういうこと?……た、助けに来てくれた…じゃん」
そうであってほしい、という願望をそのまま口にしているだけで、確認というよりも、否定してほしくて言っているような声だった。
今聞いた言葉が間違いだって、冗談だって、そう言ってほしくて、縋るみたいに口にしていた。
ねっぴーは、そんな俺を見て、いつもと変わらない笑顔で言う。
「違う違う、めっちゃ泣いてたから様子見に来ただけだよ」
軽い調子で言う。冗談みたいな言い方なのに、その内容だけが噛み合わなくて、頭の中で引っかかる。
その言葉を、どう受け取ればいいのかが分からない。様子を見に来た。それを助けに来た、って言うんじゃないのか。
頭の中で同じ疑問が何度も繰り返されるのに、どこにも答えがないまま、ただ引っかかり続ける。
「まだわかんない?」
ねっぴーが、少し楽しそうに首をかしげる。
その仕草は、これまで何度も見てきたはずのものとまったく同じだった。だからこそ余計に違和感が際立って、見慣れているはずなのにどこか噛み合っていない感覚だけが胸の奥に残る。
「山本を閉じ込めたのは俺だよ」
──その言葉を聞いた瞬間、頭の中が一度、空白になった。
音としてはちゃんと聞こえている。言葉としても理解できるはずなのに、それが意味として繋がる前に、どこかで弾かれてしまって、うまく現実として受け取ることができない。
「……はぇ?」
また、間の抜けた声が漏れる。自分でも驚くくらい、何も乗っていない声で、考えるより先に口から落ちたみたいだった。
理解しようとする。
さっきの言葉を、もう一度、ゆっくりなぞるみたいに頭の中で繰り返す。
閉じ込めた。俺を。ねっぴーが。
そこまで並べた瞬間、何かが引っかかる。繋がるはずのものが、そこで止まる。
その先に進もうとすると、うまくいかない。理解できるはずなのに、どこかで拒まれているみたいに、思考がそれ以上形にならない。
疑問が次々に浮かんでくるのに、それが一つの答えにまとまる前に崩れていって、同じところをぐるぐる回るだけで前に進めない。
俺たちは親友なのに、そのはずなのに。
その前提があるせいで、さっきの言葉とどうしても噛み合わなくて、何度考えても途中で弾かれてしまう。
理解しようとすればするほど、逆に分からなくなっていく。頭の中が整理できないまま、同じ言葉と同じ疑問だけが繰り返されて、どこにも辿り着けないまま空回りし続ける。
「何言って……」
否定しようとして、唇を震わせたものの、次の言葉が出てこない。何を言ったらいいのか、どうしていいのか、まったく分からなかった。
ねっぴーの顔を見る。
冗談を言うときのはずの、いつもの笑顔ではない。どこか淡々としていて、軽くもなく、深刻でもなく、ただ、そこにある事実を告げるだけの顔。
「山本の家に行って、眠らせて、ここに連れてきた……理に適ってるでしょ?」
淡々とした声が耳に届くたび、頭の中で小さな歯車が狂った音を立てる。
一つ一つの言葉が、理屈としては正確すぎて、現実味を帯びすぎていて、逃げ場がない。
昨日、家にいたこと、ねっぴーと会ったこと、そのあとの記憶がないこと。
目が覚めたら、ここにいたこと、全部、勝手に繋がってしまう。
理屈の上では説明できてしまう。
でも、心はその事実を拒んでいる。理解はできても、受け入れることができない。
「……っ」
息が詰まる。胸の奥が、ぎゅっと押しつぶされるように重くなる。
辻褄は、完璧に合ってしまう。でも、現実として認めたくない。
目の前にいる親友が犯人だという事実が、目の前で笑っている。
その違和感と恐怖が、理屈を越えて体中を貫く。
「……そ、んな……」
声にならない声が漏れる。
理解してしまった自分を、心が許さない。
理屈は正しいのに、感情が拒否する。
現実が、理解と絶望の間でねじ切れそうになる。
「…お願いっ、帰してよ!なんでこんなこと!」
声を張り上げた瞬間、全身の力が一気に抜ける。
喉が熱く、裂けるように痛む。
必死で呼吸を整えようとするけど、息が荒くなりすぎて、肺が酷く痛む。
「──っ!げほっ、えほっ!」
咳き込みながら声を押し殺す。
それでも叫ばずにはいられなかった。
この状況、この恐怖、この理不尽。全てをどうにかして止めたくて、必死に抵抗しているのに、体は思うように動かない。
ねっぴーは、そんな俺をじっと見下ろす。顔には笑みを浮かべながら、でもその目は冷たく鋭くて、俺を縛り付ける力が確実に伝わってくる。
「…山本を俺だけのものにしたいからだよ」
言葉が、胸の奥に重く突き刺さる。
拒絶しようとする気持ちと、理解せざるを得ない現実が、一気に押し寄せる。
「……?」
理解できない。
どうしてそんなこと、と思うより先に、胸が締め付けられて、息が詰まる。
「俺、山本のこと大好きなんだよね。好きな人とは…ずっと一緒にいたいじゃん?」
その声は優しい。
でも、優しさの裏にある独占の圧は、逃げ場を完全に奪っていた。
目の前にいるねっぴーは、他でもない俺を握り潰す力を持っている。
「山本は俺のこと好き?」
答えられない。
親友として、なら間違いなく答えられたはずなのに。
でも今、ねっぴーが求めているのは、それじゃないんだろう。
涙が頬を伝って落ちていく。さっきまでの、ほっとした安堵の涙とはまったく違う、胸の奥から湧き出して止められない、恐怖と混乱、絶望が入り混じった涙。
ねっぴーは、泣きじゃくる俺にゆっくりと近づき、手を伸ばして頬の涙を拭う。
その手は、柔らかくて温かくて、優しいのに、どうして胸の奥まで圧迫してくるんだろう。
「大丈夫。俺がそばにいる。寂しくないよ」
言葉は慰めのつもりなのだろうけど、受け入れ難い言葉の棘となって俺の胸に突き刺さる。優しさと恐怖が同時に押し寄せ、頭の中はぐちゃぐちゃにかき混ぜられていく。
何より、目の前の親友よりも、この不気味な状況よりも、その言葉に対して何も言うことができない自分のことが、一番恐ろしかった。
はい。記念すべき一話目でした。あらすじにはバッドエンドと書きましたが、メリーバッドエンドでしたね。完全なバッドエンドよりも、ふたりが幸せに腐っていくのが好きなんです。(作者の癖)
バッドエンドとハッピーエンドを交互に書いていこうと思っているので、次回はハッピーエンドということですね((
本編の前に注意書きを書いてますし、バッドエンドのときは題名の一番前の部分に★、ハッピーエンドのときは☆を付けてますので、各々自衛よろしくお願いします。
書いて欲しいシチュエーション、世界観、入れて欲しいセリフ、設定など…
リクエストあったらコメントよろしくお願いします。(※別カプのリクエストは受け付けておりません。)
コメント
4件
才能ありまくる文章でもう … !! 🥹💞 すごく好きです npymのメリバをありがとうございます 😭✨️
なっっ………、、、なんて素晴らしい小説なんだ…… 文才ありすぎますよ!!! めっちゃ大好きです!!!最高!!!