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テラーノベル(Teller Novel)
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母「あのね怜、妹ができたの」


「えっ」


「女の子だよ。名前ももう決まってる。“夏”って言うの! どうかしら?」


「え、えぇと、うん! いいと思う! 夏!」


母「怜がそう言ってくれて嬉しいわ!」



俺が小学一年になった頃、妹が出来た。名前は夏。……日向、夏。これは以上はもう否定しようが無かった。完全に俺は、日向翔陽の体に生まれたんだ。だけどその中身は日向翔陽じゃなくて、日向怜。俺が日向翔陽の体に生まれたことで不完全な日向翔陽になってしまったんだ。でも、どうして……日向翔陽は漫画のキャラクターのハズじゃないの?


信じられなくても、現実は変わらない。俺が日向翔陽に生まれてしまったのは変えようのない事実で、俺はこの先起きるであろう未来を知っている。仮にここが漫画通りに進む世界であれば、の話だけど。



前世で兄妹のいなかった俺は夏が生まれてきたとき、素直に嬉しいと思った。初めて握った赤ちゃんの手は小さくて、ふくふくで、必死に産声を上げる夏は、確かにここで生を受けて、いつか来る死までその命を燃やし続ける。それは俺も同じで。両親もそうだ。

俺はきっと日向翔陽であり、日向怜でもある。本来であれば日向翔陽はまだこの時、バレーボールにハマっていない。彼は小さな巨人を見たことがきっかけでバレーボールを始める。この時点で既に日向翔陽では無くなっているのだ。……なんか、なんかもういいやって、そう思った。


人の顔色を気にするのはもううんざりだ。自分ができることで、周りが嫉妬してくるのも、自分の代わりにスタメンを降ろされた先輩から嫌がらせを受けたのだって、本当は凄く嫌だった。だけどこれは、こういう風に生まれてしまった自分に課せられた、周りとのハンデなのだと自然とそう思い込むようになってしまった。

でももう、そういうのは全部やめにしたい。俺は俺でありたいし、誰かの顔色伺ってヘラヘラすんのなんてもっと嫌だ。



「……兄ちゃん、もっと頑張るからな、夏」



ベビーベッドで寝転がり、ビー玉のようなつるりとした瞳で俺を見上げている夏の小さな手を優しく握る。

俺はその日、本当の意味で日向怜になることを決意した。

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