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待ってました!! いとさんの新しいお話を!! 毎回毎回、お話がぶっ飛んでて(←褒めてます)フフ……と笑える、いとさんのお話が大大大好きです!!!!
その日、現場に小さな事件が起きた。
「ミセスさん、楽屋から出てきません。」
最初に異変に気づいたのは、進行スタッフだった。
「……あれ? 呼んでますよね?」
インカム越しに確認が飛ぶ。
「はい、三回呼びました」
「返事は?」
「あります」
「あるんですか」
「……“寒いです”って」
嫌な予感がして、スタッフは楽屋へ向かった。
ドアの前。
中から、低くて切実な声が漏れている。
「……ここは安全地帯……」
「外は氷河期……」
「ドア、薄すぎる……」
スタッフは一度、深呼吸した。
「失礼しまーす!」
ドアを開けた瞬間、
完全に籠城している三人が目に入る。
ソファに毛布、上着、クッションを総動員。
暖房は最大。
中央に藤澤、左右に大森と若井。
三人とも、一切立つ気配がない。
「……何してるんですか?」
「立てこもりです」
大森が即答。
「寒さから身を守るための」
若井が補足。
「合法です」
藤澤がよく分からない締めをする。
「合法じゃないです!」
スタッフは時計を見せる。
「本番五分前!」
「五分……」
三人、顔を見合わせる。
「……出る意味あります?」
「あります!」
「今出たら、ここまで温めた体が……」
「温め直せばいいでしょ!」
「それができないから問題なんです!」
藤澤が真顔で言う。
スタッフは一瞬、言葉を失った。
「……じゃあ誰が一番最初に立ちますか?」
間髪入れず、二人が若井を見る。
「え、俺!?」
「一番あったかい」
「頑張れ太陽くん」
「それは幼少期のあだ名!」
スタッフは額を押さえた。
「お願いします、立ってください」
「条件があります」
大森が手を挙げる。
「何ですか」
「今すぐ日本を春にする」
「無理です!」
若井が小声で言う。
「冬は冬眠期間…」
「人間に冬眠はありません!」
スタッフは覚悟を決めた。
「分かりました。最終手段です」
三人が身構える。
「……何ですか……」
「暖房、切ります」
「「「 えっ 」」」
ピッ。
――静かになる風音。
ついでに窓全開。
数秒後。
「……寒……」
「え、待って待って」
「これは……外と同じ……!」
三人、一斉に立ち上がる。
「やばい出よう!」
「今ならまだ体温ある!」
「撤退じゃなく進軍!」
「進軍!?」
半ば逃げるように楽屋を飛び出す三人を、
スタッフは即座に誘導する。
「はい前へ! 止まらない!」
「止まったら凍りますよ!」
廊下に響く足音。
「寒い!」
「なんで冬あるの!」
「*I LOVE* 暖房 !」
スタッフはその背中を見ながら思った。
――これは事件ではない。
冬と人類の戦いだ。
そしてこの日以降、
現場メモにはこう書かれるようになった。
※寒冷時、ミセス楽屋は早めに締め出すこと