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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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息を切らしながらも高校へと続く坂を登り切り、立派な校門をくぐると、満開の桜が咲き誇っていた。


「ついに高校入学だあぁぁぁ!」


校内に入ると高校に入学したという実感が湧いてとても気分が昂揚してつい、叫んでしまった。周りの数人が視線を向けてきて少し恥ずかしい。

私、村山結《むらやまゆい》はこの春、高校に入学した。それも普通の高校ではない。かの有名な陰陽師、安倍晴明が活躍した京都の地にある魔法科高校、国立京都魔法大学附属高校。全国有数の名門魔法科高校と知られている。これから魔法使いになるための3年間が始まると思うと胸が熱くなる。


「キミ、サッカー部のマネージャーにならない?」

「魔法研究会興味ないかな?」


校門から校舎へと続く道はたくさんの新入生と新入生を部活に勧誘するチラシを配っている在校生で溢れかえっていた。

どの部活に入るかはまだ考えられていない。後でどこの部活に見学へ行くかを考えるためにチラシを受け取りつつ、人の波をかき分けて校舎へと入った。




高校生活一日目は教室でクラスメイトと担任と顔合わせをして、入学式を済ませた後にいくつか資料が配られて終了した。

今日は入学式があったため、どこの部活も活動を行っていなかったが、明日からはどこの部活も活動を再開する。部活の見学も明日の放課後からできるので、家に帰ると貰ったチラシを整理し、どこを見学するか目星をつけておくことにした。


(結構種類あるんだなー)


貰ったチラシを見て、野球部やバスケットボール部、テニス部などの普通の高校にもある部活の他にも魔法科高校ならではの部活もあることがわかった。魔導書を読むことで魔法についての研究を行う魔法研究会やユニコーンなどの魔法動物を飼育する魔法動物部、元はファンタジー小説に登場する架空のスポーツだったクアッドボール部など、その種類は多岐にわたる。




結局、高校生活二日目の放課後になっても見学に行く部活は決まらなかった。誰かと一緒に見学へ行こうにも、入学から2日目でそれほど仲良くない子たちを誘う勇気も、誘われることもなかったので、一人で適当に部活を探し始める。


とりあえず校庭の方に向かってみれば部活もやっているかなと思い、足を運ぼうとしたその時だった。


「危なあああい!」


咄嗟の出来事に私は周囲を見渡すが声の主は見当たらない。ふと空を見上げると箒に乗った金髪の少女がこちらに向かって突っ込んできていた。

私は驚きで後ろによろけ、尻餅をつく。箒に乗った彼女はギリギリのところで避けたものの、地面に勢いよく衝突した。


「イタタタタタ」

「大丈夫か!」


衝突してきた彼女はうまく受け身を取ったようで、すぐに立ち上がると私の方へと向かってきた。


「ちょっと驚いただけなので、大丈夫です」

「本当にごめんんん! でも大丈夫そうならよかったあぁ! 驚かせてごめんねー!」


そこにもう一人、ボーイッシュな風貌の少女が箒に乗り、こちらへと向かってきた。


「このバカ九条ぉぉぉぉ!」

「うわっ美咲!」

「うわっ、じゃないわよ、もう」


そういうと、箒から降りるやいなや、九条と呼ばれた少女の頭を叩く。


「ごめんな、驚かせて。こうなったのは部長の私にも責任がある」

「いえ、本当に大丈夫ですっ! ところで部長ってことはどこかの部活に入ってるんですか……?」

「私たちホウキ競技部っていうのに入ってて、私はそこの部長だ」


ホウキ競技とは箒に乗りながら一定の距離を進み、タイムを競う競技のことだ。ハイスピードで空を駆け抜ける爽快感が人気で、その速さは最速で時速100kmを超えるという。私もオリンピックシーズンにテレビで見たことがある。


「もしかして1年生か?」


興味本位で聞いてみると美咲と呼ばれた少女は目を輝かせながら聞き返してきた。


「はい、そうですけど……」

「私は3年の笹倉美咲《ささくらみさき》で、こっちは九条玲美《くじょうれいみ》。今ちょうどホウキ競技部の練習場に向かうところだったんだけど、もしよかったら見学にこないか?」

「来てよ来てよ」

「それじゃあ……行きます!」


先輩2人に気圧される形で、見学しに行くことにした。

練習場はトラック1周分くらいの敷地の芝生だった。まだ他の部員はいないようだ。私は練習場近くにある部室に案内され、荷物を置く。2人の先輩は運動着に着替えを済ましてから部室から出てきた。


「まだ他の子達が来てないから待機だな」

「ちょっと雑談しようか! 由衣って箒乗ったことある?」

「いやー、ないですね」

「まあそうだよな、魔法科高校でも授業でやるのは2年以降だし」


私が玲美先輩の質問に正直に答えると、美咲先輩はその答えを知っていたような反応をする。


「安心していいよ! この部活入る人は大体高校から始めるから!」


玲美先輩はにかっと笑いながら言う。


「由衣はさ、高所とか、平気?」

「そういうのは問題ないです」


私は玲美先輩の問いに対して頷きながら答えると、箒を私に差し出してきた。


「それならこれ、乗ってみようよ!」

「でも今日ってまだ見学期間ですよね?」

「そうだぞ九条。まだ仮入部期間でもないのに箒から落ちて怪我させたら責任取れないんだからな」

「まぁまぁ、堅い事は言わないでやってみよ! さ!」

「あっ、軽い!」


先輩から半ば強引に箒を渡される。箒は掃除用のものより大きく、背丈ほどの長さがあるが、手に持ってみると見た目よりもかなり軽い。きっと速く飛ぶために軽量化されているのだろう。


「でしょでしょ、そのまま跨ってみて」


玲美先輩に言われるがままに箒に跨った。


「オッケー! 箒は地面と平行になるように持って、そのまま箒全体に魔力を伝えるイメージで徐々に魔力を込めてね。一気に魔力込めるといきなり空高く飛んで制御効かなくなるし、魔力込める位置に偏りがあると暴走して壁にぶつかるから気をつけて!」


(こうかな……)


目を瞑って集中しながら魔力を込め始める。すると次第に箒が私の身体を持ち上げ始めた。そして、足が完全に地から離れる感覚を確認すると目を開けた。すると私の身体は宙に浮いていた。


「わあっ! 浮いてるっ!」


宙に浮いたのはほんの50cmほど。それでも私には初めての体験で、とても気持ちよかった。


「うおっすごいな! 初めてでちゃんと箒コントロールしてるよ」

「確かにすごいな、九条なんか初めての時はうまくコントロールできなくてひっくり返ったもんな」

「美咲うるさい」

「ありがとうございます。うわあっ!」


些細なことでも先輩に褒められると嬉しい。そう考えていると気が緩み、体勢が前方向に傾いたことで、箒が前方に加速し始めた。


「うああっ! これどうやれば止まるのおおっ!」

「由衣! 箒が前に傾いてる! 箒を起こせ!」

「起こせってこう! うわっ!」


玲美先輩に言われた通りにしようとしたが、加減ができていなかったために今度はのけぞった体制になり、上方向へ方向転換した。力んだためかさらに速度が上がっていく。


「止まってえええ!」

「言わんこっちゃない!」


私がパニックになっていると、美咲先輩が急いで箒に跨り、こちらへと向かってきた。


「一回魔力こめるのやめろ!」

「はいいぃ!」


美咲先輩の指示に従い、魔力を込めるのをやめると箒は一気に急降下を始めた。そこに美咲先輩が追いつき、箒に跨りながら私を抱き抱えるような形でキャッチする。


「あ、ありがとうございます」

「はぁ、めちゃ危なかった、冷や汗かいた。バランス崩れるからじっと動かないようにしてな」

「はい!」


一時はどうなるかと思ったが、一安心だ。空に吹き飛んだ時はとても怖かったが、それと同時に爽快感があった。

そしてゆっくりと地上に戻るまでの間、地上を見下ろすと、学校とその周辺の景色を見渡すことができた。なんてことのない景色ではあるが、箒に乗り空を飛ぶという今までにない経験をした今みると、その景色がとても雄大で特別なものに見える。そして、その景色を見た私は一つの決心をした。


「大丈夫かー!」


地上に降りると、すぐに玲美先輩が駆け寄ってきた。


「怖かったけど、とっても楽しかったです。あんなに空を飛ぶのが楽しいなんて思っても見ませんでした!」

「よかったーっ! それなら絶対ウチの部活ハマるよ。ちゃんと箒の操縦の仕方をマスターすれば、さっきよりももっと速く空を駆け抜けることができるんだ!」

「私、この部活入りたいです!」

「「やったー!」」


私の言葉を聞くと先輩二人が目を合わせてハイタッチする。


「ホウキ競技部へようこそ!」


美咲先輩の言葉を聞いた私は、これから始まる新生活に心躍らせた。

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