心に穴が空いている。そう思ったのはもう何度目か知れない。原因も分からない。
あの人が事故でこの世からいなくなったあの日から、心にぽっかりと穴が空いているような感覚になる。冷たい風が吹き抜けていくたび、ひりひりとそこが傷んだ。
この穴を埋めようと、努力もした。みんなと遊ぶ頻度も多くしているし、なにもしない時間が無いようにした。だけど、埋まらない。
「おんりー?大丈夫?」
友達のおらふくんに呼ばれてはっとする。
「だ、大丈夫!平気平気」
笑顔で言ったものの、さらにおらふくんの表情が暗くなっていく。
「ぼんさんがいなくなった日から、おんりーはいつも強がってる……辛い時は、なんでも話して?いつでも聞くよ」
優しい友達をもってよかった。でも、おらふくんも言ってるくせして一人で強がって、一人で頑張る人だから、似たもの同士だ。
「おらふくんもね」
微笑んで言うと、おらふくんも笑った。
「おんりーちゃん」
そう呼んでくれていたあの人が、目の前にいる。
触れたいし、声をかけたいのに、体も口も動かない。涙だけが零れ落ちた。
そのままぼんさんは消えていく。追いかけたいのに。動かない体を憎んだ。
「おんりーチャン!」
パッと目を開ける。夢だったようだ。机に突っ伏していた頭を上げると、MENが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫か?うなされてたぞ」
「…………」
夢を思い出し、自然に俯いた。MENは慮ってくれたのか、そっと缶コーヒーを置いて部屋を出ていった。あの人が好きだったブラック。自分ではちょっと苦いけど、気にせず飲む。苦味が体に沁みた。気づけば頬が濡れていた。
「ふっ……うっ……」
あの人の恋人だったわけでも、特別仲が良かったわけでもない。なのに、思い出すたびに泣く自分が不思議になる。自嘲的に笑みを浮かべ、涙を拭った。
すると、心が弾けた、気がした。
「はあっ……はあっ……」
ビルを駆け上がり、屋上にいた。無意識だったとしたらすごい。柵に手をかけて景色を眺める。綺麗な夕焼けだった。だが、今の自分にはそれを見て心を落ち着かせるという選択肢はなかった。
柵にかけた手に力を入れて体を持ち上げる。バランス良く柵の上に立つ。それから少し考えて、持っていた紙とペンで簡単に遺言状を書いた。
「今まで、ありがとうございました」
ペンを置きながら呟いて、柵に登る。そのままそこから飛び降りた。
「あっ、おんりー!」
後ろからドズルさんの声がした気がするが、それも遠くなった。
気づけば花畑のような所にいた。紫苑やオキナグサ、イキシア、赤いゼラニウム、リナリアが目立つ。
これは走馬灯かとも一瞬思ったが、手を動かそうと思えば動くし、歩こうと思えば歩ける。それに、こんなに綺麗な花畑、見たことがない。
少し歩いて探索すると、向こうに人が見えた。座りこんでいるっぽい。
ここはどこなのかを聞くために、その人の所へ行く。もしかしたら天国かもしれない。
だが、その人が誰かわかった時、ここはどこなのかなどどうでも良くなった。
「ぼん、さん?」
ゆるゆると顔を上げた彼は、確かに一ヶ月前に事故で亡くなったぼんさんだった。頬には涙の跡が残っていて、今も泣いている。ゆっくりと立ち上がると、言葉を発した。
「な、んで、来たの?」
「え?」
「なんで、飛び降り自殺なんてしたの?!」
あまり聞かないぼんさんの怒鳴り声。体がびくりと震えた。
「おんりーちゃんは、まだ生きられたじゃない!なんで自分から死んだの?!」
悲痛な叫びに聞こえた。ぼんさんは怒っているのではない。ただ自分を心配し、自分の死に悲しんでくれている。
「……耐えられなかったからです」
わざと冷たい声音で言う。こちらも悲しみ、苦しんでいないかのように。
「ぼんさんは、ドズル社に欠かせない、大切なメンバーで、それから…大切な、人だから」
「…………」
「ぼんさんがいないと、ドズル社は静かで、つまらない。ぼんさんだけ居なくなられても困ります」
言い終えると、ぼんさんが笑った。悲しそうな、それでも嬉しそうな顔で。
「ありがとう」
そう言った。
「でもさ、おんりーちゃん。一個聞いてもいい?」
「?、なんですか」
見当がつかなくて聞き返すと、前のような意地悪い笑みを浮かべて爆弾発言した。
「さっき俺の事、大切な人って言ってくれたでしょ?」
「はい」
「どういう意味なのかなーって、ね」
「あ……/////」
顔がぶわっと熱くなる。さっきの言葉、よくよく考えれば告白のようなものだ。恥ずかしい。
「……ご想像にお任せします」
「納得できないー」
ぼんさんが駄々をこねるので、恥ずかしながらも本音を言う。
「どっちもです」
「ふぅん?」
「仲間としての大事と、……恋愛方面での、大事です」
羞恥心に震えながらなんとか言い切る。顔が熱い。赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、俯いた。
その直後、くすりと笑う声がした。
「もぉ〜〜可愛いなぁ〜〜〜!」
そのままぎゅっと抱きしめられる。頭を撫でられて、一ヶ月ぶりに心が満たされた。きっと、心の穴が塞がったのだ。自分の心に足りなかったもの。それは、この人の温もりだったのだ。
そのまま声を上げて泣く。ぼんさんは離れないでいてくれた。少しして泣き止んだ後、優しい声で問いかけてくる。
「ねえ、この花の花言葉、知ってる?俺今、この花言葉と同じこと思ってる」
これ、と指さされた先には、イキシアの花。花は知っているけど、花言葉には詳しくない。
首を横に振ると、口に柔らかな感触。びっくりして頭を後ろに下げようたしたが、がっちりと後頭部を手で包まれているので、下がれない。硬直していると、花言葉を教えてくれる。
「イキシアの花言葉は、“秘めた恋”だよ」
こい…恋?恋って、なんだっけ?頭がバグった。正常な処理が出来なくなって、暴走している。バグりが落ち着き、恋の意味を理解した。
「恋…?ぼんさんが?誰に…?」
「おんりーちゃんに決まってるじゃないの」
「冗談……」
「そんなふうに見える?」
熱を孕んだ眼差しに射貫かれる。冗談…には見えない。見たことの無い色気を纏ったぼんさんに狼狽える。
「……ありがとうございます。これは告白ととっていいですか?」
「当たり前でしょ」
「でも、自分じゃ多分つり合いませんよ。かっこいいぼんさんには」
背の違い、性格の違い。そして、ぼんさんの方がかっこいい。何もかもがつり合ってない。
「俺がいいって言ったの!おんりーちゃんがいいなら、恋人になりたい。だめ、かな?」
「お受け、いたします」
「やったあ!」
ここに来た当初の顔とは正反対。満面の笑みだった。
「二人で一緒に、転生できたらいいな」
気づけばぽつりと呟いていた。
そんな自分を見て、あの人は微笑んだ。
ほかの花の花言葉も調べてみてくださいね!
長期間サボっていてすみませんでした!
コメント
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リクエストです!ぼんさん高熱我慢でお願いします! 内容は、ぼんさんが風邪を引く前日が土砂降りで、走って帰ったけど風邪を引くって言う感じでお願いします!