「男なんてカスしかいないんだから、姫愛は男と関わっちゃダメだよ」
耳にタコができるほど父親に言われた言葉。普通の人なら、この発言は非難するだろう。 でも、私はこの言葉は本当だと毎日のように感じる。今は、父親ですらカスだと思うけど。
父は、私が12の時に不倫して知らない女と家を出て行った。母は、14の時に交通事故で死んだ。電車が何時間かに1本にしか来ないようなド田舎で、貧乏で高校にも行けずにいた私は、祖母の貯金を勝手にATMから引き出し、逃げるように東京に来た。
このことを思い出したのは何年ぶりだろう。そんなことを考えながらリップを塗り直す。
「うわ、最悪…」
思わず声が出てしまった。鏡の前の自分に嫌気がさす。
「あのクソジジイ…私イエベだっつってんじゃん」
このリップ私に似合わなすぎじゃない…?
「はぁ…」
ため息をついて間もなく姫愛ちゃん、と声をかけられる。
「はい」
振り向くと、そこにはこの店のオーナーがいた。ちゃんとした年齢は知らないが50代くらいだろう。
「何?」
私はおっさんになんか興味ないっつーの。まぁ、ろくな学歴がないからおっさんの相手することになったんだけどね。
東京に来てしばらくは、家もない、金もないで苦労したっけ。1週間くらい経ったときに「そろそろ餓死すんのかなぁ」とか考えてたらここのオーナーに拾われた。幸い、と言っていいのか分からないけど容姿には恵まれていたおかげだろう。
「指名入ってるから部屋いってあげて」
そう言うと、オーナーは去っていった。
「いや、どこの部屋だよ…」
軽く舌打ちをしてから鏡を見て身なりを整えると、私は客の部屋に向かった。 どうせ今日もろくでもない男、適当にやっときゃ金もらえるでしょ。
媚びるのは得意。軽く咳払いをしてから部屋のドアを開ける。
「こんばんは〜!いらっしゃいっ!!」 気持ち悪いくらいに無理やり声を高くして、表情筋吊りそうってくらいの笑顔を作る。
パーカーにジーパン、無造作な髪に好みが別れそうなタイプの眼鏡。おそらく大学生という所だろうか。若い奴を相手にするは3年ぶりくらいかな。
その男は、私を上から下にくまなく見た後に言った。
「…キモ笑」
「はぁ!?何よあんた!!」
あ、やば。
「あとお前、別にそんな可愛くねぇな笑」
彼は私を嘲笑した。
「じゃあ何で私を指名したのよ!?」
自分で言うのもなんだけど、私は「歌舞伎町1」の風俗嬢だ。その歌舞伎町1の女に対して何その言い方。キモイのはどっちだよ。
「まぁいいや、お前の腕前見せてよ」
どこまでも上から目線だなこいつ…!!ふざんけんなよ…歌舞伎町ナンバーワンの本気、見せてやるよ。
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