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「なんで?僕のこと、使えない奴だと思ったから?」
「いや、それは違う。お前といれば、ガルドに目をつけられてしまう可能性が高い。ガルドはまだヒロキのことを看守だと思っているだろう。看守と仲良くする囚人なんて、変な目で見られるに決まってる」
確かに。それは一理ある。ガルドはこの囚人の中のトップであり、リーダー。食堂でしていた抗争を見て、ガルドの名前をたくさんの囚人が知っており募っているように見えたから、そう結論づけられる。
そんなやつに悪い意味で目をつけられたら、消されてしまう確率が高い。そしてアルマは、自分のことしか考えていない自己中心的な人物。これらから推測出来るとしたら、囚人仲間から悪い印象を与えたくないのでとりあえず今は縁を切るということ。
僕はその言い分を理解して、牢屋から無言で去って行こうとした。ちょうどその時、肩に何かがかかる。左肩を少し動かすと、金色のネックレスが落ちてきた。それを拾う。
「御信用ナイフだ。身を守るときに使え」
ネックレスの紐には金色の四角い板が垂れ下がっていて、それを握りしめて振ると、ナイフが出てくるという仕組みらしい。彼がそう説明してくれた。
御信用ナイフを前ポケットにしまい、牢屋から速やかに出ていく。
足音が離れたの確認してから、アルマはベッドから身を起こした。小さなため息をつく。
「はぁ……嘘も見抜けないとは。あいつは人を信用しすぎだ。そう思わないか?ハリス」
牢屋の物陰から一人の男が出てきた。腰が少し曲がっている、痩せ細った男だ。金髪の髪は強いパーマがかかっていて、前髪で両目を隠している。彼は何も返さずに、無言と無表情を貫く。アルマは大きなため息をついて、視線を前に向けた。
「ま、他の男になんか興味ねえだろうよ。お前のことだし。で、あれは本当なのか?」
「はい、本当ですよ」
「そうか……。厄介なことになったな」
「というと?」
「じゃあ。まず聞くが、なぜ俺たちは船に乗せられていると思う?」
「バトルロイヤルをするためでは? 一人になるまで殺し合い……」
看守が牢屋を徘徊する際、よくその話をしていたため大体の囚人は知っている。しかし、彼はそれを否定する。
「いや、それは看守が船の舵をとっていたらの話だ。今舵をとっているのは、間違いなく囚人だろう。気づいているか?船の行き先が違う場所になっていることを」
アルマは船を出た際、あることに気づいていた。
囚人が脱走しておらず平穏が保たれていた時は島が遠くにたくさん見えており、月も真上に近かった。がヒロキと共にカードや履歴書を海に捨てた際、そんなに時間が経っていないにも関わらず島々や月は遠ざかっていた。かなり速いスピードを出して、反対方向に進んでいたのは明白。
「だが、今はどうだと思う?」
「……?」
「外に出ればわかるだろう。今は停船している。船が揺れてないからな。つまりは、外部から狙われやすいということだ。俺が予想するに、停船しっぱなしならば今後三つの事件が起きるだろう。一つは内部攻撃。他は外部攻撃」
淡々と話しているように見えるが、内心アルマは焦っていた。表情には出ないが。
「外部って……一体、アルマ様には何が見えているのでしょうか?」
彼は無言を貫いたまま、ベッドから立ち上がる。ハリスに大きな背中を見せて、ポツリと呟く。
「俺に見えているのは、暗闇だ。その闇の中に、二匹のネズミが舞い込んでいるかもしれない」
「それは先ほど話していたあの男も含まれていますか?」
「いや、それはない」
アルマは振り返って即答する。ハリスの近くまで歩みを進めた。
「ヒロキ……あいつは違う意味で危険だが、それ以上にもっと警戒しなければいけない人物がいる。それは……」
彼にだけ真相を話した。この男ならば口が硬いし、一番信用できる。ハリスはアルマが話した内容をバラしたことが一度もないほど、狂酔していた。
彼は前髪にかかっている目をキラキラと輝かせながら、ワクワクした口調で話す。
「そういうことですか……アルマ様は賢いですね。防犯カメラを壊しておいてよかったです。音声も読み取れないはずです」
「ありがとう」
口だけで笑みを浮かべて、牢屋から去っていった。その後ろからハリスが隠れてついてくるものの、いつものことなので気にしていない。ヒロキになぜか嫉妬心を剥き出しにしていたが、別に構わない。たくさんの人間に愛されるのは、とても愉悦的で気分がいいのだから。
「武器庫に行くか……」
ボソリとそう呟き、地下三階にある武器庫へ向かう。