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水曜日
「これ、返す。」
水曜日の放課後。今日は委員会の日だ。
俺は、この間借りた「きりこについて」を橘に差し出した。
「ああ…はい。」
3秒の、沈黙の後。
「面白かった、ですか?」
「面白かった。特に最後のとこ」
そう言うと、橘の目が見開かれた。顔が少し赤くなった。
「僕も、そこ好きです。きりこが大事なことに気づくシーンですよね。そこで、文のテンポが良くなってく感じとか、その後のラムレス二世の語りとか」
そこまで語って、ぴたりと話すのをやめる。
「あ、ごめんなさい…長々と喋って…」
「いや、良いよ別に。むしろ面白いし。橘って、そんな喋れたのな」
そう言うと、橘は笑って
「そうですか?ありがとうございます」といった。
可愛い…いやいや、まて、またか。おい俺!そんな、でも、確かに、可愛い。
照れ隠しをするかのように、俺は喋る。
「なあ、これのちせってさ、AV女優じゃん?お前そうゆーのわかんの?」
橘の顔が、かぁぁぁっと赤くなる。そして、ふっとそっぽを向いてしまった。向こうを向いていても、耳の赤さでかなり照れているのがわかる。
「わかりますけど…けど…」
からかったろ。ガキの頃の魂が蘇る。
「ふーん、じゃあ、どー言う意味?」
そして、俺は橘を体ごとこっちに向かせる。
「こっち向いて、説明してみ?」
橘は、赤くて、驚いたような顔をしていた。
「えっと…えっと…」顔だけぷいと別の方向を見ようとしている。
そこで俺は、顔を両手で軽く挟んでこっちに向かせた。顔が熱いのが、手に伝わってくる。
「セックスを、する、女優さんです…」
目線を、下にしながら、言葉を発する。
うぶってこいつのことを言うんだと思う。最近習ったけど、意味はよくわからん。だけど、多分使い方は合ってる。
「かわいい。」気づけば、この言葉が出てきた。
赤い頬。これ以上赤くなれないのだろう。その分、手にどくどくと脈の音が伝わってくる。
きーんこーんかーんこーん
その時、なんだか間抜けに聞こえるチャイムが鳴った。
「僕、この後、用事あるので」
橘は、逃げるように去ってしまった。
そして、さっきの俺の行動を思い出す。
頬が熱い…
俺も帰ろうかと思ったが、また会うかもしれないと思ってやめた。
5分後に、俺は図書室を出た。