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tilde
2,880
更新が遅くなってしまい申し訳ありません🙇
※ご本人様に関係は御座いません。
※一部モブ注意
親切な君
―――――――――――――――――――――――――
―――――「許してくれる人」
低くかすれた声で確実に発された彼の一言をきりやんは頭のなかで反芻していた。
そのまま解釈するのならば、スマイルのことを何をしでかしても許してやれるやつということだろう。
でも、何かが違う、そう頭の中で思った。
だって何をしても許す=興味があまりないorあまり気にならない人ということだろう。
そんなの愛してもらっていないと俺なら思う。
まぁ、あの彼のことはわからないけれど。
「はぁー」
ため息をつきながら机に突っ伏す。
なんとなく顔を起こし横に向けるとつけっぱなしのテレビが目にとまった。
そのテレビの内容は、何ともくだらない不倫ドラマだった。
―――「あんなの、ちょっと甘い言葉を囁いて誘ったらイチコロよ」
「お前も悪い男だな」
「騙される方が悪いんだよ」――――
ぼうっと眺めているとそんな会話が耳に入った。
確かに騙される方が悪いという話も一理あるだろうが、今は倫理観的にはどう考えてもだめだろ、と思った。
その瞬間、脳裏に弾けたようにある作戦が思いついた。
「……優しい人」
――優しい人になればすべて解決するのでは?
そんな単純明快な案を抱えながら俺は立ち上がった。
――――――――――――――――
作戦︰優しい男になる
プラン︰①気遣いをする
②相手を優先する
③自然に距離を詰める
「完璧だろ」
天井に向かってぽつりと呟いた。
こうまとめて見ても簡単なものだが、目標が如何せん単純明快なものなので急仕上げでも何とかなるだろう。
(明日から頑張るぞ)
そう決意して、眠りについた。
――――――――――――――――――
1限終わりの休み時間。
次の授業は理科だった。
俺のクラスは理科室までまあまあ距離がある場所にあった。
毎回移動教室は面倒くさいものという認識だ。
―――でも、俺には作戦がある。
自信をかなり持ってスマイルに話しかけに行った。
―――――――――――――――――
「……スマイル」
後ろから話しかけられる。
「ん」
名前を呼ばれた反射で適当に相槌を返してなんだろうか、と思い振り返った。
「次、移動教室でしょ」
そう言われてチラ、と背面黒板を見る。確かに次の授業は理科で理科室だ。
「そうだね」
なんでそんな事を言ってきたのかが分からず、少し疑問を持つ。
「荷物、持とうか?」
俺が頷いた途端、そうきりやんは言ってきた。
―――なんでだ?
頭はそのはてなで埋め尽くされた。
いつも普通に荷物ぐらい持っているし、今怪我をしていて物が持てないわけでもない。
2人の間には少し沈黙が流れた。
「……いや、別に自分でも持てるけど」
口から出てきたのは疑問をそのまま言語化したものだった。
「いや、そうだけどそうじゃなくて!」
きりやんは慌ててツッコんでくる。
――そうなら別にいいだろ。
そう思ったが口には出さず彼の言葉を待つ。
「重いかなって」
少し待ってきりやんの口から出てきた言葉はそんなよく分からない理由だった。
「…別に」
「あぁそう…」
なんか変だな、と思ったが、それは通常運転なことが多いので無視することにした。
「早く行かないと怒られるぞ」
立ち止まっている彼にそう言い聞かせ、教室を出た。
――――――――――――――――
(失敗か)
足早に廊下を歩きながらそう思った。
(だけど、まだ終わってない)
(ちゃんと重いとか理由がないといけないんだ)
きりやんは次の作戦についてすぐに考え出した。
―――――――――――――――
昼休み。
教室は人が疎らになっていて、居るのはご飯を食べながら勉強してる奴か、同じクラスで仲良くなった奴らで集まってご飯を食べている集団だった。
日差しが段々と傾いて来ていて教室の窓から日が落ちる。
ぽかぽかしていて暖かい。そんな空気だった。
隣にはもちろんスマイルが居る。
購買で勝ち取った焼きそばパンをもぐもぐと一生懸命食べていてかわいい、そう思った。
ふとその時思った。
「今日、水筒持ってないの?」
彼の机にはいつもの紫色の水筒が乗っていなくて横にかけてある素振りもなかったので不思議に思って聞いた。
「…あぁ、うん」
「購買で買おうと思ってたけど忘れてたな」
口のなかでモゴモゴしながらも彼は答えた。
(これはチャンスでは!?)
心の中でそう考える。これで水かお茶を俺が買いに行けば流石に気を遣えて、優しい男だろ。
「…俺、買って来ようか?」
少し考えてから、そう言った。
「え、いやいいよ」
彼は申し訳ないように首を横に振った。
「いや、俺もなんか飲み物買いに行こうかなって思ってたところだからついでに行くよ。」
「それにまだスマイル、パン食べ終わってないじゃん」
ここで畳み掛けないと多分スマイルは縦に首を振らないだろう。
「…じゃあ」
彼は俺の手におずおず小銭を差し出して来た。
(別にそのくらい俺が払うのにな)
そんな庇護欲が出てきかけたが、当初の目標は達成したのでおとなしく行ってくるわ、と言い教室を出た。
一番教室に近い自動販売機まで少し早歩きで向かう。
自動販売機の場所に着くとスマイルからもらった小銭を入れ、水のボタンを押す。
ガコン、と音がなってペットボトルの水が落ちてきた。
行きと同じ様に帰りも少し早歩きで教室へと向かった。
「はい、どーぞ」
買ってきた水を受け渡した。
「ありがと」
スマイルはそう言って、ペットボトルの蓋を開ける。
ごくごくと水を飲んでいく。
三分の一位を飲んだところで口をペットボトルの縁から離し、ペットボトルの蓋を閉めた。
「うま、」
久しぶりに飲んだ水にご満悦のようだ、少し顔の表情が明るくなっている気がした。
(なんか、普通だな)
そう思ったが、喜んでいる顔を見るのは悪くないのでまあこれでもいいかなと思う。
(いや、良くはないけど)
―――――――――――――――――
昼休みも終わって5限の授業が始まろうとしていたとき。
「また移動教室かよ」
今日3回目の移動教室授業だ。流石に面倒くさくなってくる。
(荷物持つのも意味ないって分かったしな)
頭の中でうーんと唸りながらどうしようと考えていたその時、
「うえっ」
スマイルの身体がグラッと重心を失ったようにこちら側に傾いた。
「あっぶな…!」
「大丈夫か?」
思わず伸びた右腕でスマイルの体をぎゅっと抱き寄せる。
どうやら机に足を引っ掛けたらしい。
「うん…ありがと」
そう言って、ぱっと自分の机へと離れていく。
(もしかして今、とてつもないチャンスだったのでは…!?)
数秒後、そんな後悔が頭によぎったがときすでに遅し。
彼は何事もなかったように行くぞ、と俺に声をかけドアの方へ向かってしまった。
(スマイルの体細かったな…)
そんな邪な思いと失敗したなという思いがぐちゃぐちゃになってその場にしばらく立ち止まっていた。
―――――――――――――――――――
もうそろそろ日が長くなってきただろうか、と感じるくらい明るく日が差し込む放課後。
いつも通りダラダラと喋りながら、通学路をゆっくりと歩いていた。
通学路の横には今の時代に珍しい少しにぎわった商店街通りがあった。
なんとなくこの通りのいい雰囲気を感じて久しぶりに通ってみるか、なんて優等生のきりやんらしくない提案をしてきて思わず乗ってしまった。
いろとりどりな温かいお店を見ていた。
そんな時だったろうか、
あっ、と隣で声が漏れ先程まで俺と会話していた彼は少し小走りである店に駆け寄っていった。
「こんにちは、おばさん!」
きりやんはそう言って揚げ物屋の女将であろう人に気さくに喋りかけた。
「あら~きりやんくんじゃない」
彼女はきりやんに気づいて、にこっと笑みを作った。
「まぁ、久しぶりね〜今は学校の帰り?」
「うん、久しぶりにこっちの道通ってみようと思って」
そんな感じで話は続いていった。
きりやんのいいところが前面に出ているな、と思った。
愛想の良い笑みを浮かべて、反応もいちいち大げさで面白くて、
―――そういう奴だから人が集まるんだろうな。
勝手にそう思った。少し、疎外感を感じて何故か胸にチリッ、と焼けるような感覚がした。
そんな事を考えていたらいつの間にか話は終わっていたようで、きりやんは女将さんに手を振ってこちらに駆け寄ってきた。
「ごめん、話が盛り上がっちゃって」
彼は俺の目の前に来て、両手を合わせて謝るようなポーズをした。
「いや、別にいいけど」
「それもらったの?」
彼が右手で持っている美味しそうなメンチカツが覗いている白い包紙を目ざとく指していった。
「あぁうん、お土産にだって」
美味そうだな、と思いながら眺めていると
「お前にやるよ」
と暫し考え込んだあとずいっと手を差し出しながら言った。
「なんかめっちゃ欲しそうに眺めてたし」
そりゃあこんな一番腹が減る時間にこんな美味しそうなものがあれば誰だって欲しくなるだろ、と思ったがもらったのはきりやんだ。
「いやいや、人のものを取る気はないし」
一応謙遜しておくが、食べたいものは食べたい。そんな気持ちは彼にバレバレだったようで
「いいよいいよ、受け取って」
「お腹空いてるでしょ」
そこまで言われたら、逆に断るのもあれだし、お金を払って買ったわけじゃないなら、と頭の中でくだらない理由をつけて受け取る。
「じゃあ、遠慮なく」
差し出されたきりやんの手にあったメンチカツを申し訳なさそうに取っていく。
パク、と一口食べる。
サクッとした衣がいい感じに揚がっていて重くない。中身の肉もジューシーで脂が乗っていてうまい。
「うま、」
思わずそう呟いた。
彼の顔を見ると、こちらを不思議な顔で見ていた。
――やっぱ、食いたかったのか?
そうだとしたら悪いことしたな、と思い2枚重なっている包紙を1枚取り外して、両手でメンチカツを押さえ、半分にした。
「はい」
半分にした片方をきりやんに差し出す。
「えっ、」
「いいの?」
きりやんはこの行動にびっくりしたようであっけにとられた顔で聞いてきた。
「いいも何もお前が貰ったもんだろ」
そう言って、何も反応がないきりやんに半分のメンチカツを押し付ける。
そして、もう一口半分にしたメンチカツを食べる。
そのメンチカツは先程よりも美味しく感じられた。
―――――――――――――――――
「……それはズルいだろ…」
誰にも届かないようなか細い声でそう呟く。
誰もまさか優しくしたら倍の優しさで返されるなんて思ってもいなかっただろう。
メンチカツを食べて少し上機嫌に歩く彼を見る。
(今、ぜったい顔赤い)
スマイルに翻弄されて撃沈する。
そんないつも通りの、日常だった。
「あ、きんとき」
前を歩いていた彼が、唐突にそう言った。
前を向くと、クレープを持ったnakamuときんときがいた。
向こうもこちらに気づいたようで駆け寄ってくる。
「やほ、偶然だね」
nakamuがにこっと笑みを浮かべてそう言った。
「うまそうなもの持ってんじゃん」
きんときがメンチカツに気づき、そう言った。
「きりやんの知り合いにもらった」
「へぇ~」
その言葉を聞いた瞬間、ニヤニヤしながらnakamuがきりやんの隣に回り込む。
「そのきりやんくんは顔が赤いけど」
「どうしたの?」
わかりきっているはずなのに、聞いてくるこいつは確信犯だろう。
「夕日のせいじゃない」
ぶっきらぼうにそう返した。
「ふはっ、夕日のせい、ね〜」
「んで、どう?優しい人にはなれたの?」
「ちょっ、おま」
nakamuがその言葉を口にした瞬間、いきなりぶっ込んでくるもんだからとても驚いたが、幸いスマイルはきんときとの話に夢中らしい。
(いや、良くはないけど)
――俺のほうがスマイルと話したいし
そんなことを思いながらも、nakamuと話す。
「そんなんわかってるでしょ」
「知ってるからな、お前がちらちらこっち気にかけてたこと」
あきれた口調で言った。こっちをニヤニヤしながら見てくるとかいう分かり易すぎるアピールもあったし。
「まぁ、優しい人ってなろうとしてなるもんじゃないよ」
「現にスマイルがそうだったでしょ」
「やっぱりそうか…」
はぁ~と息を吐きながら頭の後ろで手を組む。
「頑張ってよ、応援してるから!」
にこっとそう言われた。
まだ道のりは遠い。もっと大きなため息をきりやんは吐いた。
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コメント
3件
いやー、第9話も良かったわ~!きりやんの「優しい人になる作戦」が不器用で可愛すぎる😂 荷物持とうとしたり、水買ってきたり、一生懸命なのが伝わってくるんだけど、スマイルの方がずっと自然に優しくて、メンチカツ半分こしてあげるところで「ズルいだろ…」ってなるきりやんの気持ち、めっちゃ分かるわ。このじわじわ距離が縮まる感じがたまらん!次も楽しみにしてる🔥