テラーノベル
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「ギデオン、魔獣に飛ばされたらしいが怪我はないのか?」
ビクターの問いにすぐに答えず、ギデオンがリオを見つめる。
なんだろう…。リオはドキリとする。
ギデオンの口が|微《かす》かに動いたが、結局は何も言わずにビクターに顔を向ける。そして驚くべきことに嘘をついた。
「…ない。服が裂けただけだ」
「ふーん。それでリオはどうした?」
「発熱している。風邪気味のところに長距離移動をして、疲れたのだろう」
「ならば早く宿に戻って着替えた方がいいな。濡れたままだとひどい風邪になる」
「わかっている」
「ほら」とギデオンが背を向ける。
リオは、ギデオンの背を見つめた。ギデオンは何か勘づいてる?リオが傷を治したことに気づいた?わからないけど、自分の身に何かが起こったことはわかっている。だって大きな傷が治ってるもんな、|怪《あや》しいよな。
だけど今はそれを追求する気はないようだ。
リオは小さく息を吐くと、素直に広い背中に身体を委ねた。
背負われてビクターの横を通り過ぎようとすると、視線を感じて顔を上げた。
ビクターが物珍しそうにギデオンとリオの顔を交互に見ている。
「狼領主が部下を直々に背負うのか?へぇ?たしかアトラスが、ギデオン専属の部下だとか使用人だとか言ってたな。愛人か?」
「違う。黙れ」
「別に隠すことはないぞ。俺もかわいい男の愛人がいる」
「おまえと一緒にするな」
「おまえとは話にならんな。なあリオ、どうなんだ?」
「リオは疲れて喋れない。そっとしておいてやれ」
「ふーん」
ビクターが嫌らしい笑みを浮かべながら、地面に置いてあったギデオンの剣を拾う。
それを横目で見て、ギデオンが「すまない」と全く感謝していない口調で言う。よほど先ほどのビクターの言葉に腹が立ったのだろうと、リオはギデオンの肩に頭を乗せビクターの横顔を眺めながら思う。
ビクターはとんでもない勘違いをしている。俺はただの金で雇われた使用人だ。なぜかわからないけど、俺と共に寝たらギデオンの不眠が治った。だから同じベッドで眠るだけの関係。ただの主従。それに俺は騎士ではないから、頼りないから、つい手を出したくなるのだ。
今回も助けに来たのに、結局は背負われて負担をかける始末だ。でもさ、ギデオンの大きな傷を治したのだから、俺が来たかいがあったよね?そのことを誰にも話せないけど、俺はギデオンを助けることができたから、満足してる。来て良かったと思ってる。他の皆からすれば、剣も使えないのについて来て、発熱して迷惑な奴だと思うだろうけど。まあいいや。ギデオンに何事もなかったのだからそれで。
リオはふう…と息を吐く。
「ギデオン…」
「なんだ?」
「重ければ、その辺に俺を置いていっていいからね」
「バカめ。そんなこと決してしない」
「ふふっ」
「何を笑っている。バカめ」
たくさんバカって言われた。だけど何だろう…。腹が立たない。むしろ嬉しい。すごく心配されてる気がするんだ。
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