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ろと。
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kurara
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あの日から、一年が経った。
⸻
山奥の家。
朝。
窓から柔らかな光が差し込んでいる。
静かな森。
鳥の声。
風に揺れる木々。
昔と変わらない景色だった。
ただ一つ。
変わったことがある。
家が少し大きくなった。
⸻
「涼ちゃーーーん!!」
朝から大きな声が響く。
台所にいた涼架は苦笑した。
「どうしたのぉ」
すると勢いよくモトキが飛び込んでくる。
狼耳がぴんと立っていた。
「鹿肉焦げた!!」
「またぁ!?」
「今回はちょっとだけ!」
「煙見えてるんだけど」
「ちょっとじゃなかったかも!」
涼架は額を押さえた。
一年経っても。
料理だけは上達しなかった。
⸻
「だから火を見ろって言ってるだろ」
奥からヒロトが現れる。
相変わらず不機嫌そうな顔。
けれど昔ほど警戒心はない。
むしろ最近は家族みたいになっていた。
「ヒロト〜」
「泣きつくな」
「冷たい」
「自業自得」
即答だった。
⸻
その時。
廊下から足音が聞こえる。
ぱたぱた。
そして。
「おはよう」
F-01が現れた。
今では名前がある。
涼架がつけた名前。
玲司。
研究所の番号ではなく。
一人の人間としての名前だった。
最初は戸惑っていた。
けれど今ではちゃんと受け入れている。
「おはよぉ玲司くん」
「おはよう」
穏やかな声。
昔の鋭さは少し薄れていた。
⸻
その後ろから。
レイもやってくる。
少し背が伸びた。
表情も増えた。
昔みたいな無機質さはほとんどない。
「おはょう」
「おはよう」
涼架が笑う。
レイも少しだけ笑う。
その光景を見て。
モトキが突然固まった。
「レイ」
「なに」
「今笑った」
「笑った」
「えっ」
「笑った」
ヒロトが呆れる。
「何回そのやり取りするんだ」
⸻
朝食が始まる。
五人。
少し狭いテーブル。
焦げた鹿肉。
焼き直した鹿肉。
野菜スープ。
パン。
どれも豪華じゃない。
でも。
温かかった。
⸻
食事の途中。
モトキがふと涼架を見る。
「ねぇ」
「ん?」
「傷痛くない?」
涼架は少しだけ目を丸くする。
研究所で負った傷。
命は助かった。
けれど完全には消えなかった。
今でも肩や背中に残っている。
「大丈夫だよぉ」
そう言って笑う。
モトキは少し不満そうだった。
「無理してない?」
「してないよ」
「ほんと?」
「ほんと」
しばらく見つめ合う。
そして。
モトキはようやく納得した。
「ならいい」
狼の尻尾が揺れる。
その様子にヒロトがため息をついた。
「過保護」
「うるさい」
「否定しろ」
「しない」
「しろよ」
⸻
笑い声が広がる。
誰かが笑って、 誰かが呆れる。
普通の日常。
かつて全員が欲しかったもの。
でも手に入らなかったもの。
今はここにある。
⸻
昼過ぎ。
涼架は一人で家の外へ出た。
森の風が気持ちいい。
空は青く澄んでいて、 静かだった。
すると後ろから足音がする。
振り向くと、 モトキだった。
「やっぱりいた」
「どうしたのぉ」
モトキは隣に立つ。
そして。
一緒に空を見る。
しばらく沈黙。
風だけが吹いていた。
⸻
「ねぇ涼ちゃん」
「ん?」
「後悔してる?」
突然の質問だった。
涼架は少し考える。
研究所から 逃亡して、
戦った。
失ったものもたくさんある。
傷もある。
だけど得たものもある。
たくさんある。
本当にたくさん。
涼架は首を横に振った。
「してないよ」
モトキが笑う。
「そっか」
「うん」
涼架も笑う。
そして。
目の前の家を見る。
窓からはヒロトの声が聞こえる。
レイの笑い声も。
玲司の穏やかな声も。
全部聞こえる。
帰る場所。
守りたかったもの。
今ここにある。
⸻
「ただいま」
涼架が小さく呟く。
すると家の中から。
モトキの声が飛んできた。
「涼ちゃん早くー!」
「お茶こぼした!」
ヒロトの怒鳴り声。
「だから走るなって言っただろ!!」
レイの声。
「床が濡れてる」
玲司のため息。
「雑巾持ってくる」
⸻
涼架は思わず吹き出した。
そして。
いつものように家へ向かう。
穏やかな夕暮れの中。
もう追手はいない。
もう逃げなくていい。
これから先も。
きっと色々あるだろう。
喧嘩もする。
失敗もする。
悩む日もある。
それでも。
五人なら大丈夫だと思えた。
⸻
山奥の小さな家。
そこで暮らす五人の物語は終わる。
けれど。
彼らの日常は、これからも続いていく。
静かで。
騒がしくて。
少し不器用で。
とても温かい毎日を重ねながら。
コメント
2件

👏👏
お疲れ様でした、最終話まで読了しました……! 「鹿肉焦げた」で始まる朝の騒がしさ、もう完全に家族ですね。モトキが涼ちゃんの傷を気遣うシーンが特に刺さりました。無理してないか、何度も確認する姿に一年分の信頼が詰まっていて。無機質だったレイの「おはょう」も、名前をもらった玲司くんも、みんな少しずつ変わっていくのが本当に愛おしかった。騒がしくて不器用で、でも確かに温かい日常の積み重ね。素敵な物語をありがとうございました🌷