⚠︎自己満
⚠︎低クオリティ
「……もちさん」
「ん?あれ、ふわっちじゃん久しぶり。もう具合は大丈夫なの?」
「あはい、もう全回復不破湊です。その節はご迷惑をおかけしまして……」
「そっか、よかった。こんなところでふわっちに脱退されたら、僕としても困るからね」
「はぁい…」
「まあ、それはそれとして、何か用があったみたいだけど」
「ああ、そうなんすよ!もちさんにひとつ聞きたいことがありまして……」
「若い子って、何貰ったら喜ぶんすかね?」
正直なところ、あの時の記憶はかなり曖昧だ。そもそも家に帰って熱を測った時点で39度あったし、仕方がなかったかもしれない。
誰かが電車内で支えてくれて、その人がとても親切にしてくれたこと。柄にもなく、人前で泣いてしまったこと……。そんなことくらいしか覚えていない。それでも、俺のスマホには、忘れさせまいとでも言うかのように、しっかりと或るお店のホームページがブックマークされていた。
『CAFE Zeffiro』
スマホから顔を上げると、そこには写真と全く同じ外装の建物がそっくりそのまま建っていた。入り口のドアに掛かっている札には、CLOSED の文字。
自分でも案外義理堅い性格だな、とは思う。そりゃもちろん、助けてもらった人にお礼をするのは日本人としての礼儀だろうが、それにしたって、生まれてこの方こんな状況になったことがないもんだから、そう、端的に言えば、柄にもなく緊張している。
まあええわ、開店前にちょちょっと会って、お礼渡して帰れば一件落着。ちなみに手土産は有名な老舗菓子屋のバターサンド。もちさんチョイス。この味は全年齢向けやろ、さすがに。もう何が正解なのかわからんわ。
意を決し、ノブに手をかけて引くと、チリンと鈴が鳴ってドアが開いた。開店前だからか、店内はまだ暗く、いかにもカフェらしいコーヒーの匂いが鼻をくすぐる。
(もうすぐ開店時間だし、人、いるよな…?)
しんとした店内に少しだけ不安を感じつつも、今更帰ることもできず、足を踏み入れた。
「…あの、すいませーん。誰かいますかー」
「あのーー……」
───もぞ、
「…?」
突然、毛布のような、重い衣擦れの音がして、びっくりして音のした方を見ると、それは窓際のソファ席の方からだった。
少しの間もぞもぞ、と動く音がしていたと思えば、ぬっ、と背もたれの後ろから手が生えてきて、今度は綺麗な金髪の頭の男がのそりと姿を現した。
その男は、瞬きを二、三度してから、不機嫌そうな顔でこちらに視線をよこし、一言、「誰ぇ?」と。
「…あー、すんません、俺不破湊って言います〜……」
あほ、絶対今名乗るとこちゃうやろ。素直に自己紹介してどうすんねん。
案の定、金髪の男は口をへの字に曲げた。それからわざとらしい作り笑いをして、
「……あー…?すいませんね、まだ開店前なんですよ〜。表にも出てたでしょ」
「あの、俺ここの従業員さんにお世話になって……今日はそのお礼に……」
「お礼……?」
俺の説明に、男は少しだけ顔を顰める。
そういえば、あの人の名前も知らない。名乗られたかどうかも覚えていないが、少なくとも手がかりはこのカフェの名前のみだった。誰なのか、と説明しようにも難しい。
「電車で具合悪くなった時に、助けてもらったんすよ。えっ…と、背が高くて……」
チリン、
その時、ふと、入り口の鈴の音が響いた。
「おはようございまーすっ!よし!まだギリセーフだよ…な……って、え”ぇっ!!?」
バチンと視線がかち合い、覚えのある顔が目に映った。少し汗ばんで、呼吸を乱しながらこちらを見つめている人。あの髪色、あの目、あの声、間違いない、あの時の……。
「あの時のお兄さん!!え”ッ、なんで……?もしかして、覚えててくれたんすか?店の名前!」
「は、はい、間違ってなかったみたいで良かった….」
「え、なになに?雲雀の知り合い…?」
金髪が、げっ、というふうに声を上げた。
「いやまあ、知り合いってほどでもないんだけど……」
【side H】───5分前
いつもの通りを走り抜ける。開店まであと…7分ちょい。よし、間に合う間に合う。
しっかし、今日も暑いな。まだ六月の初めだっていうのに、この蒸し暑さ。おてんとさま、どうにかしてくれないかなぁ。
曇った空を見上げながら、ふと、あの日のことを思い出す。今日と同じように暗い雲がかかった空色の日だった。
あの日の電車はいつになく満員で、車内が蒸し蒸しと息苦しかった。多分遅延か何かだったと思う。俺が最寄りから乗った時はそこそこ空いていたのだが、途中の少し大きめの駅でたくさん人が乗ってきた。そん時にいたおばあちゃんに、席譲っちゃったんよな。
そこからは立ったままで、暇だし携帯でもいじろうと思って取り出してから、しばらく経った時。
「この先電車が揺れますのでご注意ください」
アナウンスに、心なしか足に力を込める。
乗客が一斉に傾いた。それに引っ張られる体を何とか立て、吊り革を掴み直したその時。俺の腕の隙間から胸に、倒れ込むようにして誰かの重みがのしかかった。重みといえど、別段重くはない。ただ、フラフラと足元が覚束なく、普通じゃないことは確かだった。
「ん、えッ……??
あ、あの、お兄さん、大丈夫…っすか……?」
恐る恐る声をかけてみるが、返事はない。口元を押さえていて、やけに呼吸が荒かった。顔色も悪く、体温に微かに熱を帯びている。
大丈夫じゃなさそう。
「……もし嫌じゃなければ、このまま俺の方寄りかかっててください。
次でいったん降りましょ」
そう伝え、一瞬躊躇いつつも、今にも倒れそうな体を支えるように、背中と腰に手を添えた。
今まで距離が近すぎて全身像がよくわからなかったが、触れてみると、線は細いが、男性らしい体つきだった。いや、この言い方だとかなり気持ち悪いな。誤解しないでほしい、俺はただ支えてるだけだから。前に座っているおばあちゃんがガン見してくるので、なんだか謎の居た堪れなさで目を逸らした。
しばらく経って、電車が停車したのを確認してから、周りに謝りながらドアまでの道を開けてもらう。ちょっとした好奇の目に晒されながらもホームに出、男性をそこらのプラスチックの椅子に座らせる。その間も男性は手を口で押さえていたので、意識が完全にないわけではないだろうが、深く目を閉じて目眩に耐えているように見えた。その様子がだいぶ辛そうで、あん時俺がスマホなんか見てなければ…って申し訳なくなった。
そこからまあ、色々あって、結局バイトには遅れちゃったけど、別に後悔なんかしてない。あの状況だったら、誰だってああするだろう。俺のしたことが正解か間違いかはわからないけど。
あの人は元気かな。元気だといいな。
別れ際、住所や最寄駅も教えず、ただ「店に来てください」とだけ言った。
一度だけ言いかけた店名を、正確に聞き取ってくれていたかはわからない。聞き取っていなければそれでいいと思っていた。元々お礼なんて望んでないし。
ただ、もう一度会えれば、という淡い期待を込めて言っただけだ。今となっては、何でそんなことをしたのかもわからない。
初対面相手に、もう一度、なんて。
カフェの店先が見えた。上がった息を整えながら、裏になっている札をOPENに変える。
よし、切り替えて、今日も働くぞ!
そう意気込んでから、勢いよくドアノブを引いた。
「おはようございまーすっ!よし!まだギリセーフだよ…な……って、え”ぇっ!!?」
to be continued…
コメント
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律儀なfwも頭からfwが離れないhbも寝起きのkntも全員可愛い過ぎました🥹 表現と言うか表し方が上手すぎませんか🥲
続き楽しみです‼️