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3 - 第3話ハンターの質とは

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2025年02月13日

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「なぁ、人間の心ってなんであんなに脆いんだ。信じたのはそいつの責任で、後になってそんな筈はなかった、奴は変わったって自分が被害者みたいに言う」

男はビルの屋上から夕暮れの街を見下ろした。

「冬夜、俺は人間が嫌いだ。この目の前にある光の中にいる人間を皆殺しにしてやりたい」

「八つ当たりじゃないか?」

冬夜は淡々とした表情で言った。その言葉に不気味な笑みをニヤリと浮かべて、

「ああ、八つ当たりだ。皆殺しは冗談として、ハンターという名誉な殺し屋になった事を有難く思うよ」

「…」

「合法で魔族を殺れるのだからな」

「…」

最近ハンターの質が悪く、陰陽師の当主 安倍晴也(あべ せいや)は苦肉の策で、西の魔王、シュナイザー王に相談していた。魔界でも犯罪レベルの者が未来異世界へ独自のゲートを作り出し、侵入していた。シュナイザー王は宰相のバセッド・ボンハーデンに指示を出し策を練っていたところである。

ボンハーデンは貴族異世界、コンタノール国は3大貴族の一つ。バセッド・ボンハーデンの妻の実家である。バセッドは苗字を持たず妻の苗字を貰い魔王の側でずっと宰相を勤めてきた。貴族異世界のボンハーデン家には残念な事に子供が授からず、5人の息子がいるバセッドは末の息子をボンハーデンに養子に出したのである。それが現在のボンハーデン当主フォード・ボンハーデンである。(フォード・ボンハーデンは魔族と人間のハーフで、人間年齢は45歳。魔界人年齢150歳である。)

バセッド・ボンハーデンのユニークスキルは嘘を見抜ける千里眼を持ち、魅了を操る事もできる。

バセッドはシュナイザーからの指示で、届けのない魔界ゲートを部下達に探させた後、魔界側の内通者を見つける作業をしているのだ。

バセッドの書斎にて、部下からの報告を受けながら事の真相へ辿り着きそうな頃、最近居座る、四天王の1人、ダークエルフのアルシスはバセッドの元にある報告書を読みながら、メイドが入れたお茶をすすっている。

「なぁアルシス、そろそろ自室に戻ったらどうだ?」

「バセッド様、私はこれでも仕事をしているのですよ」

「そうは見えないが?」

「失礼な」

と眉をキッと上げるとムッとして更に続けた。

「私が思うに、ハンターの悪評は序曲でしかない」

「序曲?」

バセッドは片眉をピクリと動かし、ぞんざいにしていた態度を改めた。

「ええ。それも安倍家になんらかの思惑がある者ではないかなぁと」

「思惑……。まぁ、お前が言うならまず間違いはないだろうな」

バセッドがアルシスの仕事をちゃんと認めている事に、少し嬉しかったのかアルシスは機嫌を治した。そして機嫌を治したついでに以前学問を教えていた可愛い生徒を思い浮かべ、彼女の再会を前々から焦がれていた。

「ところで、私のお嬢様にはいつ会わせて頂けるのですか?」

バセッドはまたも片眉をピクリとさせて

「エリナーミアはお前のではない。私の孫娘だ。それに、私でも会う事が少ないのに」

と苦虫を噛み潰した顔をしている。

「バセッド様、今度一緒に会いに行きませんか?」

「一緒に…。考えておくよ」

バセッドはそう言うと薄らと笑みを浮かべたのだった。


下校時刻になり紬(つむぎ)は梨里杏をまた観察していた。梨里杏は帰り支度を終えると鞄を肩にかけ、顔見知りになったクラスメイトに手を振り挨拶をしている。

紬も帰り支度を終えて鞄を肩にかけた。クラスメイトに「紬ちゃん、帰りカフェ行くけど一緒にどう?」と誘われたけれど

「ごめん。今日は急いで帰らなくちゃ。誘ってくれてありがとう」

と両手を合わせてウィンクする。

梨里杏の後を急いで追うと、昇降口で梨里杏の背後を見つけた。

紬は初めて梨里杏を見てから気になって仕方がなく、ずっと観察していた。今日はお昼休みに教室を出て、誰かを探していたり、その後1年の教室に行って、最近噂の美少年と接触したり。

梨里杏ちゃん、誰を探していたの?

何故こんなに梨里杏に惹かれるのか、紬にもわからない。

だけれども、可愛いと思った瞬間から目が離せないのだ。

梨里杏はずっと見られている事に気がついていた。存在を消す魔法も効かない人間がいる事も、そして、背後にいる相手のオーラを知っている事も。

梨里杏は小声で唱える。

「亜空間」

すると背後の相手と共に一つの空間を作っり囲んだ。

梨里杏は振り返ると相手は同じクラスの伊藤 紬であった。

梨里杏ちゃん…

紬は驚いた顔をして梨里杏を見つめる。梨里杏は髪をかき上げると、黒かった髪色が銀色に変わり、瞳の色は吸血鬼の赤色と人間の日本人のブラウン色が混ざった、ピンクブラウンに変化する。

「そう、あなたあの時のあの娘なのね」

ふわぁ〜と体をうかせると、紬の前に立ち、顎をクイッと上げる。

「記憶を消してしまったけど、元気に学校に来ているから障害もなく生活が出来ているのね」

紬は漫画でしか見た事のないこの状況、梨里杏が人間でない事に怯えながら、

「梨里杏ちゃん…あなた、いったい…」

「眷属までにはならない程度で抑えたのよ。命は大切にしてね。でも、少しでも私の血を知ったから、私から目が離せなくなるのはしょうがないわね」

「どう言う事…?」

「うーん、その話はまた今度話してあげる」

「……」

「ねぇ、聞いてもいい?」

「……はい」

梨里杏は紬の顎を離してやると、腕を組んで薄笑いを浮かべた。

「このまま私を気にしながら生きるか、私の眷属となり卒業したら私のところに就職するか」

梨里杏は「救った命は自分のもの」と言う考えである。

「ま、直ぐに答えを聞かないわ」

「あの…えっと….」

紬は混乱していて考えがまとまらず、梨里杏にどう返してよいか言葉がでなかった。

それを分かっている梨里杏はニッコリ微笑むと

「焦らなくていいわ」

梨里杏はウィンクをすると亜空間と共に姿を消した。

「梨里杏ちゃん…」

紬は顔が熱くなるのを両手のひらを当てて熱を冷ます。

「私は夢を見ているの……?」

紬の中で嬉しさが爆発しそうである。吸血鬼に救われた命は、その吸血鬼を主人として服従してしまう。これは吸血鬼の血中にある成分が人の脳に何らかの侍従関係を促すようだ。

紬としては進路が全く決まっていなかった。何をして良いのか全く思いもつかず。しかし、梨里杏の勧誘で分からなかった将来への思いが納得いったのである。

「決めた」

紬は梨里杏が消えた方を見つめながら頬を緩ませた。

「怖いけどやってみる」

紬にとって人間らしい生き方の選択はあの事故で消滅していたのである。梨里杏の勧誘が無かったら、将来の扉は開く事がなく、家に引きこもっていたのだろう。あの事故で人間紬は死んでいたのだ。その考えに至るまで紬は今まで悩み続けていた。梨里杏との再会は、紬にとってやっと息ができる時間の始まりだったのだ。


その夜ーー。

東京某区。

陰陽師の工作員が結界で周囲を隔離する。その中心部に暴力団組織と称した魔族の男達が巨大暴力団組織の組長を殺す計画があると情報があった。

そこに依頼を受けた、ハンターの相澤 翔と冬夜である。

相澤 翔がハンターになったのは、社会不適合な部分があり、企業での歯車に噛み合わない性格をしている。

根は悪い奴ではないが、やる事が過激な部分があり冬夜は行き過ぎない様に監視をしているようなものである。

冬夜はシュナイザーの変化(へんげ)である。

「翔、情報どおりならそろそろ始まる」

「ああ、分かった」

この男、相澤 翔は過去に人間との折り合いが付かず、今は人嫌いの度が過ぎて人間を恨んでいた。その結果、魔族を狩る事で自分の存在意義を感じている。

高級クラブのある雑居ビルから10数人の黒いスーツを着た男達に囲まれて、ターゲットの組長が現れた。それを待っていた様に、あちらこちらに隠れていた魔族の男達が組長目掛けて人間ではあり得ないスピードでサーベルを振り回し向かっていく。

「行くぞ」

翔は魔族を殺せる喜びに心は囚われている。そんな喜びを隠そうとはせず、冬夜より先に飛び出した。

ハンターとは、人々を守るために存在すると言う陰陽庁の考えを完全に建前にしている。それは上の者の意向であって、末端の兵隊には殺人鬼の所業だな。冬夜はこのくだらない茶番を陰陽庁長官の安倍 晴一(あべ せいいち)に嫌味の一つでも言ってやりたい気分だった。

陰陽師当主、安倍 晴也と陰陽庁安倍 晴一は従兄弟同士である。晴一は晴也より10歳下の50歳で互いの仲はどうでもいい。

翔はコンバットマグナムを懐から出トリガーを引く寸前で動きを止めた。

翔の銃はコンバットマグナムを対魔用に改造されたもので、翔が自慢げに「S&W M19は次元大介の愛用品だ」と言っていた。冬夜にとってはどうでもいい話だが、そう言う時の翔は年相応の25歳の顔をしているのである。

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