この世には染色体による男女の性別とは別に、バース性と呼ばれる三種の性が存在する。
優れた素質を持って社会のリーダー格とされる少数性のアルファ、大多数のひとが当てはまる平均的な性のベータ、そしてアルファと同じ少数性にして社会的弱種とされるオメガ、この三つだ。
オメガは、女でも男でも子を産んで繁殖が出来るという唯一の性である。オメガには一定の周期で発症するヒートと呼ばれる発情期が存在するのだが、それはオメガから発せられる強烈なフェロモンがアルファ・ベータを問わず無差別に誘惑し色に狂わせるという、獣の名残のような繁殖機能を持つために起こる。オメガはそうした身体機能によって社会的に迫害された時代があり、ずいぶんと長く劣等種として蔑まれていた。今ではそんな前時代的で錯誤的な差別なんかはもちろん無いが、オメガはやはりその身体機能のせいで忌避される性である。
一方アルファは男でも女でも精嚢が存在し、相手を孕ませることができるという特異な性だ。子孫を残すことに特化した性であり、そのため非常に優秀な遺伝子を持ちうるアルファは人類の至宝とまで呼ばれてもてはやされている。
ただオメガが遺伝子レベルで他より劣っているなんてことはもはや俗説でしかない。オメガ性でもベータ性でもアルファ性に負けないくらい素晴らしい功績を残すことだってたくさんあるのだから。
そしてアルファとオメガの間には番という関係が存在する。お互いを唯一のオメガでありアルファであると選ぶのだ。番えばオメガは発情期を迎えても自分の相手のアルファ以外を惑わすことはしないし。アルファも番のオメガ以外の発情期には当てられない。
予定が早く終わってランドリーに行くと
深刻そうな顔をした奏斗とたらいと、そして不安そうにソファに座る相方、セラ夫がいた。
二人で並んでソファに座り、私とセラ夫は二人から番になることを説かれた。その頃番の意味をちゃんと理解していなかった私は、とにかくセラ夫とずっと一緒に居られるならと二つ返事で承諾した。それに対するセラ夫は青い顔をしていながらも静かに頷いたのだった。
婚姻関係を結ぶにしてもずいぶんと早いが、セラ夫の発情期は重い、だからオメガの発情期が来る前に早く番になってしまって私たち二人を無差別にオメガのフェロモンをまき散らさないように、またはオメガのフェロモンに当てられないようにした方が良いという奏斗とたらいなりの配慮だったらしい。
そうして私とセラ夫は番になった。
ーーー
「ちょっとセラ夫!はやく開けてください!もう無理です、我慢できない」
「ぅ……ごめん…」
内側から鍵のかけられたセラ夫の部屋のドアを力任せにノックすると、中から弱々しい声が聞こえた。いつものセラ夫なら私がこんなに部屋に入れてくれと頼んでいたら喜色満面の笑みを浮かべて迎えるだろうに、今日のセラ夫はそうはいかない。発情期、もといヒートが来ているのだ。
オメガのヒートによって発されるフェロモンはアルファ・ベータ問わずに誰も彼をも欲情させる。しかしアルファと番になったオメガのフェロモンが影響するのは、相手のアルファだけ。つまりセラ夫の発情期に当てられるのは私なのだ。
しかしセラ夫はヒートになると、絶対に自分の部屋から出てこない。自分の鍵の付いた堅牢な部屋に閉じこもって出てこないのだ。
セラ夫の自室に内鍵が付いているのみ。しかも私という番のいるセラ夫は色欲に狂うでもなく、体内から発散できない熱に浮かされて番のアルファを求めているだけだ。フリーのオメガのようにアルファを求めて半狂乱になったりしないので、二重鍵は必要なく内鍵だけが付いている。
私と寝てさっさとその熱を発散してしまえばいいのに、頑なに私を部屋に入れようとしない。そして私はそんなセラ夫のフェロモンに当てられていて、一刻も早く部屋に押し入ってセラ夫を滅茶苦茶に犯したい衝動に駆られて必死になっているのだった。
「私がこんなに頼んでるんですよ?なんでここを開けてくれないんですかっ!」
「……っ、ごめん…」
「っ…いいからここを開けろ!」
「……ごめんなさい…」
コメント
3件
ぁぁぁ好きです
あぁぁ…刺さる…、ありがとうございます
わあああ 、 好きです ;;