テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#ファンタジー
#イケメン
#最強
恵比寿・大黒天などの七福神は、100年に1度開催される『七福神決定戦』により選抜される。
まずは、47都道府県で行われる地方大会を勝ち抜かねばならない。
ご当地七福神が決勝へとコマを進めることができるのだ。
地方大会の舞台となる田舎町では、ちょっとした盛り上がりをみせている。
世界各地から名高い神々が集結しつつあるなか、七福神決定戦に挑もうとする、歩幅3センチの少女がいた――。
卍
花粉の混ざった春の風が吹く田舎町を、和服姿の少女が歩幅3センチでゆったりと歩く。
肩まで届く艶々の黒髪をパールピンクの髪留めで結わいている。
小振りのツインテールを左右に揺らしながら、少女は公民館に臨時で設置された受付へと向かった。
人の気配を察知した様子の受付嬢。
音はすれども姿は見えず。
受付カウンターよりも背が小さい少女の姿は、事務作業に没頭する受付嬢の視界に入っていないようだ。
怪訝そうな表情を一瞬だけ浮かべると、すぐに仕事を再開した。
少女の身長は1メートル。
小さな体を一心に伸ばす。
普段は引っ込んでいる頭頂部のアホ毛(20センチ)を発現させた。
身の丈120センチとなった少女は、自身の存在をアピールする。
受付嬢の視界にチラチラと入り込む少女の頭頂部。
少女に気づいた様子の受付嬢は、内側からカウンターの下あたりを覗き込む。
「あら、神さまでしたか。七福神決定戦のお申し込みですか?」
受付嬢の問いかけに、神と呼ばれた少女がコクリとうなずく。
木製の真新しいカウンターに泥まみれの草履でよじ登る。
「こちらに記入をお願いします」
受付嬢は、決定戦参加申し込み用紙を少女に手渡した。
少女はカウンターの上で正座をすると、自身よりも遥かに大きい硯を、着物の袖から取り出した。
墨汁をたらし、筆に墨をつける。
少女は自分の顔に黒い丸を描こうとするが、受付嬢に全力で阻止された。
アホ毛は、勢いよく頭に引っ込んでしまった。
テンションが著しく下がったらしい。
しばし、少女は考え込む。
再度、自分の顔に黒い丸を描こうとするが、やはり受付嬢に止められた。
思考すること5分あまり。
筆を使って文字を書いたことがない少女は、受付嬢に渡されたボールペンで記入するのだった。
「これでいい」
少女が満足げにつぶやく。
気分が高揚しているのか、少女の頭頂部からアホ毛が顔を出した。
「希望する部門は、お間違いないですか?」
七福神決定戦は、恵比寿・大黒天・毘沙門天など計七部門に分かれている。
参加者は出場する部門を事前に申請する必要があった。
部門に偏りがでた場合、人数調整を行うためだ。
また、誤記入する神がいるため、受付嬢は確認をとったのだ。
「寿老人。地味。これでいい」
少女は、人気のなさそうな部門(寿老人)を希望したようだ。
だが、受付嬢の表情は冴えない。
「今回は寿老人部門への申し込み者の数が多いようで……」
なで肩をさらに落とす少女を不憫に思ったのか、受付嬢は少女の先回りをして言葉をつけ加える。
「福禄寿部門も難しそうです。今回は特別にお教えしますね!」
受付嬢は少女に向かって片目をまばたいた。
女性からウィンクを貰うのが初めてらしい少女は、頬を赤くした顔を俯かせる。
「恵比寿、毘沙門天、大黒天は人気のようです。比較的、空きがあるのは弁財天、布袋尊部門ですね。神さまなら弁財天がお似合いかと思いますよ?」
「それでいい」
千代里は、出場できれば部門にこだわりはないようだ。
「弁財天部門への申し込みに変更しておきますね」
「感謝」
「確認のため、神様のお名前を頂戴できますか?」
「千代里。116歳。特技はハシビロコウのマネ」
「動かないことで有名な、あの鳥のことですか?」
受付嬢は、例の鳥を想像しているようだ。
顔を引きつらせながら、千代里を見やる。
「動かない鳥。マネしてみる」
「ハシビロコウのマネは結構ですので。お願いですから瞬きをしてください……」
千代里は、ある意味男前な面相で受付嬢をガン見する。
最高のモノマネを披露すべく、呼吸と瞬きをガマンしている。
「アホ毛を出したり引っ込めたりする芸のほうがウケると思いますよ。名付けて『アホ芸』というのはどうです?」
笑っちゃダメ……。
受付嬢は後ろを向いて肩を小刻みに揺らす。
軽く咳払いをすると、千代里に向き直る。
「七福神決定戦(地方大会)は初めてのご参加ですね?」
「はじめて。ガンバル」
千年前から始まった七福神決定戦は、100年に一度行われ、何かしらの競技で勝敗を決める。
第1回は大食い大会。
直近の大会である第9回は、のど自慢大会だった。
今で言うカラオケバトルだ。
千代里は前回の大会は不参加だった。
自身の歌声は、ちょっとヤバイという自覚があるらしい。
信者の何人かが逃げたという噂がある。
「決定戦で行う競技などはご存じですか?」
「しらない」
チラシの見出しだけを見て参加を決意した千代里は、開催日時・大会規定など全く把握していない。
「今大会の予選で行う競技は、女ストです」
七福神決定戦は時代に合わせて変化している。
節目を迎える10回目は『ジョスト(馬上槍試合)』なる西洋発祥の競技で争うことになった。
初めて横文字(カタカナ)が導入された記念の大会である。
ジョストとは、欧州で広く行われた騎士による一騎討ちである。
馬に乗ってお互い突進し、槍などで戦う。
中央に壁が設けられ、競技者はそれぞれ左右から走り、すれ違いざま、手にした武器で相手をたたき落とす。
此度の決定戦の参加資格は、“女神のみ”ということから『女スト』と呼ばれる。女のストーカーではない。
「お馬さん持ってない」
「いえ、馬には乗りません。女ストではトラクターを使います」
ルールは元となったジョストと同様だ。
人間が操縦するトラクターの屋根に女神が乗る。
互いが向い合ってトラクターで走り、壊れやすい槍を用いて敵を地に沈めるのだ。
「ところで、神様。パートナーはいらっしゃいますか?」
「いない」
競技には女神と人、二人一組で参戦する必要がある。
信者など皆無の千代里にパートナーはいない。
大会規定に全く目を通していない千代里に、イヤな顔ひとつしない受付嬢。
表情ひとつ変えない千代里。
もはや、どちらが女神か分からない。
「トラクターが準備できないようでしたら、こちらで用意します。大会の参加費と、トラクターのレンタル料が必要ですけど、今日はお持ちですか?」
お供えもので飢えをしのぐ千代里にとって、5千円+レンタル料の出費はかなり痛い。だが、無理をしてでも参加したい理由が千代里にはあった。
「ある」
千代里は首から提げた巨大なガマ口財布を受付嬢に手渡した。
自信あり気な千代里とは裏腹に、財布は申し訳なさそうに大口を開けた。
「だいぶ足りないようですが……」
500円玉しか入っていない財布を見た受付嬢が苦笑する。
「正式登録は保留にしておきますね。パートナーが見つかったら、またおいでください。できれば、トラクターを用意できる方を探してくださいね」
「また来る」
仮登録を済ませた千代里は、逸る気持ちを抑えつつ、歩幅3センチで外に出る。
1回戦で敗退してもいい。
せめて顔と名前だけでも知らしめようと考えていた。
千代里の名は、世間にまったく知られていない。
名声をたかめ、信者を獲得しようと七福神決定戦への出場を決意したのだ。
一部の著名な神を除いて、ほとんどの神はド貧乏である。
信者からのお布施、お供え物などに頼るという、おんぶに抱っこ状態だ。
無名の女神である千代里も例外ではない。
マイホームという名の社を持つことや、自身のグッズ販売でウハウハ状態など、夢のまた夢。
生活費? は自力で稼ぐ必要がある。
なにはともあれ、共に参加してくれる人物を探さねば。
神技を披露して参加費を稼ごうと、千代里は4センチの歩幅で公園へと向かった。