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「あ〜!!とやさん見てぇ!ピノ星型!!これレアなヤツじゃない?!」
「うわ〜ほんとじゃん、初めて見ました」
「大丈夫かな…オレここで運使い果たしたりしないかな…」
「んふふ、こんなことにもギャンブル脳って働くんですか?」
ぴょんと飛び出た髪の毛が嬉しそうに跳ねている、気がする。れっきとした成人のくせに、誰にも負けない満面の笑みで喜ぶ姿は滑稽で可愛いななんて、思わずまじまじと見つめてしまった。なんだか、なにものにも代えがたい幸せが分泌されてるみたいに、心がふわふわした。
「あぇ、とやさんそんな熱烈な視線送ってどうしたんすか?もしかして星型のピノ食べたい?!」
「え、別にそんなつもりじゃ…」
「遠慮なさらず〜!ほれ、あ〜ん!」
串に刺されたピノがこちらに向けられる。こいつマジか?さっきまで同じ串でピノを食べていた。本人は全く気にしないという様子で 、僕の口をピノでつついてくる。顔が少し近くて、透き通る琥珀に目が吸い込まれる。
いや、そうだよな、心通わせ合った友達との距離感って、こんなもんだよな、なんて思ってても、心臓はありえないほど血液を送って、だくだく汗が流れる。
多分今、顔真っ赤だろうなあ、
「?アイス溶けちゃうぜ?早く口開けて〜!」
「ぁ゛〜、すみません、いただきます!」
もうどうしようもない。大きく口を開けてピノを頬張った。冷たい糖分が染みて、だけど身体が熱くて、ずっと冷たさに縋ってたかったけど、すぐに体の熱と混じりあって消えた。
「ど、うまい?オレの運詰まったピノ!」
「…はい、おいしい、です…、明日宝くじ当たりそう…」
「へへ、そりゃ良かったっす!」
にっこりこっちに笑いかけて、ぶわっ、て効果音がつくくらいに身体中の血液が沸騰したみたいに熱くなる。こいつ、誰にでもこんなことしてるのか?勘違いしそうになるけれど、これがこいつの素なんだろう。こんな行動にいちいち心を揺さぶられてきて、日々この気持ちが大きくなって行った。
長くこの心の中に燻る感情をこいつから隠したけれど、なんだかもう無理かもしれない。でも、この感情の名前は、まだ知らないままでいたい。知ったら、自分が自分じゃなくなる気がするから。
恋にうじうじ悩むなんて、剣持刀也の名にふさわしくないだろ。でも、悲しきかな、現状の崩壊を恐れる理性が今、脆くなっている。ふと、口からぽろりと疑問が零れてしまった。
「ねぇ、がくくんって彼女とかいないんですか?」
「エッ…!そそそそんな…いないけど?!悪いっすか?!?」
両耳がぴょんと立ち上がって見える。必死の弁明に感情の丸見えな顔は、見てて面白い。心がふわふわ暖かくなる。
「はは、必死じゃん、よくこうも彼女ができないよねえ、モテそうなのに。」
「はぁ?!当てつけっすか?!もーー!!なってくれる人がいたらもうとっくに付き合ってるぜ!」
真っ赤になってムキになる姿も、子供みたいで可愛らしい。それでもって、たまに見せる気遣いとか、爽やかなかっこよさとか、ほんとずるいなと思う。彼の見つめる先が僕だけならいいのに。なんてらしくないことを考えてしまう、でもそんな考えは絶対捨てた方がいい。
はぁ、もやついた心を晴らしたくてため息を着く。今日はなんだかずっと暑かったな。今日の気温が高かったのか、こいつが隣にいるからか。
これが恋だってのは、もうわかってた気がするけど。わかってたくない。これは我儘でもあるけど、保身のためでもあるかもしれない。見て見ぬふりしてきた感情は、いつの間にでかくなりすぎてたみたいだ。どくどく跳ねる心臓とは裏腹に、すらりと言葉が出てきた。
「ねえ、僕はだめですか?」
あーあ、言っちゃった
「、は?」
忙しなく動く瞳孔が彼の混乱した心を映し出す。そのまましばらく、不思議な挙動で意味の無い母音を口から垂れ流していた。
「ぁ、ぇ?とやさ、それ、どういう…?流石に冗談っすよね?」
おそるおそる、といった様子で僕の顔を覗き込む。その顔は、驚きとか恥ずかしさとか恐怖とかがごちゃまぜになってこわばっていた。
まあ、そりゃそうだろ。友達から告白されるとか意味わかんないだろ。だから、この顔をみて、僕が望んでる未来なんて来ないことがすぐわかった。こいつは、僕を愛とかの方の意味で、好きになんかならねえんだ。
「…んふ、冗談です。天涯孤独であろうがっくんをからかってやろうと思いまして。ホモ営業ご勘弁なんでね!」
取り繕って、おどけたように言ってやる。そうすると、間近にあった顔がふんわりと和らいだ。それは僕の言葉が冗談だった安心からか、喜びからかはわからない。でも、そんなかおで僕を見てる。
「ふざけんな、こっちからも願い下げですう!」
けらりと笑ってそういうがくくんがモテないのは、お前が思わせぶりな行動で人の心を掴んでも、その人の心を全く理解できないからだ、絶対そうだ。いいや、相方としてずっと隣にいれることが許されるんだから。自分が勝手にそれ以上を求めて、隣に居れてる今が潰れちゃったら、それこそ苦しいか。
死ぬまで引きずってやろ。