通勤当日。私は服に付いている汚れをはたき落とし、職場へ行く準備をしました。服を整え、カバンの中身をチェックし、鍵を閉めたのを確認してから向かいます。
私が寝ていた間に電車やバスは無料化している、とアメリカさんが言っていました。最近は人々の貧困化が進み、電車やバスが使えなくなってしまう人が多くなってしまい、仕事に行けない人が多くなってしまったからだそうです。
電車やバスが無料になったからか、満員になることが多くなったようです。そして、今私は、満員電車に乗っています。
満員電車に乗った感想としては、苦しいです。人に押し潰されていて、前を見ても、後ろを見ても、左右どちらを向いても人が近くにいるのです。
動こうとすると他の人に触れてしまったり、カバンが当たってしまったりと他人に気を使ってしまいます。逆に、色んなものが私に当たることもあります。
それと、人が多いせいか、熱気を感じます。外の気温はそこまで暑くはなかったのですが、ここはとっても暑かったのです。正直、これをほぼ毎日しなければならない、というのは少し嫌です。冬のときは案外いいのかもしれませんが。
電車が揺れると、人々が一斉に私に倒れかかり、私もつい倒れそうになりました。誰かがものを落としても、誰も避けることができませんし、誰も取れることができません。
そして、話し声が大きいです。一つ一つの話し声は小さいのですが、それが積み重なり、大きく聞こえるのです。流石にストレスになってしまう可能性があります。
これが数分も続き、人波がおさまったと思ったらまた人波がくる、ということが何回も起こりました。
そうして終電。ここで降りるみたいです。今までなんとも思っていなかった人々が一斉に電車から降りようとし、私は人々に押されてしまいました。
「!!」
人混みに押され、倒れてしまいそうになった時、お腹の方に衝撃がきました。お腹の方に目を向けると、スラッとした誰かの手が私を支えていました。
後ろを見ると、そこには、シルクハットを被った人がいました。影から見える視線に、私の体は強ばりました。まるで迷惑そうな人を見るようでした。
「す、すみません!」
私は、とりあえず人混みから離れ、その人に謝罪をしました。しかし、その人は何も言わず、そのまま立ち去ってしまいました。確かに、あんなところで転びかけてしまう人は迷惑でしょう。少し、罪悪感があります。
私は、心についた黒い靄が取れないまま、会社に行きました。
十数分後、道に迷いながら私はついに会社を見つけることができました。しかし、一つ問題がありました。どこから入ればいいのか分からなかったのです。普通に大きな扉から入ればいいのか、それとも、どこか専用の裏口から入るのか、わかりません。
ここで、アメリカさんの電話番号の出番です。私は上の電話番号を打ち込み、アメリカさんに電話を掛けました。待っている間の音がさらに私の心拍数を上げていきます。
「もしもし」
アメリカさんの声が聞こえてきました。
「!もしもし!アメリカさん、実は聞きたいことがありまして」
「どうした」
あまりにも慌ててしまっているのか、言葉が出ません。空回りする頭をなんとか落ち着かせ、ただいまの状況をアメリカさんに伝えました。
「………ははっ。何だよそれ。普通にそこの大きいドアを使って構わない。というか、ほとんど全員がそこを使っている。回りが見えていなかったか?」
「!」
教えてもらったことには感謝しようとしましたが、回りが見えていなかったかと言われてしまいました。確かに、あまり回りが見えていなかったかもしれません。
「す、すみません!慌ててしまい、回りが見えていませんでした!」
私は慌ててアメリカさんに謝罪しました。
「いや、いい。朝から笑わせてもらったよ。これは、社内が明るくなるな」
と、アメリカさんが明るい声で言ってくれました。
「とにかく、早く入ってこいよ。他の皆も日本を待っている」
「わ、分かりました!失礼しました!」
電話が切れた後、私は大きい扉から会社に入りました。
「イギリス!!今日が何の日か覚えてないの!?」
「は?知らねェよ。何かあったか?」
「はあっ!?おまっ、バッカじゃねえの!?今日は日本が戻ってくる日だってアメリカさんが言ってたでしょ!?」
「あ!?それがオレにどう関係あるってンだよ!!」
「大アリでしょ!!!?日本がイギリスのところに来るかもしれないじゃん!!」
会社に入ってすぐに聞こえてきたのは、男性二名の声のようでした。声の元を探ると、どうやら別室で言い合いをしているようでした。
「っていうか、今日は早く来いと言ったじゃん!何で逆にいつもの時間より遅く来てるの!?」
「ウルセェッ!何しようがオレの勝手だろ!お前にどうこう言われる筋合いはねェッ!」
二人の喧嘩はさらに激化していました。どうしましょう。止めた方がいいでしょうか。しかし、部外者が喧嘩を止めるというのはいいのでしょうか。止めるか止めないか、私が悩んでいたその時
「はーい!ストップストップ!二人とも、喧嘩はよくないよ!」
最近聞いたことのある声、二人の間にイタリアさんが入ってきました。
「ほら、二人とも!今日は喧嘩しちゃダメでしょ!」
「でも、このイギリスが遅れてきたから!」
「このフラカスが騒ぐからだろ」
「はあっ!?」
喧嘩してはいけない、とイタリアさんは言っているのに、二人は喧嘩を止めるのを知りません。
「もーっ。ほら、そこに日本がいるんだよ?」
と、イタリアさんが私の方を指差してきました。
「………えっ」「はっ?」
二人は私の方を素早く見つけ、しばらくの間、私の事を見ていました。
「………!?」
私は気づきました。紺色の髪の人、あの人は電車の時、私が転んだ時に支えてくれた人でした。
「あ、あの、あの時はありがとうございました!」
「…」
私が完全に言い終わる前に、シルクハットの人はどこかへ行ってしまいました。
「あ、あれ…」
「あー、ごめん。あいつ、人見知りなとこあるんだよね。多分、日本が記憶がないってこと聞いたから、どう接せればいいか分からないだけだと思うよ」
もう一人の白髪の女……いえ、男性?は私の肩を叩きながらそう言いました。彼の目には呆れが強く出ていました。
「まあ、いつかは前と同じように接するよ。それまで頑張ってねー」
「ちょっと待ったぁ!!」
白髪の男性がどこかへ行こうとした瞬間に、イタリアさんは彼の襟を掴み、こちらへ引きずってきました。男性はどこか呆れが出ていて、疲れも出ています。
「フランス!自己紹介ぐらいしないとダメでしょ!」
「えー……ま、そっか。あの頃のボクとちょっと違うところもあるしね」
イタリアさんに促され、フランスと呼ばれた人は私の目の前に来ました。
「んと、初めまして。でいいのかな?ボクの名前はフランスだよ。あ、この服着てると女だと間違われるけど、男だからね」
白髪の男性、フランスさんは少々緊張しながら挨拶してくれました。確かに、パッと見女性にしか見えないかもしれません。よく見てみると、服装が何だか女性用みたいな感じがします。
「えっと……フランスさん。その、申し上げにくいのですが…そちらのご用服は女性用ではないでしょうか…?」
私がそう訊ねると彼はその言葉、待ってましたと言わんばかりに話し始めました。
「それは、あのイギリスのせいなんだよ。イギリスって言うのは、さっきいたあいつのことね?あいつ、意味もなく女装や男装するやつが嫌いらしくて。だから、もし嫌いなことをすればイギリスと同じ仕事にならなくて済むかな~って思ってた。だけど!!そんなことは一切なくなんならイギリスと同じ仕事になることが多くなったんだよ!?おかしくない!?」
だんだんと早口になっていくフランスさんを横目に、イタリアさんは苦笑いをしていました。
「まあまあ!フランス落ち着いて!」
「落ち着けるわけない!!」
イタリアさんがフランスさんを落ち着かせようとしますが、フランスさんの気持ちは爆発寸前でした。
「あ、あの…」
「何!?」
気持ちが高ぶっているのか、私がフランスさんを呼ぼうとすると、フランスさんは大きな声で、苛ついているような声を出しました。そして、少々声が高くなっていました。
「………女装似合ってますね」
「…」
私がそう言うと、フランスさんは顔を赤くし、咳払いをしながら
「す、好きでやってる訳じゃない!で、でも、似合ってるって言ってもらえるのは、嬉しい、かも」
と、モジモジしながら言いました。
「も~、フランスは素直じゃないところがあるね~!」
「うるさいなぁっ。パスタへし折るよ?」
「おぉ、殺り合う気?」
………少々、ギスギスしたような雰囲気になってしまったような気がします。
「ま、まあ!フランスもいい子だし、イギリスもいい子だから!安心してね!」
と、イタリアさんが言うと
「いや、イギリスはいい奴ではないって!」
と、フランスさんが突っかかってきました。私は思いました。もしかして、イタリアさんとフランスさんは仲悪いのでは?と。
「こほん。それじゃあ日本、アメリカさんに会いに行こっか!イタリアお姉さんが案内するね!」
「あ、ありがとうございます」
イタリアさんの問いに答えると、急に前に引っ張られた感覚がしました。イタリアさんに手を引っ張られたのです。
他のところの扉より、しっかりして、豪華な扉がありました。どうやらそこにアメリカさんがいるみたいです。
「あんまり緊張しないでいいからね!」
そうイタリアさんが言うと、そこに意識してしまい、体が強ばってしまいました。
私はドアを叩き、その扉を開けました。
「し、失礼します」
扉を開けると、色々な書類に埋もれているアメリカさんがそこにいました。疲れているのか、しばらくは埋もれたままでした。
「!!日本、来たのか。す、すまん!すぐ片付ける」
私が扉を閉めようとしている間に、書類をまとめる音、書類が落ちる音、またボールペンが落ちる音などさまざまな音が部屋中に響き渡りました。私が扉を閉めアメリカさんの方を見ると、何ともなかったかのような様子でアメリカさんが座っていました。
「す、すまん。気を抜いていた」
と、申し訳なさそうにアメリカさんが謝ってきました。
「い、いいえ!いいんですよ!」
「日本が来る前にあの書類を終わらせようとしたのだが、流石に無理だった。かたじけない」
流石に、数十枚もある書類を私が来る前に終わらせるのは、幾日もないと不可能だと私でも感じました。無理して終わらせなくてよかったのに、と心の中で思いました。
「そ、それでは、まず業務内容を説明する」
そう言うと、アメリカさんは私に数枚の紙が束ねられているしおりみたいな物を配りました。どうやら、この会社の説明みたいなものらしいです。
「この会社は所謂何でも屋、だ。潜入捜査や探偵、害虫の駆除など、色々なものをこなしていく。しかし、全てをやる必要はなく、それぞれの人には役割がある」
アメリカさんは淡々と会社の説明、仕事の説明をしていきました。簡単にすると、この会社は色んな人たちの特性を生かし仕事を指名しているらしいです。
「だが、もうどこも日本に合う仕事がないんだよな。さらに、記憶がなくなる前となくなった後とでは特性が変わってるかもしれない」
「…」
確かに、特性が大幅に変わる、ということは起こらないと思いますが、もしかしたら、以前できていたことができなくなる、ということはあるかもしれません。
「そこで、だ。日本、書記、興味ないか?」
「書記、ですか…?」
書記というのは、確か議事録作成や資料作成、事務全般を行う役割だった気がします。ですが、なぜ私がそんな重要な事を任せられるのでしょうか。
「わ、私よりいい人はたくさんいるのではないでしょうか?」
私がアメリカさんに問うと、アメリカさんは目を大きく開かせました。
「いいや、他のやつらは書記には相応しくないんだ。今の日本は、人の話をよく聞くことができる。さらに、話を纏めることも得意だと、入院しているときに分かった。まあ、試してみる価値はあるのではないか?」
と、聞き取りやすく、ですが早口でそう言いました。私にはあまり自覚がありませんでしたが、アメリカさんにはそう感じたらしいです。私はアメリカさんの趣旨が何となく分かりました。
「………そ、そうですね。分かりました。ですが、一週間ほどの間は考えさせていただけませんでしょうか?この会社にもなれていきたいので、すぐに書記をする、というのは大変だと思いまして…」
私がアメリカさんにそう言うと、アメリカさんは顎に手をのせ、考え込むようになにか呟いていました。数秒後、決心したように
「それじゃあ、今日から一週間は慣れるために仕事を少しずつ増やしていこう。そして、来週から、もしできそうなら書記をする。それでどうだ?」
と言いました。確かに、それならこの会社に慣れていけるかもしれません。もし書記がダメそうだったら、できそうなものをこの一週間で決めればいいのですから。
「では、そうします」
と、私はアメリカさんにいいました。
「分かった。それじゃあ、今日はここに行ってくれ」
しおりの仕事場所が書かれているところの部屋の一つをアメリカさんは指差しました。
「わかりました」
私は軽く頷きました。
「それじゃあ、案内する」
こうして、私の社員生活は始まったのです。
アメリカさんに指差されたところに行ってみると、そこには中国さんや、他の人々がたくさんいました。私が扉を開けると、急に小さな影が私に飛びつきました。
「!?」
下の方を見ると、金髪でアホ毛が二つある男性が私を抱き締めていました。
「日本!久しぶり!!元気にしてた!?うわあ!!久しぶりすぎて嬉しいよ!!!」
金髪の男性は目を光らせ、私の目を見ながら早口で話し始めました。
「え、えっと…」
「!!」
すると、白髪の小さい男性が金髪の男性と私を引き離そうとしました。
「あ、だ、大丈夫ですよ…?」
私がそう言うと
「マレーシア!日本ちゃんが困ってるよ!」
と、クリーム色の赤メッシュの女性…?が止めてきました。
「あ!ごめん!日本さん!暴走しちゃった!」
金髪の男性は私から離れ、手を合わせて言いました。その騒動に気づいたのか、中国さんが駆け寄ってきました。
「日本、来たのネ!!本当、ごめんヨ。皆、日本に会いたくて仕方なかったのネ…」
と、中国さんは悪くないのに謝罪してきました。
「い、いえ!大丈夫ですよ…!」
「!」
白髪の小さな男性が天使みたいな笑顔を見せました。安心しているみたいな、そんな感じです。
「それじゃあ、紹介しておくネ!さっき日本に抱きついてきたのはマレーシア!抱きつくのは癖だから、そこ離れてほしいネ……」
「えへへ、気を付けるよ~」
金髪でアホ毛が二つある男性、マレーシアさんは中国さんに笑顔で軽く謝りました。中国さんは少々浮かない顔をしながらマレーシアさんの方を見ました。
「それで、マレーシアのことを行動で止めようとしたのはシンガポール!マレーシアの弟ヨ! 」
中国さんは白髪の小さな男性、シンガポールさんを指差しながら紹介しました。
「よ、よろしくお願いします」
「………?」
しかし、私が挨拶をしても挨拶を返さない、というか、何も分かっていない様子でした。
「あー、シンガポールは聴覚障害なのネ。口を分かりやすく動かしたり、手話をしないとあんまり伝わらないのヨ」
と、中国さんは手話?みたいなものをしました。すると、シンガポールさんは分かったかのように私の手を握りました。流石兄弟と言ったことか、目を輝かせる姿が似ていると思いました。
「それで、このメッシュの子はインドネシア!こう見えて純粋な男の子だから、間違えないでほしいのヨ!」
「もー!確かに僕は可愛いけどね~!」
クリーム色の赤メッシュの女性………ではなく、男性、インドネシアさんは私に対し、手を振りながら、中国さんの言葉に笑顔で対応しました。
「他にもたくさんいるのネ!着いてきてほしいヨ!」
中国さんは私の手を引いて私をこの部屋の奥へ連れていきました。
「まず、この子が韓国ネ!!心を開くまでに時間はかかるかもだけど、多分大丈夫ネ!」
毛先が少し青みがかってる女性を指差しながら、中国さんは紹介しました。どうやら、韓国さんと言うらしいです。
「……」
「え、えっと、こんにちは…」
私が韓国さんに挨拶しようとすると、目を背けられ、まるで話してはいけないような空気になってしまいました。私がいくら話しかけようとしても、韓国さんは沈黙を貫きました。
「だ、大丈夫ヨ!いつかきちんと話せるようになるからネ?」
私のことを心配してくれているのか、中国さんは優しい声で慰めてくれました。
「モンゴル!ちょっといいネ?」
「ん、あぁ、中国さんと日本さんか。どうしたんだ?」
優しい目をした紫がかった青い髪の男性が中国さんと私の方を見る。しかし、この男性には力強い眼差しがありました。
「この人はモンゴル!アタシより仕事ができるまともな人ヨ!分からないことがあったらモンゴルに聞いてほしいヨ!」
「中国さん、あまり我に仕事を押し付けられても困るのだが」
モンゴルさんは中国さんの言葉に戸惑いながら、笑顔を絶やしませんでした。
「日本さん、体調の方は無事なのか? 」
モンゴルさんは変わらない笑顔のまま私に質問しました。どこかその笑顔は何となくぎこちなく感じます。
「あ、はい。体調は大丈夫ですよ」
「そうか。体調には気を付けろよ。体調が悪いと安全な思考回路にならないからな」
モンゴルさんの笑顔はどこか不気味な、そんな感じがしました。
数分後、色んな人の紹介を中国さんにされました。
「まあ、一気に覚えなくてもいいのヨ!少しずつ覚えていくのが一番ネ!」
確かに、今日一日で十数人の人数を覚えるのには流石に厳しいと感じます。
「それじゃあ、次はここの仕事内容について説明するネ!」
中国さんはホワイトボートを持ってきて、そこに文字や絵を描いていきました。
「ここは主にデータを整理することが多いネ。他のところに必要な情報や、逆に他のところが必要な情報を調べたりすることが多いヨ。まあ、仕事内容はそこまで難しいものではないのネ!」
と言いながら、中国さんはイラストを描いていきます。中国さんが描いたイラストは、先程言ったものをさらに短くして分かりやすく書いたものでした。
「まあ、今日の日本は雰囲気とか見学を優先して、一、二時間はちょっとした仕事をしてもらうネ! 」
「あ、ありがとうございます…」
中国さんはホワイトボートの字は消さずに仕事をしに行きました。
「あ、もう自由に見学していいからネ!ん~と、大体全部見終わったら来ていいからネ!」
「は、はい」
中国さんにそう言われたことで、私はここの部屋の見学をすることにしました。
まず、マレーシアさん、シンガポールさん、インドネシアさんがいるところへ行きました。
「見学してもよろしいでしょうか?」
「あ、いいよ!」
マレーシアさんの机にあるパソコンを見ると、何だかよく分からない文字列がたくさんありました。
「マレーシアさん、この文字たちはどのような意味なんですか?恥ずかしながら、分からなくて…」
私がそう言うと驚いた顔をしてマレーシアさんは私の方を見ました。やはり、この質問はおかしかったのでしょうか。
「え、僕も分かんない!」
「えっ!!?」
予想外の言葉に声が出てしまいました。シンガポールさんは状況を察したのか頭を抱え、インドネシアさんはマレーシアさんの肩を叩きながら笑っていました。
「ごめんごめん!マレーシアはさ、ちょっと仕事の内容分からないままやってるんだよ!言うて僕たちも分かってない言葉も多いんだけどさ!はは!!あ~腹痛いっ!!」
大爆笑をしながらインドネシアさんは説明しました。
「でも、大丈夫!マレーシアが仕事あんまり分かっていなくてもやっていけてるんだから、日本ちゃんでもいけるよ!」
インドネシアさんが親指をグッとあげました。シンガポールさんも話の内容が何となく分かったのか、インドネシアさんの言葉に頷きました。
「ん~、まあ、何となくで感じ取れれば大丈夫だよ!」
マレーシアさんもニコッと笑いながら言いました。
「まあ、数分ぐらい見てってよ!日本さんにカッコいいところ見せたいからさ!」
と、胸を張りながらマレーシアさんが自信満々に言いました。
「わ、分かりました」
私は数十分間、このお三方の仕事を見ました。
次に、私はモンゴルさんの仕事を見ることにしました。モンゴルさんの仕事体勢は主に一人で仕事をこなしているようです。モンゴルさんのその姿はまるで一匹狼のような感じです。
「………おや、日本さん。じろじろ見てどうしたんだ? 」
あまりにも私がモンゴルさんのことを見すぎたのか、モンゴルさんが話しかけてきました。その声は優しく、しかし少々威圧的なところがありました。
「あ、た、ただ仕事を見学していただけです。気にせずモンゴルさんはモンゴルさんの仕事をしててください」
「そうか」
私がそう言うと、モンゴルさんは端的に答え、そのまま仕事を続行しました。やはり、クール、というか、少し関わりづらさがあります。
数時間後、私は中国さんのいるところに戻ってきました。私が中国さんのところに駆け寄ると同時に、中国さんが私のいる方向に向きました。
「あ!日本!見学は終わったのネ!」
「あ、はい。終わりました」
中国さんは私の手を優しく手を握り、ニコッと微笑みました。
「それじゃあ、仕事を教えてあげるネ!まず、パソコンを開いて───」
中国さんが優しく丁寧に仕事を教えてくれました。中国さんの説明は短く、分かりやすかったものとなっていました。
学校のようなチャイムが急に鳴りました。急な音に私の心臓が飛びはね、一瞬息が止まりかけました。
「い、今の音はなんですか?」
喉が乾いたのか、私の声はカスカスな感じになってしまいました。
「今のは定時のチャイムネ!大体の人はこのチャイムが鳴ったら帰る準備をするネ!アタシはこの仕事が終わったら帰る予定なのネ!日本は帰っていいヨ!」
そんな私の声を聞いて、中国さんは丁寧に教えてくれました。確かに時間を見てみると、もう午後の六時になっていました。
「そうですね。そうします。中国さん、今日はありがとうございました」
「いいヨ!また困ったら言ってほしいネ!」
「分かりました!」
私は中国さんに感謝の一礼をし、帰る準備をしました。
ふと思いました。アメリカさんに挨拶をした方がいいのでは、と。私は朝に行ったアメリカさんがいる部屋へ向かいました。
「し、失礼します」
私が扉を叩き、扉を開くと、アメリカさんの姿が見えませんでした。部屋に入っていいのか分かりませんでしたが、私はアメリカさんがいないということに慌て、部屋の中に入りました。
机の上には先程とは比べ物にならないほど積み重ねられた書類がありました。そして、よく見てみると、書類と書類の束の間に、紺色の髪の毛が見えました。
「あ、アメリカさん!?大丈夫でしょうか…!?」
私は焦燥感に駆られ、書類をどかし、アメリカさんを助けようとしました。どかしている途中で書類がバラバラになってしまったのは謝らなければいけないことです。
「うっ………すまん。途中で意識を失っていた。失敬だ…」
「意識を失うなんて、どれ程働いたんですか!?早く休んでください!」
今は私のことより、アメリカさんの体調が最優先です。私はアメリカさんの体を起こし、落とした書類を拾い上げ、なるべく整理しました。
「本当、忝ない。日本に頼りない姿を見せてしまった」
「い、いえ!いいんですよ!誰だって疲れるものじゃないですか!」
アメリカさんの言葉に、私はアメリカさんを励ましました。
「そ、それもそうだな。すまん。取り乱してしまった」
アメリカさんは咳払いし、数秒間動きが止まった後、私の方を見ました。
「それでだが、今日はどうだった?」
アメリカさんの声は優しく、私の心を支えてくれるように問いかけました
「今日は中国さんの助けもあり、無事初歩的な仕事をできるようになりました。しかし、まだまだなので、もう少し頑張りたいですね」
「そうか。日本は努力家だな」
「そ、そんなことありませんよ」
アメリカさんの言葉に、少し戸惑いを感じました。私にとって、これぐらいは当たり前のことだと感じたからです。
「まあ、明日もある。明日はイタリアがいる部屋に入ってくれ。詳しくは明日説明する。とにかく、残りはゆっくり休めよ」
「は、はい。分かりました。それでは、また明日、よろしくお願い致します」
そう言い、私は部屋から出ました。
しかし、明日、私の運命が揺れる出来事があるとはこのころの私は知りませんでした。
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うへへへへへへ沢山の国が出てきたぞおははははは(?)最高ですね!