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於田縫紀
しめさば
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――目の前では、絶望的な状況が続いている。
どんな手段を使ったとしても、今この時点、ここを何とか打開していかなければいけない。
その結果、何かを背負うことになるとしても、それはそのあとに考えていくしか無いのだ。
……例えば私が不老不死になったときだって、生きるにはそれしか道が無かったわけだし……ね。
「――分かった、リリー。
私は何か手伝える?」
「えいゆーの近くに行きたいの!」
リリーが希望したのは、シルヴェスターの元に行くことだけだった。
しかし目の前では、ひたすらに竜巻が巻き起こっている。
砂煙や海水を巻き上げて、思うように動けないし、そもそも視界がかなり悪い。
立っているだけでも小さな砂や石が当たってきて、身体中が切られ、打ち付けられている状態なのだ。
「……どうしよう。私には何もできない……」
例えばこの一帯が吹き飛ぶような爆弾があれば、竜巻も吹き飛ばせるかもしれないけど――
それだと自分たちが巻き添えになるし、意味が無い。……作れるかどうかは置いておくとして。
「ならば妾が、何とかしよう」
私が竜巻を眺めて考えていると、グリゼルダがずいっと前に出た。
「え? 何とかなるんですか?」
「うむ。この竜巻を一時的にでも吹き飛ばせば良いんじゃろ?
ルークの必殺技を真似て、ちょっとな」
「さすが光竜王様!」
「こんなときだけ|煽《おだ》てるで無いわ!
……しかしいまいち皆の場所が分からんのでな。そこはリリーに手伝ってもらうことにしよう」
「うん! 何をすれば良いの?」
「妾たちの仲間に当たらぬよう、敵の場所を教えて欲しいんじゃ。
できるかの?」
「分かったの!」
グリゼルダの言葉に、リリーは強く頷いた。
ここから一気に反撃が始まる――……と良いんだけど、生憎と私にはやることが無い。
……しかしぼーっとしているわけにもいかない。
できる限りのところで、何かできることがあれば、臨機応変にサポートしていくことにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――名前未定、仮の名は……竜王の舞いッ!!!!」
ズドオォオオォオオォオオンッ!!!!
リリーが念入りに気配を辿ったあと、グリゼルダが巨大な衝撃波を放った。
それは目の前の竜巻を吹き飛ばしながら、一時的に僅かばかりの明るさを取り戻してくれた。
「凄い……、名前以外は……ッ!」
「何か言ったか!?」
「いえ!?」
実は名前もそれなりに格好良いのだが、その前の『名前未定』が何だかお茶目だ。
できれば格好良く決めてもらいたかったのだが、グリゼルダには名前のこだわりがあるのだろう。
多分、今後もグリゼルダの必殺技になっていきそうだもんね。
頭の中でそんな評価を下していると、ルークたちがたびたび視界に入るようになってきた。
こんな悪条件の中で、ルークたちはシルヴェスターとずっと戦ってくれているのだ。
「今なの!」
リリーは大声で言うと、私の返事を待たずに飛んで行ってしまった。
少しの時間も惜しい――それはこの場にいる全員の、共通の認識だ。
あんなに小さな子供なのに、こんなにも頑張ってくれるのは申し訳ない――
「グリゼルダ、私たちも行きましょう! 動けますよね?」
「うむ、大丈夫じゃ!
……ただ、少しばかり力が入らんのう……。妾はしばらく、戦力外じゃな……」
グリゼルダは口元を緩めて、少しだけ微笑んだ。
ルークの必殺技は事前に力を溜めなければいけない関係で、一日に使える回数に限りがある。
それと似た感じで、グリゼルダもあの技を使うと力が抜けてしまうのだろう。
「分かりました、慎重に行きましょう。
とりあえずポーションでも飲んでおきますか? グリゼルダも、細かい傷がずいぶんと付いていますし」
「それではありがたく頂いておこう。
回復だけではなく、力が溜まるポーションなんていうのがあれば良いんじゃけどな」
「良いですね、それ!
この戦いが終わったら、ちょっと調べてみることにします」
何かを作るに当たって、気付きや改善を繰り返していくのは大切なことだ。
徐々に強く、隙を無くしていけば、きっと戦いで勝つ確率は今後も高くなっていくだろう。
――私の手元には、神器もあるし、強力な錬金術もある。
さらに光竜王様や迷宮の力だなんて、途方もない存在の味方まで付けているのだ。
しかしそれでも、今回は苦戦を強いられている。
少し緊張が足りていなかったかもしれない。
だからこそ、これからはずっと負けないように、常に考え続けていかなければいけない。
まずはこの戦い。そしてこの戦いが終わったら――
……って、あれ?
何だかフラグっぽいけど、フラグにはしないんだからねっ!!
フラグにはしないで、私たちはずっと勝っていくんだから……!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私とグルゼルダが戦いの場に辿り着いたとき、ちょうどリリーがシルヴェスターの頭にしがみついたところだった。
後ろから両手両足でガシッっと――
……休日に、どこぞのお父さんが子供を肩車している感じ……とでも言えば良いのかな。
ルークもジェラードも、特にその行動自体をおかしいと思っている様子は無い。
むしろ『何か策があるのだろう』と、リリーがしがみつくのを手伝ってくれていたくらいだ。
「アイナ様! リリーちゃんは何を……っ!?」
「分からないけど、奥の手があるみたい!」
「奥の手――……」
私の答えに、ルークは言葉を詰まらせた。
リリーがシルヴェスターの頭にしがみついている以上、下手に攻撃をすることができない。
実際はシルヴェスターの攻撃を受けてもやられないくらいだから、リリーの防御力は凄く高いんだけどね。
「ママっ! お兄ちゃん! いろおとこ! ここは危ないの!!
少し下がって――きゃぅっ」
リリーが大声で私たちに呼び掛ける。
何をしようとしているのかは分からないが、距離がまだまだ近いらしい。
私の錬金術の射程にはまだ入っていないが、つまり危険な場所は、その射程よりも広いということだ。
しかしルークやジェラードまでもが離れてしまえば、リリーがシルヴェスターに、いつまでしがみついていられるかは分からない。
ルークとジェラードは攻撃がしにくいとは言え、攻撃をまるでしていないわけでは無いのだから。
「リリーっ!!
えぇっと、離れるにしても離れたらリリーが危ないし、離れなかったらリリーが何もできないし――
あわわわわっ!?」
「ええい、落ち着けぃ!
アイナはリリーのこととなると、本当にダメじゃのう!」
「だって、あんなに小さな女の子なんですよ!?」
「まぁ見た目はそうなんじゃがな。……いや、中身もか」
「ですよ!? 心配しないわけが無いじゃないですか!!」
いくら強大な迷宮の力を持っていたとしても、それでも生まれて間もない子供なのだ。
私が生物学的に産んだ子供では無いとはいえ、今では本当に我が子のように――
……とまではちょっと言い過ぎかもしれないけど、それでも、とっても大切にしている子なのだ。
「妾もさきほどの攻撃で力を使ってしまったからのう……。
そうじゃな。まぁ、良い機会ではある。ちとアイナに新しい世界を見せてやろう」
「……は?」
「案外、お主の魔法の素質は良いんじゃよ。
魔力量はさほどでは無いが、学んで行けばより多くの魔法を使えるようになるじゃろう」
「えーと……、はい。
それは嬉しいんですけど、今はそうじゃなくて――」
私が反論をしようとすると、グリゼルダは私の肩に手を当てた。
そしてそのまま、私の身体をシルヴェスターの方に向かせる。
ちなみにシルヴェスターの頭には、リリーがまだまだ頑張ってしがみついている状態だ。
「……よし、それではいくぞ。
妾もこういうことは数百年振りじゃからな。上手くいくかのう♪」
「え、えぇ? あの、変なことはしないでくださいよ!?」
「大丈夫じゃって。お主の魔力と機構を勝手に使うだけじゃから!
……ふむ、これくらいの素質であれば、この辺りか……」
「へ?」
グリゼルダがそう言った瞬間、私の身体から一気に力が抜けた。
力――……あ、これ、魔力が一気に無くなったときの感覚だ……。
と言うことは、グリゼルダは私の魔力を使って――
「――凍て付け大地、停滞の檻を紡げ。
アズラ・セラフィス・グリルハード・アビス……」
聞きなれない言葉が続く。
そしてその詠唱が終わった瞬間――
ビキビキビキィッ!!
私の目の前の地面から氷塊が生えるように生み出され、そこからシルヴェスターの元へと、氷塊が地面から生えながら襲い掛かっていった。
ルークとジェラードはそれを見て、自然と大きく距離を取る。
取り残されたシルヴェスターは神剣デルトフィングを振るい、自らに向かってくる氷塊を砕くが――
……しかしその氷塊は宙に散り、細かい欠片ながら、尚もシルヴェスターを再び目指していく。
「……な、何ですか? あの魔法……。
何だか、あの――」
話している最中、突然の立ちくらみに足がもつれる。
「おっと、大丈夫か? ちと魔力を使い過ぎたかのう。
今のは古代魔法のひとつでな、ネチネチと敵を拘束しようとする、嫌らしい魔法なんじゃよ」
「古代魔法……、そういうのもあるんですね。
……それにしても、ネチネチって」
「まぁ、アイナの素質ではこの程度までじゃな。
魔法を学んでいけば、最終的な到達点はこれくらいになるじゃろう」
グリゼルダの言葉を少し他人事のように聞きながら、魔法の向かった先を眺めてみる。
そこではシルヴェスターが、必死に氷塊を砕いたり、氷片を払ったりを繰り返している。
しかしそのあがきも叶わず、足もとから徐々に凍結を始めているようだ。
「……あれ? このまま勝てそうじゃありませんか?」
「そう思うか? 残念じゃが、あの魔法は拘束までで終わりなんじゃよ。
しかし、あやつも粘るのう……。本来であれば、全身が凍り付いていても良い頃合いなんじゃが――」
……確かに。凍結を始めたように見せた足元も、何だかんだで凍結を免れているようだ。
本人の力か、神器の力か、迷宮の力か――それは分からないけど、何にせよ私たちをここまで苦しめるだけのことはある。
「――ママっ!!」
「え?」
突然のリリーの呼び掛けに、私の目は自然とリリーを捉えた。
「……行ってくるの!」
リリーと氷塊を振り払おうとするシルヴェスターに対し、リリーは必死にしがみつきながら言った。
行ってくる? それってどこへ――
その瞬間、リリーを中心として、風景がゆらっと歪んだように見えた。
……いや、実際に歪んでいた。
私の頭はその光景を処理できず、自然と目を逸らしてしまった。
そして再び、その方向に目をやると――
……そこには誰もいなかった。
シルヴェスターも、リリーも。