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とある村の村長宅に、不気味な赤子が産まれた。
その赤子は産声を上げることなく咳き込むことで最初の呼吸を始め、まだ見えぬはずの眼を動かし、静かに周囲を観察していたという。
父親は齢50を超える村長本人。母親は妻ではなく、村長宅で飼っている奴隷だった。
「こ、ここは?」
誰もいない空間。光すらないその暗闇で、それは目覚めた。
「め、目が見えない?」
一時的に記憶をなくしたそれは、失明したのかと気が気ではない様子だった。
『そうではない。そもそも器官としての視覚がないのだよ』
「ど、どなたですか?」
突如頭に直接聞こえた声に、驚きを隠しながらも吃った声でそれは聞く。
『私は君からすると上位の存在。この世界を管理するシステムの一部だよ』
「は、はい?」
意味の掴めない言葉。そして理解できない現状。それは更に聞き返す。
『まぁ、私に説明義務は無いのだけどね。今は暇だから教えてあげよう』
「ぼ、僕はなぜここに…」
上位者を名乗る声は、それの言葉を無視し、勝手に次を告げる。
『先ず私達上位者は、君の住む星を含んだこの世界の管理者だ。そして私達の上に、さらに私達を管理する上位者が存在する。そしてそれは更に上の…と、無限に上位の存在がいると私達は推測している。
そんな私達の目的は、君たち人に限らず魂を集めることなんだ』
「ど、どういう…」
途中疑問を挟もうとするが、聞こえているのか、無視されているのか、その声は続く。
『その魂を私達の上位者に献上することが、私達の至上の喜びになるね。
でも、魂なら何でもいいってわけじゃないんだ。
どんな形であれ、個を形成しきれていない魂は、献上品足り得ない。
ま。君の事だね』
「ぼ、僕は、ど、どうなるんーー」
『そんな不出来な君には、輪廻転生の輪に加わってもらう。
もちろん私達の世界で不出来になったのだから、次は別の世界……私達ではない、他の上位者が管理する世界へと転生してもらう。
その世界で個を形成出来なければまた別の。そんな感じだね』
それは理解できなかった。理解できなかったが、自身が不出来な魂であることには納得していた。
『さ。不要な君にはそろそろ行ってもらおうか』
「す、好きに…その世界では思った通りに暮らしても良いのですか?」
『ほら。まだそんな事を委ねている。だから不出来なんだよ。じゃあね』
その声の後、それは自身が何かになったことだけを理解した。
依然辺りは暗いまま。しかし、聞いた事の無い言葉が、朧げながらも聞こえる。
そしてここは、呼吸の出来ない水の中。
不出来なそれは、新たな世界で怪物として生まれた。
「おいっ!靴を磨いとけって言ったよな?!」
村長の息子、20半ばの男が10に満たない灰色の髪をした少年を足蹴にし、そう恫喝した。
少年は声を出さず、蹴られてなお頭を下げる。
「ちっ!奴隷の子を養っているんだぞ!靴くらいちゃんと磨けっ!」
少年が生まれ落ちたこの世界は、身分制度で成り立っている。
下から奴隷、平民、神官、富裕者(大店の商人など)、王侯貴族となる。
国により神官の位置付けは違うものの、奴隷が一番下なのはどの国も変わりない。
そして、そんな奴隷の子である少年は、蹴られることよりも優先しなくてはならないことがあった。
強くなることだ。
この世界は身分制度。強者が全てを支配出来る。
もちろん中途半端な力は、武力財力に限らず排除されてしまうが、排除されないだけの力を持てば、全てが手に入る。
その全てを一言で表すのなら『自由』。
地球とは完全に異なる世界であるここでは、魔力と呼ばれる力が存在している。
その目に映らないエネルギーは、色々な作用を齎す。
この少年の場合は、二つの作用を齎した。
一つは身体の中の魔力に働きかけることで、身体能力を上げるというもの。
未だ訓練中ではあるものの、その力は大人のそれを優に超えていた。
もう一つは周囲の魔力を操作するというもの。
それは外部の魔力に干渉する力。
魔法といわれる力を行使する魔法使いには、天敵とも言える代物。
簡単に言えば、魔法を無効化するのだ。
たった一つでも魔力を使えれば優秀と言われるこの世界で、少年は二つの使用方法を持つという稀有なモノとして、この世界に存在していた。