「離してってば!」
「うるっせえ女だな。エサはエサらしく大人しくついてこい。」
「貴方、さっきから何を言っているの……? エサ…?私がエサだっていうの…!?」
「そうだって言ってんだろ。分かったらついてこい。」
「分かるわけないでしょ!?」
怒鳴り声をあげたとき、男の力が一瞬ゆるんだ。
それと共に、体が後ろへと引っ張られていく。
「くそっ…待ちやがれ…。」
男の姿が徐々に離れていくとともに私の体は風を感じながら後ろへと進んでいく。
私の体を掴んでいるのは…抱えているのは誰なの……?
「貴方は誰なの!?これはどういうこと!?」
「話は後だ。今は何も考えなくていい。舌噛むから口を閉じてろ。」
一体何が起こっているというの……?
さっきの男も……この男も一体何なの…?
「ハア…ハア…ここまでくれば…。」
私たちがたどり着いたのは、書庫だった。屋敷の中で唯一入り組んだ部屋で立て籠るには最適の部屋。
「教えて…ください…。さっきのは何なんですか…?」
「下層吸血鬼。」
「下層…吸血鬼……?」
「人を殺すための吸血鬼だ。それだけ分かっていればいい。」
「貴方は…何なの…?」
「俺は…劉磨。赤羽劉磨(あかばね りゅうま)。」
「あの…。」
「なんだよ、まだ何かあんのか?」
「助けてくれて…ありがとう。」
「いや…俺は…俺たちは…何一つ助けてやれてねえよ。お前の大切な家族たちを…見殺しにした。」
「雪乃は……死んだんですか……?」
「ああ。あいつだけじゃない。お前の父親も母親も……この屋敷の人間はお前以外殺された。」
「え……?」
「お前には、悠夜がマーキングをしていたから助けられた。」
「悠夜…さんって、さっきの眼鏡の…?」
「ああ。」
「そう…ですか…。」
「あー!こんなところにいた!」
「!?」
突然窓の外から聞こえた明るい声。恐る恐る窓を開けると4人の男性が宙に浮いていた。
「お前少しは空気読めよな、そんなテンションじゃねえってのに。」
「ごめんごめん、やっと片付いたから迎えに来たんだよ。」
「花月さん…これを…。」
悠夜さんから手渡されたのは、雪乃が来ていたドレスについていた白いバラのチョーカーだった。
「すみません…これしか回収できませんでした。」
「……。」
「彼女の遺体は回収できなかったけど、魂は成仏させることができたわ。だから……。」
「そう……ですか……。」
「花月チャン、もうここには何も残っていないわ。安全な場所でもなくなった。きっと、これからアナタはたくさんの獣たちから狙われる。会ったばかりのアタシたちの言うことなんて簡単に信じられないかもしれないけど……アタシたちにアナタを守らせてほしい。」
「なぜ…見ず知らずの私のことを…助けてくれるのですか…?」
「ごめんなさい、それは言えないわ。でも…絶対にアナタを独りにはしない。だから、アタシたちの屋敷にきてほしいの。」
「……。」
私には何も言えなかった。肯定することも否定することもできなかった。
今の私にはもう何かを考える力も心も残っていない。
「今日からは俺たちの屋敷がお前の帰る家だ。行くぞ。」
「もう、なんで劉磨はそういう言い方しかできないかな?優しさとかないわけ?」
「うるせえな、疲れたんだよ。ほら、行くぞ、花月。」
「デレた劉磨は貴重……。」
「お前の居場所も、未来も、人生も、幸せに導いてやる。俺らはお前の家族だ。だから今は休むことだけ考えろ。」
今日からは…この人たちが私の家族。
「ありがとう……。」
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