「こいつにしようか?」
私はヴィガン家の犬である。とはいえ自分は動物の犬ではなく、あくまで”犬役”というだけである。
ヴィガン家というのはアメリカの超有名大貴族であり、そこで飼われる人間犬(ヒュードッグ)はちゃんとした下級貴族から選ばれる。
所詮は犬、住むところは部屋ではなくゲージであり、食べ物はペットフードである。
それは事前に教わっていることである。
そして今日が、初めてヴィガン家にやってきた日である。リビングの隅に身長145cmの私には少し大きいケージが、ドンと置いてあった。
ケージは2m程度である。ヴィガン家の玄関で綺麗な装飾が付いた首輪をつけられて四足歩行になった私はケージに従順に入っていく。
誰だってヒュードッグ生活は嫌だが、ヴィガン家に選ばれたとなれば、一家の大きな誇りとなるから、一家は逆らうことなく送り出す。結果私も、ヒュードッグとしてヴィガン家に入ったわけだ。
ヴィガン家の主人はロズフォード。ロズフォードと呼ぶことは禁止で、当然”ご主人様”である。
ご主人様はケージに私を閉じ込めるとすぐに餌をくれた。餌はドッグフード、当然人間の口には合わない。だが、抵抗したりしてはいけないのである。犬のように伏せて、缶詰からガリガリと食べる。犬の存在になってみれば、人間がどれだけ犬を見下しているかがわかる。
しかし、本場はこれからである。犬として暮らすなら、犬を飼えばいい。ご主人様の意図はそこではないのだ。
ご主人様が犬ではなくヒュードッグを飼うのには理由がある。それは、子を妊娠させることだ。子を産まなくても、つくれば、子を生んだカウントになる。この大貴族に、子どもがいないなんていうことはありえないと思われているため子どもを作らなければならないが、30年に一回しか産ませないのである。他の子どもは命だけ作って妊娠させ、記録を残し、中絶させれば良いと考えているのだ。
このことは、ヴィガン家の者以外全く知らない。なぜならばヒュードッグは全て、クビになったときでも始末されるのだ。だから秘密は漏れたことがない。そしてその事実はヒュードッグでさえ、実際に屋敷に行ってから知ることになる。パソコンやスマホも管理され奪われ、ケージに閉じ込められている。
そしてこの体制ができあがっているわけである。
ヒュードッグにもちゃんとした振る舞いが必要で、ご主人様がおもちゃを持ってくれば犬のように遊ぶし、散歩ならば首輪にリードで四足歩行で行く。恥などは捨てるのだ。私が知っているのは、この上に挙げたことぐらいだ。
だが、今日、私は初めてヒュードッグのしつけを受けた。男と女がイチャイチャするよりきつい。鞭は振るわれるし、尻尾は振らなければならない。ご主人様がどのおもちゃで遊んでくれるかによって、対応を変えなければならない。立ち上がってはいけず、本物の犬のように四足で歩いて、用がないときはケージに閉じ込められている。
実際に妊娠をさせられるのは2週間後、それまでに基本的なしつけが行われるらしい。
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