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2週間後ーーーーー
「数1、90点。数2、95点。国語180点。英語165点。社会185点、理科155点」
右京は結果を読み上げ、デスクに座る蜂谷を見下ろした。
「推定偏差値、72」
その結果に蜂谷は鼻で笑った。
「なんか嘘くさいな……」
「いや、本当だって!」
右京は目を見開いた。
「お前は基礎学力はあるんだから、あとは勉強の仕方だけだったんだよ。数学を解くスピードや、丸暗記教科の習得だけでこんなに成績が跳ね上がった!」
興奮しながら、この夏休みの集大成としてチャレンジした去年のセンター試験を握りしめ右京は頷いた。
「この調子だったら明日の模試バトルでも20位以内目指せるな!!」
「あっそ」
蜂谷はデスクに肘をつきながら自分より嬉しそうな右京を微笑んで見上げた。
「お前、あんまり嬉しそうじゃないな」
右京が目を細める。
「んなことねえよ」
言いながら、包帯を巻いてる右手ではなく左手を引き、腰に腕を回す。
「だって20位以内に入れたら、お前とまた一緒に学校に行けるだろ?」
言いながら頬を撫でくいと首を引き寄せる。
右京が蜂谷の肩に手をつき、大人しく顔を寄せる。
唇を合わせ、舌を挿入すると、素直に自分のそれも絡めてきた。
手触りのいい半そでのパーカーの裾から手を入れ、腰を撫でる。
「んん……」
途端に甘い声が漏れる。
さらに背骨のラインに指を滑らせると、面白いほどに腰がしなり、腹筋がビクンと震えた。
あの日から、彼は制服を着てこなくなった。
なぜなら―――。
「勉強も終わったことだし……」
言いながらパーカーを鎖骨までまくり上げる。
「いいだろ……?せんせー?」
胸の突起に唇を這わせる。
「――――っ」
右京はこの時だけ、少し恥ずかしそうに唇を噛む。
しかし突起を舌で転がし、軽く歯を立てると、その顔は簡単に快楽に崩れていく。
あの1回だけで終わらせるつもりだったのに―――。
あれから2週間。
蜂谷と右京は毎日セックスをした。
確かに一度抱かれたはずなのに、永月のことを簡単に忘れた右京は、自分のこともそうやってすぐに忘れるのだろうと思ったら、いてもたってもいられなかった。
どうせ忘れられるなら、
少しでも多くの自分を覚えていてほしい。
そしてもし、彼に本当に大切な人ができたなら、
頭の片隅で、
“蜂谷の方が気持ちよかった”と
そう思ってくれれば、それだけで―――。
「手を抜くなよ」
自分の下から右京がこちらを見上げる。
「は?」
「本番。手を抜くなよ?」
不安そうな顔をしている。
「は…」
蜂谷は笑った。
「お前にここまでさせておきながら手を抜く馬鹿があるかよ」
「―――ホントだろうな」
「ああ。絶対20位に入ってやる」
言いながらひときわ強く腰を打ち付けると、右京はぎゅっと目を瞑り、顎を上げた。
明日。
そう、明日だ。
明日の模試で全てが決まり、
全てが終わる。
◆◆◆◆◆
迎えた模試バトル当日。
学年ごとに3校に分かれることになっており、今年の3年生は城西高校での受験となった。
右京は大型バスに乗り込むと、久しぶりに再会する同級生たちに挨拶をしながらため息をついた。
5組と6組は同じバスなので、蜂谷も乗り込んでくるはずだが、まだその姿はない。
「よお。久しぶり」
通路を通りながら蜂谷と同じく6組の諏訪がこちらに向かってきた。
「ああ」
言うと彼は隣に置いていた右京のバックを勝手に持ち上げると、ドスンと隣に座った。
毎日蜂谷の隣にいたため、久しぶりに見る元野球部四番バッターの姿は、やけに大きく感じた。
「休み中、何してた?」
無表情で聞いてくる。
「何をって、俺をなんだと思ってんだよ。受験生だよ?べんきょーだよ、べんきょー」
言いながら窓の外に視線を移す。
「ふーん」
諏訪の視線をうなじあたりに感じる。
蜂谷には散々痕を付けないように言ったし、今朝鏡で念入りにチェックしたから平気だと思うが、それでも自分が見えない場所となると自信がない。
「それにしても」
言いながら諏訪がため息をつく。
「永月がいないと平和だな」
「…………」
言われてみれば永月の姿がない。
「え、あいつどうした?」
「お前……。マジかよ」
諏訪がドン引きしながら振り返る。
「3日後、全国大会だろうが!」
「え、あ。そっか」
ここ数週間、蜂谷のことしか考えていなかったため、忘れていた。
「今年は茨城らしい。応援のバスが出るって聞いたけど。お前いかないの?」
「い、行くよ!行くに決まってんだろ。ははは」
自分と蜂谷以外の時間の流れが、不思議と止まっているような錯覚にとらわれていた。
―――1ヶ月、経ったんだ。
その間永月はおそらく練習に明け暮れ、諏訪や清野や結城や藤崎は、毎日夏期講習に参加し、
そして自分たちは――――。
「それではみなさん、揃いましたね!」
引率の教師が前から叫ぶ。
「うえーい」
生徒たちのやる気のない声が返事をする。
「え……あ!ちょっと!」
右京が立ち上がる。
「どうしたんだよ?」
諏訪が眉間に皺を寄せる。
「蜂谷がまだ来てないんだよ」
「はあ?」
言うと諏訪はため息をついた。
「あいつなら、いるだろ」
「え?」
「ほら。前から2番目、左」
「――――!」
右京は自分の目を疑った。
そこには髪の毛をダークブラウンに染め直した蜂谷が座っていた。
「今度はウィッグじゃねえだろうな」
クククと諏訪が笑う。
その声に反応したのか蜂谷が、座席の間からこちらを振り返った。
まだ驚いた顔をしている右京に向かってふっと笑う。
―――あいつ……。
「―――何、お前、顔赤くなってんの」
諏訪がこちらを睨んでくる。
「なってねえよ」
ふいと窓の方を見ると、
「……こら、よく見せろ」
その顎をぐいと捻られる。
「いってえな!やめろ!この怪力が!」
右京がその手を振り払うと、諏訪は目を丸く見開いた。
「ったく!」
窓に肘をつき、頬杖をする。
「―――右京」
諏訪が妙に改まった声を出した。
「あんだよ?」
「その右手の包帯、どうした」
「―――あ?」
右京は自分の手首に視線を移した。
「えあ。ちょっと風呂で転んで怪我しただけ」
「―――もしかして、お前………」
「出発しまーす!」
教師の声が響き渡り、バスはプスーッと圧縮空気を開放したあと、静かに動き出した。
「なんだよ?」
右京が見上げるが、諏訪は何かを言うのをやめたらしく、
「―――いや、いい」
と言って通路側のひじ掛けに頬杖をつき、そっぽを向いてしまった。
「………?」
右京は首を傾げながら、城西高校へと連なり動き出したバスを眺めた。